グランドマスターの過ごす日々。 作:Eden
イギリス、イングランド、今も昔も魔術の最先端を走るこの国には通常の人間には立ち入ることのできない裏側の世界が存在する。
通常の世界の少し下に存在する位相を昔の魔術師達が開拓して作った魔法界最大の都市が存在するのだ。
ここには世界魔術連盟の本部、始まりの杖の本部という魔法界最大の機関が二つとも揃っており、他にもこの都市を拠点とした組織は非常に多い。
そんな魔法界の都市には物凄く目立つ建物が1つ存在する。
城だ。
エレメット城、魔法界最大にして最高の建築物として有名なこの城は世界魔術連盟の本部であり、魔法界で最高の権力を持っているノア・エレメットの居住する家でもある。
塔の配置、窓の配置、壁にある装飾一つ一つ、それら全てに魔術的な意味を持たせて配置されており、城そのものが一つの魔法陣と化している。
その強度は例え世界中の核兵器を全て集めて爆撃したとしても無傷で済むような無類の耐久性を誇っており、世界で世界最高峰の防御性能を誇る場所な事は間違いない。
そんな城の地下7階、ここは
一目見るだけで魂が完全に汚染される程の最高位の禁書達や、一国を軽々と吹き飛ばせるようなまるで神話の中から飛び出して来たとしか思えないような最高位の神器達を初め、ここは他にも様々な歴史的価値のあるものが存在する場所だ。
そんな地下7階の中央には会議室が存在する。
豪華にあしらわれた十二席の椅子と、円卓。
ここは魔法界最高の機関、魔法評議会が評議を行う場所だ。
そんな場所に一匹の黒猫がちょこんと座っていた。
その黒猫は魔法界最高の魔術師として歴史に名を刻み続けている存在。
……そう、俺だ。
始まりの杖のグランドマスター10人勢揃いに加え、数々の邪神や大悪魔、竜と言った魔法生物を封印してきた世界最大の封印機関である封印省の長リムルット・アルザベード、世界最大の宗教であるキリスト教のトップであるローマ教皇のラザゴリオ。
そんな11人を相手に猫の姿ってお前ふざけてんのかと言われても仕方がない。
というか実際俺もそう思う。
だが、そんなふざけた姿でこの評議会に出席しても一切咎められないのは俺が魔神、魔術の神の2つ名を冠する魔術師だからだろう。
権力万歳!
最後の1人、時間ピッタリにやってきたノアが席に座るとそのまま評議会が始まった。
円卓に着いているのは俺の左から順に
操霊術のグランドマスター、『冥王』ルナ。
キリスト教の教皇ラザゴリオ。
操理術のグランドマスター、『魔王』ルード・グライフォリア。
錬金術のグランドマスター、『叡慧』アルコー・シュルヌット。
封印省大臣のリムリット。
精霊術のグランドマスター、『霊皇』チェモチョモーレ。
魔法生物学のグランドマスター、『竜帝』アルフォ・カトノトラファ。
占術のグランドマスター、『先見』ヨト・フォーキ・ネマダッチ。
治癒術のグランドマスター、『聖域』王玲。
魔法薬学のグランドマスター、『薬王』ロゾニ・ルチャーラ。
そしてつい先程俺の右側に座った付与術のグランドマスターにして魔術連盟会長、『七天』のノア・エレメット。
年齢も人種も国籍もバラバラだが、この場にいる全員に共通事がある。
それは全員が全員、他のあらゆる魔術師とは一線を画す程の力を持つ最高位の魔術師だと言うことだ。
「では定時になりましたのでこれより、記念すべき全員揃っての第一回魔法評議会を開始します」
そんな最高位の魔術師達で一体どんな事を話し合うというのだろうか?
一体これからどんな風に会議を進めていくのだろうか?
