ようこそ実力至上主義の奉仕部へ 作:モーブラゼロ
「私は一之瀬さんが、心の底から好きなの!」
……この惚気話は後何十分続くんだ!?
…休み明けの月曜日の放課後。俺達は依頼メールを送って来た、Bクラスの白波千尋を奉仕部部室へと招いた。俺達の間には土曜日の出来事から、張り詰めた空気が流れてはいたが来訪者がそれ以上に緊張しすぎていた事で、皮肉にもリラックスする事が出来た。彼女は初めはおどおどしていて中々席に付かなかったが、雪ノ下が紅茶を勧めると恐る恐る座って飲み始めた。
「今のうちに自己紹介をしておいた方が良いんじゃないかな?」
「だねー。じゃああたしから。Dクラスの由比ヶ浜結衣です!宜しく!」
「ウチは相模南。宜しく!」
「部長の雪ノ下雪乃よ。歓迎するわ。…それとこれが、比企谷八幡よ。比企谷君。挨拶しなさい。」
「俺は備品扱いかよ。…比企谷八幡だ。宜しく。」
「…比企谷君は部員扱いではない…?」
なんか変な誤解産んでるぞ雪ノ下。滅茶苦茶かわいそうな哀れむような目をして来ているし。
「私は知ってるよねー。あんまり話さないけど…。」
「あ、はい、知ってます!折本かおりさんですよね!」
折本とはどうやら疎遠のようだ。一之瀬と親しくしている事からそれかりに明るい女子だと予想していたが、どうやら違うらしい。それとも…。
「私は白波千尋です。よろしくお願いします!」
「…では白波さん。早速依頼内容を聞かせていただいてもよろしいかしら?」
「あ、はい!」
こうして白波の話が始まったのだが…。
「それでその時の一之瀬さんが可愛いんですよぉ!…エヘヘェ…さらにさらにーーー」
こうして冒頭へと戻る訳だ。戻るってなんだ。…まぁメタい話は置いておいても白波は殆ど休憩なしに一時間近く話し続けてる。そんな白波に何故か由比ヶ浜だけがとても興味深そうに聞き入り、時々二人でハイタッチをしている。どこに共感してるのお前。…ゆる百合は結構だが、此処までガッツリ聞くと男子の猥談と同じ域だな…。ちなみに俺や雪ノ下達は止めようとはしたのだが、由比ヶ浜が加担してしまっている為に中々止められない。由比ヶ浜が止まらない以上、白波を止めるしかない為、俺は雪ノ下にアイコンタクトを取って許可を貰ってから、嘘を付いて言った。棒読みでだ。
「あーそろそろ時間がまずいなー。本題をすぐ簡単に言ってくれないと相談にのれないなー。」
「あっ!?ごめんなさいすみません許して下さい…。久しぶりに本当に会話で盛り上がれてしまったので…。」
やばいクソ可愛い。なんかゴミみたいな目であちこちから見られてるけど八幡知らない!……まぁそれはさて置き、白波には恐らく何かしらの過去がある。そう、思わせられるほどには彼女の目は嘘を付いていなかった。
「では改めて簡潔に依頼を教えて頂戴。」
「私が一之瀬さんに告白するアドバイスをして欲しいんです。」
雪ノ下から目を逸らさず真剣な眼差しで見つめている。…ふとその目を、俺は『本物』だと感じた。その瞬間、俺の腹は決まった。
「…俺は受けたい。」
「ヒッキー!?まだ一つしか聞いてないのに…。」
「お前も聞いたとは思うが、白波はあれだけ好きな相手を語れる女の子だ。…少々愛が重すぎる感じはある。だが、白波は、白波の一之瀬に対する想いは間違いなく『本物』だ。…俺は本物をを求める者として、彼女の依頼を達成させたいと、思う。」
「…白波さん。一ついいかな。」
俺が意思表示をした後、今まで黙っていた相模が唐突にそう問うた。
「もしさ、一之瀬さんに女の子に恋愛感情は無いとかさ、振られたりしたらどうするの?そう言われる覚悟はあるの?」
白波の顔が歪む。相模は意地悪をしたいが為にこの質問をした訳ではない。そう分かってはいても、相模がかつての俺のようにその質問をした事に少しだけ、胸がズキンと傷んだ。
「…ある訳ないじゃないですか。私は昔からドジばかりしてて、心配してくれる人も表面上だけだった。でも!一之瀬さんだけは本当に!心配してくれた!私の事を案じてくれた!そんな人に断られたらって思うには思います。…でも、好きになっちゃったんだから仕方ないじゃないですか!振られてもいいから、絶対に想いを伝えます!!」
…目の前にいる少女は、れっきとした一人の女性だった。白波千尋は最初部室に入って来た時のようにか弱い少女である。そうした決めつけが頭の中から解けていく。そして、
「奉仕部として、その依頼を受けるわ。白波さん。貴女の想い、必ず伝えましょうね。」
「っ!はい!!」
こうして奉仕部プロデュースによる白波告白大作戦が始まったーーー。
