ようこそ実力至上主義の奉仕部へ 作:モーブラゼロ
「つまり貴女達は私達に会いたかったけれど、中々機会が無かった。ようやく中間テストが終了し自由な時間が出来た事で、たまたま知り合っていた二人は奉仕部が設立された事を知り、此処に来ようとしていた、という事ね。」
「うんうん!そんな感じ〜。」
折本がそう返答する一方で、相模はますます固くなっていく。俺はそれをただ眺めているしかなかった…。
……あの相模の告白後、階段で俺達三人がフリーズしているところに雪ノ下と由比ヶ浜が現れた。相模と折本が居ることを知って大層驚いてはいたが、俺が原因と知るや掌を返したように二人を大歓迎し、新奉仕部へと誘った。……俺の扱いは一体…。
そして今、奉仕部の部室に向かっているのだが、いかんせん空気が重い。折本とは中三になってからも生徒会関連で顔を合わせていた為に殆ど打ち解けているのだが、相模は体育祭以来一切奉仕部とは関わっていなかった。先程の告白からして悪くは思っていないだろうが、由比ヶ浜の暗い表情から中々話しかけられないのだろう。折本も俺も気付いてはいるのだが、流石にこちらからその話を持ち出すのは憚られた。
「結衣ちゃん、雪ノ下さん、比企谷。…今まで本当にごめんなさいっ!」
教室に入るなり、相模は汚れた床に頭を擦りつけながら謝罪した。雪ノ下と由比ヶ浜は目を見開き、折本は信じられないような目で見ている。二年前の文化祭とその後の態度に対する謝罪なのだろうが…どこか既視感があるのは気のせいだろうか。十数秒後、由比ヶ浜が言葉を発する。
「…さがみん、もう気にしてないから。…だから土下座はやめて、ね?」
由比ヶ浜にはその誠意が伝わったのか、彼女は暗い表情を崩し笑顔を浮かべながら土下座を止めるよう諭した。だが、
「ダメ。うちはみんなに迷惑かけたのに罵ってた。許してもらえるとは思わないけど、うちは奉仕部のためならなんでもする。」
…雲行きが段々怪しくなって来た。由比ヶ浜は土下座に対してなんだか異様な反応をしている。…俺のせい?
「それは分かったわ。だから土下座は…。」
今度は見かねたのか雪ノ下が止めに入る。…もしかすると雪ノ下も由比ヶ浜も、俺が土下座をするのをクラスで既に見てしまったが為に、知り合いがするのをもう目にしたく無いのかもしれない。
「ダメっ!止めないで!許してもらう為に、うちにはもうこれくらいしか出来ることがないの!」
…凄い勢いで雪ノ下と由比ヶ浜がこちらを振り返り真剣な表情で見つめて来た。……分かった、俺も止めるから、止めますからその目のハイライトを消すのはやめてください!
相模の方にしっかりと体を向け、一歩近づく。相模もそれに気づき、堅苦しくしながらも此方の目を見つめる。
よし。ここは一言優しく…。
「…相模。許すから土下座はもうやめろ。」
「……うん。分かった。」
「…ヒッキーの言う事は聞くんだ。」
…由比ヶ浜と雪ノ下にジト目で見られたが、俺は悪くはない筈だ。
「…改めて雪ノ下さん、比企谷、そして結衣ちゃん。あの時はごめんなさい。」
落ち着いてから改めて向き合うと再び相模はそう口にする。しかし、
「謝罪が遅いわね。貴女の友人は学年が変わる頃には謝りに来ていたわよ。」
相変わらずの鋭い一撃。相模はその事実を知らなかったのか、顔を歪める。
「嘘っ!…あっ、ごめんなさい。」
「…でも貴女がここまで私達を追いかけて来たということは、あの時の問題を自分でしっかりと認識したという事でいいのよね。」
「…うん。今はちゃんと分かってる。」
「そう。ならもう言うことは無いわ。」
「「「えっ?」」」
雪ノ下の言葉に部外者である折本までもが驚く。だが次の言葉で、俺は納得した。
「なぜなら私にも貴女に謝るべきことがあるからよ。私は姉への対抗心から貴女から受けた依頼を無視して暴走してしまった。相模さんの感情も考えずに。」
