グランドマスターの過ごす日々。 作:Eden
「皆様大変お待たせ致しました。
只今より記者会見を開始させていただきます。
先程ありましたように、本日は日本報道協会様により生配信されております。
それでは国際魔術連盟法陣局局長、ハルト様お願いします」
そのまま流れで何とか押し切り、俺はこの姿のままで会見へと臨むことになった。
何気に初めての会見で、結構困惑している所もあるのだがテレビで会見の様子を何度も見た事があるし、流れでなんとかなると思っている。
というか会見決まったのってほんの2時間前だって言うのに一体何人居るんだよ……。
「皆様、初めまして。
まずはこのような外見で会見へと臨むことを謝罪させてください。
つい先程行使した魔術の影響で元の肉体を喪失してしまった為、人間としての姿を生成する時間が無くこのような姿で臨む事になってしまいました。
本日は私が初めて表舞台に立つ場であり、皆様も私に対して様々な質問があるかと思います。
時間も限られる場ですのでフリー会見をして頂ければと考えております。
どうぞよろしくお願いいたします」
「それでは只今より質疑応答に入らせていただきます。
まず初めに日本魔術協会様より何かございましたらお願いいたします」
うん、我ながら良くできたんじゃないだろうか?
というかなんで魔術協会が質問の場に居るんだよ!?
お前らこっち側じゃねぇのかよ。
「えー、日本魔術協会会長、高島竜太郎です。
本日非常に強大な魔術を行使されたようですが、一体これはなんの目的で行使したのか?
また、この国に住む人々に対して何らかの悪影響が懸念されるという事はないのでしょうか?」
「今回の魔術の詳細な内容に関しては即時魔術連盟の方から最高位の禁術指定が行われた為、詳細な内容を語ることはできません。
この魔術は長年に渡って不可能とされてきた第一難問、及び第二難問に対する私なりの回答でございます。
懸念される影響として龍脈の大幅な変動や、空脈の変動などは引き起こりますが、人体への直接的な影響は一切ございません」
龍脈がごそっと変わったからと言ってそこまで何かが起こるわけではない。
せいぜい霊的な場が地球規模で移動するだけだ。
ただ気脈を抉りとるようにしてあの魔術は発動した為にあの辺に対して魔力が一気に押し寄せ、世界規模の魔力スポットと化す事だけは間違いないだろう。
そもそも人間には気脈を流れているような高次元の魔力を活用する術はまるでないので魔力資源の問題もほぼ発生しないわけだ。
「質問よろしいでしょうか?
龍脈の大変動が起こるという事はこれまで作成された気脈図や魔力場の情報は今後ほぼ使えないものとなったという事でよろしいでしょうか?」
「はい、そういった認識で構いません。
ただこれに関しては元々、あと1、2年程で龍脈変動の時期がやって来る予定でしたのでその時期が今に前倒しされたと思って頂いて構いません」
「なるほど、では今後20年は龍脈変動は起こらないという見通しでよろしいでしょうか?」
「いえ、今回の魔術によってこれまでに無いレベルでの龍脈変動が引き起こされた為、それよりも長い期間、最低でも40年程の間龍脈変動が起こる事は無いでしょう」
40年と言うのはかなり少なく見積もった目安なので最長で言えば100年以上という事もありえる。
これまでにこんな変動が起きた事が無いからなんとも言えないんだよな。
「先程、魔力場も移動すると回答なされましたが今後精霊や妖魔被害等が収束しやすい場所はどこになるとお考えですか?
具体的な箇所を教えていただきたい」
「今後しばらくは私が魔術を行使した長久市周辺が最も魔力が密集する地帯になる事は間違いないと考えております。
これまでそういった傾向になりやすかった土地にはこれまで通りに魔力が集まるという訳ではなく、しばらく魔力が集まる事はなく、それら全てが長久市に密集すると私は考えております」
「であれば長久市そのものを隔離し、魔法族の公有地とする事もお考えでしょうか?
仮にその場合、非魔法族に対してどのような説明を行うつもりですか?」
……俺に聞く質問じゃねぇだろそれ。
いや、一応あってるのか?
でもそうか、精霊とか幽霊とか霊感が一切無かった俺には今までさっぱり見えなかったんだがちゃんとそういうのもいるんだよな。
あれ? 長久市ヤバくね?
世界中のそういったスポットが一点に集まるってわけだろ?
