グランドマスターの過ごす日々。 作:Eden
それは俺がいつものようにノートへと魔法陣を描いていた時だった。
カチッ。
そう音を立てて、俺の中で何かがハマった。
そもそもなんで俺が魔法陣なんてものを描いていたのかという事から説明すると、それは俺が厨二病だったからという一言に尽きる。
世の中には様々な厨二病患者がいるが、その中でも俺は魔法陣にハマっていただけだ。
それらしい記号を書き連ね、組み合わせ、そうしてできあがる一つの図形を見た時に俺の中で戦慄が走ったのだ。
これはカッコイイものだ、と。
それから俺の日々カッコイイ図形を探し、それらを組み合わせて一つの魔法陣を作り上げる作業が始まったわけだ。
一枚一枚丁寧に記号を書き連ね、そうしてできあがった魔法陣を見た時に俺はようやく生きていると実感できるわけだ。
最初の頃はネット等で調べながら真似をしているだけだったのだが、何年も魔法陣を描き続けるうちにこうすればカッコイイ感じに描けるというのが分かってきて、今となってはパッと見でなんの魔法陣か分かるほどだ。
ただ、問題が一つあるとすれば俺には魔力なんてものが一切無いということだろう。
というか普通の人間にはそんなものは無い。
自分で描き上げた魔法陣を使って魔術を放ってみたいという欲求は俺にもあるのだが、魔力なんてものがそもそも無い人間の身ではどうすることもできないんだよな。
まあ、それを言えばそもそも俺が描いている魔法陣が本当に正しく描けているとも限らない訳なんだが。
いくら俺が魔法陣について詳しいとは言っても、魔力が無い以上は実際に使う事ができず、それは感覚的なものに過ぎない。
ただ何となくこっちの方がいい、こうした方がいい、こうすればよりカッコイイ感じに描ける、こうした方が同じ意味の魔法陣をよりシンプルに描くことができる。
俺が理解しているのなんてせいぜいそのくらいなのだ。
だがたった今この瞬間、そんな魔力の一切無い俺にも魔術が使えるようになるかもしれない方法がある事に気が付いたのだ。
気脈、つまりは大地を流れる魔力の道、龍脈と大気を流れる魔力の道、空脈から無理やりに魔力が流れ込むような魔法陣を描けば俺にも魔力が使えるようになるんじゃなかろうかという説だ。
気脈というものが存在するという事が前提と言うことにはなってしまうが、この方法ならば魔力も霊感の一つも無いような俺でも確実に魔術を使う事ができるだろう。
まずは気脈を探す所からスタートしなければならないのだが、幸いな事に近くの山の中に廃神社が存在する。
廃れて、もう誰にも管理されていない神社だが基本的に神社というのはそこそこ太い龍脈の上にある事が多いし、大なり小なり気脈が存在する事は間違いない筈だ。
魔法陣の方も、一切問題ない。
ようは気脈の上に置いて、気脈を流れる自然の魔力で起動するような魔法陣を描けばいいわけだ。
そんな魔法陣を平面で描こうと思えば地球規模の大魔法陣になってしまうが、魔法陣を立体的に組み合わせればいい。
その上でさらに四次元方向へと無理やり展開するような魔法陣にしてしまえば大きさの問題はほぼほぼ無視できる上に、自分で描くものも少しで済む。
あとの問題は魔法陣を1200枚も描かなければならない事だが、これはコピー機という文明の力を使えばどうとでもなる事だ。
言わば気脈展開式正百二十胞体魔法陣だ。
とりあえずは適当に略して【MLD-120MS(仮)】とでも呼んでおこうか。
とりあえずそれを起動して、その魔法陣を使って起動する魔術で、俺を魔力のある別な生命体へと変換してしまえば勝ちだ。
よし、俺は人間を辞めるぞ!
