ようこそ実力至上主義の奉仕部へ 作:モーブラゼロ
今回少しだけ雪ノ下視点があります。
…….土日は大変であった。雪ノ下と堀北、そして体調が回復した由比ヶ浜が休み中寝るまでずっと自室に居たのだ。それぞれがしていた事は様々だ。雪ノ下は俺と共に奉仕部の活動に必要なホームページの作成を行い、由比ヶ浜はクラスメイトに最近の悩みについて電話で聞き取りを行い、堀北は三バカ達の次のテストに向けての勉強会の計画を練っていた。食事の時間になると、由比ヶ浜を雪ノ下がサポートしながら料理している傍ら、堀北とクラスのリーダー的存在になる為の方法について話し合う。皆が疲れてくると、山内達から安値で買い叩いたswitchで息抜き。適度に休憩した後、また作業に戻る。そんな二日間だった。
……マジで辛いよぉぉぉ!自室が女子の匂いで埋め尽くされるせいで三人が帰ってからも悶々とするし、居る時もラフな格好が多いから目のやり場に困る。最近堀北が丸くなってしまったせいで三人共優しくなってしまい、理性を保つのが精一杯だ。……リア充爆発を唱えれば俺も滅してしまうんだろうか。
さて、そんな土日を挟んだ月曜日の朝。チャイムと同時に教室にへと足を踏み入れた茶柱先生は、驚いたように生徒を見回す。それもその筈、室内には緊張した空気が余すことなく蔓延していたからだ。今日は中間テストの結果発表が聞かされると告知されていたため、皆、固唾を呑んでいる。
「先生。今日結果発表が行われると伺っていますが、それはいつでしょうか?」
「おいおい、どうした平田。お前だったらあれくらいのテストは余裕なはずだ。違うか?」
「……良いから答えて下さい。」
「喜べ、今からだ。放課後のSHRでは手続きが間に合わないからなぁ。」
手続き、という言葉につい反応してしまう。英語に関しては土下座で協力を貰って相当平均的を下げたが、他はどうか。赤点候補組である池や山内は神頼みなのか手を合わせ、沖谷は不安そうに身動ぎし、須藤は真正面から茶柱先生を見て、あの騒動の中心の一人である由比ヶ浜はいつもの騒がしさは失せて、静かに瞑目していた。
茶柱先生が、生徒の名前と点数の一覧が載せられた大きな白い紙がホワイトボードに貼り、俺たちは凝視する。
「正直なところ、私は感心している。国語、数学、理科では同率1位……つまり、満点が15人以上居た。……どうしたお前たち。やけに静かだな。嬉しくないのか?」
誰も歓声を上げないのを、茶柱先生は訝しむ、かのようにしている。…わざとらしいんだよ!あ、ニヤついてる。
その瞬間、池が盛大な音を立てて席から立ち上がり、食い入るように発言した。
「先生、そんなことより赤点者は!? 赤点者は居るんですか!?」
沈黙が教室を支配した。皆が次の声を待っている。茶柱先生はわざとらしく笑みを浮かべてから、ゆっくりと口を動かした。
「……おめでとう。今回の中間テスト、赤点者は誰一人として居ない。つまり、全員合格だ。」
再度訪れる一瞬の沈黙。
そして、
「「「やったあああああ!」」」
一気に爆発して皆が歓声を上げ、赤点を回避した事を喜んでいる。中には友達と抱き合う者も。……由比ヶ浜が櫛田と雪ノ下に抱きついている。あ〜ゆるゆりですね〜いいゾ〜。堀北は彼女ら三人を見て少し頬を膨らませたものの、漏れ出るような笑みを浮かべており、安堵していることは誰の目にも明らかだった。
「今回のDクラスの成績は学年三位だ。一位はAクラス。二位はCクラス、四位はBクラスとなった。」
堀北や雪ノ下、平田に幸村などの一部の生徒が眉を潜める。どうやら少しおかしな点がある事に気付いたようだ。綾小路…過去問を手に入れた裏方も目を見開いている。
今回の中間テスト、俺達のクラスは過去問という手段を使って臨んだからこそ、一人も欠けることは無かった。当然、テスト勉強も誰一人として怠らなかった。だからてっきり学年トップとは言わずとも、Cクラスを抜かした成績を収められると、内心は思っていただろう。もし仮に負けるとしたら、Aクラス。そう思考するのが普通であり、だからこそCクラスが二位になったことが異常だと勘付く。
「……どういうこと? どうしてCクラスが……。」
「Cクラスも過去問を手に入れたんだろうな。そうとしか考えられない。恐らく、俺達より早い段階で手に入れていたんだろう。」
