OCTLORE   作:TGI:yuzu

11 / 15
11

 

 短剣を握る手に力を込める。

 第二ラウンド開始だ、化け物。

 

 「うぉおおお……っ!!」

 

 駆ける。

 どうやら僕は無力らしい。

 水精魔法という最も僕が得意な魔法を失って、最愛の精霊をも失った僕はまともに対峙する手段を持たない。

 けれど背後には守るべき者が居る。

 その上で再び問おう。

 

 この状況で逃げる事が許されるか──? 否……ッ

 

 「はぁァァァ!!」

 

 予備動作は見やすい。

 腕を弓のように引く動作は、正拳突きが来る前モーション。無理に剣で捌こうとせず、動体視力だけで見切り、背後の地面に勢いを逸らす。

 

 背後で爆音が爆ぜたのを聞き流しつつ、僕は前に出る。

 

 ……今の一撃を放てば、相手の技後硬直は大きい。

 抉った地面から拳を抜く動作。次弾を放つための予備動作。それだけの時間があれば間合いを詰めるのは容易だ。

 

 これは相手の迫力に怯えず、距離を詰めるゲームだと思えばなんの苦ではない。

 

 右腕に動きがあった。手を開き、薙ぎ払う動作。

 

 「……ッ!!」

 

 地面にスライディングし、極限まで頭を地面と平行にして身を屈め、なんとかスイングの難を逃れた。

 勢いを殺さぬよう身体を丸めて転がり、続けざまに再び走り出す。

 

 勢いを殺せばおそらく僕は即死だ。

 動きを捉えられれば即死。一度でも掠れば即死。

 読み間違えれば即死。地面を貫かれても即死。

 

 笑えない冗談だ。格上すぎる相手に、動体視力と読みだけで打ち勝とうとするなんて。

 

 間合いを詰めるほど、相手のスイングは窮屈になる一方、着弾までの時間が減ることにより、僕が見抜くにも時間がいる。

 更には「掴み」にも警戒しなくてはいけない。

 

 刹那、魔物が両拳を高々と空中に伸ばした。

 

 「げ、マジか……ッ」

 

 敵の胴体まで後少し。だが、ギリギリ拳が届く間合い。

 両腕で地面を抉れば間近にいる僕にも影響が出ることは自明だ。

 

 「届け……ッ!!」

 

 足を伸ばし、頭から魔物の左脚部に移動した僕は、その途端跳躍し、脚部を伝って胴体へと登り詰める。

 

 ゴゴゴゴと音を立てて魔物は首を振り向かせた。

 

 「こっちを見るなァァァ!!!」

 

 全力で腕を振りかざし、顔面に短剣を突き刺した。

 

 だが……

 

 ガインッと鋭い音と共に刃は弾かれた。

 

 「硬い!!?」

 

 刃が通らない。脳天をかち割るつもりで振り抜いた刃は、強固な体皮に阻まれそしてそれが決定的な隙をさらした。

 

 「オオォオオオオオオオ……ッ!!!!!!」

 

 首を轟速で振り回し、僕を上体から吹き飛ばした。

 視界が霞む程の速度で飛ばされた僕は、なんとか着地を成功させ、地面に剣を突刺すことでようやく難を逃れた。

 

 

 ……だが。

 

 「振り出し……っ」

 

 あれだけ、あれだけ全力を賭して間合いを詰めた結果、何の成果も得られなかった。

 

 「こんなことって!!」

 

 「ソラ、避けてぇぇぇえ!!!」

 

 「……はっ!!」

 

 シンシアの鋭い声が耳を劈く。

 しかし、見やった前方、岩石を片手に投球姿勢に入っている。

 

 しまった……ッ、あれは避けられない……!!!

 

 

 目を瞑った。

 回避はおよそ不可能。

 結局僕は、あの強固な身体を突き破る矛を有していなかった。

 

 それだけの事だ。

 

 

 でも、諦めたくない、まだ戦いたい。

 なんの力も持たない僕が、それでもこうして戦いたいと矛を手にして吠え散らかすのだ。

 

 まだやれる、まだ戦えると。

 後ろ見るな、前を向け。

 敵は目の前にいる……ッ!!!

