グランドマスターの過ごす日々。   作:Eden

2 / 7
002

 

「んんっ……、ふぁぁ」

 

 

 放課後の心地いい風で俺は目を覚ました。

 暑くもなく、寒くもなく、ちょうど涼しいくらいの風。

 時間を見ると16時を過ぎた所と、まさに放課後になったいいタイミングである。

 今から家に帰って、魔法陣を印刷してから廃神社に向かえばちょうど逢魔が時。

 俺の魔術にふさわしい最高のタイミングとなる。

 

 

「さてと、帰るか」

 

 

 持ってきた鞄の中から魔剤を一本取り出し、クイッと飲み干してそのまま教室を後にした。

 放課後は部活動やら生徒会やらと何かと忙しいし、賑やかになるのだが、生憎とどちらも加入していない俺には無縁な話だ。

 妹の白雨もバイトがあるし、こういった活動を行うような暇は殆どない。

 

 

「あ、お兄ちゃん」

「白雨か、今日もバイトか?」

「うん」

 

 

 どこでバイトをしているのか詳しくは聞いていないが、わざわざ家にそこそこの額を生活費として入れようとしてきた事を考えると、かなりの収入があるようだ。

 危ない事や違法性のある事をしているんじゃないかと気になる事もあるが、俺もかなり脱税している分、妹に聞くことができないんだよな。

 俺が自分の趣味について触れられたくないように、向こうも触れてほしくないみたいだし、お互いにプライベートは完全にノータッチで行こうという暗黙の了解がある。

 

 

「お兄ちゃんはどうするの?」

「俺か? 今日はちょっと出てくるつもりだ」

「珍しいね、いっつも部屋で何かしてるのに」

「まあな、こういう事もあるさ。

 ……そのうちお前にも俺のやりたい事が分かるかもな」

 

 

 この魔術が成功するかどうかで今後の俺の運命は大きく変わると言っていいだろう。

 これまでのようにちまちまと魔法陣を描き続ける人生を送るか、それとも正真正銘の魔神として魔術の世界に君臨するか。

 まあ、どちらにせよ俺がやる事は一つ。

 魔法陣を描くだけだ。

 

 

 この魔術が成功すれば、今まで完全に避けてきたオフラインでのやり取りに参加するのも面白そうだ。

 日本魔術協会の会合とか一度は参加してみたかったんだよな。

 魔術の知識ならば誰にも負けないって自信はあるが、これまでグランドマスターとして君臨して来た俺が魔力が無くて魔術が使えないなんて笑い話もいいところだ。

 だが、この魔術が成功すれば俺はベルクリムの大邪神という魔法界の長い歴史の中でも5本の指に入るような邪神へとこの身を変えるわけだ。

 

 

 そんな邪神が世界で最も魔術に詳しいと言ってもいい俺の知識を得たと仮定するならば、それは間違いなく史上最強の邪神になる。

 まさに魔神の名がふさわしい存在になる事ができるわけだ。

 

 

「夢と描き、思ひ描いて、散り桜」

「何それ?」

「今の心境を一句で読んでみただけだ。

 自分の夢が桜の様に何れは散ってしまうものだとしても、自分の夢を成し遂げれたらいいなぁって心の心境を読んでみた」

 

 

 果たして俺の魔法陣はしっかりと機能してくれるのだろうか? 

 というか気脈を流れるの魔力で起動するのかどうかが問題なんだよな。

 それこそ本当に賢者の石でもなければ起動しない程の魔力量を要求されるのでいくら気脈に大量の魔力が流れているとは言えども足りない可能性は十分に存在する。

 

 

 気脈から魔力を引き出す事ができれば無尽蔵の魔力を得る事ができる可能性を示した論文というのは幾つかあるが、これまで気脈の魔力を使って魔術を行使した例は1つも存在しない。

 俺が作り上げた魔法陣だって気脈を流れる魔力を操作して魔力を得ようとしている訳ではない。

 気脈を流れる魔力を掠めとって無理やり剥がし、その魔力を応用してさらに魔力を引き出してという事をしている。

 

 

 要は自分で魔術を使うのではなく、この星そのものに魔術を使ってもらおうとしているわけだ。

 やっている事は殆ど星殺し(アースイーター)、上手くやれば世界そのものを一撃で吹き飛ばすような自壊術式を星そのものに刻み込む事になる、まさに禁断の魔術。

 起動しないのならまだ良いのだが、仮に暴発してしまえばこの星の莫大な魔力が一点に集中してしまうという自体になりかねない。

 

 

 そんな状態になってしまえば次の瞬間どうなるかは目に見えている。

 魔力が急速に拡散、つまりは大爆発を巻き起こす。

 セーフティーなんてものが存在しない以上、この魔術が起動すればお終いだ。

 Dead or Alive.

