ようこそ実力至上主義の奉仕部へ 作:モーブラゼロ
さて、前回ついに本当の姿を現した櫛田。櫛田の扱いには多くの作品でオリ主が、クロス主人公が、八幡が苦労し、そのやり方も色々あった事でしょう。さて、この作品ではどうなるのか。今回は初櫛田視点があります。本編をどうぞ。
===side《kikyo》===
どうして同中の二人にモテているのかが分からない、
目が鋭いけど濁っていて陰気な奴。
これが私の比企谷君に対する最初の印象だった。彼が関わっているのは基本的に近くの席にいる綾小路君と堀北くらいで、後は雪ノ下さんと由比ヶ浜さんが連れて行ったりして付き合いがある程度だった。入学当初、水泳授業のある日の朝、キモい池や山内を論破していた時にはスカッとしたし、感心もしたんだけど。やはり堀北と付き合いがあり、堀北と話す時にまるで娘を見守るような穏やかな目をしている事が許せなかった。
私は堀北と比企谷君の関係を薄くする為に比企谷君に何度も話し掛けたり、堀北が比企谷君や綾小路君に何かを言おうとするのを邪魔したりして、手の限りを尽くした。しかし関係は薄くなるどころか深まるばかり。比企谷君はなぜか私を避けるようにして動き、同中の由比ヶ浜さんからは警戒するような目線を送られ、雪ノ下さんからは何か自分を見透かされているような、だがそれでいてどこか穏やかな目線を感じてとても気味が悪くなった。だからそのうち彼らと話すのを止めた。
転機は五月のホームルームの時。平田君の主張に対して彼が噴き出した。私はこれから起こるであろう平田ガールズからの猛烈な非難を想像する。助け舟を出してあげよう、そう思った時だった。
『じゃあ聞くが、これまでの1ヶ月。平田は何を見てきた?酷過ぎる授業風景をしっかりと見たか?まだ魔が刺して少し携帯を弄ったり、体育で疲れて居眠りをするのは百歩譲って仕方ないだろう。だがな、高校生にもなって小学生の頃から教えられて来たであろう、遅刻をしない、サボりをしない、授業中におしゃべりしない、これらは当たり前の筈だろう?俺の中学校では携帯触りや居眠りこそ居たが、流石に授業中に大声で放課後の予定を話したり、お喋りしながら遅れて教室に入って来る事は無かったぞ。そこの辺り、どう考えているんだ?』
全てが正論であり、誰も言い返す事は出来ない。さらにその時だけは、今までの隠キャ臭い振る舞いは無くて、濁っていた目が澄み切り、誰にも有無を言わせない、そんな気迫があった。
私は自分が更にクラスに認められる機会を奪った比企谷君に、表向きには途轍も無い不満と憎しみを覚えたけど、それと同時に普段とは違う自分を隠していた彼にどこか同族嫌悪に近い何かを抱いて、だけどそれでいて心の何処かでは悪感情を顧みず発言した彼に私は憧れ、尊敬していた。そして、そんな彼にだけは私の本性を知られたくなかった。
そんなある日、突然堀北の態度が急変した。それはDクラスにとって、驚天動地のニュースだった。きっかけは教室のドア付近に立っていた沖谷君に、
「おはよう。少しズレてくれるかしら。」
と注意をしながらだが挨拶をした事。普段比企谷君や綾小路君としか会話をせず、たまにでも雪ノ下由比ヶ浜ペアとしか話さない堀北が挨拶をした事は、私も憎しみを忘れて驚き困惑してしまった。あっ、ちなみに平田君が動揺しすぎて堀北を自分達のショッピングに誘い、玉砕しているのは見ものだったかな。
恐らく比企谷君達が何かしらの事をしたんだろうな。そう正解に辿り着くまでにそう時間は掛からない。同時に再び深い憎しみに襲われる。どうして彼等は堀北なんかに構い、良い方向に変えてしまったのか。どうして私ではないのか。由比ヶ浜はともかく、雪ノ下は私の事を見てくれていたと思っていたのに。勝手ながら裏切られたという思いが強く、その時の私は奥底で渦巻いていたある感情に気付かなかった。
私を見て。私を変えて。私を救って。
堀北主催の勉強会の協力要請が来たのは本当にタイミングが良かった。堀北が主導であるという事は屈辱的だったけど、比企谷君や雪ノ下と関わる事が出来る。堀北の変化具合も間近で見る事が出来るだろう。池達には悪いが、私にはその三人しか見えていなかった。
