グランドマスターの過ごす日々。 作:Eden
「わーお」
辺り一面が綺麗に吹き飛び、もう言葉も何も出てこない。
が、これだけは分かる。
成功した。
仮に失敗したら200メートルくらいの範囲が吹き飛ぶとかいうレベルでは済まないはずだからな。
それに俺はこの自分の体に莫大な魔力が流れるのを感じるし、俺がこの世界の物理法則とは別な理によって動作している事も分かる。
今は人間の姿をしているが、これは俺の本来の姿では無い。
あくまでも俺が生まれ変わる前はそうだったと言うだけで無意識にこの姿を取っているに過ぎない。
「こうなるともはや世界が変わって見えるな」
ベルクリムの大邪神。
その存在がいかに強力な存在だったかがよく分かる。
むしろ良くこんな存在を封印できたと言えるだろう。
俺ならば即座に反転魔法陣を組み上げて無効化する事ができるので、あの魔法陣を用いて俺を封印する事はもはや叶わないと言ってもいい。
……もしかしなくても人類最強の守護者が人外になった瞬間じゃね?
魔力なんてものを持っていなかったとしても、俺という存在がどれ程にチートだったかよく分かるな。
それにしても本当に今までよく頑張ったものである。
「えーと、このままじゃあまずいよな?
魔力を隠す隠蔽術式は……こうだっけか?」
俺の魔力があまりにも強大な為、このまま街に出れば確実に俺だとバレる。
それにあの大空の魔法陣。
確実に一般人にも異変として知られている事だろう。
非魔法族に対する魔術の秘匿というのはかなり重要視されるもので、いくらグランドマスターといえども叩かれるのは間違いない。
確かにこれからの展開でめんどくさい事もあるが、それよりも今はこの世界にやはり魔力というものがしっかりとあり、それは俺の想定通りのものだったという事を喜ぶべきだ。
本当によくやったと褒めてやりたい。
「おー、やっぱり魔力そのもので魔法陣を描いて魔術を使う事ができるのか」
これは活気的だな。
この方法ならば自分の内部で完結するように魔法陣を記載し、体内で起動する事で完全な永久機関が完成する。
例えばこの簡易的な隠蔽の魔術とかは外部に魔力が漏れないようにするだけなので息をするように起動し続ける事ができるわけだ。
外側に何かしらの影響をもたらすような魔術を無制限に行使することはさすがにできないが、それでも凄まじいの一言に尽きる。
「怖いけど一応グループ見とく……、スマホが吹き飛んでるッ!?」
いつものようにポケットからスマホを取り出そうとしたが、残念ながらそこにスマホは無かった。
そもそも今俺が着ている服は正確には服じゃなかった。
服のように擬態させた俺自身で、現状の俺は完全に全裸も同然だった。
……犬とか猫もいわば全裸だし、これで良いと言われればいいのだがこのままだと服が一切脱げないので困った事になる。
とりあえず新しい服やスマホを買いに行った方がいいだろう。
これで財布を持ってきていれば人生オワタ一歩手前だったが、幸いな事に家に置いてきたのでなんとかなる。
スマホの方も格安SIMだし、中古でいいから端末を買って即日使えるやつを買えばいいだろう。
こういう時に便利なのが
本来ならば転移術式には目的地となる場所に何らかの目印となるものが必要だが、方向と距離をしっかりと定義してやればそんなものがなくても転移を行うことができる。
バレないように隠蔽をしっかりと施しておけば探知される心配もないのでこれからはガンガン魔術を使って行けばいいだろう。
「よっと……、まあこの位は普通に成功するよな」
意外と難易度の高い魔術で、本来ならば資格がないと使えない資格制の魔術になっているのだが体内で魔法陣を精密に展開できるこの体ならばまず失敗する事は無い。
古式の詠唱魔術や強いイメージによって起動する無詠唱魔術などとは違い、魔術の発動体を必要とせず事前に察知する事がほぼ不可能という大きなメリットがある。
何気に魔術発動に関して最高の発動方法なんじゃないだろうか?
「……とりあえずパソコンから起動してみるか」
覚悟を決めてパソコンを起動すると、そのままアプリを立ち上げた。
__________
【タカシマ】
来たァァァァァ!
【ノイズ】
嘘だろ?
これ何千kmあるんだよ……。
【山烏】
今ミキが調べてる。
というかこの密度の魔力だと一般人にも見えるんじゃないか?
【スルガ】
いや、見えるか見えないかのちょうど瀬戸際らしい。
まさに機密保持法の限界ギリギリ。
でも起点の近くだと魔力に当てられて一時的に見えるようになる筈だな。
【ホタル】
というかこれ起点どこなの?
