私はジャンヌ・ダルク   作:アルプスのアルパカのアルマジロ

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 注意書きしておきます。
 なんか書いてて楽しくなって、人が焼かれるのをそこそこ描写しているのですが、そこまで残酷かと言われると筆力のなさが露見するだけで微妙な文章で、さらにくどいという感じで、大丈夫だとは思うのですが、一応人が燃える描写が苦手な方はご注意を。


煉獄より、煉獄で

 私の足元に火がつけられた。悪魔を見るような――事実彼らにとって私は悪魔に等しいのだろうが――冷たい目をを向けてくる民衆に、私は特別何の感情も抱かなかった。

 憎んでもいなければ、愛してもいない。

 

 

 私があの日、ジャンヌ・ダルクとしてフランスを導くと決めた時に、この結末はすでに定まっていたように思える。結局私はしっかりとジャンヌ・ダルクを演じられていたわけではない。例えばジル・ド・レ。彼が後に大勢の子供を殺害することを知っている私は、けれどそれを止めるべきだろうか悩んだ。

 ジャンヌ・ダルクなら止めただろう。罪を憎んで、ジル・ド・レを憎むことなく、より良い方向へ促しただろう。けれど私は何もしなかった。私が死んだ後に子供が何人死んでも構わないとさえ思った。

 

 民衆は憎んでいない。誰も憎んでいない。私が憎んだのはただ神のみ。

 

 前世で私を――俺をあんな悲惨な目に合わせて、今世では私をジャンヌ・ダルクにした神を、どうして許すことが出来ようか。

 

 

 ああ今だから白状しよう。途中で私は心が折れた。歴史が一つ一つ自分の知っている通りに歩むたびに、私の心を確かにむしばんでくる死の恐怖に、私は挫けたのだ。

 ある夜に、全てを捨てて逃げ出そうとして、しかし次の瞬間には私の中から逃げるなんて言う発想はなくなっていた。そのことに気づいて戦慄し、それでも逃げ出そうと考えて、次の瞬間には次の日の朝になっていた。

 

 歴史の修正力、というよりは、もっと超常的な存在に操られているような気さえした。きっと神だ。神が私をここまで不幸にし、今まさに、紅蓮の炎で身を焼かれようとしている。

 

 

 じりじりと肌に感じる熱は、パチッやらパキッからと音を立てながら徐々に近づき、段々と熱いと思うようになってきた。炎の出す音は、死の足音のように思えて、心臓がバクバクと激しく鳴っている。熱いにもかかわらず、体からはどんどん温度が無くなっていって冷えていく。

 

 炎が足先に触れた。筋肉が反応して足を引っ込めようとするが、縛られているので、私を括り付けている木がわずかに音をあげただけで、徐々に自分の足が焼かれる痛みに耐えるほかなかった。

 

 叫び声をあげたかった。痛みに喚けば少しでも意識が分散すると思った。

 なのにできない。きっと神は私を苦しめようとしているのだから、苦しんでやるものかと、この期に及んで私の中には意地のような、無意味な感情が残っていたようだ。

 

 こうして生きたまま焼かれることはわかっていたことなのだ。わかっていたから、たまに考えた。段々と痛みが無くなっていくのではないかと考えた。かなり苦しいだろうことは分かっているが、途中で意識を失って、実際に燃やされる痛みに死ぬまで苦しむことはないはずだと考えた。

 他にも色々、意味もないのにきっとそこまで苦しくないと言い聞かせてきた。

 

 いまもやされている。

 

 私は今、燃やされている。

 

 全身の肌を、無理矢理捲り上げられているような激しい痛みに、自分の肉体が焦げ付いていく臭いをかぎ続けながら、自分の体から出てきた煙にむせながら、私は意識を失うことはできなかった。一瞬遠のくような気がしても、痛みに無理矢理引き戻される。

 

 ジャンヌ・ダルクの精神がもう少しだけ弱ければ、この痛みに耐えることが出来ずに麻痺したり、精神が壊れたり、あるいはショック死したかもしれない。しかしそうはならなかった。脳内物質が誤魔化せる痛みを超え、全身の神経が悲鳴を上げ、意識は鮮明。

 

 

 

 そんな地獄にも終わりが訪れる。私を括り付けていた木が折れ、私を一瞬で炎の中に突き落とした。全身が燃やされるのを感じながら、口や目から水分が飛んでいくのを感じながら、けれど私は安堵した。ようやく楽になれる。

 

「ああああ……」

 

 声が漏れた。どんなに苦しんでも、悲鳴だけは上げないと決めていたのに。

 

 いや、そうではなかった。私の声は、そんな弱い物じゃない。

 私は聖女ではない。聖人ではなくて、清廉ではなくて、純粋無垢な村娘などではなくて。

 私はフランスの守護者でもなければ、英雄でもなければ。まして、主の道具ではないのだ。

 

 

「ああああああ! 主よ!! いいや、くそったれなゴミ野郎!! 私は、お前を、フランスを、この世界を、この世界の人類を! 永遠に――――」

 

 

 赦さない。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 神に対して怨嗟を述べた極悪人に相応しい漆黒の鎧は、太陽の光に艶やかに煌めいて。

 神に愛された証とも言えた純金の輝きを持つ長い髪は、色を失くして、けれどむしろ美しくなった。

 

「ああ、そういうことね。いいわ。少しはこの世界のことは許して上げましょう」

 

 遠くに見えるフランスの町。あそこはどこだったか、いまいち思い出せないが、そんなことはどうでもいい。あそこがフランスで、私が救った国で、私を見放した国で、私の恨んだ国なのだから。

 

 腰の剣を抜き、町につきつける。

 

 

「サーヴァント・アヴェンジャー。真名、ジャンヌ・ダルク。煉獄より舞い戻り、必ずフランスに――地獄をお届けしましょう」

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 主のために、フランスのために戦うと決めた私の鎧は、生前のものと変わらぬ美しさ。

 長い金色の髪を束ねて、後ろに流しながら、かつて振るった旗を掲げる。遠くに見えるフランス。私が救った、私を見放した国。

 

 第二の生を、幸せに送れたとは思わない。けれど、あの日家族と幸せに暮らした日々は本物で、フランスを救いたいと思ったこともまた事実。

 

 ならばこそ、一度この世界のすべてを憎んだ私に償いの機会を与えてくださった主に、もう一度私の愛したフランスを救える機会を与えてくださった主に、格別の謝意を。

 

 

「サーヴァント・ルーラー。真名、ジャンヌ・ダルク。私の罪をこの地上で、この煉獄で償い、必ずフランスを――救いましょう」




今度こそ続きは遠い先。
 今世紀中。
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