堀北は随分と素直になっていた。誰かが堀北の冗談を飛ばしたが、それに怒らない。今までならあり得なかった。更に教え方も厳しいが優しさが感じられる。須藤が私では無く堀北にデレデレしているのを見た時は腹が立ちすぎて、つい池の足を蹴ってしまったくらいだ。ちなみに何故か池が喜んでいて凄く気持ち悪く思った。
比企谷君はやはり私の事を意図的に避けていた。私みたいな女の子が苦手なのかな。何度も池や山内の勉強を押しつけた隙に、比企谷君に近付いたり手に何度か触れたりしたが、反応はしなかったし目を見ては話してくれなかった。次はどんなやり方が良いかなと考えていると、私がなんだか比企谷君の事が好きみたいだなと思って苦笑する。
私みたいな女を本当に受け入れる男なんて
身体目的以外では居ないだろうから。
「それにしても堀北すげぇよなぁ。お高く止まってるだけかと思ったら、なんだかんだ俺らの事考えてくれてるし…。」
須藤から始まった堀北に対するベタ褒めで猛烈にストレスが溜まった私は、寮に着いた後自室に戻る振りをしてまた外に出る。海沿いの道を暫く歩いていると、良い感じに港が眺められる場所があった。人通りも少ないだろうし、バレはしないと考えた。
「あーウザい。」
欄干を蹴りながら呟く。
「マジでウザい、ムカつく。死ねばいいのに…。」
身体の中がスッキリするのを感じる。
「自分が可愛いと思ってお高く止まりやがって。お前みたいな性格の女が一人で勉強教えられるわけないっつーの!雪ノ下たちに手伝って貰った癖して偉そーに!」
私は後ろで鳴った足音に気付かない。
「あー最悪。ほんっと、最悪最悪最悪。堀北ウザい堀北ウザい、ほんっとウザいっ!」
そこまで言った時、後ろで携帯の受信音がした。
誰かにバレてしまう。そんな恐怖と同時に、女子なら暴力を振るわれたと訴え、男子なら襲われたと言えばいい。そんな考えがよぎる。
「…誰?だれかそこに居るの。」
私は問い掛け、後ろを振り返る。
そうすると、
「…おう、櫛田。携帯忘れてたぞ。」
……一番見られたくなかった人が立っていた。
===side《hachiman》===
まさか俺ガイルとは思わなかったのか、櫛田は目を見開いた。
「ひ、比企谷君…なんで…?」
疑問を口にした櫛田の声は震えている。
「携帯を図書館に忘れていたからな。ほれ。」
「ありがとう…。そうなんだ…。」
つかつかと階段を下りて俺の前まで来た。
「今の、もしかして聞いてた......?」
彼女が尋ねているのは、間違いなく先ほど彼女が吐いていた暴言のことだ。
「…そりゃな。」
「そっか…。」
俺が肯定したことで櫛田は俯く。
「比企谷君には聞かれたくなかったなぁ…。」
そう小さく呟くの俺は聞いてしまった。俺は櫛田に何かやったのか?極力避けていたはずだったのだが。藪蛇にならない事を祈りつつ、フォローを入れる。
「…まぁ、誰にだって裏の顔はあるだろ。誰彼構わず良い顔してればストレスも溜まるしな。そういう人を俺は知っている。まぁ、たまたまストレス発散してるところを俺みたいなボッチが聞いただけだ、気にするな。それに仮面を被っていた事は前から知っていたしな。」
素直に答える。変にこねくり回さない方が良いだろう。
「え…?」
一瞬何を言われたのか分からなかったのか櫛田は固まった。そしておずおずと尋ねてきた。
「いつから知っていたの…?」
「…最初に話した時からだ。お前の本性は承認欲求の塊だろ。さっきも言ったように俺にはそのような仮面を被った知り合いが居たから、見ていれば分かる。お前の笑顔は完璧すぎるんだよ。」
「うそ…。」
本性が俺に筒抜けだったという事に驚愕しているのか、絶望しているのか、俯いている。しかしすぐに我に返ると俺を恐ろしい形相で睨みつけてきた。怖い。八幡ちびりそう。
「このこと、誰かに話したら許さないから。」
「もしも話したらどうすんだ?」
詰め寄られながらも確認する。仮にこの姿をバラされないために悪評を撒いたとしても、そう簡単にはいかない筈だ。
「今ここで、比企谷君にレイプされそうになったって言いふらしてやる。」
…マジかよ。そこまでやるか?まぁ、レイプされそうになったと訴えを起こしても、余程証拠が無ければそう簡単に処分を受ける事はないだろう。まぁ、ちょっと挑発してみるか。
「でもそれ冤罪だろ?」
「大丈夫、冤罪じゃないから。」
そう言うと櫛田は俺の手を掴み、自分の方へと近付けてきた。
直後にむにゅっとした感触が手に広がる。
ん?なんだこれ?柔らかい?