悪霊被害が増えるとかそういったレベルじゃない気がするんだが……。
まあ、こういうのは俺が決める事じゃないしパスだパス。
「そうですね、場合によってはそのような事を考慮する可能性もあります。
ですが現状は様子見の段階ですので今すぐにという事は無いでしょう」
「なるほど、ありがとうございました」
「あの、一件当社から質問よろしいでしょうか?
今回の魔法陣騒ぎとは全く別の話になるのですが、このような会見を行ったという事は、今後はメディア等にも積極的に顔を出して頂けるということでよろしいでしょうか?」
「はい、今後はメディアを含む様々な場所で表舞台に出て行動をしていく事になるでしょう。
ただ、実際に活動していく外見の完成は未定となっております」
「ではもう一件……」
つ、疲れたぁ!
何が疲れたって常時敬語なのが疲れた。
なんで俺が敬語なんぞ使わなければならないのか。
そうだよ、ルードみたいに堂々としてれば良かったんだよ。
あれからもしばらく質問に答え続け、その後も今後の魔法界についての話し合いや、各種権利に対しての打ち合わせやなんやかんやで開放されたのは日付が変わった頃だ。
まあどれもこれも必要な事だったので今日という一日で半分近く終わったと言えばいい方だろう。
……明日学校サボろうかなほんと。
「ただいま〜」
「お兄ちゃん、こんな遅くまでどこ行ってたの!
連絡したのにスマホも繋がらないし」
「色々と今日は忙しかったんだよ……。
スマホに関しては番号変わったから後で教えるわ」
「え? 前のスマホどうしたの?」
「跡形もなく消し飛んだ。
こまめにバックアップを取ってなかったら危うく即死する所だったぜ」
俺が家に帰ると、白雨はこんな時間まで俺を待っていてくれたのか台所で俺を迎えてくれた。
時刻はもうそろそろ二時とかなり遅い時間帯なのに、心配して待っててくれた白雨にはほんと申し訳ない。
「スマホ落としちゃったの?」
「まあ、似たようなもんだな。
不幸の事故って奴だ」
念には念を入れてスマートフォンくらい家に置いておけば良かったぜ。
いや、無理か。
成功したら被害は何も起こらないって思い混んでたもんな。
「あ、話は変わるけどお兄ちゃん今日変な人に合わなかった?」
「変な人?」
「なんちゃら協会とか言う」
「なんちゃら協会? なんだそりゃあ」
……まさか魔術協会の事か?
もしかして俺の転移を逆探知したりとか俺の事を探ってんのか?
いや、無理だな。
俺がガッチガチに隠蔽を施して使用した魔術を読み解けるような奴は俺くらいしか心当たりがない。
神器クラスの魔道具を湯水のように使い捨てれば別だが、さすがにそんな事はしないだろう。
となると白雨が声を掛けられたパターンだな。
……確かまだ見つけられていない魔法族を俺の魔術を使って見つけるとか言ってたよな?
もしかして白雨ってそっちの才能があるのだろうか?
ここで解析の魔術を掛けにいってもいいんだが、さすがにそれはダメだろう。
相手が超一流な魔術師相手でもなければ一切気が付かれずに魔術を行使するなんて簡単な事だが、プライバシーを侵害するような真似はしない方がいいだろう。
いくら兄妹とは言えどもやっていいことといけない事はある。
「じゃあ、黒いローブの人見なかった?
もしかしたら来てるんじゃないかなって思ってるんだけど」
「黒いローブ? 中二病かなんかかそいつは。
この近くにそういう奴がいたのか?
不審者見かけたら一応警察に通報しとけよ」
「え、えーと、そういう訳じゃなくて。
お兄ちゃんは見てないし会ってないよね?」
うーん、まあこれは会ってないっていうのが正しいのか?
事実黒ローブの人には会ってないし、「なんちゃら協会」という人にもあっていない。
まあ、日本魔術協会の本部にさっきまでいた訳だが。
「会ってないぞ。
というかなんちゃら協会じゃわからん」
「……お兄ちゃんはやっぱり違うか」
「ん?」
「お兄ちゃん、この家から引っ越さない?」
「引越し? いや脈絡無しに突然そう言われても」
……あ!