とりあえず俺はこの素晴らしい魔法陣を描くとしてだ。
実際に起動する俺を魔力のある生命体に変換する部分に関しては誰かに頼めばいいだろう。
別に俺じゃ無くても描けるものだし、その道のプロに任せるのが吉だ。
俺が加入しているSNSのグループ【始まりの杖】には俺のような厨二病が集まって、色々と魔術に関して研究し続けている同士がそれなりに存在する。
会員にはそれぞれランクが振り分けられており、上からグランドマスター、マスター、ハイウィザード、ウィザード、メイジ、ビギナーの6階級が存在する。
自分の研究結果を発表したり、試験を受けたりする事でランクを上げる事ができる。
元々はインターネットではなく、現実で集会を行ったりしていた小規模な魔術結社らしいのだが、電子化の波に乗り遅れず一早くインターネット上の組織へと転じた為にあっという間に人が集まり、今では200万人もの魔術師が加盟している世界最大の魔術組織である。
小学校の頃から参加した為、今ではもうグランドマスターの地位にいるがここまでランクを上げるために学校の勉強と青春の全てを捧げて頑張ったものだ。
間違いなく幼い頃イギリスで本場の英語に触れていなければ確実に挫折していたと思う。
ここだけは両親に感謝だなほんと。
グランドマスターは『錬金術』『操理術』『操霊術』『精霊術』『治癒術』『占術』『付与術』『魔法生物学』『魔法薬学』『魔法陣学』という魔術の十大分野でそれぞれ一名ずつ存在し、最もその道に長けている者がその称号を冠することができる。
その十人の中で日本人は俺だけなんだよな。
まあ、世界規模の組織だし仕方がないと言えば仕方がないんだが日本サーバーを立てる時にはかなり苦労したものだ。
そんな事を思い出しながら俺はアプリを立ち上げ、日本サーバーの雑談グループへと書き込みを行った。
こういう話は錬金術のグランドマスターに持ち掛けるのが一番確実なのだが、あいつに頼み事をすると後で10倍になって帰ってくる事は間違いないので融通が効く日本人に頼むと言うわけだ。
__________
【GM(魔法陣の人)】
今ミキいる?
【ホタル】
うお!? ハルトさんだ!
【ノイズ】
ミキって、錬金術師の?
【案山子】
今日って確か集会じゃなかったです?
日本魔術協会の本部にハイウィザード以上は全員集まってるんじゃないですか?
【山烏】
やっぱりハルトさんも行ってないのか。
というか絶対そもそも来ないってこと前提で話進めてるよな。
【GM(魔法陣の人)】
俺があんなん行くわけないだろ。
別にミキじゃ無くても良いんだが、今ちょっと錬金術系の大魔法陣組める奴が一人か二人欲しいんだよな。
一応報酬に何か好きな魔導書一冊送るぞ。
【ホタル】
え? マジで!?
もしかして禁書とかも行ける?
【山烏】
禁書とか欲張りすぎだろ、というかグランドマスターのアシスタントって時点でお前じゃ実力不足だろ。
最低でもハイウィザードクラスは必要。
【ノイズ】
……始まりの杖のハイウィザードの基準では
『何れかの魔道の知識、及び技術に熟達し、卓越した技量を持つ者』ってなってるんだよな。
それで最低限って……。
【GM(魔法陣の人)】
今のハイウィザードのレベルってどのくらいなんだ?
魔法陣の方しか知らないんだが。
【ホタル】
最近知り合いが理術のハイウィザード取ったけどランキング100位と勝負したってさ。
理術の方はもうランク上位100位圏内で固定するみたいだよ。
【ノイズ】
理術にも武闘派じゃない奴は多いしさ、このランキング制度は正直微妙だと思うんだよな。
【案山子】
このシステムで大丈夫だと思いますよ?
クイックスペルは今の理術ではほぼ必須ですし、しっかりと知識と技術があれば武闘派じゃなくてもそこそこは戦えると思いますよ。
【山烏】
武闘派じゃない奴で理術専攻はいないだろ。
学術派とか、知識付ける奴は大抵魔法陣と並行してるしルードさんは実戦で強いのを理術に入れて、学問としての理術は魔法陣にって方針でやってるからランキング制度で正解だな。
感覚で何とかなるのが理術だし、わざわざ理術専攻する学術派は正直言ってマゾ。
【ノイズ】
今ここにGMハルト最強説を再び展開しようか。
【ホタル】
それ二年程前に流行ったよね。
ルードさんがGM同士で戦い合えば一番強いのはハルトかもしれないって言っちゃったあれ。
んでGMの誰もハルトさんの正体を知らない事が発覚したという。
【輝星】
覗いて見たら神が降臨しているだと!?
