ようこそ実力至上主義の奉仕部へ 作:モーブラゼロ
正門の作りに感心しつつ、俺たち三人は誰かが言い合っている声を背に校舎へと向かう。
「それにしても本当に広い学校だよねー。確かショッピングモールもあるんでしょー?」
「国立の高校の中で最も予算が多い学校らしいわ。姉さんが事前に調べて教えてくれたの。」
「”外部との接触を一切禁ずる”、か。中々に胡散臭い学校だよなぁ。何処から金が出てるんだか。」
東京都高度育成高等学校
日本政府が作り上げた、未来を支えていく若者を育成する、それを目標とした全寮制の学校。就職率、進学率ともに100%という実績を持ち、入学金、授業料、そして寮費、全て無料というまさに夢の様な学校だ。
これだけ見てもこの学校の異質さが分かるが、一番不可思議な点はやはり「外部との一切の連絡、接触を禁ずる」というところだろう。
普通これだけの莫大な投資をした学校という物は税金の使い道という点で広く公開すべき物だ。それを保護者との連絡のみならず全ての接触を禁止しているのはあまりにも不審だ。
そこまで考えた時、下駄箱に着いたので思考を止めた。
「とりあえず教室に行くぞ。入学式か始まるまでに鞄を置いて行かなくちゃいけないだろ。」
「そうね。ジロジロ見回していないで早く行きましょう、由比ヶ浜さん。」
ガハマさんや、犬みたいにそこら辺を彷徨くのやめてもらえませんかねぇ。
「全員”1年Dクラス”か。クラス替えとか学年ごとに無いだろうなぁ?」
「え、なんで?あるに決まってるじゃん普通。」
「…もしかして貴方。同じクラスだった事にホッとしているのではないかしら。」
「いや、しょ、しょんにゃこと無いじょ?」
「ヒッキー、捻デレだね!」
「そうね。捻デレだわ。」
「もうそれやめて!!」
…1年Dクラスに到着した。え?テンションが低い?…キノセイジャナイカナ。
何このカオス空間。金髪の筋肉マッチョな男が爪を研いでいたり、いかにもバカそうな二人組が大音量で下ネタ話してたり、三浦とは違うタイプの金髪ギャルが机に思いっきり座りながら他の人と会話していたり、その中で雪ノ下に似た黒髪ロングの美人がひたすら読書をしていたり…ごめんなさい、だから足を踏まないでお願いします。
「席は残念ながら離れてしまったみたいね、ボッチ谷君?」
「…なんでお前らは隣同士なんだよ。」
「だ、大丈夫だよヒッキー、きっと席替えもあると思うし。」
「…そうだな。」
「とりあえず入学式が終わった後に集まりましょうか。」
後で集まる事を約束して荷物を置きに行く。窓際の後ろから二番目か。中二の時には葉山グループの集まる場所だったから正直心地が良くない。…でも、我関せずの雪ノ下似の美人が斜め後ろにいるし大丈夫だろう。…だから、こっち睨まないでゆきのんさん。
『月姫さんは告らせたい』を席で静かに読んでいると、後ろに誰かが座った気配がした。そっと後ろを振り返ると茶髪で顔立ちが整っている少年がいた。
「……おはよう。」
向こうが恐る恐る声を掛けてきた。
「……おう、おはよう。」
一応返事を返す。
その後数秒間見つめ合った後、彼は意を決したかの様に再び声を掛けてきた。
「…なぁ、せっかく席が近いから自己紹介でもしようと思ったんだが…迷惑だったか?」
「いや、別に大丈夫だ。」
「そうか。オレの名前は綾小路清隆だ。よろしくな。」
「俺は比企谷八幡だ。よろしくだ綾小路。」
よく腐った目の自分に声を掛けてきたものだ。軽く感動していると、綾小路は今度は隣の黒髪美人に声を掛けた。…絶対初期ノ下タイプだぞこいつ。
「オレとも自己紹介をしてくれないか。」
「よかったわね。数少ない友達が出来て、でも私はしないわ。」
あ、確定。これ絶対雪ノ下タイプ。
「数少ないとはなんだ。オレは友達100人作る気でいるんだぞ、マジで。」
「友達100人なんて笑わせるわね。あなたのような事なかれ主義の人間に友達なんて出来るのかしら?」
なんか綾小路の事を知った様な口振りをしているな。何かあるんだろうか。
「綾小路、知り合いなのか?」
「私は彼とは知り合いではないわ。たまたまバスで一緒になっただけよ。」
もしかしたら、校門で言い合っていたのはこいつらかもしれないな。
「そうか。じゃあ俺は読書に戻るから。」
「お、おいちょっと比企谷。」
…なんか聞こえるけど知らないな。無視だ。無視。うん。
しかし、あの綾小路の腐っているわけでは無い無機質そうな目。あれは一体何なんだ。
