「
僕は部隊名を聞いた時、既にピンと来ていた。
前に僕が考えていたことがある。
それは、《
デスモウス街道の外れに位置するこの隠れアジトは、事務作業用の長机と来客に備えたソファー。
壁際には紅茶を出すポットやマグカップ、茶菓子などが備えてある。
最奥に鎮座する中年男の頭上にはアナログ式の古時計がカチカチと時を刻んでいる。
時計については知っている。王都を訪れた村人が旅の土産に買っていたから。
だが、その古時計はかなりの歴を感じた。
「皆さんは、以前にあったことがありますね。そこの黒髪の貴方は、【神器】を貰う時。ノイズ混じりの音声の主は貴方でしょう」
クールに佇む少女を見やった。
ぷいとそっぽを向いたので僕も目線を逸らす。
「そして、今はツインテールの君は、レンちゃん……だよね。あの時は助かった」
「や、そーゆーの良いから。なんか、照れる」
耳を赤くして下を向くレン。
ツインテールの片側を手で弄びながら何でもない様に装っているが内心は羞恥に悶えているのだろうか。
「そして……直接お会いしたことは無いですが、シア。いや、シンシアの警護助かりました」
無精髭を生やす中年男に僕は深々と礼をする。
すると男は「よせやい」と手をヒラヒラさせてあしらった。
「悪いが、俺はそんな礼してもらいたくて貴君を呼んだわけではない。貴君には
「入隊ですか……?」
僕が困惑していると、男は僕に向き直る。
襟を正し、僕の肩を掴んだ。
怖気付く僕に薄い笑みを浮かべると再び口を開く。
「俺は
「暗部組織みたいなものですか。世間には公表し難い内容の任務を迅速に遂行し秩序を乱す輩を排除する。そういう意味で必要不可欠な存在なのではないかと」
当てずっぽうだが、それなりにあっていると思う。
というのも、これは僕の勘だが『
勿論、レンもヘルメイスも。
「大体は合っている。が、重要な事が抜けているのでここで説明しておこう。
僕が無意識に身を引くと、慌ててヘルメイスは手を挙げた。
「待て待て、狙っているというのは命じゃない。いいか、我々
7人の勇者とはそれぞれ、火の勇者、水の勇者、風の勇者、土の勇者、光の勇者、闇の勇者、無の勇者。
それぞれが得意とする属性を冠する勇者が7人。
この世界のどこかに偏在している。
勇者の資格には三つの要素。
【神霊】【神器】【神眼】を有すること。
基本的な勇者の説明はヘルメイスの口からなされた。
「ご存知の通りリア隊員が先の『
リアと呼ばれた黒髪ロングの少女は僕を睨むように見つめ、ただ決して目線を合わせようとしない。
「やはり
「ふむ」
正確には違うと言いたげな顔だった。
すると、リアが観念したと言わんばかりに口を開く。
「あれは、《南の封印地》を解放した際中に溜まっていた200年分の魔力が一斉に外に出たせいよ。そのお陰で魔物が活性化したことは謝る。けど、もし【神器】が無ければソラは……」
「思えば───」
ふと、思い出した事がある。
こんなシリアスな空気をぶち壊して申し訳ないのだが。これだけはハッキリしとかないといけない。
「リアさんって僕と昔会いましたか?」
「えっ……っ!?」
明らかな動揺。先程までの静かな佇まいとは裏腹に今度は僕の顔を見入るように美貌を近づける。
「えっと……」
体温が上昇していくのを感知しながら、僕は目線を逸らした。照れ隠しと言うやつだ。
「いやあの時リアさんがなんか言ってたことを思い出して。確か『愛し───「いやぁぁぁ!!!」」
甲高い悲鳴が鼓膜を震わせた。
上擦った声で「な、な……っ」と断続的に奇声を発するリアの姿は面白くて思わず僕はクスリと笑う。
「ど、どうして笑うの?」
「いや、何だかようやく可愛らしい所を見た気がして。でも、人違いならごめんなさい。僕は貴方のことを覚えていないし、昔会った記憶も無い」
「……」
リアの表情が陰る。その途端、僕の胸がキリと傷んだ。
どうしてだろう、初めて会う人の筈なのに笑顔でいて欲しいと心からそう思えるのは。
「その事は忘れて頂戴。私と貴方はあの日初めて会った。そしてソラ、きっと貴方は聞き間違えたのよ。その、暑苦しいとか、厚かましいとか」
「なんで全部マイナス思考だし」
けどそのお陰で張り詰めていた空気が元に戻った。