 まさに生きるか死ぬかの二択というわけだ。

 

 

「行ってきます」

「おう、頑張って稼いでこい」

 

 

 家に帰った俺は妹がバイトに出たのを確認し、魔法陣の印刷を開始した。

 一応印刷には特殊なインクを使用しているが、プリントする紙は普通のコピー用紙だ。

 1200枚も印刷するとかなり分厚く、重くなるのだがそれは仕方がないものだ。

 

 

 ちなみにこの魔法陣は未完成な状態で印刷され、追加で記号を一つ書き込む事によってこの魔法陣は動作する。

 こうすることでしっかりと神社の中で魔術を使う事ができるし、近くの気脈から勝手に魔力を引き出して暴発するなんて可能性も抑える事ができる。

 気脈というのは星そのものの魔力で、小さいものならば本当にどこにでも流れている。

 

 

 だが、そんな小さい気脈でこの魔法陣は動作するようにできていない。

 だから満を持して神社で起動してやる必要があるわけだ。

 それに成功しても気脈を引き剥がす時に出る副作用で辺り一面が吹き飛ぶ可能性もあり、誰かが来る可能性が殆どない山の奥にある廃れた神社はまさに絶好の場所という訳だ。

 

 

 

「……さすがに1200枚は長いな」

 

 

 印刷完了までに10分。

 ついでにインクを一度交換し、紙を補充する必要がある事を考えると少々めんどくさい。

 さらに言うとこのインク1つ80万もするんだよな。

 単純計算で160万円、成功してくれなければ大損もいい所である。

 

 

 この間にグループでも覗いて見るか。

 この大型連休の間は完全にノータッチだったし、少し顔を出して置いた方がいいだろう。

 

 

 __________

 

【ノノカ】

 あの、質問なのですが竜種と大精霊ってどちらの方が魂の階級は上なのでしょうか? 

 学校の課題で出てまして、少し困っているのでどなたか答えて頂けると本当に助かります。

 

 

【山烏】

 竜種だな。

 力の関係は確かに大精霊と竜種でほぼ互角だけども、大精霊も小精霊も位階そのものは一緒。

 精霊とかひっくるめて妖精種って言うから覚えとけ。

 

 

【タカシマ】

 というか課題の内容掲示板で聞いてんじゃねぇぞ。

 ここ教員も絶対見てるかな? 

 

 

【松田ァ!】

 俺も同じ事して減点された辛い過去ががが。

 というかその山烏って魔法生物学の教授だからな? 

 日本で生物学のマスター一人しか居ないんだから察しろよ。

 

 

【山烏】

 何言ってんだよ松田ァ! 

 後で自分で気が付く所が面白いんだろうが。

 

 

【ノノカ】

 えっ!? 

 って事はあの黒羽教授ですか!? 

 

 

【タカシマ】

 せっかく俺がぼかして伝えたというのに……。

 松田何してんだよ。

 

 

【山烏】

 そう、この俺こそが日本でたった16人しか居ないマスターの一人。

 黒羽茂雄だ。

 

 

【松田ァ!】

 あとリアルの名前出すのは一応厳禁な? 

 隠してる人も結構いるから。

 

 

【ノノカ】

 そう言えば黒羽教授って封印省と公安省から目を付けられて無かったです? 

 

 

【タカシマ】

 たった一言によって黙殺された模様。

 

 

【松田ァ!】

 それだけで何があったか察した俺。

 

 

【GM(魔法陣の人)】

 呼んだ? 

 

 

【山烏】

 あの節は本当にお世話になりまして。

 もう感謝の気持ちで一杯です。

 

 

【ノノカ】

 GMさん? ですかね。

 初めまして、これからちょくちょく顔を出していくのでよろしくお願いします。

 

 

【GM(魔法陣の人)】

 初めまして。

 GMでも魔法陣の人でも好きに読んで下され。

 

 

【タカシマ】

 ああ、無知とは恐ろしいものだな。

 

 

【松田ァ!】

 完全に察した。

 

 

【山烏】

 GMさんって……。

 ま、まあ、そ、そうだよな。

 

 

【ノノカ】

 もしかしてGMさんって有名な人なんです? 

