ようこそ実力至上主義の奉仕部へ 作:モーブラゼロ
その扉は来る者を拒むかのように固く閉ざされている。周りの綺麗な内装とは対照的に、その教室は暗く薄汚いように見えた。
俺達は目を合わせて頷き合うと、雪ノ下がこれまた黄ばんだ札を付けた鍵を鍵穴に差し込む。彼女がそれを回すとかなり固かったようで、ゆっくりと鍵が回転し次の瞬間、ガチャッっと鈍い音がする。雪ノ下がゆっくりと鍵を抜いて離れると同時に、俺と由比ヶ浜が入れ替わるようにしてドアへと張り付く。長い間使われていなかったせいか、扉の下のレールに埃が溜まっていて開けづらい。ギーッと重々しい音を立てながらその扉が開く。
その瞬間、白い光が俺達の視界を埋め尽くした。
それは数ヶ月前まで見慣れていた風景。窓からは、傾き始めた日光が差し込んでいる。教室の細部は勿論総武中の奉仕部と異なっているし、汚れは酷かったもののまさしく一般的な空き教室となっていた。実験器具等は全て撤去されており、実験室では特徴的な長机も撤去されていた。恐らく開校当時のものだろう、教室の後ろには大量の椅子や机が積み上げられている。蜘蛛の巣こそないが埃や汚れが溜まっていた。…掃除は大変そうだがやるしかない。
この『旧地学実験室』がこれから
俺達新奉仕部の居場所になるのだから。
……何故俺が独りで教室後ろの机掃除なのか。解せぬ。まぁ唯一の男手だから仕方ないとしよう。今日は中間テストの結果発表から二日が過ぎた水曜日。部室の申請が無事に通ったので来週からの使用を目指して、掃除をしようって訳だ。本当はもう一人の男手として綾小路を連れてきたかったが危険を察知したのか、放課後になるとすぐに帰ってしまった。また堀北は付いて来たそうにチラチラ俺達が集まっているのを見たり、櫛田がニコニコスマイルで雪ノ下に「何かするなら手伝うよ!」と、手伝いを申し出ていた。あ、ぶっちゃけ堀北も櫛田もそれぞれめちゃくちゃ可愛かったです。特に櫛田が段々本物のエンジェルに見えて来たのは、幻覚なのだろうか。
「あ!?ゆきのんそれってもしかして!?」
「ええ。私物の持ち込みで持ち込んだの。」
そこまで考えていた所、由比ヶ浜が興奮して持ってきた箱の中から何かを見つけ、雪ノ下が説明をする。思わず気になったのでそちらを見ると、
「中学の時のティーセットよ。本当は新調して残ったティーセット一式を一色さん達にあげるつもりだったのだけど…。」
ん?何ゆきのんさんドヤ顔してるの?全然ウケないよ?
「あー、確か一色が言ってたな。『それは先輩方が使うべき物です!』っていくら薦めても受け取らなかったよなぁアイツ。」
「そういうところってホントいろはちゃんらしいよねー。そんな感じしない?」
なんか今めちゃくちゃ適当に返事返さなかったか由比ヶ浜。三浦がたまに受けていた適当な相槌とはこういう物なのかと思い、若干凹んでしまう。
「…でもそうね。愛着があるのは確かだったから受け取りを拒否された時に少しだけ嬉しかったという記憶があるわ。」
「へー。…あ!そういえばヒッキーの湯呑みとかあたしのカップってあるの!?」
おいだから由比ヶ浜リアクション薄いって!もっとボールドでポジティブなリアクションをリターンするべきだよ君は。
「…比企谷君。突然海浜総合の生徒会みたいにならないでくれるかしら。」
…どうやら声に出ていたらしい。八幡反省。
「後、湯呑みやカップは自室に保管してあるわ。重いティーセットと違って、いきなり埃まみれの教室に持って来ても扱いに困るでしょうし。」
「ま、理に叶っているな。」
その後は黙々と掃除をしていき、最重要警戒生物Gが出現してなんとか撃退したり、机と椅子の山が崩れ落ちて埃まみれになったり、三人とも疲れて夜七時まで皆で眠っていたりなどしたが、些細な事だろう。もう一度言う、些細な事だろう。…はい。
「私はどうして駄目なのかしら…。出来れば…その、理由を教えて欲しいのだけれど…。」
「私、どうして駄目なのかなぁ…?もし、放課後毎日出なきゃいけないなら私、ボッチになってでも行くよ??」
何 故 こ う な っ た ?