「でも、雪ノ下さんはうちよりも仕事を沢山片付けていたし…。」
「仕事を多く片付けたのは事実だけれど、その結果体を壊して私は学校を休んだ。そして最終的には比企谷君が私達に本来向くべき悪意を、相模さんを罵った事で自らに集めた。…過程は違えど私も同じよ。相模さん、比企谷君、由比ヶ浜さん。私もごめんなさい。依頼人の意向と奉仕部の方針を遵守するべきだったわ。」
「…雪ノ下、言い過ぎだ。俺は自分のためにあれをやった。少なくとも、あの時の俺はそう思っていた。それだけだ。」
「…そう、だね。ヒッキーはそう言うもんね。」
「まぁ、だからこれ以上は無しだ。相模も雪ノ下も由比ヶ浜も、この話は…それでいいか?」
「…えぇ、比企谷君。」
「…分かった。比企谷、ありがとう。」
「…うん。ヒッキー。」
こうして二年前に出来た、文化祭でのわだかまりは紆余曲折ありながらも解消された。
「…私、空気だったなぁ。」
「「「………。」」」
それから一時間後、教室の清掃がほぼ終わっていた。掃除にはもう一日かかると踏んでいただけに、手伝ってくれた相模と折本には感謝しかない。…折本は床を拭きながら存在感をようやく出せたと言って涙を流していた。ノートパソコンも総武中時代に置いていた位置にPC台を設置しその上に置いた。ホームページは奉仕部の実績や専用の依頼メッセージシステムなど、殆どが作成済みで後は規約等を書き込むだけだ。
さて今は午後六時。夕日が綺麗に見えてそろそろ帰ってもいい時間だが、此の教室の余韻に浸りたい奉仕部と、この独特な空間を味わいたい相模と折本。歓談が続いていた。
その中で相模と折本は、今すぐにではないものの将来的に奉仕部に入部したいという意思を伝えてきた。この時嬉しい誤算だったのは、相模に関してわだかまりは消えたものの、難色を示すと考えていた雪ノ下と由比ヶ浜があっさりとそれを承諾した事だ。
「もしかすると、これからクラスポイントを巡ってクラス同士の争いが発生するかもしれない。貴女達と敵同士になるかもしれない。でも、部活動であれば関わりを持っても問題無い筈だわ。相模さんの話だと、Cクラスのリーダーはかなり暴力的でしょうし、此処で息抜きをするのが最善の策よ。」
「さがみん!これ以上Cクラスの事話さなくてもいいからね?そうしないとさがみんが暴力されちゃうかもしれないし…。」
…やはり大きかったのは、Cクラスの現状について相模が俺達に語った事だろう。Cクラスはある一人の生徒が王になると宣言してから、それを認めないクラスメイト達と文字通り血みどろの戦いを繰り広げていたらしい。だが先日、クラスの反対勢力が全て潰され独裁体制が敷かれた。中間テストの期間中はクラスメイトを使ってBクラスへちょっかいを掛けたり、言い掛かりを付けたりして学校側からのペナルティーについて探っていたようだ。ちなみに相模は仲の良い友人が居らず、そこまで能力が高くない為か特に命令はされていないと言う。…だが、彼女の目には明らかな怯えが浮かんでいた。
「…色々あった間柄だが、俺の"友人"に危害を加えられるのは防ぎたい。俺も奉仕部への二人の入部に賛成する。」
「…ありがとうヒッキー!…これでばんじょうりっちだね!」
「それは満場一致よ、由比ヶ浜さん。…では新入部員も入った事だし、久々に貴方の部屋で夕食会でもしましょうか。」
「え!?結衣ちゃん達って比企谷の部屋でご飯食べてたの!?…ハーレムじゃん。」
「それあるー!」
「いや、無いから。」
かつて俺が追い詰めた少女は成長して今は普通に話し、その、…俺を想ってくれている。かつては俺のトラウマであった少女も成長して、今は一番の悪友になれそうな関係だ。
俺は地面に張り付くもう一人の自分に目を動かすと、寮へと向かう彼女達の後を追った。