自分の手の先を恐る恐る見てみると、
なんと、櫛田は自分の胸を俺に揉ませたのだ。
……痴女か?痴女なのか!?
「これであんたの指紋、ベットリ付いたから。証拠はある。私は本気だよ。分かった?」
…うん、痴女では流石に無いか。それにしてもこれは一本取られたな。この制服を学校もしくは警察に提出すれば証拠として認められはするだろうし、仮に証拠不十分で放免されたとしても、疑いの目線や嫌悪の目線は消えない筈だ。その相手が皆の人気者なら尚更だ。
だが、櫛田は二つの過ちを犯した。
一つは俺をチェックしなかった事。
もう一つは…俺は悪感情に慣れっこって事だ。
「…おう、分かった。じゃあ、雪ノ下達に話すわ。」
「はっ!?」
平然と携帯を取り出し電話を掛けようとした俺に慌てる。録音はすでに終了してあるので彼女はその事実に気づかないまま、携帯を取り上げた。
「あんた意味分かってんの?誰かに話したら、レイプされたって言うって言ってんじゃん!」
「俺は昔から悪感情には慣れていたからな。今更どうって事ない。…それより落ち着け。」
櫛田が過呼吸気味になっていたので、オートお兄ちゃんスキルを発動し、座らせて背中を叩きながら頭を撫でる。最初はびっくりしていたが、諦めたのか身を任せている。……ヤバイ。これこそ訴えられそう。八幡自爆で大ピンチ。
しばらくして落ち着いたのか、櫛田がこちらを振り返る。またさっきのような言葉が飛び出すのかと身構えるが、その顔はいつもの仮面ともさっきのとも違う穏やかな表情をしていた。
なんか可愛い。天然物だ。
頭から手を離そうとすると何故か上から手で押さえつけてくるので、仕方なくしばらく撫でていると、先程とも普段とも違う声でお礼と共に問うてきた。完全にではないが櫛田は諦めの境地に入っているな。
「あ、ありがとう。……ねぇ、比企谷君。一体どうしたら黙っててくれるのかな…?」
「…俺は黙っているぞ。言ったところで誰も信じてくれないしな。」
「…さっき言うって言ったじゃん…。」
「あれは一本取られたから揶揄いたくなったんだよ。」
穏やかな会話が二人を包む。
突如、櫛田が再びこっちを見てきた。油断しすぎたかと思ったが、その目はどこか潤んでいる。
「…比企谷君。どうして私の本性を見て引かないのかな…?」
確かにあれだけ豹変した彼女を見て、平然としていられる人は中々いないだろう。俺の今まで関わってきた奴が特殊すぎたんだろうか、それとも俺自身の感性が既に壊れているんだろうか。まぁ、本性に関してはあの魔王の方がよっぽど怖いな。
「…ちょっと前にも言ったように、俺には仮面を被った知り合いがいる。今は大学生だ。その人は誰にでも良い顔をしていて、決して真面目ではないのだが成績が優秀な事もあってか、教師は誰も注意しなかったみたいだ。でも、その人の幼なじみが言ってたな。『あの人は興味のないものには何もせず、好きなものを構いすぎて殺すか、嫌いなものを徹底的に潰すことしかしない』ってな。あんな怖い魔王がいたら櫛田なんか全然引かないわ。」
「ま、魔王ってクッ〜!」
魔王が余程ツボに入ったのか、俺の背中をバンバン叩きながら笑う櫛田。ごめんなさい、痛いです。
「あ〜一生分笑った気がする〜!……………………ねぇ、比企谷君。」
櫛田の声のトーンが下がる。だがそれは憎しみの目ではなく、何かに縋るような目だった。
「…なんだ。」
俺達は『櫛田桔梗は仮面を被った陽乃さんの劣化版である。』として、無意識に嘲っていた。確かにそうかなのもしれない、だが今ここに居るのはただ一人の櫛田桔梗というか弱い少女だ。もしかすると、この今は歪な承認欲求も初めは歪んでいなかったのかもしれない。
「…私の過去について、聞いて欲しいの。」
その目は縋るような目でもあり、決意を含んだ目でもあった。
恐らく彼女が話すと決めるまでに相当な悩みがあっただろう。先程の問いの際の何処か儚い顔は恐らく聞いた人、若しくは間近で見た人が見せた反応に対しての顔だろう。誰も今まで"本物"の彼女を受け入れてくれた事が無いのだと思う。望んで仮面をかぶったのか、望まずに仮面を仕方なく被ったのか、それは聞かなければわからない。