【輝夜】
詳細なのはすぐには調べようがないよ。
これくらい大きかったら誤差が酷いからね。
でも、中国地方って事は確定だと思う。
広島か岡山あたり。
【尾上】
間違いなく山の中じゃね?
というかどこからこんな魔力捻り出してんだよ。
【山烏】
ちょwwww
これさらに超次元展開するやつじゃね?
【タカシマ】
もう立体展開始まってるのか……。
これ、総魔力量って天体規模じゃね?
【スルガ】
これ第一難問を解決したって言われても信じるな。
無限じゃないにしろ無尽蔵なのは間違いない。
ただこれ、確実に気脈は歪むぞ。
【輝夜】
確かにミスったらこの星ごと吹き飛んでもおかしくないよね。
普通こんな魔術が行使されるって聞いたら身構えるんだけど、ハルトさんが使ってるって知ってれば何故か安心できるんだよね。
【山烏】
何気にこれが始めてみる魔神の魔術だからな?
……これ、隠れてる魔法族の炙り出しに使えるんじゃね?
【ナガノ】
さすが山烏その手があったか。
早速有効活用させてもらうわ。
【ミキ】
はい出た!
直径2500km、起点は岡山県の県有地の山だね。
人がいることも無いと思うし、ベストな選択肢だと思うよ。
あと、総魔力はだいたい月の四分の一。
【タカシマ】
月の四分の一w
地球の魔力の5%ってことだろ?
【チーク】
案外大した事ないのか?
【尾上】
感覚狂いすぎだろww
第一難問の認定まったなしだぞ?
これまでに地球上で起こった魔力的な出来事の中で、最も大きい事態な事は間違いないな。
恐竜を滅ぼした隕石約20億個分だぞ?
【輝夜】
20億ってさすがハルトさんですね。
【エクス】
20億wwww
桁がおかしくて単位も隕石だからよくわかんねぇな。
誰か原子爆弾に直してくれよ。
【にゃす】
普通に広島に落ちた原子爆弾の10億倍だから掛ければいい原子爆弾200京個か?
【ホタル】
もっと分かんねぇよwww
【中島】
お前ら魔力の大きさにばっか目を向けてるけど一番凄いのはそれを制御してる魔法陣じゃね?
【山烏】
そこに関しては元から知られてたからな。
解析班は既に解析を諦めた模様。
というか胞体魔法陣とか誰が解析できるんだって話し。
【ミキ】
これ殆どが制御の為に使われてるんだと思うよ?
じゃないとさすがのあの人でも無理無理。
実際に起動する部分だけ推測して見てるんだけどほぼ一体化しててよく分かんないね。
多分全体読みとかないと理解できないと思うよ。
12Mm⁴もある魔法陣とか誰が読めるの?
【ホタル】
12Mm^4←これってなんって読むの?
【尾上】
十二超立法メガメートル。
普通は使わない単位だな。
【流れ星】
これ起動するのはあの時の奴やろ?
山烏がウチから依頼をかすめ取ったあの時のあれやろ?
【山烏】
多分俺が作ったベルクリムの再誕って魔術をアレンジしたものだな。
人間一人をあの邪神と同じ生物に生まれ変わらせるって魔術で、間違いなく自分自身に使ってるんだろうな。
【ミキ】
それって事実上の不老不死じゃない?
まさかの第一難問と第二難問両方同時回答?
【Tachyon】
さっきまで海外雑談鯖にいたんだけどやっぱこっちが本命だったか。
【タカシマ】
ちょwwww
何しに来たし親父!?
【Tachyon】
うるせぇ。
お前らに速報だ。
グランドマスター達が臨時集会してるぞ。
新しい禁術としてこの魔術を加えるそうだ。
そしてなんと今回の件で世間を騒がせた賠償として、ハルトさんに対してこれからは表舞台の場への積極的参加を全面的に要求するそうだ。
それにあたって日本魔術協会の名誉顧問になる事が可決した。
【輝夜】
こ、これ、S級魔法血族保存法の適応になるって事ですよね!?
明らかにハルトさんはS級魔法血族に含まれますよね!?
【ミキ】
政略結婚の嵐になりそうだなぁ。
……ノアさんとかルナさんとか絶対不正するよね。
【ノイズ】
……ベルクリム化してる訳だけども子孫残せるのだろうか?
【山烏】
無理だと断言できる。
それでも無理やりでも法を適応してくるだろ。
そこは一致してる人も多いわけだし、GM9人が協力しあったら通るぞ。
その後の取り合いに関しては戦国時代だな。
【ホタル】
おい! 魔法陣が収束を始めたぞ!
