ようこそ実力至上主義の奉仕部へ 作:モーブラゼロ
テスト前日の夜、俺は堀北勉強会のメンバーである須藤、池、山内、沖谷に一時間おきに電話を掛け続けた。目的は三バカとオキタニエルが寝落ちなどで過去問の暗記を忘れないようにする事。これは堀北雪ノ下ペアからの命令だ。理由としては一部教科が不安な彼等が過去問を覚えるのを放棄、あるいは暗記が不十分である事が不安視されたためだ。事実、須藤が午前二時、山内が午前四時にそれぞれ音信不通となったため、すぐに寮の部屋まで向かってインターホンを鳴らし続ける事で解決した。……須藤が素直に感謝していたのは予想外だった。他に特筆すべき事柄としてはオキタニエルとの通話が尊すぎて中々電話を切れなかった事くらいか。
…………あと眠たい。
そんなこんなで試験勉強は終わりを迎え、試験当日の朝を迎えた。
「欠席者は無し。全員居るようで何よりだ。もし欠席していたら一教科につき10点……つまり合計50点最初から差し引いた点数になっていたからな。先生は嬉しく思うぞ。」
金曜日。とうとうこの日がやって来た。一学期中間テストの実施日だ。茶柱先生が数分前に教室に足を踏み入れ、愉快そうに小さく笑みを浮かべる。そして登壇し、俺達生徒を見下ろした。
「僕たちはこの数週間真剣に勉強に向き合ってきました。他のクラスはともかく、このクラスから赤点者が出ることはありません。」
平田が自信を持って答える。彼は堀北勉強会の状況も櫛田からしばしば聞いていたようで、より確信があるのだろうと思われる。
「ほう。やけに自信があるようだな平田。それが虚勢か、はたまた……。しっかり見極めさせて貰うとしよう。」
茶柱先生の煽りにも誰も反応を返すことはしない。口で語る必要はないと分かっているからだ。そして"37人"が自信に満ち溢れている。彼女は俺達の反応を面白そうに眺めてから、テスト開始のチャイムに間に合わせるために問題用紙、解答用紙を裏向きにして配り始めた。一時間目は社会。暗記教科だ。ここで躓くようでは正直厳しい戦いとなるだろうし、最初の出来が悪かったら後の教科にも影響が出るかもしれない。
「もし今回の中間テストと七月に実施される期末テスト。どちらでも退学者を出さなかったら、お前たち全員夏休みにバカンスに連れて行ってやる。」
「バカンス、ですか? 」
「バカンスと聞いたら一つしか無いだろ。そうだなぁ……青い海、白い砂浜、そして照りつく陽の光。夢のような生活を送らせてやる。」
茶柱先生が言った言葉に反応して、男子達はその夢のような生活を頭の中で想像する。青い海、白い砂浜、照りつく陽の光。何よりもクラスメイトの水着が見れる合法的な機会。……なんか茶柱先生の口が歪んでるぞ!皆!これは罠DA!!
「先生、言質は取りましたよ!」
「池、まさかお前の口から『言質』なんて単語が聴けるなんてな……。」
「そりゃ勉強しましたからね! お前ら、死ぬ気で赤点を回避するぞ!」
「「「おおおおおおおっ!」」」
池の言葉に呼応する男子達の咆哮。女子達は男子共が何を期待しているのか分かったようで一様に冷ややかな目だ。無理もないな。
「な、なんだこの覇気とプレッシャーは……。」
茶柱先生が少しおどおどしながら一歩後退る。
そしてため息を一つ零した。
やがて始業のチャイムが校舎中に鳴り響く。
「中間テスト………始め!」
昼休みに入る。45分間の昼休み、ほぼ全て生徒が昼食を教室で済ませ、最後の教科である英語に万全の態勢で挑めるよう復習を抜かり無いよう行っていた。堀北の周りでは須藤や池たちが集まり、最後の授業が開かれている。
これなら"彼等"は本当に安心だな。
そう思い今日は一度も見ていなかった方向を見遣る。堀北勉強会のメンバーや、平田達が何度も見ていたが声を掛けられなかった場所、それは………
「由比ヶ浜さん、後一教科よ。後一教科だから…お願い…もう少しだけ頑張って…。」
「…ゆきのん。…頑張るから…というかちょっと気分が悪いだけだから気にしなくても…。」
「結衣ちゃん!38度超えててそれは無いよ!」
今朝、38度の熱を出しながら学校に来た由比ヶ浜と、それを看病しながら要点を教える雪ノ下と櫛田の姿がそこにはあった…。
