ようこそ実力至上主義の奉仕部へ 作:モーブラゼロ
===side《???》===
私は一之瀬さんのことが好きです。…恋愛対象として。初めて会った入学式の日。クラスでの自己紹介で言葉に詰まってしまった私を励ましてくれた時から、一之瀬さんは天使であり女神のような人だと思って、尊敬していました。さんな私が初恋に落ちたきっかけは入学間もない日のことです。…その前に私の過去について話しておきましょう。
私は昔からドジで要領が悪い子供でした。小学校の頃から体育や日直、そしてテスト。体育では怪我をよくしていて、組体操では一番上に選ばれたのにも関わらず、本番前のリハーサルでついバランスを崩し上から落ちて骨折。日直ではよく黒板消しを落として床を汚したり、運んでいた提出用の皆のノートを床にばら撒いてしまったり。テストでは解答欄を間違えてしまったりと、失敗続きでした。最初は私は不運な子なのかなと考えていましたが、偶然という事は少なくやっぱり自分がドジなせい。皆は千尋ちゃんは充分真面目にやっているからそれはしょうがないと慰めはしてくれるのですが、ただ哀れむばかりで悩みをしっかり聞いてくれる人は友達にも先生にも居ません。また、人前に立って話したり、人と話すのが苦手だったので自分から相談する事はお父さんとお母さんにも出来ませんでした。
中学校でもそれは変わらず、また周りに明るい子が増えたので小学校程見てもらえる事は少なくなりました。それでも仲の良い子は居たのですが、やはり悩みを相談する事は出来ませんでした。
そんな時、担任の先生からある高校への進学を勧められました。その名は東京都高度育成高等学校。日本政府が作り上げた、未来を支えていく若者を育成する事を目標とした全寮制の学校で、就職率、進学率ともに100%という実績を持ち、入学金、授業料、そして寮費、全て無料というまさに夢の様な学校でした。初めは中学校で知り合った数少ない友達と同じ高校に行きたいと思って渋っていましたが、先生に「自分を変えられるかもしれない」と言われて決心。中学三年生の日々を受験勉強に費やしました。
結果は合格。その頃には数少ない友人とも疎遠になってしまいましたが、高度育成高校での新しい学校生活に私は心を膨らませていました。
入学当日。私はお父さんの車で学校へと向かいました。お父さんもお母さんも一人娘の私と三年間離れるのは凄く寂しかったようで、学校付近に車を止めてからも家族で10分ほどずっと抱き合っていました。
流石にいつまでもそうしている訳にもいかず、涙ながらに両親と別れて校門へと向かいました。歩いている新入生も増え、校門が大きくなって来た時、一台のリムジンから何人も生徒が降りてくるのが見えました。彼らの顔はよく見えませんでしたが、男子生徒と女子生徒達の近さから見てとても親密な関係である事が分かりました。……私は彼らを振り返る事なく、早足で抜き去りました。…私の本心を隠しつつ。
時は経って、入学式の直前。担任の星乃宮先生の説明が終わった直後、ある生徒が教壇に立ちました。
「ごめんねみんな〜。ちょっと注目して欲しいんだけど、いいかな?」
そう声を大きく発したのは、
「私は一之瀬帆波って言います。これからよろしくね。早速提案があるんだけどこれから互いが集団として生活するけど、円滑に仲良くしていきたいから自己紹介の時間を設けたいんだ。したくないって人は首を横に振ってもらえるかな?」
今は私の想い人である一之瀬帆波さんでした。
その日から既に私は彼女に惹かれていたのかもしれません。男性や女性関係無しに、無意識にその一之瀬さんそのものに一目惚れしたのだと思います。…しかし、次の日になるまでそれに気付く事はありませんでした。
入学から二日目。一之瀬さんに学食に誘われ、他のクラスメイトと共に教室へ向かいました。一之瀬さんのおかげか、網倉さんや細川さんと知り合い早速仲良くなれました。内心ではまた小学校や中学校の頃のようになるのではないか、いやこの人達は違うんだ、と心が鬩ぎ合ってはいましたが、やはり安心感が勝りました。一之瀬さんと共に仲良くなったからでしょうか…。どこか楽観的な思考が頭をよぎっていました。…しかし…、
