ようこそ実力至上主義の奉仕部へ 作:モーブラゼロ
では、どうぞ。
次の日の放課後。雪ノ下達が図書館に席を取るため、足早に教室を出る。ちなみに綾小路も櫛田にお願いされて渋々参加するようだ。俺がガールズトークをしている櫛田にアイコンタクトを取るとウインクで了承してきた。
「池くん、山内くん、須藤くん! 昨日メールで送ったけ勉強会をやるから図書館に一緒に行こう?」
「もちろんだせ!櫛田ちゃん!」
「行くぜー!」
「おう。」
力強く頷く三バカトリオ。俺達も合流して図書館に向かう。
「俺さ、図書館に行くの初めてなんだよな。」
「俺も。須藤は?」
「俺もだな。つうか、教室と体育館以外ほとんど行かねぇな。」
須藤はバスケ一筋だからだろうか、池達とつるんでる割には放課後に一緒に遊びに行ったりしているところはあまり見かけない。
「比企谷くんや、綾小路くんはどうなのかな? 私、放課後や休日に二人を外で見たことがないからちょっと気になって…。」
「大抵図書館か寮で過ごしているな。」
綾小路が先に答える。……これ答えなきゃ駄目ですか?まさか自室で過ごしていて、そこには三人も女子が居るとは言えないし。
「おいおいヒキタニ。お前はどうなんだよー。あの可愛い二人と寮でイチャイチャしてんじゃねぇのー?」
山内が羨ましそうに茶化してくる。確かに自室で料理を作って一緒に食べたり、一緒に勉強したりしているけども断じてイチャイチャではない。
「んなことしてねーよ。」
「そういえば、最近堀北ちゃんが由比ヶ浜ちゃん達とよく一緒にいるよなぁ。ヒキタニ何か知ってたりしないー?」
「ま、待って……!」
堀北の話が出てきてどう誤魔化そうかと考え始めたところ、背後から控えめな声が飛ばされた。
誰だと思い振り返ると、天使がいた。沖谷という、Dクラスの生徒らしい。大天使トツカエルと触れ合えなくなり、めぐりッシュパワーも受け取れない俺にはまさに救世主だ。どうやら俺たちを走って追いかけてきたのか、息が乱れていた。
「沖谷くん、私たちに何か用かな?」
沖谷が落ち着くのを見計らい、櫛田が訪ねる。ん?くん、だって!?
「その、堀北さんが勉強会を開くって聞いて……。参加したいなって思って……。」
「赤点取ってたか?」
「あっ、ち、違うんだけど……前の小テストで結構危なかったからさ……ひ、平田君のところは女の子が多くて参加し辛いし……駄目、かな……?」
可愛らしく頬を染めてオキタニエルは俺たちの顔色を窺ってくる。戸塚と同じで男子みたいだ。これは性別沖谷だな。もうこれは全てを受け入れるしかあるまい。
「うぅーん、私が開くわけじゃないから断定は出来な「いいぞ。沖谷。代わりにこれから毎日味噌汁を作ってくれ。」比企谷くん!?」
「う、うんっ。ありがとう、比企谷くんっ!……味噌汁、練習するね!」
天使だ。天使がここにいる!
「……比企谷は同性愛者なのか?」
「沖谷くんが確かに可愛いのは認めるけど…。」
「なら、櫛田ちゃんは狙ってないって事か…。」
「…俺、沖谷ならホモになってもいいかも。」
なんか色々聞こえるけど知らん。あと沖谷は性別沖谷だ。
図書館に入ると館内は喧騒に包まれていた。馬鹿騒ぎしているわけではなく、皆テストの為に勉強会を開いているのだ。雪ノ下達は長机の一角に場所取りをしていて、由比ヶ浜が堀北に教えて貰いながら撃沈している様子が窺える。
俺達の一行を待っていたであろう雪ノ下は予定より一人増えている事に気付いた。
「沖谷君よね?」
そう言いながら雪ノ下は俺の後ろに居る沖谷をジロリと見つめる。沖谷が思わず上げた小さな悲鳴を俺は聞き逃さない。
「沖谷くん。この前の小テスト、何点だったか教えて貰っても構わないかしら。」
悲鳴を聞いたのか、それとも怖がられた事を自覚したのか、雪ノ下は優しく沖谷に問う。
「39点です…。」
「そう、では死ぬまでひたすら勉強…というのは冗談だけれど、やるからには真面目にやって貰うわ。」
「も、もちろん!頑張るね!」
沖谷は緊張しながらも椅子を引いて腰掛ける。そして勉強道具を取り出し、雪ノ下にどこをやれば良いかを聞き始めた。池、山内、綾小路、そして俺もそれぞれが腰掛ける。場所はこうだ。
雪ノ下 由比ヶ浜 堀北 沖谷
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机
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俺 綾小路 須藤 山内 池