「……だとしたら、侮れないわね。」
「それでは各々、今日も真面目に授業を受けるように。朝のSHRはこれで終わりだ。それと比企谷。少し用があるので今から私と共に生徒指導室へ来い。」
喧騒に包まれる教室から出るその間際、茶柱先生はそう言って俺を名指しした。その途端、平田が物凄い勢いで立ち上がる。
「先生。それはテストの日の昼休みの件についてでしょうか?」
平田がやや低い声を出しながら問う。クラスメイトも俺や櫛田の方をチラチラ見ながら会話を止めている。
「いや、それとは関係ない事だ。ではー」
「じゃあせんせー。テストに関する事ですか!?」
今度は池が質問する。…八幡感動で泣きそう。…はい。
「いや、比企谷自身についてだ。では行くぞ。」
質問を打ち切り、茶柱先生が俺の体を掴みながら扉を開く。皆が不安そうな表情をしているのが見えた。…雪ノ下や堀北は顔を青白くし、由比ヶ浜はただ固まっていた。教室を出る直前に軽く片手を上げてから、俺はその場を後にした。
「先生。何のつもりっすかね。」
生徒指導室ではなく、屋上まで連れてこられた俺は流石に困惑していた。…もしかして、ここでリンチされるとかそーいう流れですか??
「何か失礼な事を考えられていたようだが、まぁよい。……影の功労者のうちの"一人"なんだからな。お前があれをしなければ山内は退学になっていた。」
彼女は笑みを浮かべながら、そう言った。
……誰も一人のボッチの点数など覚えていないだろう。そんな考えから浮かんだ策を実行する気になったのはテスト前日の事だ。
元から範囲変更からのテスト勉強が間に合わなかった場合の方策は、堀北や雪ノ下と色々考えていた。だが有効な手段は見つからず、辛うじて誠心誠意を持って皆に低得点をとることをお願いする、というものしか無かった。ポイントを渡して成績を下げてもらう、という案も出たが、これは皆に払わなければいけない為、いくら賭けで稼いでるとは言っても40人分は流石に無理であった。その結果、搦め手は難しく、今回はとにかく最低限の問題を解かせる事を重視していった。
しかし、俺の頭の中では更に二つの搦め手の案があった。一つは土下座などで同情を集めて皆の点数を下げてもらう事だ。これはかつての自分を犠牲にするやり方と似てはいるが、悪感情を集める訳ではないので彼女達は否定しない、と信じていた。ただ、これでも高円寺や幸村といった自由人や自らを重要視する者では協力してくれない可能性が高かった。その結果、平均が結局釣り上がってしまう。もう一つ、何かが必要だった。
そこで没案の中でポイントについて着目してみた。まず考えついたのは教師に賄賂を送る事だ。だがこれはバレれば退学の危険があり、教師もそんな物には乗ってこないであろう事が簡単に推測できた。
次に賄賂ではなく、ポイントで何かを頼むという事にシフトを置いた。
ポイントで教師に代わりに答えを書いてもらうなどふざけた内容の数々。正直、諦めかけた。…だが、
ふと奉仕部の事を考えた時、
方法が見つかった。
その方法はプライベートポイントで点数を購入する"権利"、もしくは自らの点数を売る"権利"を得る事だ。
それに思い当たったのは単純、奉仕部設立の際に50万プライベートポイントを支払ったから。その時は疑問に思わなかったが、今から考えればそれは『奉仕部を設立する権利』を50万で購入したという事になる。であれば、この学校では常識の範囲内でなんらかの権利を購入する事ができ、それは点数を売買する権利でも可能だと考えた。
その結果、一つのビジョンが浮かび上がる。
先に赤点になる事のない50点までを全て茶柱先生に購入してもらい、もし赤点になる生徒がいればその点数を先程売って得たポイントで購入するというものだ。これならば自らは点数以外に失うものは無い。
俺はこれを前日、先生にメールにて提案し、見事取引を成功させたのだった。だが、俺は目立ちたくなかった為、もし、赤点の生徒が居なければ俺を呼び出さず、売買を白紙にする事に二人で同意していた。…しかし、呼び出されたという事は誰か(つまり先程名前が出た山内)が赤点を取ったという事になる…。
「ポイントを支払え。」
素晴らしい笑顔で先生はそう言う。…あんたにボロクソに安く点数買い叩かれたの俺は絶対に忘れないからな!