OK、状況を整理しよう。今日は木曜日の午後の授業が終了したところだ。綾小路には声を掛けたが黙って本を読んでいる。無視するなよ!…さて、今日は掃除の続きと奉仕部用のノーパソを部室にセットするため、一度寮に戻る二人とそのまま掃除に行く一人に別れて動く筈だった。しかし我ながら信じられないのだが、雪ノ下と由比ヶ浜がどちらが寮に俺と一緒にノーパソを取りに行くかで争い始めてしまい、止むを得ず堀北と偶然目が合った櫛田に仲介をお願いする事になった。
結果、争いは収まったものの、争いの原因を尋ねられて由比ヶ浜が思わず部活について漏らしてしまい、雪ノ下の制止も虚しく堀北櫛田ペアが詳細について聞いてしまったのだ。そして、
「私もその奉仕部に入部してもいいかしら?」
「私、興味あるから入ってみても大丈夫かな?駄目かな?かな?」
となってしまったのだ。ちなみにこの時の櫛田はブラック櫛田に似て非なる虚目の櫛田だった。怖い。ナチュラルに怖い。雪ノ下と由比ヶ浜は抱き合って震えていました。後、そこぉぉぉ!綾小路ぃぃぃ!
…新入部員に関しては誰かが入る事を想定した部活では無い為、こんな状況になるとは思っていなかった。個人的に、堀北は既に非公式ながら依頼をしていてそれも達成済み、学校生活での関わりも多く入部して問題ないように思える。櫛田に関してもあの本性が鎮まった現在では問題はないと思うし、むしろあの本性についての依頼人兼部員としてやっていける筈だ。…問題は雪ノ下と由比ヶ浜だ。やはり一色を四人目の部員にしたいという想いがあるのだろう。俺もそれは割と考えた。だから、いつもの調子でとある提案をしてみる事とする。
「雪ノ下、由比ヶ浜。一色の事ならとても良い解決方法があるぞ。『四番目の部員』を欠番にしておけば良い。ほら、スポーツとかでもよくあるからな。」
「…貴方、天才かしら。」
「ヒッキー、君がナンバーワンだ。」
おい待て。奉仕部IQめっちゃ下がってないか!?どうしてこれで天才になる!?てか、由比ヶ浜は何故急にそのネタを!?……堀北、櫛田。そこで頭を捻りながら入部を考え直すんじゃない、タイミング違うだろ!?あと!綾小路!助けてくれぇぇぇ!
俺は何の為に此処で何をしているのだろう。
八幡は訝しんだ。
こうして俺は思考を停止した。
こうして俺達は一時間を浪費した。掃除とノーパソの設置を一刻も早く終わらせるべく、堀北と櫛田の話が終わると同時に俺は教室を出た。ちなみに俺を見捨てた綾小路にはMAXコーヒーを今度箱買いしてもらおう。慈悲はない。
ノーパソを寮まで取りに行き、すぐさま折り返して特別棟に着いた。さて、新奉仕部室まで行こう、そう思った時の事だった。
「「比企谷!」」
…呼んだのは中学時代からの腐れ縁である、
相模南と、折本かおりであった…。
===side《minami》===
比企谷をかおりちゃんと一緒に呼び止めたは良いものの、どう次の言葉を掛ければいいか分からない。比企谷も私達がこの学校にいるとは思わなかったのか、特徴的な目を大きく見開いている。
比企谷。昔はヒキタニと呼んでいたその男の子にウチはどうしても目を惹かれてしまう。そんな事を考えながら、ウチはあの日の事を思い出していた…。
『本当に最低だな。相模、お前は結局チヤホヤされたいだけなんだ。構って欲しくてそういうことやってんだろ。 今だってそんなことないよって言って欲しいだけなんだろうが。 そんなやつ委員長として扱われなくて当たり前だ。 本当は雪ノ下みたいになりたかったのだろ。 あんな風に誰かに認められて、求められて、頼りにされるような人間に。だからインスタントに委員長という型紙を貼り付けた。 逆に誰かにレッテルを貼って、見下すことで自分の優位性を確認したかった。それがお前のいう成長の正体だ。 みんな多分気づいてるぞ。お前のことなんてまるで理解してない。俺がわかるくらいだ。ん?同じだよ。最底辺の世界の住人だ。よく考えろよ。お前に全く興味の無い俺が一番早くお前を見つけられた。つまりさ、誰も真剣にお前を探してなかったってことだろ。 わかってるんじゃないのか。自分がその程度のーーー』
あの日言われた言葉は、今では雪ノ下さんを助ける為だったって分かってる。言われた直後は何も思わなかったし、文化祭が終わった時にはただ腹が立って、ゆっこや遥と一緒に悪評を学校中に広めた。ヒキタニはサボリ魔だの暴言を吐いただの言いまくった。比企谷が普段話している戸塚君達が近づけないようになっていたのはいい気味だと思っていた。