これでようやく聞きたいことが聞ける。
「例のホログラムやテレパシーがリアの魔法だとすればリアは諜報、ヘルメイスさんが隊長兼現場指揮官。レンちゃんが遠距離専用だとして他の隊員は?」
その途端一斉に隊員は目線を落とした。
聞かれたくない、と言わんばかりに目を瞑り頭を垂れた。僕はどうやら地雷を踏んだらしい。
「死んだ。残り三人は『
「───ッ!!」
『
「聞いてもいいですか。僕の……故郷。皆はどうなったんですか」
二日前。僕は怖くて聞けなかった。同胞が皆殺しにされれば生きていく事は出来ないかもしれないと思って。
だが僕は強くなる事を決めた。それは今の日常を守る為に力を振るうことを決めたから。
ただもし、昔の日常を今からでも助ける事が出来るというのなら僕は皆を助けたい。
「答えは分からない、だ」
「なぜ」
予想の斜め上の回答。
勿論、現場の人間が殉職したなら正確な情報までは掴めないと思っていた。
だが、分からないという回答は僕をさらに困惑させた。
「アルビオンを襲ったのは『
「えぇ、それは存じ上げています」
道中メリナに教えてもらった事だから。
「アルビオンには百を超える魔物の軍勢が一斉に流れ込み防衛組織を壊滅させた。激しい交戦の跡も残っている。ただ問題は……」
「問題は……?」
業務机の引き出しからガサゴソと手探りで薄い羊皮紙を取り出した。そこには念写した村の様子。
「これは【魔道具】の《記録結晶》が村の様子を映し出している。村の付近は焼け焦げ炭化し、見るに耐えない光景が広がっている。しかし見て欲しい」
次々と出される写真。映像は時に目を覆いたくなる酷さで村を焼失させたが一つ違和感があった。
「
『
ユウの父親のリュークを部隊長とする救出部隊は、その一部を『
「いや────」
違う。僕は何かを勘違いしている。
「なんだ、ソラくん。思った事があったら言ってみたまえ」
違和感の正体はどこだ。
『
襲った結果、村は消え村人は姿さえ確認できず結果僕らは大敗という形で幕を閉じた。
このエピソードに纏わる違和感。それは───。
「どうして『
そもそも狙いが僕とメリナを分ける事なら既に村を発った僕に村を襲う必要なんて存在しない。
せいぜい挟撃し無力化した所で魔法を放てばよかったでは無いか。
それに思い出せ。転移魔法を放つ前、『
『僕を無力化出来ればその限りではない』と。
無力化など、『
なのにどうしてそうしなかったのか。
それは。
「『
「何!?」
ヘルメイスが驚愕を顕にした。
だけど僕の仮説が正しいなら辻褄は合う。
結託していなければ当然目的が異なる。
『
『
「人間。人間が狙い───」
脳裏を掠める例の【魔道具】の存在。
あれは、【隷属】を目的とした魔道具だ。
もし忽然と村人が姿を消したとすれば。
おそらく今いるのは───奴隷市場。
皆は奴隷として売られたというのか。
誰に──? 『
「やめろ……やめろっ」
これ以上考えるな。
そう思っても巡る思考は衰えない。
じゃあどうして
それは『
奴隷として売り捌き後に解放されて復讐を企てられると面倒だ。『
そして。結論に至った。
「大丈夫。村の皆は生きている」
「どういうことだね」
僕はそこまでの考えをヘルメイスとリア、レンに説明しその後に訪れたのは気まずい沈黙。
市場の居所が掴めない以上回収は不可能。
再会は絶望に近い。
僕はポロリと言葉を零した。
悲憤と諦観を刷いた神妙な面持ちで。
「はっきり言います。僕ら、人間は弱い」
脆弱で個としてのポテンシャルは他種族に圧倒的に劣る。ただ、僕らが弱者として牙を剥く方法は他にあるか。それをただひたすらに考えひとつの答えを導く。
「
「その通りだ。……覚悟は決まったようだね」
あぁ、覚悟などとうの昔に決まったよ。
諦めよう、僕らは弱い。いつまでも『
しかしこれからは違う。
必ずいつか一矢報いるために刃を研ぎ知識を磨く。
僕はこのセカイを攻略する。
もっともっと強くなって───、闇を暴く。
そして最後には───、メリナを。
皆を助ける。
「これからよろしくお願いします」
覚悟を決まったのはどうやら僕だけではないらしい。いつになく真剣で、魔物への憤りを覚えた彼らは逞しい戦士の容貌をしていた。