 

 「まだ、まだ……終われないッ!!」

 

 刹那、ズゥンと小気味良い音ともに目の前の岩石が砕けた。文字通り爆散した。

 散開した砂が目を塞いだ。

 

 思わず目を瞑り、再び開けると、目の前にはまた見知らぬシルエット。

 

 「君は……」

 

 見たことがある。

 

 ピンク色のセーターに黒色のミニスカート。

 背中には禍々しい黒色の鉄筒に、桃色のポニーテール。

 

 背中で語るその少女は片腕の親指を立てた。

 

 「まだ終われない? なに終わる可能性を考えてんすか

 終わらせるわけないっすよ」

 

 もう一方の腕で提げた鉄筒をクルクルと振り回すと、その射出口を魔物に向けて、

 

 「喰らえ」

 

 ズドン、ズドン、ズドン。

 

 続けざまに三発、重い音を撒き散らす。

 

 「それは……」

 

 「スナイパーライフル的な? ま、弾丸はちょいと高級な加工してある魔石なんすけどね」

 

 野生の肉食獣の如き獰猛な笑みを見せ、その少女は語る。牽制とばかりに撃ち込んだ弾丸は胴体に着弾し、魔物の肉体を揺さぶった。

 

 「さて、と。いつまで転がってんすか。ソラさん」

 

 その少女は手を伸ばす。

 戦友に運命を託すように、希望を託すように。

 

 「勇者なら、体張ってくださいよ」

 

 男前に、けれど体つきは立派に女の子な彼女は、僕の手を引っ張って強引に立たせた。

 

 「第三ラウンドと言ったところか……」

 

 「あたしが手を貸すんで、簡単にはやられないでくださいよ、先輩」

 

 「は? 先輩……、君って一体」

 

 僕を先輩呼ばわりしてくる知り合いは今のところ存在しない訳だが。彼女は本当に一体何者なのか。

 だが、恐らくは先程シンシアを陰ながら見守っていた少女のうちの一人、《王国要塞(ロイヤルフォート)》の人間かもしれない。

 

 なら僕が刃を振るう必要も無いはずだ。

 先程「保護」と宣ったのだから。

 

 けど、僕が求めるのは保護なんかじゃない。

 みんなを守るための確かな強さだ。

 それは肉体的にも精神的にも。

 これくらいで落ち込んでいる場合ではない。

 

 さぁ、行こう……ッ!!

 

 「ヤツの弱点はあの関節部にある赤い水晶玉っすね。あれば正確には巨大な魔石が結晶化したもんなんで、四肢にひとつずつと胸元の中心を抉ればやつは倒れます」

 

 「なるほど、魔石だけならこの剣で突き破れる!」

 

 弱点もわかった。

 ならば先程の容量で崩すだけだ。

 

 「頼むよ、後輩!」

 

 「あー、自分はレンって言うんで」

 

 「レンちゃん、力を貸してくれ」

 

 「はぁ……良いっすよ」

 

 ガチャりと銃口を魔石に向けて、その時を待つ。

 僕は構わず突っ込む。

 

 「行くぞ、怪物!!!」

 

 手始めと言わんばかりに、続けざまに岩石を投げ込んでくる。先程の一撃が有用と感じたのか、嫌という程遠距離攻撃を施してくる。

 

 けれど、こっちには最強の後衛がいるんだ!!

 

 ズドン、ズドン……!!!

 

 うち漏らすはずがない。

 そう叫ぶように投げようとした岩石を投球寸前の段階から木っ端微塵に破砕する。

 

 「行ってください、先輩」

 「おぉぉぉおおおおお!!!!」

 

 自分に出せる全速力で突き進む。怒りに任せた右腕が振るわれる。が、さすがに三度目となると順応してきた。

 

 剣を片手に回転しながら宙を舞い、地面に伝わる振動の影響を完全に抑えつつ攻撃をいなす。

 

 着地と同時に左足を踏み台に真上に跳躍。

 空中で振るわれた左腕。

 

 しかし、後方で見ていたレンが手の平を弾丸で抉り、軌道がやや下を向く。

 

 「(そういう事か)」

 

 一瞬で思考を理解した僕は、下を向いた左腕を踏み台に、本来の高さでは届きえない左腕の関節部に到達。全力で剣先を突き刺した。

 

 「まず一本!!」

 

 暴れを予想して引きで短剣を投擲。

 牽制を済ませて、速やかに着地すると、即座に右脚部に狙いを済ませる。

 

 「これで二本!」

 

 腰に付けたもう一本の小剣を突き刺した。

 だが不運にも刺さりが深すぎた為か抜けなくなった。

 

 「ち……諦めるしかないか」

 

 ここで武器を失うのは惜しいが仕方ない。

 魔物特有の紫色の血飛沫を全身に浴びつつ、僕は未だに歩みを止めることを知らない。

 

 地面を転げて暴れ回るのを冷静に回避し後ろ手に回る。

 レンはヘイト稼ぎの為か何度も何度も腕を撃つ。

 

 正確には庇われた腕の奥の胸元の魔石を狙っているのだろうが、弱点を庇う脳はあるようでなかなか上手くいかない。

 

 「しぶといな……ッ!!」

 

 貰った武器はこれが最後。

 長剣を振りかざし、後ろを回って左脚部の魔石を薙ぎ払いで切り落とした。

 

 「これで三本!!!」

 