「千尋ちゃん!危ない!」
…私は階段で転けて足を挫いたのです。
私は一之瀬さんや他のクラスメイトに体を起こされ、踊り場に座らされました。
「白波ちゃん大丈夫?」
「先生誰か呼んできた方が…。」
「とりあえず冷やさないと!」
私を心配する声が沢山聞こえます……本気で心配してくれているのは分かる筈なのに、それは私には空虚にしか聞こえませんでした。
「私が保健室まで連れて行くから、皆は食事に行って欲しい。」
その時私は、その声を初めて"本物"だと思ったのです。
……その時から私は一之瀬さんを見ると胸が高鳴ります。これが恋だと気付いたのはついこの間、ネットでとある人気アニメを観ていた時の事。アニメでは半分ギャグのように語られた恋についての話は、いつの間にか私の心を鷲掴みにしていました。それ以来、私はそのアニメの黒リボンを付けたキャラクターの大ファンになったのです!…話が逸れましたね。
一之瀬さん。私の気持ち、届いていますか?スキンシップくらいでしか同性ではアピールが出来ません。きっと、一之瀬さんなら私としっかり向き合ってくれる筈。そう、信じてます。
…でも、私には初めての恋なのでどう告白したらいいか、分かりません。ましてや同性という立場では…。
ふと、学校の掲示板を見ると一つのある新しい部活が話題になっていました。そこでは『魚を与えるのではなく、魚の取り方を教える』ように依頼を解決してくれると書いてありました。
私、白波千尋は、その『奉仕部』という部活に
一通のメッセージを送りました。
===side《hachiman》===
今日は土曜日。奉仕部が正式に動き始めてから最初の休みだ。ちなみに奉仕部を掲示板で宣伝してからというもの、やはり珍しく聞き慣れない部活だからか、受信トレイには早くも多くの依頼や問い合わせが寄せられており、今週の放課後は以前の様にゆったりとする事は無く、返信に勤しんでいた。ほぼ全てがメールのみで解決できる依頼で、学習関連は雪ノ下。人間関係関連は由比ヶ浜と折本。その他を俺と相模で対応していた。一部のスポーツ系や料理系の依頼については週明けに随時、部室にて話を聞くつもりだ。…ちなみに恋愛相談や、クラス関連の受信トレイには未だ一通も無く、特に恋愛相談に修学旅行で忌避感を持った俺達としてはありがたかった。…ではどうして恋愛関係の項目を作ったのかと問われれば、…やはり解決したいという想いが強いせいなのだろうか…。
そんなこんなで中間テストをなんとか乗り越え、奉仕部の始動も無事に終わり、俺の体力は限界に達しつつあった。…まぁ昨日、奉仕部ガールズが俺の部屋で寝落ちして、八幡の八幡を抑える為に堪えていたせいもあるのだが…。みんな吐息を出すんじゃない!寝たくても如何わしい気分になって眠れないんだよ!
…話を戻そう。そんな事情から俺はこの二日間、寮に引き籠もって入学以来多忙で溜まっていたプリキュアを鑑賞するつもりだったのだが…。
「ねぇヒッキー。この服どうかな!」
「比企谷ー、それ終わったらここのアイス食べないー?」
「比企谷君。此処は一度落ち着く為に合理的かつ妥当性を考えると本屋さんに一緒に、行くべきだと思うのだけれど。どうかしら?」
「…比企谷…。後でこの映画…ウチと見に行かない?」
…けやきモールに連行されていました。
…なんというかハーレム主人公の気持ちがよく分かるような感じだ。折本はともかくとして、他の三人は目をギラつかせたり、しおらしくしたり、捲し立てたり……怖い。超怖い。だって、みんなめのはいらいときえてるもん。…まぁそれはそうと、やはり好きな人と出掛けるという事は嬉しいのだろうか、あの雪ノ下がスキップしながら俺の横を歩いている。うん。可愛い。…由比ヶ浜と相模が同じくスキップして対抗している。折本は苦笑いしながらそれを見つめていた。…うん。折本。ボディタッチに関してはかなり多い方だからね君。