ちなみに今回の俺の点数は、
国語 95点 数学 75点
理科 84点 社会 91点
そして、
英語 53点
以上だ。
一点につき、1000ポイントと買い叩かれたため、得たポイントは14万8000ポイント。後から提示された一点を買うためのポイントが10万であったので、厳重に抗議したがニヤつかれながら断られた。…絶対ゆるさん!八幡は許しまへんでぇぇぇ!
「よし、送金を確認した。行っていいぞ。」
ようやく肩の荷が降りたようで思いっきり脱力する。茶柱先生は苦笑いしながら、特例で次の時間は欠席扱いにはしないと言ってくれた。
屋上のフェンスにもたれながら海を見ていると、去り際に彼女は言葉を発した。
「なぁ、比企谷。お前は"もう一人の功労者"についてどう思う。」
「…俺と似ているようで違う存在、そして怖いくらいに優れている存在。ですかね。」
「…そうか。」
茶柱先生は僅かに頷くと校舎の中に入っていく。
…俺は突然吹いた風のせいで、扉が閉まる直前
「…あいつはそんな生易しいものじゃない。」
彼女の呟いた声を聞き取る事は出来なかった。
「かんぱーい!」
池が缶ジュースを片手に叫ぶ。結果発表の終わった夜。元赤点組の3人は一堂に結集していた。オキタニエルは居ない。八幡悲しい。…勉強から解放された喜びと、退学者が出なかったことに皆が笑顔に溢れていた。友達と苦労を分かち合い、共に試練を乗り越える。ようやく正しい青春の1ページのようなものが出来て、少し感じ入っていた。一方、綾小路は何か不満なのか、少し困ったような顔をしている。
「祝勝会を開くのは構わないんだが…なんで俺の部屋なんだ?」
そう、祝勝会をやっているのは綾小路の部屋なのだ。どういうわけか皆が彼の部屋に押しかけ、よくわからないうちにこの状態になっていた。
「だって俺の部屋汚ぇし。山内と須藤も同じ理由。ヒキタニは女子連れ込んでそうだし、女の子の部屋ってわけにもいかないだろ?いや、もちろん俺としては櫛田ちゃんの部屋とか大歓迎だけど。」
おいちょっと待て。なんか酷い偏見だぞ。雪ノ下達は連れ込んではいない、居座ってるだけだ。ちなみにその雪ノ下と由比ヶ浜は、テストで何も考えていなかった、奉仕部の部室候補について俺の自室で調べている。…土下座から俺の評判はかつての無いほど高まってはいるが、同時に何股も掛けていると言われるのは全く不愉快だ。……すみません、ちょっとだけ嬉しかったです。
「にしても、この部屋随分スッキリしてるな。」
「だよなだよな! この部屋マジで何もねぇし、ゲームとか買わねぇの?」
「必要に迫られれば買うかもしれないが…今はいらないな。」
「櫛田ちゃんはどう思う? この部屋殺風景じゃねぇ?」
池が櫛田に話を振る。
「え、うーん、私は良いと思うよ? 簡素だけど清潔感があるし。」
「だってよ。良かったな櫛田ちゃんに褒めてもらえて。ハハハッ!」
櫛田に褒められた綾小路を、池が嫉妬しながら小突く。
「というか、私は比企谷君のお部屋の方が興味あるな〜。」
櫛田は俺を流し目で見ながらそんなことを言った。空気が変わった。やばいやばいやばい。池が射殺すような目線を送ってきてるし、山内は血涙流してる!須藤は無反応だが、綾小路が面白そうな目してるし、誰かたすけて!