三バカに仮眠を指示して自らも寝ようとした午前五時。携帯が騒々しく寮の部屋に鳴り響く。渋々電話を取ると、雪ノ下が声を震わせながら言った。
「…由比ヶ浜さんが…38度の高熱で…。」
それを聞きながら俺はすぐさま付けっぱなしのPCからメッセージアプリにログインして星乃宮先生に質問する。
「今の体調は?」
「高熱でかなりの倦怠感を感じているみたい。ただ、目を離した隙に『勉強しなきゃ』と言って計算問題を解く程度には意識があるみたいね。」
「学校は当然休ませるだろう?」
「いえ、それが…貴方も分かると思うのだけど、高熱によってテストを欠席した場合の点数やペナルティーがどうなるのか分からないのよ。それに本人は出来る、絶対に行くと言って聞かないの…。」
確かにペナルティーはかなり不安だ。まだ由比ヶ浜一人にだけならまだしも、欠席によってクラス全員に課されたりしたら恨む人も出てくるだろう。…それに今来た星乃宮先生のメッセージによると、別室での受験や後日に回す事も中間テストでは出来ないそうだ。
「……本来俺達なら何がなんでも休ませるところだが、状況が状況だ。恐らく記憶能力が低下している可能性が高い。仮にテストを受けると理科や英語、特に由比ヶ浜が苦手な社会が不味いことになるだろう。…出来るだけ負担を掛けずに過去問を出来る限り覚えさせてくれ。出来るか?」
「…あまり期待はしないで頂戴。でも初めての友人を失わせない為ならなんでもするわ。」
「…愛してるぜ!雪ノ下!」
「ちょ、ちょっとあな((((」
明朝の会話を思い出しつつ彼女らの方を見つめる。櫛田からのメールによると、不安要素であった社会に関しては過去問を土壇場で暗記させたお陰か50点はどうにか超えそうだ。数学、国語、理科に関しても、当初想像していた絶望的状況からはかけ離れていて、赤点回避は余裕のようである。
だが、英語は違った。
薬を飲んでいたとはいえ、高熱の中で無理をして試験を受けたのが祟ったのか、過去問を見せてもろくに問題を解けていない。良くて30点ちょっとと言ったところだろうか。雪ノ下は選択肢問題や単語問題のみで50点を取らせるつもりだと言っていたが、過去問のおかげで平均点の上がっているこのクラスでは、50点を切った場合赤点の可能性が非常に高い。
…このままでは由比ヶ浜は退学だ。
手段は選んでいられない。
もし、赤点を回避する方法があるとすれば、それは
「皆に聞いて欲しい事がある。」
…"俺に悪感情を集めない"昔のやり方だ。
===side《yosuke》===
「皆に聞いて欲しい事がある。」
彼はそう言って教壇に立った。
彼の名前は比企谷八幡君。同じDクラスの一員だ。普段は雪ノ下さんや由比ヶ浜さん、綾小路君、堀北さんなどクラスではあまり固まっていない人達と仲良くしている人だ。当初、彼はDクラスの事については関心が無いんだと僕は考えていた。
でも、五月の初めに僕の意見に指摘してくれた事や、度々山内君達の女子への言動を咎めるなどクラスを良くする事に関わってくれて、とても助かっているし嬉しい。
だから今回の由比ヶ浜さんについては僕が助ける番だ。そう思っていたんだけど…
「俺の……一番の友人の一人である由比ヶ浜が今、風邪のせいで赤点のを取り、退学になりかけている。俺は……由比ヶ浜を助けたい。」
彼は緊張しながらも皆に想いを伝える。
「確かに風邪を引くなんて軟弱だ、自業自得だ、っていう意見がある事も俺は分かっている。…だけど俺は見てきた。中学では一桁の点数が当たり前だった彼女は精一杯努力して此処まで来た。……だから、一つだけお願いがある。」
僕はその空気に呑まれている。いや、教室全体が呑み込まれていた。入学式の自己紹介で上がっていた彼が、普段ほとんどのクラスメイトと関わらない彼が、その真摯な思いを訴えている。
「……余裕のある人は出来るだけ英語の点数を下げて欲しい。…頼む。」
彼はそう言った。……土下座をしながらだ。
僕はその瞬間駆け出した。強制ではなくても、絶対にこれ以上その行為をさせてはいけないと思ったから。皆が呆気に取られている中、僕が彼に対して声を張り上げようとしたその時、