そうこうしているうちにお昼過ぎ。中間テスト突破兼奉仕部始動のお祝いという事で、小洒落たハンバーグ専門店にて昼食を済ませる。国産牛を使用した物で、肉汁がドバドバと溢れ出しており、とても美味しく頂く事が出来た。
食事を終えて皆で少し歓談していると、俺達の携帯が一斉に鳴り響く。これは……奉仕部ホームページからのメールだな。当初は奉仕部の部室のみでしか対応はしない予定だったが、通常の依頼はともかく恋愛関連やクラス争い関連には迅速な素早い対応も必要だと考えた為、部室に居ない場合は自動的に各部員へ転送されるようにしたのだ。…プログラムは雪ノ下に任せました。私には分からん。
初めての恋愛相談またはクラス関連の依頼。皆が空気を張り詰めながらメールを開く。
一人の少女の真摯な想いと、告白についてのアドバイスを求める文章が其処にはあった。……だが、
告白についてのアドバイス。その言葉を見た時、気付けば俺は竹林の中に居た。
二人の少年と少女が向かい合っている幻想的な光景の中に、一人の目つきの悪い少年が割り込み、少女に告白する。彼女は苦笑いを浮かべながら、今は誰とも付き合う気は無いと宣言してその場を去る。先に居た少年は初め呆気に取られていたが、やがてニカッと笑みを浮かべ友人に支えられてその場を後にする。リーダー風の少年が、目つきの悪い少年に何かを囁き消えていく。彼はゆっくりと元来た道を引き返す。そして、彼女達が前に見えた時。
「貴方のやり方、嫌いだわ。うまく説明ができなくて、もどかしいのだけれど……。あなたのそのやり方、とても嫌い。」
一人の少女が先に旅館へと戻り、
「人の気持ち、もっと考えてよ…。なんでいろんな事が分かるのにそれが分からないの!」
もう一人の少女が袖を掴みつつ慟哭した。
その日。彼等は、俺達は、一度壊れた。
雪ノ下、由比ヶ浜はあの時を思い出し、机に突っ伏す。俺も何故か涙が滴ってきた。相模と折本も既にその話を聞いていたせいか、顔色を途轍もなく悪くしている。
告白についてのアドバイス。
二年前、俺達のぬるま湯を破壊し尽くされる事になったきっかけ。あの後、紆余曲折有りながらも本物の関係を目指し、高校に入学してからも成長を続けたであろう俺達には、まだ乗り越え無ければならないトラウマが隠されていた。
ようやく顔を上げた涙に溢れた雪ノ下と由比ヶ浜、店員に心配されて我に帰った折本と相模。皆が視線を交錯させる。
「比企谷君。受けましょう。」
「ヒッキー…。」
「比企谷、私も協力する。」
「…ウチも。」
「…おう。」
余計な言葉はいらない。
俺達は、更に成長する為にこの依頼を解決する。
そう心に決め、俺はゆっくりと席を立った。
===side《honami》===
私は最近困っている。それはクラスメイトのボディタッチが激しい事についてだ。
私達Bクラスは一人の退学者を出すこと無く、中間テストを乗り越える事が出来た。そのおかげなのか、私が勉強会を早くから率先して開いたという事でクラスのみんなから感謝された。…感謝はとても嬉しい、でもそれはみんなが一人一人勉強を頑張ったからだ。
それに私は……そんなに良い人じゃない。
話を戻すと、それからというもの私の大事な友達の千尋ちゃんや麻子ちゃんがしょっちゅう抱きついて来るようになった。…とても嬉しいんだけど、だけど、たまに変なところ触らないでよぉ…!
別に怒っているわけではないんだけど、特に千尋ちゃんは抱きついて来るのにはなにか別な理由があるんじゃないかと思ってしまう。…変なところ触られると体が震えてしまうし…。
同じクラスの人には、恥ずかしくて相談出来ない。桔梗ちゃんに話してみようかとも思ったけど、最近の桔梗ちゃんは少し冷たくて機嫌を損ねちゃうかもしれない。…誰か相談できる人は居ないかなぁ…。
私は同じような質問がないか掲示板を流し読みすると、そのまま布団を被って電気を消す。
私は携帯に表示されたリンクに気付く事は
無かった。
はい、一之瀬視点もせっかくなので書きました。おやおや櫛田さんの様子が…?
次回、またはその次に百合少女編は終了します。それが終わると、いよいよ暴力事件へと入ります。
ではまた。