しばらく読み進めていると、担任と思われる人が教室に入ってきた。
「えー新入生諸君。私はDクラスを担任することになった茶柱佐枝だ。普段は日本史を担当している。この学校には学年ごとのクラス替えは存在しない。卒業までの三年間、私が担任としてお前たち全員と学ぶことになると思う。よろしく。今から一時間後に体育館にて入学式が行われるが、その前にこの学校における特殊なルールについて説明しよう。今から資料を配布する。」
平塚先生を彷彿とさせる教師だな。やっぱり独身なんだろうか。ん?なんか睨まれたぞ…ナンニモヘンナコトカンガエテナイデス。
さ、さて資料を読み進めるとこの学校にある様々な独自システムが書かれているが、特に気になったのがSシステムというものだ。
「今から、学生証端末を配布する。この学生証端末には全ての施設を利用したり、売店などで商品を購入するためのクレジットカードのようなものが内蔵されている。ただしポイントを消費することになるので注意が必要だ。学校内で買えないものはない。学校の施設にあるものなら、なんでも購入可能だ。」
なんでもか。通販とかも可能だったりするのだろうか。もし出来るならプリキュアのDVDや、マッ缶を是非とも購入したいものだ。
「それからポイントは毎月1日に自動的に振り込まれることになっている。今お前たちには全員平等に10万ポイントが支給されている筈だ。なお、ポイントは1ポイントにつき1円の価値がある。それ以上の説明は不要だろう。」
教室が喧騒に包まれる。確かに一高校生に10万円は大金だろう。もし施設がこれだけ大規模で無ければ、この支給額も納得だろう。だからこそ尚更胡散臭い。
「額の大きさに驚いているみたいだな。この学校は実力で生徒を測る。入学したお前らにはその時点でそれだけの価値がある、と判断されたというわけだ。ポイントは支給された時点で完全にお前らの物だ。遠慮なく使え。ああ、ちなみに卒業時に現金化はできないので、取っておいてもあまり意味は無いぞ。特に必要としないなら誰かに譲渡しても構わない。だが、無理やりカツアゲするような真似だけはするなよ?学校はいじめに対してだけは、敏感だ。」
説明を続ける茶柱先生だが、ほとんどの生徒たちはポイントのことで頭がいっぱいのようだ。
「何か質問がある奴は居るか?」
…此処は目立つべきでは無いだろう、あいつらと関わってからも俺のボッチ性質は変わらない様だ。意外なのは雪ノ下だ。昔の雪ノ下なら、迷わず怪しい部分を質問しただろうがあいつも変わった、という事なんだろうな。
「…質問はないようだな。では、これにて説明を終える。入学式に遅れないようにな。」
そう告げて茶柱先生は教室から出ていった。残された生徒たちは10万円をどう使おうとか、各々席が近い同士自己紹介をしているようだ。一応会話した仲だし一応聞いておくか。
「なぁ、綾小路。お前は10万円ってどう思う?茶柱先生はああ言ってたが胡散臭い気がするんだよ。俺の考えすぎかもしれんが…。」
「確かに多少多いとは思うがそこまで気にすることは無いんじゃないか?まぁオレはそこまで散財するつもりはないが。堀北はどうだ?」
「…そうね。私は少しおかしいと思うわ。毎月10万円を支給なんてされれば普通は金銭感覚が狂ってしまうに違いないわ。」
雪ノ下似の美人は堀北っていうのか。一応覚えておこう。
「皆、少し話を聞いて貰ってもいいかな?」
いかにも好青年と呼ばれていそうなイケメンの生徒が立ち上がり、教室を見回してそう言った。
「僕らは今日から三年間同じクラスで過ごす事になる。だから今から自己紹介を行って、一日も早くみんなが友達になれたらいいと思うんだ。入学式まで時間もあるし、どうかな?」
……なんだか葉山を思い出す奴だな。みんな仲良くを崇拝していそうだ。もしこれが中二の俺なら悪態をついたんだろうが、今では彼等の欺瞞も一概には否定できなくなってしまったからな。黙っていよう。……雪ノ下はゴミを見る様な目で見ているし由比ヶ浜も何処か不機嫌な表情をしているが。
恐らく葉山の考えに似た提案を行ったこのイケメンに対して不満を感じているのだろう……誰に説明しているんだ、俺は。
「さんせー!私たちまだみんなの名前も知らないし!」
「だよね〜。」
「可愛い彼女欲しいしな!」
「仲良くしたいもんねー!」
一人の生徒が賛成すると周りの生徒も賛成を表明した。コイツも『ザ・ゾーン』の持ち主か。てか途中の奴貪欲すぎるぞ。