違ぇっ。
12歳未満を回収でそれ以上は記憶消去。
確かナガノはそう言っていた筈だ。
白雨は12歳未満でもなければ、記憶消去をされたようにも思えない。
という事はコイツ。
白雨は魔術協会の一員、正真正銘の魔術師だ。
それならばこの地が今後かなりの厄災に襲われる可能性がある事は手に取るように分かる。
そして自由気ままなグランドマスターがそういった事態になかなか対処しない事もだ。
「……本気か?」
「本気だよ、お兄ちゃん。
言っても分からないと思うけど、この辺りで大きな災いが起こるかもしれないんだよ」
「そのなんちゃら協会とか、ローブの不審者が関係あるのか?」
「話すと長くなるんだけど、その人達は私のバイト先に関連する人達で日本魔術協会の……」
「はい、アウト」
白雨がそこまで言おうとした瞬間。
俺はそう言って妹の口を遮った。
国際魔術連盟で一般人に対する魔術の秘匿は義務付けられている。
これは場合によってはかなりの罰が下される事もあり、マスタークラスでもその罪からは中々逃れる事は難しい。
例外はグランドマスターか、特別な許可が降りている場合のみだ。
「国際法違反だぞ白雨」
「ふぇえええええええっ!!?」
俺がそう告げた瞬間。
白雨は素っ頓狂な叫び声をあげた。
咄嗟に防音の魔術を張り巡らしたが、そうじゃなければ確実に近所迷惑になっていただろう。
「お、お兄ちゃん魔術師だったの!?」
「いや、こっちが驚いてるよ!
というかお前魔術師だったのか?」
「うん、えーと……、今から5年ほど前に魔術協会の人が尋ねてきて」
「えーと、始まりの杖には加入してるか?
ランクはいくつだ?」
「う、うん。 い、一応ウィザードだよ」
……マジで?
ウィザードと言えばそこそこの魔術師を示す事が多い。
メイジ級が一般的な魔術師だとすると、ウィザードはプロの魔術師を示す言葉だ。
普通5年やそこいらでウィザードのランクを得ることはできず、しっかりと魔術大学まで卒業してようやくウィザードに到達する事ができる。
それを5年で到達するなんてかなりのハイスペックである。
俺のような例外中の例外もあるのだが、そういったのを除けばかなり優れている。
というかしっかと友達付き合いや学校の勉強もやりつつウィザードとか、もし仮に魔術に専念していた場合には確実にハイウィザード、もしかしたらマスターにも手が届いていたかもしれない。
それを考えると俺の一族ってかなり優秀なのかもしれない。
「アルバイトって事は専攻はやっぱ操理術か操霊術か?」
「うん、私は操理術の方だよ。
お兄ちゃんは?」
「俺? ……まあ、部屋で引きこもってるような魔術師と言えば3つくらいしかないんじゃないか?」
「うーん、でもお兄ちゃんかなり稼いでそうだし錬金術かな?」
「俺がしてるのは主に魔法陣学だが、確実にお前より収入あるぞ?」
「……魔法陣学って部屋に引きこもってて稼げるの?
お金持ちの道楽か、本格的な研究者かのどっちかだと思ってたんだけど」
おい。
一応こう見えても世界最高峰の魔法陣学者だぞ。
というか俺、グランドマスターなんだが。
まあ、名前も少し文字ってるし分からないか?
……晴仁とハルトってかなり、というかほぼ変わってないんだが意外と気が付かれないものなんだな。
「少し勝負してみるか?」
「勝負?」
「好きな魔術を1つ宣言してその場で即撃ちしろ、俺はそれを一瞬で掻き消す。
成功したら俺の勝ち、失敗したらお前の勝ち」
「いいの? 私早撃ちってかなり得意なんだよ?」
「安心し……」
「流星を綴れっ!」
俺が安心して撃ってこいと言おうとした瞬間、飛んできたのは最上級の魔弾。
詠唱にてこの魔術を発動するためには本来
『大いなる星々よ、我は汝らの願いをここに宿し、その夢を今ここで顕現する。
誓の時は今来たり、汝らの苦しみをこの流星をもってうち払わん。
古なる盟約よ、我に力を与え弾丸を綴れ』
とか言う長ったらしい詠唱だったはずだ。
これを「流星を綴れ」の一節だけで放つのは詠唱圧縮という技術だ。
ここから更に腕をあげるとイメージをそのまま魔力で具現化するなんて方法で魔術を放てるようになるのだが、多分そこまでの技術は無かったのだろう。
「うい、俺の勝ち」
「え、無詠唱!?」
「いや、クイックサークルという別に技術だな。
漢字にすると瞬間法陣投影法とかになるのか?
ま、俺の開発した技術なわけだがこれでも魔法陣学は稼げないか?」
「……お兄ちゃんって普通にハイウィザード以上の腕はあるよね?」
すまん。
ハイウィザードでもマスターでもなくグランドマスターなんだよな。
面白いし、このままはぐらかしておくか。
「絡め手も含めれば世界最強の自信もあるがな。
それにしても、お前ならハイウィザード、達人級も普通に目指せるんじゃないか?