【尾上】
神降臨の瞬間である。
【にゃす】
この大魔術を一切事故を起こさず、目立ったトラブルもなく成し遂げるのはさすがハルトさん。
そこに痺れる憧れる!
【ナガノ】
今回の一件で新たに52万人の人が魔法族であると判明したぞ。
でtachyon、12歳未満を片っ端から回収でそれ以上は記憶消去でいいのか?
【Tachyon】
それでいいぞ。
でも今回はさすがに学校がパンクするな。
……臨時予算組んで新しい学校を作るか。
【ノヴァ】
お前らこんな掲示板に書くなよ……。
実際今回で回収できる魔法族ってどのくらいのランクなんだ?
強いのは元から回収できるシステムになってる以上、未発覚はそこまででもないとは思うが。
【ナガノ】
ピンからキリまでだな。
上はS、下はEまで。
12歳以下のSランクは3人もいたぞ。
今のシステムどうなってんだよ。
洗い直した方がいんじゃね?
【ウルド】
さすが有能。
【山烏】
Sランク3人も逃すとかガチでガバガバじゃねぇか。
金あるんだからちゃんとプロ雇えよ。
スルガとか輝夜とか暇そうにしてるマスターランクがここに2人もいるだろうが……。
【スルガ】
俺行こうか?
150万ハルで引き受けるぞ。
【輝夜】
え? なら私がやるよ。
金欠だし、100万ハルでいいよ。
【ホタル】
マスター格だと一つの仕事でこんな動くんだね。
100万ハルとかS級魔導書、頑張れば準禁書級に手が届くよね。
うらやま
【タカシマ】
それにしてもマスター格の金欠って珍しいな。
どいつもこいつも大富豪のイメージしかないんだが。
【ナガノ】
マスターでもピンからキリまでだぞ?
マスターの上位には元グランドマスターや次期グランドマスター候補までいるからな。
そういうのとマスターになったばっかりな奴らを比べたら当然差が出るわけだ。
【輝夜】
遠回しに私の事底辺って罵ってるの?
【ナガノ】
違ぇよ!
マスターってだけで尊敬の対象だからな?
【魔道図書館の人】
マスターランクで一番稼いでるのは私。
間違いない。
【山烏】
ツクヨミが来るとは珍しいな。
【尾上】
ツクヨミ様だと!?
【ミキ】
わお! ヨミヨミじゃん!
こんな所にくるの本当に珍しいよね。
【魔道図書館の人】
ハルトが何か面白そうな事してるから……もうすぐ書き込むはず?
【GM(魔法陣の人)】
待たせたなお前ら。
俺が来たぞ。
【GM.Rood】
よぉ、ハルト。
随分愉快な事してるじゃあないか!
ノアがぐしょぐしょに濡らしてたぜ?
【ノイズ】
ッ!?
【ファル】
ッ!?
【タカシマ】
ッ!?
【藤沢】
3コンボだドン!
【GM(魔法陣の人)】
なん……、だと?
【GM.Rood】
それは冗談なんだが、さすがに今回はお咎め無しって訳にはいかないらしいぞ。
もうこれまでの様に隠れてコソコソってのは諦めな。
有名税嫌ってるのは分かるが、今度は表の世界で暴れてみないか?
あと、ノアが早急に会見開けってさ。
【GM(魔法陣の人)】
元々そろそろ表舞台に出ようとして所だからな。
お望み通り表の世界で暴れてやるぞ。
会見はこれからか?
【GM.Rood】
今日じゃなくても別にいいが、日本の魔術協会が準備を整えて待ってる筈だぜ。
というかあの魔術なんだよ?
さすがの俺もビビって腰を抜かした所だぞ。
【Tachyon】
待っております。
最寄りの支部、もしくは本部まで直接お越しくださいませ。
【GM.Rood】
という事みたいだな。
じゃあ俺はハルトの初会見がいつ来るかとテレビを見守る作業に移るぜ。
【GM(魔法陣の人)】
お疲れ、また今度リアルで会おうぜ。
【GM.Rood】
そうそう、お前は古参だがグランドマスターの洗礼は受けてなかったよな?
ノアとルナが張り切ってるから楽しみにしてろよ。
【GM(魔法陣の人)】
え? 俺、何されるの!?
【GM.Rood】
Good by!
【GM(魔法陣の人)】
逃げやがっただと!?