【GM(魔法陣の人)】
さすがに神はやめれ。
【案山子】
あの二つ名を付けるのが流行った時に付けられた二つ名が『魔神』だから仕方がないのでは?
【ホタル】
2つ名いいなぁ。
今は勝手に付けれないからな。
【ノイズ】
あの騒動の後から始まりの杖が正式に2つ名を発行するって事になったからなぁ。
そして他のGM7人から反対されて魔神が正式な2つ名になったのはいい思い出。
【輝星】
俺ら日本の魔術師の中に魔神がいるってかなり誇らしいよな。
ちなみに俺はGMの二つ名だったら冥王ルナが1番好き。
【山烏】
おい、一応敬称付ける癖は絶対に身につけとけ。
ルードさんとかノアさんみたいにああいった人達から時々怒りを買う時があるからな?
【輝星】
すまん、気をつけとく。
【流れ星】
え? 神様錬金術師求めてるの?
ウチとかどや?
ルードハルト展開法か、大六魔導法典の番外が欲しいんやけど。
【山烏】
おい、流れ星。
第六魔導法典の番外とか禁書中の禁書じゃねぇか。
少しは遠慮しろ。
ルードハルト展開法はお前が持ってても理解できないだろ。
【流れ星】
GM二人の共著とか一度は読みたいやん?
大魔法をコンパクトな魔法陣にまとめて、それを展開して使うとか面白そうやん?
【ホタル】
でもあれって確かルードさんが良く使ってる魔術を持ち運べる大きさの魔法陣に記載するってやつだよね?
魔術の解説とか本来の術式とかはルードさんが解説してるけど、本題の魔法陣に関してはほぼほぼハルトさんが書いてるよ。
ハルトさんと他のGM共著が読みたいなら少し古いけど万癒術式、エリクシールとかは?
【山烏】
渋いのチョイスするな。
でも全ての病を治癒する万癒術式とかロマンの塊だよな。
【GM(魔法陣の人)】
一応理論上は機能するってのは作れたけど未だにあれは未完成だぞ。
莫大な魔力がないと使えない治癒魔法陣ができあがっただけだからな。
その病気に特化した治癒術を作った方が楽ってのが俺の結論だな。
【ノイズ】
こうして見てるとGMハルト最強説が展開されたのも頷けるよな。
つまりは全ての魔術に関して一番知識を持っているって言い換えてもいいわけだろ?
【流れ星】
なら万癒術式貰えへん?
錬金術系の大魔法陣って言ってたけど一体何が必要なん?
あ、ここで聞いてもええ?
【GM(魔法陣の人)】
一般的な人間をより上位の存在へと転換する魔術だな。
魔力面の話は一切気にせずに霊的、肉体的により高位の存在へと作り替えるものが欲しいな。
【案山子】
……あの、それって大魔法陣とかいうものではない気が。
【流れ星】
うわ……。
もしかして聖人創造の魔法陣を求めてる?
それともただ位階を上位なものへと作り替えるだけならなんでもいいの?
【山烏】
一切関係ないと思ってたらめちゃくちゃ関係あったな。
ちょうどベルクリムの大邪神について研究してたからそれで良ければ俺が用意できるぞ。
【ホタル】
邪神創造?
というかベルクリムって封印省でガッチガチに封印されてなかったっけ?
よく許可されたね。
【山烏】
一応これでも魔法生物学のマスターだしな。
封印省に治癒術側と協力して新たな術式を開発する為にサンプルが必要とか言ってゴネたら通ったな。
【ノイズ】
ちょ、おまwwww
【GM(魔法陣の人)】
今から取り組んだらいつくらいにできる?