そんな期待と不安を乗せて俺は次の言葉を待った。
「本日の議題はハルト様と私の結婚式を何時に……」
ズッコケた。
いや、最初に口にする言葉がこれかよって突っ込みたいくらいだ。
というかいつ俺がノアと結婚する事になんだんだよ……。
純白のドレスに身を包んだ金髪の女性、確かに外見は非常に綺麗で金もあり権力もありと断る理由は殆ど無いとは思う。
だが、俺は知っている。
というか見て一瞬で分かった。
こいつは外見を魔術でゴリッゴリに加工している。
さすがに元がどのくらいのレベルかは想像できないが、魔術が剥がれれば多分普通くらいなんだと思う。
それに、老いを止める魔術や若返りの魔術で若々しいままを保っているとはいえども確か実年齢は67歳で年齢差的な問題はかなりある。
優良物件なのは分かるが、さすがに遠慮したい。
「少し待つ、貴女は何時から彼の婚約者になった?」
そんなノアに俺の代わりに突っ込んでくれたのは冥王のルナだ。
漆黒のローブに身を包み、凄まじい程の邪気を発する杖を持っている中学生くらいの少女。
グランドマスターの中では俺の次に若く、実年齢は21歳。
彼女はいわゆるS級魔法血族という凄まじい魔術の才能を持った人材を古来より排出してきた有名な一族の生まれだ。
ルナというのは世襲名で1対1で当主と魔術を用いて対決し、現当主に己の実力で勝ったら冥王の杖と共にその名と他の様々な地位を受け継ぐらしい。
俺が言えた事ではないが、この歳グランドマスターというのはガチで凄いと思う。
「悠久の昔からの相思相愛です」
「酷い嘘、嘘吐きは冥界で裁きを受けるべき」
「っておいおい、お前らその話は後だ後。
今話すべきはそんな事じゃなくてだな、とりあえず魔法認定から入ろうぜ?」
ルードはうん、なんと言うか魔王と言うよりも勇者という言葉の方が相応しい格好だな。
容姿はどこも魔王っぽくないのだが、この赤髪の男は純粋な戦力で言えばピカイチな強さを誇っている。
対面した状態に限ってしまえば間違いなく世界最強と言われるだけあって、ただ座っているだけなのに一切の隙が無い。
襲いかかられても余裕で対処はできるだろうが、真っ向から倒すとなるといくら俺でもかなり難しいだろう。
ルードは自由をモットーにしており、思い立てばすぐに行動する程の自由奔放ぶりらしい。
「僕もそれに一票、それとあの魔術が本当に第一難問及び第二難問の回答なのかどうかだね」
それに賛成した角と尻尾と翼という3点セットを生やした人間なのかどうかよく分からない、中性的な容姿をしているのがアルフォ・カトノトラファ。
竜帝という2つ名が示すとおり、いかにも竜族と言った容姿をしているが元はれっきとした人間だ。
竜の事が好きすぎた結果、頑張って半分竜になったとかいう意味不明な存在であり、世界で唯一の竜人だ。
元は男らしいのだが、最近竜人化の魔術でしっかりと卵が産める体になったらしい。
……お前は一体どこを目指しているんだ。
その実力は竜帝という名の通り、竜王を上回る程で現在は竜種の頂点として日々竜種と戯れているらしい。
ガチで一体どこを目指しているんだ……。
「第二難問の回答としては間違いなくクリアだ。
現在この体はベルクリムの大邪神と完全に同じ生物になっている訳だからな。
ベルクリムが
会長のノアが今も着けている虚構神の腕輪、The Ring of Forbiddenと占術のグランドマスター、ヨト・フォーキ・ネマダッチの所有する世界記録帳、The Akasha Recordこの二つは世界に存在する4つの究極の神器の中でも最も強力とされている神器だ。
この2つは直死と呼ばれる最高位即死攻撃であり、一度喰らえば例えどんな存在であろうとも文字通り死ぬ。
直死を喰らっても尚且つ行動するには予め死んでおくか、死んでから蘇るくらいしか方法が無い。
しかし、ベルクリムの場合は
どちらも某死神のノートに名前を書くよりも遥かに強力な攻撃なのでこれで殺せない相手は例え何をしようが殺す事が出来ないと言ってもいい。
完全に第二難問、不老不死の回答という事になるだろう。
対して第一難問、無限の魔力は解答としては認められない可能性がある。
気脈を流れる魔力は確かに膨大だが、無尽蔵と無限との間には天と地程の差が存在する。
が、この第一難問はそもそも『無限の魔力』なのか『無尽蔵の魔力』なのか定められて無いので認定されてもおかしくは無い。
「吾輩から質問があるのだがよろしいか?」
「ん? なんだ?」
俺に質問を投げかけて来たのは霊王チェモチョモーレ。
外見は50代前半と言ったところだが、実年齢は86。
この年齢はこの場にいるメンバーでは上から二番目。
精霊などの肉体を持たない霊的な存在を使役する術に長けている魔術師で、得意とする魔術は人工精霊という魔術で精霊を再現する術だ。
その人工精霊の中でも特段強いのが彼の所有する無の精霊で、その実力は他の精霊王を凌駕するレベルらしい。
本人そのものの実力は普通なので本人が直接戦えば多分この場で一番弱いんじゃないかな?