でも、体育祭で目が覚めた。
ゆっこや遥と揉めて一度決別してから、ウチは独りの気持ちが段々と理解出来るようになっていった。クラスにもそれなりに親しい友人は居たが、ゆっこや遥との時間には叶わなかった。そんな日々が続いて一週間経った頃。ウチは中学生になってから初めて家で一晩中泣いた。弟のゲーム音だけが、壁越しにただ流れていた。
修学旅行の終了後。雪ノ下さんはクラスが違うから分からなかったけど、結衣ちゃんと比企谷の距離感がおかしくなっている事に気付いた。しかし、結衣ちゃんとは文化祭で更に疎遠になっていたから聞けなかったし、比企谷は罵られた当人だから論外。何があったかを聞く事は当然出来なかった。
その後詳しい出来事を知ったのは馬鹿みたいに単純で、冬休み直前に葉山君のグループの大和君と大川?大岡?君が話しているところを偶然聞いてしまった事だ。
「にしても、ヒキタニはどうして戸部の告白を遮って海老名さんに告白しただろうな。どうやら本気じゃなかったっぽいし。」
「単にクラスに彼女持ちが出来るのが怖かったんじゃないか?文化祭であんな事する奴だし。」
「それな。」
「だな。」
…ヒキタニが告白と聞いた時、途轍も無い違和感をまず感じた。あんだけあれこれ言って来た奴が告白を簡単にするはずがないと。そして、本気では無いというところに今度はおかしさを感じる。さらに相手が海老名さんだという事に疑問を覚えた。…彼女は四月の半ばに三浦さんから男子を勧められて教室でぶちキレていた事を思い出したからだ。
その後、修学旅行の真相に辿り着き、同時に文化祭の真実についても行き着いたのは中学三年生となった四月。
ヒキタニ、いや比企谷は雪ノ下さんを助ける為に
あんな罵倒をしたんだと。
そう、理解出来た。
それからウチは比企谷のことを見ると、何故かドキドキするようになった。恐らくウチの為ではなくても、ウチの立場を知らず知らずのうちに助けてくれた事で、惹かれてしまったんだと思う。初めは認めてはいなかったし認めたくなかったが、時期に自覚してしまった。
ウチは恋をしていると。
….正直言って叶わない恋だ。相手はこちらを罵倒し、コッチは悪評をばら撒いている。これで両想いになるのはまず無理だろう。
だから高校では謝って、せめて最低限会話が出来る関係になろうと考えた。その為に雪ノ下さん達の集会を尾行し始めたのもその頃。比企谷が他校に進学すると知ったのもそれからすぐだった。
ウチは必死に勉強して、高度育成高校に合格した。入学式の日、黒いリムジンが門の目の前に着くのが見える。そこから奉仕部と愉快な仲間たちが降りてきた。雪ノ下さん、結衣ちゃん、一色ちゃん、そして比企谷。
声はまだ掛けない。なぜなら、
比企谷達と同じ学校に入れた。
それだけでウチは救われるんだーーー
「久しぶり〜!比企谷。最近チョーシどう?」
「…おう。まぁ、普通だな。」
「比企谷が普通とかあり得ないでしょ。マジウケる。」
「いや、ウケねぇから。…ところで、どうして相模と折本はこの学校に来たんだ?」
ウチが上手く話を紡げないのを感じ取ったのか、かおりちゃんが比企谷と話を繋いでくれていたが、 比企谷の今の質問は完全にウチへと向いていた。
「んー、ま、まぁウチらは…その…。」
「南ちゃん言わなきゃ駄目だよ〜!」
かおりちゃん?いくら女の親友を目指しているからって、ウチに言わせる気なの?本当に?
「なんかそんだけ溜められると気になるんだが。…まさか二年前の文化祭での屋上の事か?」
……ヒキガヤ。ウチ、アンタ、コロス。
ウチはいかにも普通にさり気なく言う。
「ウチら、比企谷の事愛してるから。追いかけて来たの。」
「そうか。……ん?ってはぁぁぁ!?ちょ、ちょっと待ってくれ。え、え……」
「ちょっと南ちゃん!?何言ってるの!?」
はて、ウチは何か間違った事を言ったのかな?
はい、今回はかなり長めです。奉仕部回と見せかけてのさがみん回でした!薄々わかると思いますが、相模折本ペアは恋愛フラグは立たないと思います。ですが、彼女達もまた魅力的なキャラだと思っているので宜しくお願いします!折本視点もいずれ出す予定です。ではまた。
追伸 俺ガイルアニメのさがみんは影が見えた形でちょっぴり悲しかったりする。