【山烏】
最優先で取り組むけどもやっぱり1週間は欲しい。
それと魔導書の代わりに封印省に一言お願いしてほしい。
【流れ星】
これぞ正しく不正を権力で揉み消そうとする典型的なダメな大人の例やね。
【山烏】
あと、理論的には作動するけど賢者の石でもなければ使えないものになるけどそれで良いんだよな?
【ノイズ】
賢者の石ってどんだけ魔力使うんだよ……。
つまりは使えないって言ってるのと同じじゃないか?
【GM(魔法陣の人)】
別に構わんぞ。
じゃあ、完成したら個チャで教えてくれ。
よろしく頼む。
【山烏】
こちらこそよろしく頼みます。
よし、早速取り組んでくるわ。
【流れ星】
お疲れ様ですノシ
【GM(魔法陣の人)】
それじゃあ俺も自分の研究に戻るか。
またなんかあったら教えてくれ。
__________
よし、描くか。
そう言って俺はスマホをベッドの上に投げると、パソコンを起動して魔法陣を描きあげる為のツールを起動した。
このツールは図形を配置できるペイントツールと全自動で必要魔力量を計算してくれるものが合わさったもので、さらに魔法陣をプログラムへと変換してくれる機能までをも備えている。
魔法陣というのはプログラムのようなものに近い。
というか殆どプログラムそのもので、魔法陣をコンパイルしてパソコン用のプログラムを作成する事も十分可能なわけだ。
魔法陣を描いているうちに自然とプログラムにも詳しくなり、今ではこうした有益なツールも自分で作れるようになっている。
ただのプログラムや二次元、三次元の魔法陣ならば簡単なのだがこれを四次元方向へと展開して起動する胞体魔法陣にしてしまうと物凄く複雑になる。
ここから先はほぼほぼ感覚の世界だと言っていいだろう。
頭で考えても分からない事を何とかするような研ぎ澄まされた感覚をもって魔法陣を描きあげるというまさに職人技を行う訳だ。
俺にしかできない究極の魔法陣を目指して、一つ一つ図形を配置する。
意味そのものを図形として刻み込む。
丁寧に、丁寧に。
俺は時間が流れるのをすっかりと忘れ、食事も睡眠も投げ捨てて魔法陣を描き続けた。
「お兄ちゃーん!
そろそろ部屋から出てきてよぉ!」
「うるせぇ! 今いい所なんだよッ!」
ゴールデンウィークのと開校記念日を合わせて計九連休。
その9連休全てを俺は魔法陣の開発で費やそうとしていた。
というか費やしていた。
連休の初めからこの魔法陣を描き始め、まるまる9日間ぶっ通しで描き続けているが残念ながらあと数枚の魔法陣を描く必要がある。
最初は少し余裕があると思っていたんだが、山烏から届いた魔法陣を描きあげた俺の魔法陣に組み込もうとした時に干渉してしまう部分を発見し、そこを修復しているうちにもっと効率よく描く方法が思い付き新たに描き直しているとあっという間に九連休が吹き飛んだ。
「唸れ、我が右腕!
我が魂よ、今ここに森羅万象を綴れ!
我はその全てをもってここに神を宿そう!