「白波ちゃん。相当頑張ってたよねー。」
「手書きのラブレター少しでも文字が歪んだら、すぐに書き直していたよちひろん…。」
「女性同士の恋愛での告白は難易度が高いと聞いた事はあるけれど…出来るなら報われて欲しいわね。」
「告白まであと一時間。かぁ〜。」
今日は木曜日の放課後。あれから、月火水と奉仕部は告白のアドバイスに奔走した。ラブレターの書き方から告白の場所まで、主に由比ヶ浜と折本が張り切っていたが、なんだかんだで俺や雪ノ下、相模も楽しんでいた。休憩にと皆でカフェなどに行ったりなどしたが、やはり理解している相手と過ごすのは心地が良く、普段外出を好まない俺でも不快にならずに三日間を終える事が出来た。…堀北や櫛田に出会った時の視線が非常に痛かったのだが。
そんな風に考えながら告白の成功を祈っていると、コンコンっとノックの音がする。
「どうぞ。」
雪ノ下がそう言うと、扉がゆっくりと開いた。その瞬間、奉仕部一同は息を呑む。
扉から入ってきたのは、その相手である一之瀬帆波だった…。
「まずはあたしから!Dクラス所属、由比ヶ浜結衣だよ!宜しくね!…ほらヒッキー。」
「…由比ヶ浜と同じクラスの比企谷八幡だ。」
「Cクラスの相模南です!宜しく!」
「ヤッホー!一之瀬ちゃん。」
「Dクラス所属、部長の雪ノ下雪乃よ。ようこそ奉仕部へ。歓迎するわ。」
「…うん!皆さん宜しくね!」
折本と俺を除けば、ほとんどが直接会話した事は無かった為に、なんとなく自己紹介をする。折本がいる事に驚いたりはしていたが、かなり好意的に接していた。改めて面と向かってみると、折本や由比ヶ浜のような社交的なタイプで、かなりコミュニケーション能力が高い事が伺える。…だが俺は相模の自己紹介の時、Cクラスという言葉に反応していた事を見逃さなかった。どうやら相模の言っていた、Bクラスにちょっかいをかけていた事は事実のようだ。一見そこまで警戒していないようには思えるが、天然記念物の笑顔の裏に何処かしら不安げな感じが見える。…フォローしておくか。今の相模が変な様に思われるのは、嫌だしな。
「一之瀬。相模について悩んでいる様だが、心配するな。相模はCクラスの妨害には関わっていない。」
「にゃ!?私は別に悩んだりは…。」
にゃって可愛いなおい。正直一目惚れして振られて笑い者にされるまである。振られちゃうのかよ。…それはそうと、一之瀬は仮面を被れないタイプだな。なんとか取り繕おうとしているが、その混乱が普通に顔に出てしまっている。
「取り繕わなくていい。相模もそう思われてしまう事は理解している。」
「…うん、分かった。ごめんね?相模さん。」
「ううん。ウチは大丈夫だよ。」
一之瀬と相模の溝も埋まると、一之瀬は緊張しているからなのか一度深呼吸をしてから今回の依頼を話し出そうとする。
「じゃあ、私の依頼、聞いてもらうね。それはーーー」
「その前に紅茶はいかがかしら?」
一之瀬の言葉を遮り雪ノ下は紅茶を勧めた。一之瀬は初め唖然としていたが少し微笑むと、「ありがとう」と言って席に座って飲み始めた…。
「実は今日この手紙がロッカーに入ってたのに気づいたんだけど…。」
紅茶を飲み終わった一之瀬はかなりリラックスしながらそう語り始める。一之瀬の顔は少し赤く恥ずかしがっている様子だが、奉仕部一同は顔面蒼白だ。…だって不味い。凄く不味い。そしてとても嫌な予感がする。なんだって手紙を見ると、紛れも無く白波が一生懸命書いていた一之瀬宛のラブレターである事が分かるのだから。中身は一之瀬が送り主を気遣ったのか見せなかったが、此方はその主をよく知っている。
「見た限りラブレターっぽいな。」
「…そうね。相手は同じクラスの人かしら?」
いかにも何も知らなかったかのように、雪ノ下とアイコンタクトをしながらすっとぼけてそう聞く。…由比ヶ浜達は魂が抜けているのか反応がない。手紙のデザインから見てまず白波の物だろうと初めから思ってしまったが、実は別の送り主である、そうであるはずだと祈り続けている。というかそうで無いと困る。…一之瀬はその質問に頷いて本題を切り出した。
「中身を見て確認したんだけど明日体育館の裏で告白するみたいなんだけど…今は付き合う気がないんだ。でも相手が傷つかないようにしたいんだ、だけどどう断ったらいいかが分からなくて…。」
…一之瀬帆波も、かつての葉山と同じなんだな。
告白を断るという事は、相手を傷付ける覚悟が無ければ出来ない。…こんな美少女でも告白された事が今まで無かったのだろうか。それとも、同性に好かれるのが初めてなのだろうか?