だが、否定をされる事の苦しさは二年前に味わっている。俺は否定だけはしないと心に誓いつつ返事をした。
「…おう。」
「じゃあ、話すね。」
こうして彼女の話が始まった。
櫛田の承認欲求は中学校の頃に芽生えたようだ。元々美少女である彼女は入学してまもなく、クラスでたちまちにして人気者となり、その頃人に褒められたり認められたりする事に愉悦を覚え、いつしか仮面を習得して被るようになった。
だが、その生き方は櫛田にとっては非常にストレスの溜まるもので、例えば見たくもない映画に付き合いで見に行ったり、クラスメイトのお互いの陰口を聞かされたりなど、面倒事は多岐に渡った。
褒められたり持ち上げられたりする事の愉しさを知ってしまった事から、今更生活を変えることもできず、ストレス解消は物にひたすら当たったり、声を荒げる事だけだった。
しかし、櫛田はある日から違う方法で発散し始めた。それは自分のブログでネット上にクラスメイトの秘密や悪口を書き込むという事。物に当たったり、大声を上げる事も無く、ストレスを瞬く間に解消していった彼女は更に人気者の地位を確立するのだった。
だが、中学三年生の夏。クラスメイトにブログが特定されてしまい、櫛田のものだと判明した。
それをきっかけに櫛田が天使のような笑顔を振りまきながら、裏ではクラスメイトの悪口を言っていたのがバレてしまい、クラスメイト達からは一斉に責められたようだ。……まぁ確かに彼女は仮面を被り、クラスメイトを騙したかもしれない。だが、途中からは彼女に甘え過ぎたクラスメイトにも大きな責任があると俺は思う。
さて、非難を受けた櫛田からするとそれは恩を仇で返された形となった。彼女は裏切ったクラスメイト達への反撃のため、自分の高いコミュニケーション能力によってこれまで得ていたクラスメイト達の知られたくない秘密を全て暴露したようだ。これを語っている時の櫛田は実に素晴らしい笑顔を見せていた事には触れておこう。
これに関しては正直逆ギレもいいところではあるが、この行動によってクラスメイトたちは疑心暗鬼になってしまい学級崩壊を起こしてしまったようだ。顛末に関しては堀北からも事前に聞いてはいたが、原因は櫛田であるという噂はあったものの、箝口令が敷かれていたのか崩壊の原因である生徒は公表されなかったようだ。これで全ての話が繋がった。
そして、櫛田桔梗は高校生活でやり直すためにここに入学したという訳だ。だが、まだ分からない事がある。
「…なぁ。どうして堀北をそんなに憎んでいるんだ?」
「私の過去を知っているから。いつ、堀北がばらすかどうかも分からないし、第一私は人を信用出来ない。だから、堀北の事は嫌いだし、退学させたいと思ってる。」
櫛田の口は止まらない。気を許しているのか、もう限界なのか、衝撃的な話まで飛び込んでくる。
「…そうか。」
俺がここで文化祭のように否定の言葉を投げかけ、暴走させる事は簡単だ。恐らくこの話を自ら彼女がするのは最初で最後だと思われるからだ。
しかし、二年前とは違って時間はある。そして雪ノ下は彼女を機会があれば救いたいと言っていた。最後に、彼女は人を信頼出来ないーーー俺と…同類だ。俺は彼女の気持ちが痛いほど分かった。相手を全て分かっていたいという傲慢な願いは…俺も同じだ。
だからこそ俺はやり方を変える。
解消では無く解決へと。
もう『本物』を悲しませない為に。
俺はゆっくりと口を開いた…。
漸く話が終わった時、時刻は夜9時を指していた。二人はその時間を見て苦笑しつつも、その場を後にする。携帯を付けてみれば大量のメッセージが届いていた。雪ノ下達からの説教は確定だろう。だが、憑物が落ちたかのような隣を歩く少女を見れば些細な事だ。
一番星が静かに俺達を見つめていた。
八幡が何を言ったかはご想像にお任せ下さい。要望が多ければ無人島編で明かす事になると思います。
ちなみに櫛田の口調が不安定過ぎるので、恐らく大規模修正が入ると思います。また、八幡らしさが最近抜け始めているのでギャグ要素は増やしていくつもりです。
次回も宜しくお願いします。