 

 

【GM(魔法陣の人)】

 まあ、それなりにはって所ですよ。

 でも私の正体は知らない人の方が多いので知っていなくても問題ないですよ。

 

 

【タカシマ】

 確かにGMさんの正体知ってる人ってなかなか居ないですよね。

 

 

【松田ァ!】

 でもノノカさんみたいに自分でこの雑談グル見つけた人で知らないのは稀ですよね。

 

 

【GM(魔法陣の人)】

 え? ノノカさんって自分でこのグルのURL見つけたんですか? 

 何気にそういう人って珍しくないです? 

 

 

【ノノカ】

 いえいえ、見つけたのは本当に偶然みたいなものですよ。

 たまたま隠しページに当たったってだけです。

 皆さんは人から教えて貰ったりしたんですかね? 

 

 

【山烏】

 俺は人から教えて貰ったな。

 ミキって言う錬金術師知ってる? 

 

 

【松田ァ!】

 俺はノイズって言う人から教えてもらったな。

 ノイズかホタルに教えて貰うのが一番ハードル低いよな。

 

 

【タカシマ】

 俺はクイズ大会の準優勝の景品として教えて貰ったな。

 

 

【GM(魔法陣の人)】

 私は教えてもらう側よりもむしろ教える側でしたね。

 この中で一番の最古参は間違いなく私ですね。

 

 

【ノノカ】

 ミキさんってマスターの人ですよね? 

 等価則の破れって本を書いたあの。

 GMさんってやっぱり古参だったんですね。

 

 

【松田ァ!】

 錬金術師志望なの? 

 ミキさんで出てくるのって普通はホムンクルスなんだけども。

 

 

【ノノカ】

 あ、私は魔法陣学志望です。

 

 

【山烏】

 コーヒー吹き出す所だったわ。

 ギリギリセーフ。

 

 

【タカシマ】

 好きな法陣師とか、尊敬している人っているの? 

 

 

【ノノカ】

 やっぱりハルト様ですね。

 他には竜道寺さんとか、アスモノートさんとか。

 

 

【松田ァ!】

 やっぱ魔法陣と言えばあのハルトさんだよな。

 日本で唯一のグランドマスターだし、その正体不明もミステリアスを醸し出しててカッコイイよな。

 

 

【タカシマ】

 俺も魔法陣の道に進んでるけどさ、ハルトさんとか最先端の一歩も二歩も先にいるって感じで本当凄いよな。

 

 

【GM(魔法陣の人)】

 そうですよね! 

 やっぱり魔法陣と言えばハルトさんですよね。

 

 

【山烏】

 コーヒー吹きこぼしたわwwwwwww

 

 

【松田ァ!】

 そろそろネタバラシしてもいい? 

 腹筋崩壊しそうなんだけどwww

 

 

【ノノカ】

 ネタバラシです? 

 

 

【GM(魔法陣の人)】

 GMってイニシャルとかそういうのじゃなくてある単語を略したものなんだよな。

 んでその単語で魔法陣に関連する人は一人しかいないわけだ。

 

 

【タカシマ】

 ヒント、10人。

 

 

【ノノカ】

 え? 

 待ってください! 

 もしかしてご本人ですか!? 

 

 

【山烏】

 もしかしなくても本人なんだよなぁ。

 

 

【松田ァ!】

 このグループがなぜ秘匿されているか、それはこの人がいるからだ。

 時々この雑談グルにのみ降臨するグランドマスター。

 人は彼を魔神と呼ぶ。

 

 

【山烏】

 で、ハルトさん今日は何しに来たんです? 

 

 

【GM(魔法陣の人)】

 今やってる研究が一息ついたからちょいと顔出しだな。

 特に目的はないぞ。

 

 

【松田ァ!】

 あのベルクリムの大邪神の研究成果を使うんだっけ? 

 明らかにヤバい研究の匂いがぷんぷんするな。

 

 

【ノノカ】

 ベルクリムの大邪神ですか? 

 確かS級邪神に認定されてる邪神の一柱でしたよね? 

 

 

【山烏】

 当時はまだただの大規模魔術結社ってだけだったが、それでもグランドマスターが6人も入れ替わったからな。

 大袈裟に史上最強の邪神って言われてるんだよな。

 あの時代は組織の規模も今とは違ったし、グランドマスターの強さも今より何段か下だからな。

 ネメシスの方が明らかに強いと思うぞ。

 

 

【タカシマ】

 確かに、この7年で入れ替わってないGMと言えばノアさんとハルトさんだけだもんな。

 

 

【松田ァ!】

 国際魔術連盟の会長と魔神。

 権力的に言えばどっちがトップなんだ? 