「櫛田さん、早く座ったら?」
櫛田が座り辛そうにしている。まあ無理もないか。今まで散々袖にされ続けた相手だからな。
「その……ごめんね、堀北さん。無理を言って……。」
だか、堀北の口からは奉仕部メンバー以外にとっては予想外の言葉が飛び出す。
「全然構わないわよ。事実、池君や山内君は貴女が誘わなければ来なかった訳だし、貴女のおかげで勉強会が開けた。礼を言うわ。ありがとう。」
「あ、ありがとう?」
あの櫛田が堀北の態度の急変に戸惑っている。池達も教室とは全く違う態度に驚きを隠せないようだ。
「な、なぁ堀北ちゃん。どうして今日はそんなに優しいんだい?」
「別に優しくしたつもりはないわ。強いて言うなら…貴方達に退学して欲しくないからかしら。私は出来れば全員でAクラスに上がりたいと思っている、それだけの事よ。」
感動の涙を流し始める池。山内もこれがデレか、などと言いながら涙ぐんでいる。相変わらず仲が良いな。
「櫛田さん、あなたは池くんと山内くんの面倒を見て頂戴。その方が効率が良いわ。私は沖谷くんと須藤くんを、雪ノ下さんが由比ヶ浜さん、そして…比企谷くんが綾小路くんをお願いするわ。それで良いかしら?雪ノ下さん。」
「ええ、構わないわよ。」
「櫛田さんも負担が大きいかもしれないけど、よろしく。」
「う、うん、任せてっ!」
雪ノ下は微笑を浮かべ、櫛田は困惑していたものの
嫌な顔せず笑顔で頷いた。
勉強会がスタートする。
この場に居る全員が
赤点回避のために決意した。
「最初に言っておくわね。この場に居る生徒全員には、全教科50点以上を目指して貰うつもりだから。」
堀北。それ最初に言うのか、赤点予備軍からすればキツイ宣告だぞ。皆青ざめてるし……おい、雪ノ下!満足そうに頷いてるんじゃない!
勉強会は当初の予想以上に順調に進んだ。…由比ヶ浜はタイプの似た二人に挟まれながら教わったせいで、いつものあだ名呼びが外れていたり、須藤が謎に堀北に惚れてしまったり、池や山内が予想以上に公式を覚えておらず、櫛田から応援要請が入ったりと色々ありはしたが。それでも皆しっかりと勉強をしていてかなり捗ったようだ。
俺は綾小路の実力の片鱗を知っていたため、適当に教えるフリをした後MAXコーヒーを皆に配りつつ、ひたすら自分の勉強をしていた。実力を隠したがっていると思われる綾小路が、数学の勉強中に誤っているところを指摘してくれていたのは意外だったが。後はやはりオキタニエルの素晴らしさだろう。須藤で手が回らず堀北から頼まれて教えた時、小さく胸の前で手を合わせてお礼を言ってきた時には、もう沖谷ルートでいいんじゃね?と真面目に思った。…雪ノ下、由比ヶ浜が呆れており、何故か堀北が睨んできていたが。
「「「「ありがとうございました!」」」」
須藤、池、山内、そして沖谷の声が重なる。
時間は午後6時45分。図書館の閉館時間まで残り15分になったところで片付けを始めた。
堀北主導の元で奉仕部の協力もあった勉強会は、かなり上手く機能したと言えるだろう。途中集中力が途切れる場面もあったが、そこは由比ヶ浜のタイミングで休憩を入れた。
「まずはご苦労様と言っておくわ。けれど、正直あなたたちの学力は低い。はっきり言うと、小学生の学力ね。」
堀北の総括が始まる。おい、須藤達絶句してるぞ。後、仲間のはずの由比ヶ浜まで被弾してるし。
「だからこそ、復習をしっかりとすること。帰ったら今日の内容の復習を、学校の授業は私と雪ノ下さんが渡したプリントで予習をしなさい。」
「一日中勉強漬けかよー。」
池が顔を強張らせながら呟く。他の生徒もテスト明けまでの地獄の日々を連想しているに違いない。
「で、でも堀北さん。授業の時間で予習をやって良いの?ポイントとか問題にならないのかな…?」
恐る恐る尋ねる沖谷に、今度は雪ノ下が。
「大丈夫よ。もしかしたらポイントに影響が出るかもしれない。けれど、退学者を出さない事の方が重要よ。平田君もその意見に賛成する筈だと思うわ。」
「….うん、分かった!」
「話終わったか?そんじゃあ帰ろうぜー!」
勉強から開放された山内が早く帰りたいのか皆を誘う。
「私達は次の勉強会の準備をするから入り口でお別れね。ちなみに比企谷君もよ。」
はいはい、分かりましたよ。部長。
「それにしても堀北すげぇよなぁ。お高く止まってるだけかと思ったら、なんだかんだ俺らの事考えてくれてるし…。」