さぁ存在よ、廻り巡れ!」
そう言って俺は最後に気合を込めてEnterキーを叩き込んだ。
これにてミッションコンプリート。
間違いなく世界最大にして最高の魔法陣のできあがりだ。
「くくく、宣言通り間に合ったぞ」
「間に合ってないよ! 遅刻するよ!」
「大丈夫だ妹よ、朝のホームルームに間に合わなくても一限に間に合えば単位は取れる。
別に問題はないだろう?」
「問題あるよ!?」
「ま、今からなら走れば間に合うだろ」
俺は眠い体を起こすために魔剤を一本決めると、鞄を持って白雨と共に家を出た。
学生というのはいつの時代も難儀なもので、ほぼほぼ高校も義務教育のような状態な為に例え俺のようにネット上で魔神と呼ばれている存在だろうがこうして無意味に学校に行く必要性がある。
今年で高校三年生と最後の年になってしまった訳だが、未だに俺は高校生活というものに慣れていない。
うちの高校はテストである程度の点を収めていれば授業中に寝ていても文句を言われないような緩い高校の為、学校では体育の時間以外は完全に寝ているというのが主な原因だ。
そりゃあ寝ているんだからクラスに友達なんてできるわけがなく、誰かと遊ぶ暇があれば俺は魔法陣を描いているような奴なのでそんな俺に青春なんてものは無い。
一部の教員からはこのままじゃ将来困るなんて言われたりもするが、そんな事は無い。
今この瞬間高校に通えているのも事故で死んだ両親の代わりに俺が学費を払っているからだし、生活費も全てが俺持ちだ。
金を稼ぐ手段なんてものはいくらでもある。
始まりの杖の日本支部が会員から受け取っている会費の1割が俺の懐に入ってくるシステムになっており、無駄遣いしなければもう一生困る事の無いだけの金銭が手元にあるし、これは現在進行形で増え続けている。
さらに俺の描いた魔法陣を売ったり、本を書いたりするなどなど、稼ぐ手段なんてものはいくらでもあるわけだ。
かなり脱税してるので表向きにはできない金銭なのだが、ちまちま使う分に関しては誰も不審がる事はない。
誰にもバレずに金銭を保有できるとかまさに仮想通貨万々歳である。
俺の魔法陣はまさに実益を兼ねた有意義な趣味という訳だ。
いや、趣味というかもはや本業な訳だが。
「よし、やっぱり一限目には間に合ったな」
「ホームルームに間に合ってないとアウトだよ!」
そう言って可愛らしく俺を咎める白雨と共に、俺は校舎へと入っていった。
教室からはゴールデンウィークにどこどこ行ったとか、よくありそうな話し声が聞こえてくる。
……そう言えば結局どこにも行けないままだったな。
神社巡りとかしたかんだんだけども仕方がないか。
今日は帰ってから今世紀最大の大実験だな。
もし仮に成功すれば、この世界には本当に魔力というものが存在する事が確定するし、この世界にはまだまだ科学では解き明かせない謎が大量に存在することになる。
それに始まりの杖が本当の魔術結社である可能性も十分に出てくる。
まあ、そうとしか思えないような所も結構あるしロマンがあるので俺はそうあって欲しいと思っているのだが、まだ実際に魔術を目にしたことが無い以上は断言できないんだよな。
ベルクリムの大邪神というのは万の貌を持つ変幻自在の液体生物で、何百人というか大魔術師が集まっても倒す事しかできずに封印するしかなかった7年前に突如として現れた化け物のことだ。
当時はそういうイベントなんだなぁとか思って参加していたのだが、あの魔術が起動すればそれも真実だったという事になる。
このベルクリム時に初めて超次元方向に展開する魔法陣を作って、それが認められて俺は空白となったグランドマスターの地位を受け取る事ができたのだ。
本当に懐かしい事だ。
これまで万能の封印魔術として考えられてきた時を切り取る禁呪は自分の中に固有の時間を持っているような存在には通用しないという設定で、そんな中俺が思い付いたのが対ベルクリム用存在阻害術式だ。
世界に依存した存在ではなく、己の力で世界に存在しているというのならば、相手が存在する事自体を阻害し続けてやれば実質的に時が止まった状態に持ち込めるというわけだ。
「って、おっと意識が飛びかけてた。
それじゃあな」
「うん、あ、授業中寝ちゃダメだよ?」
「単位が取れりゃあそれでいいんだよ、それで」
白雨にそう告げると、俺は教室へと入っていった。
机の中から枕を取り出し、机の上にセット。
あとは寝るだけだ。
「東堂君、今日も寝るの?」
俺が寝ようとした時、隣の席の女子から声を掛けられた。
確かそこそこ珍しい苗字の……猫島だっけ?
「ああ、寝るね。
ゴールデンウィークは殆ど寝てなかったからな。
割とガチでそろそろやばい」
「そんなに徹夜して何してるの?」
「別に、ただの趣味だ」
「むー」
今日は移動教室も体育も無いし、ゆっくり休んでも許される。
そんな事を考えつつ、俺の返答が気に食わきったのか、もどかしそうにする彼女を見つめながら俺は眠りについた。