「それじゃあ、まず僕から自己紹介するね。僕の名前は平田洋介。中学では普通に洋介って呼ばれることが多かったから、気軽に下の名前で読んでほしい。趣味はスポーツ全般だけど、特にサッカーが好きで、この学校でもサッカーをするつもりなんだ。よろしく!」
イケメン、リーダー、サッカーとまさにリア充の代名詞を詰め込んだようなやつだな。葉山に見た目から趣味、そして考え方までそっくりだ。
「じゃあ次は私だねっ!」
元気良く立ち上がったのは、
「櫛田桔梗って言います、中学からの友達でこの学校に進学してるのは一人もいないので今は一人ぼっちです。だからみんなの顔と名前は早く覚えたいなって思ってます!」
悪寒がした。陽乃さんよりは薄いが醜い仮面が張り付いているのがわかる。
「私の最初の目的として、ここにいる全員と仲良くなりたいです!」
雪ノ下も感じとっているのか、顔を歪めている。由比ヶ浜も陽乃さんと長く接して慣れたのか少し不思議な顔をしているな。
「それから放課後や休日は色んな人と沢山遊んで、沢山思い出を作りたいのでどんどん誘ってください!長くなりましたが、以上で自己紹介を終わります!」
ウケはかなり良かったようだ。恐らく櫛田はこのクラスのアイドル的立ち位置になるだろう。
その後は中学でインターハイに出ただの、彼女募集中だの、コンツェルンの跡継ぎだの、自己紹介が続く。そして、
「雪ノ下雪乃です。趣味は読書。中学校では由比ヶ浜さんと比企谷君と一緒の部活に所属していました。宜しくお願いします。」
雪ノ下!?お前がそんな事言うと注目浴びちゃうんだよボッチ死んじゃうから!あ、満面の笑みですねこれは確信犯間違いない。
「あたしの名前は由比ヶ浜結衣!宜しくね!趣味はお料理でゆきのん…雪ノ下さんと、ヒッキー!…比企谷君と中学では同じ部活でした!」
ゆ〜い〜が〜は〜ま〜?趣味はお料理って未だクッキー以外は生物兵器も多いし、お前も俺の事言うなよ!ヒッキー本当にヒッキーしちゃうよ?ほら、みんなさっきから比企谷って誰ってなってるし!
「じゃあ次はそこの君!お願い出来るかな?」
…やるしかないか。此処は当たり障りのない簡潔な自己紹介で…
「ひ、ひきぎゃやはちまんです。好きな物はMAXコーヒー、趣味は読書で、座右の銘は『押して駄目なら諦めろ』です。宜しくお願いします。」
失敗した!失敗した!失敗した!やらかしたぞこのアホ八幡。何噛んで座右の銘言ってイキリ散らしてるんだよ!高校生活終わったぞ…はぁ
「…ありがとう比企「比企谷君はこういう場では上がってしまうけれど本当はとても優しい人よ。引かないであげてちょうだい。」…雪ノ下さん?」
……なんか雪ノ下が女神に見えてきたぞ。一瞬余計なお世話だと思ったけども。
「紹介ありがとう!雪ノ下さん。比企谷君、一緒に頑張ろう!」
なんかめちゃくちゃ同情されてるし拍手割と大きいんですけど。
由比ヶ浜はなんかぶつぶつ言ってるようだがここまでは聞こえない。
「じゃあ次はその後ろの君、お願いできるかな?」
「えっ?オレ?」
どうやら次は綾小路の番のようだ。さっき吹き出し掛けてたの知ってるぞ。苦しみを味わうがいい。
「えー…えっと、綾小路清隆です。その、えー…得意なことは特にありませんが、皆と仲良くなれるよう頑張りますので、えー、よろしくお願いします。」
…やべえ流石にこれはめちゃくちゃ同情してしまう。その直後、
「俺らはガキかよ。自己紹介なんて必要ねぇ。やりたいやつだけでやれよ。」
髪を真っ赤に染め上げた不良少年が怒鳴りながら平田を睨み付けた。
「僕に強制することは出来ない。でも、クラスで仲良くしていこうとするのは悪いことじゃないと思うんだ。不愉快にさせたなら謝りたい。」
「なによ、自己紹介ぐらいじゃない!」
「そうよそうよ。」
回りの女子たちが平田を擁護するように赤髪の不良生徒を非難した。
……須藤の行為自体は同意出来ないが、同調圧力が相変わらず怖い事は分かる。
「うっせぇ。こっちは仲良しゴッコするためにこの学校に入ったんじゃねぇよ。」
そう言うと不良生徒は教室を後にしてしまった。そして堀北や一部の生徒もそれに続き教室を後にした。
こうして自己紹介の時間は幕を閉じた。
仲良しゴッコ。この言葉が少しの間だけ耳に張り付いていた。
さて、自己紹介までが終了しました。この作品ではかなり早い段階で平田の過去の一部が明らかになる予定です。次回で入学式編が終わり、その後四月の日常に入っていきます。