「俺の?いや、大したものは置いてないな。特別散らかしてはいないし、大して面白くは無いはずだ。」
「へぇ〜そうなんだ。」
よし、セーフ。櫛田は普通の反応を返してるな。池達もホッとしているようだ。…クシダサン?ナニソノウインク?
「にしても、無事に全員テスト乗り越えられて良かったよな!」
池が話題を変えた。確かに池の言う通り、彼と彼を始めとする元赤点組は大健闘した。山内のアホが社会で一点足りなかったのは残念だったが、それ以外は実力でもかなりの問題が解けていた。
「そうだな。全員絶望的状況から赤点を回避できた事だし、大成功と言ってもいいんじゃないか?」
「うんうん! 皆頑張ったよねっ!」
綾小路の言葉に同調するように櫛田は笑顔で頷いた。
「櫛田ちゃんと堀北ちゃんのおかげだよな!」
「だな、ほんと助かったぜ。」
池と山内は女子二人へ感謝の言葉を贈った。櫛田は謙遜する様子で二人の言葉を受け取っていた。もう一人である堀北はその輪に加わらず、空気となって小説を読んでいたが、呼びかけられるとそちらを向いて微笑していた。
そんな祝勝会は和やかに終了した。
こうしてDクラス最初の関門である中間テストは
完全に幕を閉じたのだった。
===side《yukino》===
私達はやはり運命に導かれているのだろう。
それを見て、私はただそう思う。
祝勝会を欠席し、由比ヶ浜さんと私は奉仕部の部室に合っている場所を探していた。やはりリストアップされているのは小さな部屋が多く、ただの会議室のようなものがほとんどだった。…本当はそれで良いのかもしれない。
でも、私達はあの教室を忘れられない。黒板があり、木の床があり、紅茶の匂いが漂う、そんな部屋。
「!ねぇ、ゆきのん!この部屋どうかな!?」
リストと学校ホームページを睨めっこしていた由比ヶ浜さんが声を上げる。さっきからこのやり取りの繰り返し。どうせまたイメージとは違うのでしょう、そう、思っていると。
*特別棟4階 旧地学実験室
本校が完成した頃、理科室は化学・生物実験室のある3階と、物理・地学実験室のある4階に分けられていた。しかし、理科室を分ける事は不便だった上、物理や地学での実験は殆ど行われず、実験室が余っていたために4階の実験室は廃止され空き教室となった。それが理由で旧地学実験室は黒板が未だに置かれ、床が木となっている珍しい教室である。
パンフレットの文字が頭にすっと入ってくる。添付されている画像を見ればそれはまさしく、一般的な学校の教室であった。
リストにその教室がある事を確認してから
二人で微笑み合うと、
私達は書類に目を通し始めた…。
今は居ないもう一人の部員にいち早く伝える為だ。
はい、如何でしたでしょうか。例外として今回八幡に考察頑張ってもらいました。まぁ、部活の設立についてを知っていたのは大きなアドバンテージかなと思います。また、総武高校のモデルである稲毛高校だと奉仕部の部室の場所の候補は地学準備室である事から過去話を捏造しています。
そして、今回で中間テスト編は終了となります。次からは暴力事件編の前に、奉仕部設立編がありますので是非ご覧ください。ちなみに明日、現在の状況のまとめのようなものを上げ、数日間投稿をお休みしますのでどうぞ宜しくお願いします。