【魔道図書館の人】
ハルト、グランドマスターの洗礼はその人によって色々と違う。
ドッキリだったり、サプライズパーティだったり、決闘イベントだったりする。
【山烏】
ハルトさんが来たってことは成功でいいんだよな?
まあ、成功するとは思っていたが夜空を彩る魔法陣は最高だったぞ。
【GM(魔法陣の人)】
ツクヨミありがと助かったわ。
あー、見てわかるとおりあの魔術は完全に成功した。
続きは会見で行こうか。
本部に直接転移で乗り込むがそれで良いよな?
【ナガノ】
転移防止の結界を解除しますので少々お待ち頂けますか?
【山烏】
必要ないだろ。
読んで分かる通りに許可を求めてるだけだぞ?
【ナガノ】
F44 C66 2246Y HF6G-1C
マーカーの方を開かせて頂けますのでそちらからお越しくださいませ。
【鬼ヶ島】
普通マーカーだけあっても転移なんてできないんだがそれは?
【魔道図書館の人】
ハルトならマーカーのポイントから逆算して魔法陣を完成させるなんて余裕。
__________
いや、できなくはないが余裕じゃねぇよ!?
マーカーから魔法陣を逆算するのはパソコンのパスワードをこじあげるようなもので、普通はできるようなものでは無い。
今の俺ならば魔力がある為、起動しているマーカーを目掛けて空転移を仕掛ける事ができるのでなんとかなるが、前の俺ならば確実に投げるレベルだ。
起動しているF44系統のマーカーに適当に当たりをつけてポイントの値を調べまくって、大まかな場所を割り出してから詳細な魔法陣を調べればいい。
幸いな事に空転移には殆ど魔力を使用しない為、無限に繰り返す事ができ、数打ちゃ幾つかはヒットする。
こうしてヒットした魔法陣同士を比較し、そこから逆算して魔法陣を見つけ出すわけだ。
「えーと? ここが1Eか、なら1Cは……。
うん、あったあった」
……この姿で行ったら舐められるかもしれないし一応、変身していこうか。
ただ明らかに変身していることが分かる姿で転移した方がいいだろう。
うん、猫でいいか?
魔法使いや魔術師と言えばフクロウか黒猫が有名だし、その二つなら可愛らしいしインパクトもある黒猫の方がいいだろう。
俺のシンボルとして有名な三日月のマークを白色の毛で額に入れて、出来上がりだ。
「あー、あー、よし、喋れるな」
羽を生やしたり、キマイラのようにする案もあったがとりあえず却下でシンプルな黒猫のままでいいだろう。
あとは念の為に防御魔術を強固に張り巡らして、これでもかという程に隠蔽の魔術を掛けまくる。
これでどこからどう見ても普通の可愛らしい黒猫にしか見えないだろう。
転移防止の結界はこれだな。
一般的な方式で作動する転移防止で、俺から言わせてもらえばお粗末な代物に過ぎない。
一般的な転移阻害は転移に対してジャミングを行うタイプのものが一定数を占めるのだが非常に簡単に設置する事ができる割に、そこそこの効果を発揮できるので費用対効果で言えば最適だろう。
だがもちろん弱点もあり、それは一度に対処できる量が限られている事だ。
一度に対処できる量が限られるという事はDos攻撃が非常に有効になる。
適当に大量の処理要求を送り付け、キャパオーバーさせてからすり抜ければ問題ないだろう。
阻害術式の阻害パターンを解析し、抜け穴を見つける方法の方がスマートな訳だが得られる結果は一緒なので今回は強引に殴りこませて頂く。
「にゃ〜♪」
「よ、ようきょッ……え、猫?」
俺が転移すると、案内しようと待ち構えていた魔術師が超噛みっ噛みな言葉遣いで出迎えてくれた。
どうやら完全に俺の事が猫に見えているらしい。
実際に猫以外の何物でもないし、これで人間に見えていたら目の錯覚もいいところなんだがな。
(聞こえていますか? 私は今、あなたの心の中に直接話しかけています。
あなたの目の前にいる黒猫をよく見、そしてその黒猫の願いを叶えるのです)
「しゃ、喋った!?」
「とりあえず会見用のホールまで連れてってくれないかにゃ?」
「ひゃ、ひゃい! どうぞこちらへ」
うん、こういう時にはネタによるゴリ押しが一番だよな。
正直に言ってグランドマスターとしての権威ある振る舞いなんてできないし、俺もあのルードのようにその場のノリと勢いでやっていけばいいだろう。
今までもそれでやってきたんだしなんとかなる……と思う。
「あの、会長! ハルト様? をお連れしました」
「にゃ〜」
「…………猫?」