「…送ってきた相手は一体どんな男性なのかしら?」
「いや、男子じゃなくて…女子なんだ。」
雪ノ下の質問で、相手が白波である事が確定する。…雪ノ下もやはり心の何処かで否定したかったのかもしれない。白波の親身になっていた相模や折本も何かを堪えている。
皆が下を向く中で俺が現実を話そうとした時、
突然由比ヶ浜が立ち上がって、口を開いた。
「この手紙は見てる感じ手書きで全部書いてある。だから、この子の一生懸命な想いが詰まってるんだとあたしは思う。あたしの時もそうだったけど、告白って相手にちゃんと想いが伝わるように伝えるって事。…ほなみんが告白を断るって事はその時点で相手は傷付くし、欲しい答えじゃない。でも、相手はそれをちゃんと覚悟してるはず。傷付かないはずがないんだよ!望んだ答えじゃないんだから…。あたしも、そうだったから…。」
由比ヶ浜の心からの叫びは一之瀬を確かに貫き、更には俺達にも伝わってきた。卒業式の日に三人からの告白を断った俺。少なからず告白を受けて来たであろう雪ノ下と相模。かつて小6の時に俺から告白を受け、友達に相談した事からその事が広まってしまった事に対する罪悪感を抱えている折本。
「…ちなみに一之瀬ちゃんはどうやって最初断ろうと思ったの?」
過去への罪悪感からか、同じ立場として尋ねる折本。
「…ネットで色々調べたら、偽の彼氏を「駄目だ!その方法は!」
一之瀬の言葉を遮って思わず怒鳴る。
「もし彼女がその事実を知ったら、一之瀬に失望すると思うぞ。どうして本当の事を言わないのかって、信用されていないのかってな。彼女は一之瀬がかなら答えを出してくれると信じているはずだ。だから、ちゃんと、彼女にお前は向き合うべきだ。」
俺の感情がいつになく高ぶっている。どうしてなのか、きっと俺は一之瀬のような少女にそんな方法を取って欲しくはないのだろう。もしかしたらまた醜い理想の押し付けなのかもしれない。でも、少しの間関わるだけでも伝わってくる彼女の本質めいたものを、…俺は汚したくなかった。
「……ごめんなさい、奉仕部の皆さん。私が間違ってた…。ずっと傷つけない事だけを考えてきていたから…。だから、私、手紙をくれた子とちゃんと向き合います。」
一之瀬は凛として声を張り上げながら決意し、続ける。
「でも、もし、もしも私がこれから向き合う自信を無くしたら、また、此処に来てもいいですか…?」
顔を赤らめながら照れくさそうに言うその姿は、夕日の差し込む教室の中で見惚れてしまうほど綺麗だった。
少し魅了されてしまいそうになりながらも、俺はこう返す。
「まぁ、暇だったら…な。」
「…ありがとう…!」
そう満面の笑みで彼女は答えた。
「…比企谷君。一之瀬さんを見つめ過ぎではないかしら?」
…雪ノ下。怖い。
中途半端だと思う人もいるかもしれませんが、続きは次回の冒頭からの予定です。
原作では綾小路が一之瀬に諭していましたが、この場面を読んだ時に俺ガイルの修学旅行が浮かんだ事から、リンクさせてみてはどうかと思いこの作品を書こうと思いました。つまり、この作品が生まれるきっかけのシーンでもあります。なのでここだけ、綾小路のした事を結果的に八幡達がしているような形になっています。(ただし、原作では白波に対するフォローはありませんが。)
あ、これだけフラグが立っているように見えて、一之瀬はヒロインでは今のところないです。なるとしたら一之瀬潰しあたり。また、綾小路への想いと混在する形になると思います。
また、アンケートの結果、IF集を別枠で投稿しようと思います。答えていただきありがとうございました。
新しいアンケートは、比企谷が綾小路に敵対するか否かです。こちらは大まかなプロットは両方完成しています。二年生編から主に影響が色濃くでるでしょう。
さて、次回もよろしくお願いします。ではまた。