 

 

【山烏】

 ハルトさんは滅多に権力使う事はないからな。

 そういう意味で言えばノアさんじゃないか? 

 ただハルトさんから降りてきた命令とノアさんから降りてきた命令どっち聞く? って話をした時に選ばれるのはハルトさんだと思うぞ。

 ただ表舞台に顔を出さないハルトさんから命令が飛んでくることはまず無いな。

 

 

【GM(魔法陣の人)】

 俺が今してる研究が成功に終わったら表舞台に顔出しするのもありだと思ってるぞ。

 祈ってろ。

 

 

【松田ァ!】

 マジで!? 

 ついに表舞台に出てくるの!? 

 

 

【タカシマ】

 え? これって報道庁に垂れ込んでも良いの? 

 

 

【ノノカ】

 確かハルト様の研究で頓挫したものってありませんでしたよね? 

 

 

【山烏】

 つまりはほぼ確実に表舞台に出てくるって事だ。

 これは伝説が巻き起こるぞ。

 

 

【GM(魔法陣の人)】

 いや、今回は頓挫する可能性も非常に高い。

 何しろ前例が一つも無い事に挑戦しようとしているわけだからな。

 

 

【松田ァ!】

 前例の無い。

 人体変換。

 ハルトさんですら頓挫する可能性。

 ……閃いた! 

 

 

【タカシマ】

 何閃いたんだ? 

 

 

【松田ァ!】

 三大難問じゃね? 

 無限の魔力、不老不死、時間操作のうち2つは当てはまりそうな気がするんだが。

 

 

【山烏】

 確かに三大難問の1つ目が解決できるなら不老不死も解決できたも同然だけどさ。

 ……まじで? 

 

 

【タカシマ】

 時間操作は未だに停滞させる事しか成功してないし、そのうちハルトさんなら作りそうな気が。

 というか無限の魔力があれば正直なんだってできるのでは? 

 

 

【ノノカ】

 無限の魔力って永久機関とかそういうレベルじゃ無いですよね? 

 新しい宇宙が作れちゃうレベルですよね? 

 

 

【山烏】

 あ〜、それで表に出てくるのか。

 確かに史上最大規模の魔術になるだろうし、どれだけ丁寧に隠蔽したとしてもまずバレるわな。

 自然と表舞台に顔を出す流れになるのか。

 

 

【GM(魔法陣の人)】

 一応最善は尽くすが、ミスったらドカンとどデカく吹き飛ぶ事になるからな。

 これから全力で防御結界でも張っとけ。

 

 

【松田ァ!】

 ハルトさんの最善を尽くす以上に信頼のできる言葉は無いな。

 張らなくても大丈夫大丈夫……

 ……え? 否定しないって事は無限の魔力ってマジ? 

 

 

【タカシマ】

 遂に三大難問が解かれる時が来るのか……。

 なんか感慨深いな。

 ……ミスったら日本が吹き飛ぶどころかこの星ごと終わる気がするんだがそれは? 

 

 

【ノノカ】

 人類に一国の損失以上の多大な損害を与えかねない魔術の研究、実験、及び行使はその分野のグランドマスター、又はグランドマスター過半数の承認と国際魔術連盟からの許可を必要とする。

 破った場合の罰則は裁判無しで即死刑だった気が。

 

 

【山烏】

 よく知ってるな。

 だがこれは「魔法陣を使った魔術」であれば全てハルトさんの許可があれば行けるという事で判決が出てるんだよな。

 

 

【松田ァ!】

 つまりはハルトさんならばどんな魔術だろうが合法で研究し放題? 

 

 

【タカシマ】

 マスター以上には超法規的措置が取られることもそこそこあるぞ。

 よく考えてみろ、例えば某魔王様が犯罪犯したとしても取り締まれる人がそもそもそんないないだろ? 

 あまりにもやり過ぎたら話は別だが、そうじゃない限りは大抵の事は許されるんじゃないか? 

 

 

【山烏】

 取り締まれないからこそもう例外として法に記載しちゃおうぜってなってるからな。

 でもマスターは結構普通に取り締まられるぞ? 

 俺とかつい最近捕まりそうになってるからな。

 

 

【GM(魔法陣の人)】

 よし、じゃあ今から準備に取り掛かるわ。

 失敗したらあの世で、成功したら次はリアルで会うことになるかもな。

 多分18時30分になるからカウントダウンでもしててくれ。

 

 

【ノノカ】

 お疲れ様です。

 これからも応援してます! 