ほんとなんで学校の勉強なんかしてんだよ」
「え? それはお兄ちゃんが居たからだよ。
私、お兄ちゃんの事ずっと一般人だと思ってたし、さすがにお兄ちゃんを巻き込む訳には行かないからね。
……言ってくれれば良かったのに」
「いや、こっちも知らなかったしなぁ。
それにお互いのプライベートはノータッチっていう暗黙の了解があっただろ?
知られて欲しく無いことにわざわざ首突っ込む兄なんていねぇよ」
それ以前に俺が魔力を得たのはつい最近の話なわけだが……。
まあ、これに関しては以後永久に俺の心の奥底にでも封印しておこう。
魔力の無いグランドマスターなんてバカバカしいにも程があるからな。
「あ、そうだ。
俺が魔術師だって事は絶対に言うなよ。
始まりの杖にも本名で登録してないし、日本魔術協会には加盟してないし、あと税金も払ってないからな」
「……それって思いっきり違法だよね。
私は言わないけどさ、やめた方がいいんじゃないの?」
「まあ、とにかくそこだけは頼んだ」
まあ、違法かと言われたら確実に白なんだがな。
魔法界では公務員が税金を支払うというような法律になっていない。
確かに税金で手に入れた収入で税金を収めるとか意味不明だもんな。
ついでに、日本に在住する全ての魔術師は日本魔術協会には加盟する義務があるという法律があるが、その上層組織である国際魔術連盟のトップの一人として名を連ねている以上、新たに日本魔術協会へと多分加盟する必要はないと思う。
まあ、トップの一人と言っても法陣局局長とか言うよく分からない肩書きだけのものなんだがな。
一応、公式には魔法陣及びそれに関連する法の整備や資格の認定状の発行をしたりする機関らしいのだが、副局長に全てを押し付けている為に俺がする事なんて困った時の相談役くらいのものなんだよな。
……そう言えばグランドマスターじゃなくて局長の身分で呼ばれてたって事はあくまでも始まりの杖は私営の組織に過ぎないってことなのか?
国際魔術連盟よりも始まりの杖の方が組織的に上だと思ってたんだが、そこの所はどうなんだろうか?
「……一つ聞きたいんだが始まりの杖と国際魔術連盟ってどっちの方が上だと思う?」
「えーと……、連盟なんじゃないかな?
でも連盟の会長って始まりの杖のメンバーだし……、そもそも比べれるようなものじゃないと思うよ?
連盟は魔法界の機関だけど、始まりの杖は魔術師達の組織だからね」
「なるほどな」
まあ、どっちもどっちって所か?
国と世界的組織みたいな感じなわけだな。
どちらにせよ俺はかなり上の方だし、セーフセーフ。
それに多分俺以外のグランドマスターも税金とか払ってないんじゃないかな。
「……まあ、今日はもう遅いし詳しい事は明日話すか」
「明日は学校休むって事でいいの?」
「明後日は連盟の本部まで顔を出さなきゃいけないからな。
どのみち休む事になりそうだ」
「確か連盟の本部って一般の魔術師は入れなかったよね?
お兄ちゃんってやっぱりそこそこ偉い人?」
「ん〜、まあそれなりには偉いんじゃないか?
少なくともお前よりは偉いと思うぞ」
グランドマスターってそれなりに偉いとか言うレベルじゃあない気がするが、俺は政治とか完全に無関係だしな。
自分がどのくらいの権力を持ってるかって言うのがいまいちよく分からないんだよな。
よくネットではノアと同格だとか、一番権力を持っているとか色々と言われているが実際の俺はまだまだ若造もいいところだし、ただ魔法陣について誰よりも詳しいというだけに過ぎない。
今の俺ならば世界征服も狙えそうな気はするんだが、そんな事をしてもメリットがあまり無い以上は今の魔法界そのものを楽しむ方がずっといいだろう。
俺は研究者としては確かに凄いのかもしれないが、一人の魔術師としては魔術師になったばかりのニュービーもいい所なのだ。
魔法界の構造もよくわかっていないし、下手に口を出すようなことはできないだろう。
「まあ、なんだ。
とりあえずこれからは魔術師として一緒にやってこうぜ」
「うん、こちらこそよろしくね」
俺は白雨の方へと手を伸ばして握手を求めると、白雨はその手を受け取った。