 足のバランスを崩した魔物は、膝を屈する。

 そうなれば普通の跳躍で、なんとか剣が届く。

 

 戦闘も終盤。

 地下迷宮は多分、ここほど広い場所ではなかったから動きが制限され、小回り効かずに全滅に追い込まれたようだが、ここではそうはいかない。

 

 背後から奇襲し、確実に弱点を滅する。

 正攻法が通じる相手だ。

 

 「これで四本!!」

 

 ジャンプで跳躍し、思い切り振り払った斬撃は、不気味に輝く魔石を切り裂いた。

 

 「ラストっすよ、先輩……ッ」

 

 ドンドンと二発。

 胸元に撃った弾丸はしかし、制御を効かずとも身体を丸めて即死だけは免れた。

 

 「だが、これで終わりだ……!!!」

 

 最後は確実を期して突きで決める。

 魔物同様僕も入念に腕を引き、思い切り踏み込む。

 

 これで……!!

 

 「なっ!?」

 

 だが、剣先は寸での所で届かない。

 敵は刀身の先程、僅かに制御の効いた拳で握りしめた。

 パキパキと音を立てる剣は悲鳴をあげているかのようで、次第に亀裂が入り始めた。

 

 「なんでだよ……刺され、刺されよッ!!!」

 

 ダメだ……これだけ力を加えてもビクともしない。

 

 押し込む腕が悲鳴を上げる。

 関節から聞こえてはいけない音がミシミシと軋む。

 

 射線上に僕が被っている以上、レンから狙い撃ちすることは出来ない。

 身を屈めるか? いや、ダメだ。

 最後の抵抗と言わんばかりに魔物が僕の方に体重を乗せてきている。

 今ここで僕が力を抜けば間違いなく僕は下敷きにされる。

 

 「くそ、くそ……ッ」

 

 身体が段々と重みに耐えかねて丸くなる。

 前屈みになり、バランスを崩しそうになる。

 押し込む腕に乳酸が駆け巡り、猛烈な痛みが押し寄せる。

 

 「くそ、くそ、くそ、くそ、クソォ!!!!」

 

 ガチャと鞘が揺れる音がした。

 僕の背中にまだ尚あるもう一振の剣。

 これはただの棒、なんの効力も持たず、本来の切れ味を失った御守り同然の代物。

 

 これが【神器】など笑わせる。

 でも、仮にも【神器】なら力を見せてみろよ。

 

 パッと支えていた手を離す。

 その瞬間、ぐっと魔物の身体が揺らいだ。

 懸念した通り、僕を押しつぶすかのようにもたれかかってきた。

 

 「「「あ……!!」」」

 

 レンと……あとはシンシアを含む周囲の人間全員がシンクロして心配そうに声を上げた。

 

 だが僕は決して諦めてはいない。

 諦めるにはまだ早いから。

 

 「まだだ、僕はまだ舞えるッ!!!」

 

 空は青い。

 空は自由を手にする翼さえあればどこだって行ける。

 空は広い。無限の可能性に満ちている。

 

 僕は空だ。無限という可能性の中に生きている。

 なんだって可能にしえる。

 それが勇者の素質だ。

 どんな苦難も、どんな強敵も撃ち破る。

 それだけの気概を持って戦わねば、割に合わないだろ!

 

 「先輩!!!」

 「ソラ……ッ!!」

 

 抜剣。もう一振の剣はなんの波動も放たない。

 所詮は棒切れ。だが、だからこそこの状況で真価を発揮する。

 

 「喰らえよ、化け物。この攻撃を喰らうのは、お前自身なんだよ!!」

 

 剣の持ち手を地面に。そして、僕は剣を地面に設置したまま強く握りしめる。

 

 頼む、上手くいってくれ……!!

 

 剣の刀身は地面に対して垂直に。

 奴の落下地点は最後の魔石を自らの手によって抉る位置。

 

 「この剣は今や切れ味は最悪だ。だが耐久のみは神級と名のつく一級品でな」

 

 本来の切れ味を発揮していれば、剣は魔物の体をズブズブと突き刺し、自らの自重によって貫いてしまっていただろう。その場合僕ら巻き添えとなる。

 

 けれどこの剣にその切れ味は見込めない。

 つまり───。

 

 「貫けなくても、僕が生存できるぐらいの隙間を残すように死に晒すってな……ッ!!」

 

 倒れ込んだ魔物の半分くらい、胸元の魔石を抉ったまま、絶妙なバランスを保って魔物、〈彷徨う巨兵(アンフィ・カプリス)〉は絶命した。

 

 赤々と光る瞳から段々と色が失われていく。

 

 「あ……」

 

 そして同刻。

 

 「は、ははは……」

 

 なんの力も持たない僕は、災害級の魔物を───。

 

 ───倒した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。