 

 

【山烏】

 無いとは思うが一応結界張っとくか。

 来れるやつは今から学校に来い。

 タカシマは各地の魔術協会の支部に職員を全員集めて結界を展開するように通達しろ。

 松田は報道庁に情報を流せ。

 

 

【タカシマ】

 もう既に親父には伝えてて、抜き打ち訓練という名目で通達したってさ。

 ただそれが本当なら結界を展開しても些細な違いだろうって。

 あと、万に一つも失敗はないってさ。

 

 

【松田ァ!】

 了解。

 あとそのまま学校に行っていいか? 

 

 

【ホノカ】

 私はどうすればいいですか? 

 

 

【山烏】

 来るなら18時20分までに来い。

 ホノカは学校いるなら今すぐ生徒会長と校長を捕まえて臨時の全校集会を開いて貰え。

 俺も今から動くわ。

 それじゃ一旦解散ってことで。

 

 

 __________

 

 

 

 雑談グループに書き込みながらしばらく待っていると遂に印刷が完了した。

 これを綺麗にファイルに止め、リュックサックに入れて俺は家を後にした。

 

 

 比較的近い位置にあるとは言っても結構山の奥にあり、移動には30分程度かかる。

 自然豊かで、いかにも良い気脈が流れていそうな場所だ。

 この神社は昔、白雨と一緒に遊んでいた時に見つけたもので何気に思い出の場所になってるんだよな。

 

 

「……18時20分か、あと10分待つとするか」

 

 

 中には簡単に入れるようになっており、調べた結果この山は県有地でガチで誰にも管理されていない事が明らかになっている。

 簡単に入れるとは言っても中には何も無いんだがな。

 雨は防げるが、本当にその程度だ。

 

 

「よし、やるか」

 

 

 時刻は18時30分ジャスト。

 ちょうど日が暮れかけ、まさに逢魔が時、黄昏時と言うにふさわしい完璧な時間帯。

 俺はファイルを取り出し、その1ページ目に慣れた手つきで最後の1つを描き足した。

 

 

「さあ唸れ、さあ廻れ! 

 今こそ輪廻は廻り、ってはええよ!」

 

 

 俺が詠唱を開始した瞬間、魔法陣から蒼い光が迸りそれは空中で新たな魔法陣を紡ぎ始めた。

 一つ、また一つ。

 そうして魔法陣はどんどん大きく成長し、やがて暗くなり始めたばかりの天をまるまる蒼く彩った。

 

 

 展開魔法陣。

 何度も何度も描き、

 頭の中で幾度となく思い描いてきた光景。

 だが、始めてみるこの光景だ。

 空間そのものを1つの魔法陣として、さらなる魔法陣を展開していく。

 この光景はまさに芸術的という言葉がふさわしい。

 

 

「ああ……、俺の魔法陣が美しいってこういう事だったのか」

 

 

 天が満ちる。

 空間を彩る。

 夜空には星々の代わりに明るい魔法陣が浮かび上がる。

 その魔法陣はやがて立体的なものへと代わり、そして超次元方向へも展開され、綺麗な正百二十胞体の形を形成した。

 直径約2500km、日本のどこからも見ることができるような超巨大な魔法陣だ。

 

 

「これが、これがみんなの見ていた光景か……」

 

 

 今まで俺はただの傍観者だった。

 今まで俺はただ知識を持っていただけだった。

 だが、ようやく。

 ようやく今俺はそちらへと向かう事ができる。

 魔神として、堂々と、誰にも負けない究極の存在としてだ。

 

 

「我は魔神。

 我こそが頂点。

 始まりの杖の長として、

 200万の魔術師の上に立つ存在。

 さあ世界よ今こそ開闢の時を始めよう。

 森羅万象の理よ、今ここにその全てをもって砕け散れ!」

 

 

 その魔法陣が完全に展開し終わり、その内部に秘めた術式。

 ベルクリムの大邪神の力をこの身に宿すその魔術が起動するタイミングに合わせて俺はカッコよく詠唱し、左手の間から世界を覗き、右腕をクッと前に突き出した。

 今こそこの魔術に正式な名称を付けよう。

 

 

「禁忌、理への大反逆(カウンター・エデン)ッ!」

 

 

 俺がそう名前を発した瞬間。

 まるで命名を喜ぶように魔法陣が起動し、俺の視界を蒼い光で埋めつくし、辺り一面を吹き飛ばした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。