「私からも…お願いします!」
……櫛田さんが彼の隣で土下座をした。
教室がその瞬間、割れんばかりの喧騒に包まれる。二人は未だに土下座したままだ。騒ぎを収めようと振り返ると高円寺君が席から立ち上がって、
「…ハッハッハァッ!ロットボーイとプリティーガール。君達は今とても美しい!そうか、それなら私も協力しよう。ハッハッハァッ〜!!」
……僕は須藤君と高円寺君が言い合いをしたり、次々とみんなが比企谷君や櫛田さん、由比ヶ浜さんに近寄って行くのをただ眺めているだけだった。
僕は、無力だ。
この言葉が胸の奥へと沈んで行った…。
===side《hachiman》===
テストが終わった後、俺と櫛田は雪ノ下、堀北、由比ヶ浜連合に説教された。中学時代では結局披露しなかった土下座は、大層彼女達はお気に召さなかったようだ。……うん。涙目で説教されたらもうこんな事できないね。悪感情を集めないやり方だからアリだと言ったら追加で一時間説教されました。はい、八幡反省しました。…だが、初めてクラスで浴びた同情の目線は過去に葉山に受けた時よりほとんど不快には感じなかった。俺が成長したという事なんだろうか。
櫛田に関しては皆驚愕しかなかったようで質問攻めに遭っていた。もしかすると俺の変な影響があったのかもしれないな。…由比ヶ浜がまだ熱を出しているのに俺達に向かってベッドの上で土下座したのは冷や汗をかいたな。
また、意外な動きを見せたのは高円寺だろうか。アイツはこの方法を取っても協力する事は絶対的に無いと思っていたからかなり意外だ。もしかすると、俺や櫛田の本当の想いがジャパニーズDO・GE・ZAによっ伝わったのかもしれない。…うん。キモい考えはやめよう。
あの後、幸村などの頭の固い成績優秀者も同調圧力からか同情からか協力を申し出てくれた為、全ての成績優秀者が俺の案に乗った。…平田が若干暗かったのは気のせいだろうか…。
当の由比ヶ浜は俺の行動に始めは唖然としていたが、そのやり方を取った俺への怒りや悲しみから順調に暗記を出来たらしい。はい。
そんなこんなで波乱の金曜日は幕を閉じる。…その前に、
『俺の……一番の友人の一人である由比ヶ浜が今、風邪のせいで赤点のを取り、退学になりかけている。俺は……由比ヶ浜を助けたい。』
『確かに風邪を引くなんて軟弱だ、自業自得だ、っていう意見がある事も俺は分かっている。…だけど俺は見てきた。中学では一桁の点数が当たり前だった彼女は精一杯努力して此処まで来た。……だから、一つだけお願いがある。』
『……余裕のある人は出来るだけ英語の点数を下げて欲しい。…頼む。』
恥ずかしいよぉぉぉ!恥ずかし過ぎて死んじゃうよぉぉぉ!またも恥ずかしい事言うなんて馬鹿じゃねぇぇの!?バーカ!バーカァァッ!
俺は恥ずかしさで死にそうになっていた!何キモい事言ってるの!?俺は見てきたって何?彼氏アピール?ちねや!いや、俺だよ!
アァァァァァッ〜!!
『俺の友人を傷つけようとする奴は誰であっても許さない。それが友人の兄であっても、生徒会長であってもな。』
綾小路が堀北会長へ吐いたセリフの音声を送信してきて、さらに悶える事になるのは30分後の事である。
読んでいただきありがとうございました。初の別視点は平田君です。彼には割と初めから闇を垣間見せてもらうことにしました、と言っても彼が浄化されるのはかなり先になるでしょう。
さて、今回は八幡が原作ではテニスコートで敢行しようとした土下座です。恐らく全くやっていない訳では無いと思いますが、衆人環視の中ではこれが初めてでしょう。
また解決方法としてこれを選んだのは、八幡たちは、俺ガイル原作のプロム付近の恋愛模様をカットしている事以外は同じ歴史を中学で歩んでいるものの、土下座辺り以外の解決方法では些かチート過ぎる?と考えたからです。自らを使うという点は変わらず、昔と違い悪感情を集めないようにしているのは彼らしいと感じ、このようにしてみました。
さて、今回櫛田がまたも謎行動をしました。その真意はいつ明かされるのか?
次回もお楽しみに。