「堀北ちゃん、今度俺らと遊び行かね!」
「ごめんなさい、それは無理。」
笑い声に包まれつつ図書館の出入り口へと向かう。堀北の株がどんどんと上がっていた。堀北への冗談など入学当初には考えられなかった事だろう。この調子なら、堀北は夏休み明けには平田と並ぶクラスのリーダー格になると思われる。
雪ノ下と由比ヶ浜も依頼が順調に成功出来そうで安心したみたいだ。
綾小路も気持ち口角を上げていた。
ただ櫛田だけが何かに耐えるように肩を震わせていた。
先に帰る彼らを見送った後、席に戻って少し明日の打ち合わせをしようとした時、由比ヶ浜がある事に気付いた。
「あれ?これ櫛田さんのケータイじゃない?」
女子らしいカバーの付いた櫛田の端末がそこにはあった。皆由比ヶ浜のようなデコトラでは無いんだな。
「今からなら寮に入るまでに届けられるのではないかしら…。」
「…俺が行くわ。なんか嫌な予感がするんでな。」
「嫌な予感するのに行っちゃうんだ!?」
「…なんかお前らにあったら、嫌だろ。」
明らかに黒歴史になるような発言をした後、俺は由比ヶ浜の手から櫛田の端末を引ったくって図書館から出る。何か後ろで俺を呼ぶ声がしたが知らない。俺は寮の方向へと駆け出した。
ところが寮へ向かったものの見つからず、周りの女子生徒に悲鳴を上げられたり、疑いの目で見られたりしながら勇気を振り絞って女子寮の櫛田の部屋に行くも、出てくれなかった。
今日はファミレスで待っていると雪ノ下から連絡があったので、意気消沈しながら海沿いの歩道を通ってファミレスの方向に向かっていると、海側のフェンスに生徒のような影を見つけた。今までにないほどアホ毛レーダーが異常を知らせているが、吸い寄せられるようにして俺はその影に近寄る。それはショートカットの女子生徒で、櫛田と分かるまでにそこまで時間は要さなかった。
端末を渡そうと接近した時、
今まで聞いたことのない櫛田の声が
全身中に響いてきた。
「あーウザい。」
櫛田が発した声は想像できないほど低かった。端末と胸ポケットのボイスレコーダーをオンにしながら続きを聞く。
「マジでウザい、ムカつく。死ねばいいのに…。」
まるで呪詛を唱えるかのように、彼女はぶつぶつと暴言を呟く。
「自分が可愛いと思ってお高く止まりやがって。お前みたいな性格の女が一人で勉強教えられるわけないっつーの!雪ノ下たちに手伝って貰った癖して偉そーに!」
櫛田の罵声の矛先は堀北だった。
「あー最悪。ほんっと、最悪最悪最悪。堀北ウザい堀北ウザい、ほんっとウザいっ!」
それはどこか予想していた姿であり、
それでも生では見たくない姿だった。
クラスのアイドルであり、誰にでも優しい少女の裏の顔。彼女が絶対に誰にも見せたくないであろう顔。櫛田は堀北を心底嫌っているのだろう。しかし理由が読めない。何故櫛田は嫌いであるはずの堀北がいる勉強会に参加したのだろうか。仮に綾小路や俺との関係を大事になどと考えていたとしても、参加はしない筈だ。
それに疑問は何も今日の勉強会のことだけではない。そもそも櫛田は、何故嫌いであるはずの堀北に近づいたのか。幾度となく遊びに誘い、友達になってほしいと声をかけた理由は何だ。堀北は櫛田とは同じ中学ではあったがクラスが違い関わりもなく、櫛田のクラスはなんらかの理由で崩壊したと言っていた。…崩壊?そうした…過去?
『ええ、平田君は恐らく総合力で見れば葉山君を越すでしょうね。ただ"過去"に何かがあるのか、葉山君と同じように…いや、葉山君以上に皆を同じ輪に入れる事に固執している気がするわ。』
5月の初めの雪ノ下との会話を思い出す。もし、過去がクラス配属の基準の一つであれば、中学の際のクラス崩壊が原因で、櫛田はDクラスに配属されたという事が成立する。つまり、
櫛田は中学時代のクラス崩壊の原因である。
俺が結論に思い至った時、由比ヶ浜から早く来て欲しいと連絡が来る、だがマナーモードを外していたせいで受信音があたりに響き渡った。
「…誰?だれかそこに居るの。」
櫛田が問い掛け、後ろを振り返る。そして、
「…おう、櫛田。携帯忘れてたぞ。」
俺は何食わぬ顔で立っていた。
はい、良い感じのところで区切りました。よう実キャラに関してはチョロインにしないようにすべく、二、三回はなんらかのイベントを挟んでからヒロイン化という感じにしたいと思います。ナンパ系は極力無くしたいですね。さて、次回。八幡は櫛田に対しどのような対応をするのか。ではまた。