「では、これからの奉仕部の具体的な方針について発表しようと思うわ。いいかしら。」
雪ノ下の作る、相変わらず化物じみた美味さの夕食を皆で頬張った後、俺の部屋では皆が円を描くように床に座り今後についての会議を始める。雪ノ下の言葉に全員が頷くのを確認したのと同時に、彼女は話を切り出した。
今回雪ノ下が考案したのが、依頼を三つの種類に分ける事。
一つ目は通常依頼。これは旧奉仕部の方針を受け継ぎ、『魚を与えるのではなく、魚の取り方を教える』ように依頼を完了する。また、料理等の依頼での材料費を除きその対価は、依頼人の主観に任せる。例えば依頼人が途轍も無く感謝して50万ポイントを受け取る場合、反対に依頼人が奉仕部に対し失望して1ポイントも払わない場合、さらに元々ポイントが少なく満足に払えない場合、全て彼らの主観によってポイントを支払ってもらう。つまりポイントの支払い額は依頼人の任意という事になる。
二つ目は恋愛関連の依頼。これは通常依頼とあまり変わらないが、俺達は過去の痛い経験があった為に、門前払いこそしないが慎重に請け負う事になった。具体的には通常依頼では初めはメッセージのやり取りでの解決を目指すのに対し、恋愛関連の依頼では必ず部室まで足を運んでもらい、直接依頼を聞くという事を徹底する。ポイント関連に関しては通常依頼と変わりはない。ただ、恋愛問題に関しての依頼はアフターサービスも充実させる事が大事だとの事だ。
最後に三つ目。これはクラス間の争いに関しての依頼だ。例を挙げればどこかのクラスに妨害をしてくれ、どこかのクラス同士の仲裁をしてくれ、などという物だ。これに関してだけは旧奉仕部の方針を放棄する、いやせざる負えないだろう。また内容によってはリスクが高い為、ポイントも相手の任意では無く報酬10万ポイントからしか依頼を受けない予定だ。また、折本や相模が入部した事で、クラス同士の戦いが理由で部内で望まない敵同士になる場合もある。これに関してはそれなりに揉めたものの、最終的にその時はその時で内容によって決めるといったところに収まった。
以上が今回の議論の結果だ。一部意見がぶつかり合ったところもあったものの、総じて雪ノ下の提案に賛成し、彼女を称賛した。
「じゃあ方針も決まったことだし、いよいよホームページ公開だね!」
「そうね。あまり依頼が来るとは思えないけれど、私と由比ヶ浜さん、比企谷君は貴重な収入源になりそうね。」
いや雪ノ下さん?貴女賭け試合でめちゃくちゃ儲けてませんでした?
「うちらはポイントある方だし、別に報酬全部旧奉仕部員で分け合ってもいいんだよ?」
「そうそう、大船に乗ったつもりでさ!」
「大丈夫よ。此方は此方で手段はあるもの。」
「手段…?」
いや、それはまだ教えるのには早い。旧知の仲とはいえ、もう少し関係を深めてからの方がいいだろう。
「そろそろ、静かにしろ。……ほら、公開したぞ。由比ヶ浜、掲示板にもリンク貼っとけ。」
「うん!…公開のカウントダウンとかした方が良かったかなぁ。」
由比ヶ浜。確かに記念すべきものではあるが、カウントダウンは無いんじゃないか…?新年でもあるまいし…。
「カウントダウン?必要無いと思うわ。それよりも…本当は依頼なんて無い方がいいのかもしれないわね。面倒くさい。実に面倒くさい。」
おい!雪ノ下そのセリフ!もっとシリアスな場面で使ってくれよ!…というか、絶対昔聞いた事があるぞ。
「雪ノ下さんのキャラ変わっててチョーウケるんですけど!」
「いや、かおりちゃん受けないと思うよ…。」
…記念すべき瞬間の筈なんだが、かなりグダグダしたな…。まぁこれもまた奉仕部らしいと言えるかもな。
この日、俺達"五人"は奉仕部としての活動を
正式に開始した。
今回かなりぐだぐだで短めです。改良点あれば、どんどん直していくのでご指摘お願いします。次から百合娘が登場します。ではでは。