「第一難問の回答として、どのくらいの魔力量を想定されているのかお答え願いますかな?」
「俺はこの星の魔力の1%以上を運用できれば良いと思ってるんだが……、そもそもこれ規定とかあるのか?」
「私が知る限りではそもそも元々のこの問は地球上で使用される100年分の魔力量以上に相当する莫大な魔力の生産方法、及びその運用方法だった筈ですね。
これが伝言ゲームの様に伝わっていった結果が今の第一難問です。
明らかに100年分以上はありましたし認定してもいいのでは?」
俺のその質問に答えたのは王玲。
日本とは比較的馴染みのある国、中国のグランドマスターだ。
至って普通のスーツを着た女性で、特段これといった印象を与えないというグランドマスターでは珍しい存在だ。
……なぜチャイナドレスを着ていないんだお前。
世界最高の治癒術師で彼女の2つ名にもなっている聖域という超広範囲回復魔術を得意としている。
ゲーム内にいたら完全に壊れキャラだが、現実に居てもやはり壊れキャラなようで彼女が1人居るだけだ拳銃で頭を撃ち抜かれたとしても死なない不死身の兵士が大量に現れる事になる。
他にも限界を超えて相手を治癒する事で通常の方法では防御不能な即死攻撃を大規模に放てたりと対人向けというよりは大軍向けの魔術師だ。
「というかアレ、正確な魔力量の計測は誰かしたのかよ。
大まかな数値は俺も出したが正確なのは見た事無いんだが」
魔力量か……、完全に気にしてなかったがというかそもそもあれの魔力量の計測とか無理じゃないか?
一応理論値で言えば45.70YMag、桁がおかしくて何も言えないがメイジクラスの魔術師45予7000垓人分に相当する。
ガチで頭がおかしくなるレベルだな。
これがどのくらいの魔力かと言うと、何もせず直に収束させて撃ち込むだけで真っ向からこの星を砕けるレベルだ。
地球そのものに魔術を使って貰えばこの位は余裕で何とかなるという訳だ。
「あ〜、理論値で良ければだいたい45.70YMagの魔力が必要で、実際に使った魔力はこれよりもちょっと多いくらいだな。
まあ、余剰魔力は0だと思ってくれ」
「おやおや? あれだけの魔力量を運用しておいて余剰魔力が0とは大きく出ましたね」
このいかにもな成金趣味の派手な衣装に身を包んだ錬金術師がアルコーだ。
ここにいる奴らはみんなそうなのだが、魔法界最高峰の錬金術師でその腕前は水から金を錬金できる程らしい。
錬金術、錬金術とは言っても物質変換はその一部にしか過ぎず、錬金術は何かと何かを置換する魔術全般を示す言葉なため、他にも様々な分野で活躍している魔術師だ。
何故か俺を目の敵にしており、俺の0でいい発言に絡んでくるが、確かに通常の方法では余剰魔力0なんて事はほぼ有り得ない。
が、俺が今回作り上げた魔法陣は普通という言葉からかなり掛け離れている。
「余剰魔力は直径200メートルを綺麗な球状に抉りとってクレーターを形成する程度。
これは天体規模の魔力に比べればほんの微かな損失でこれでだいたい25MMag、今回俺が作った魔法陣の魔力効率は99.99999999999999994529%となるな。
ゼロでいいだろこんなもん」
つまり18ナイン、よく半導体技術でイレブンナインとか出てくるがもはやそんなレベルではない。
ここまで来るともはや神の御業と言っても全く誇張ではないようなレベルだ。
「おいおい、一体どんな精密性してんだよ」
「ハルト様の魔法陣は他の者には一切真似できない芸術ですからね。
アルコー様は絡む相手をお間違えかと」
「うぐぅ、ですがこれで勝ったとは思わない事ですね」
「アルコーはそろそろ諦めるべき。
神様でもなければ彼には勝てない」
「案外神様ともいい勝負なんじゃねぇのか?」
「ルード様、そのような軽率な発言はおやめ頂けますかな?」
「おっと、すまんな教皇」
うお、教皇に対してはあのルードが素直に謝んのかよ。
ネットでもリアルでもガチで魔王ムーブなルードが人に謝るとかガチで珍しいものを見た気がする。
こういう事もあるんだな。
「少し儂から質問しても良いかね?
そもそもこの魔術は最高位魔法なのかの?」
「ヨト様、今がそれを決める場です」
「いやいや、儂が聞いておるのはこの魔術の効果が『世界に対して』なのか『自分に対して』なのかじゃよ。
通常では逆じゃが今回のような魔術じゃと『世界に対して』掛ける魔術の方が遥かに簡単、世界が自分をベルクリムだと思い込ませればええんじゃからの。
じゃが、本格的にベルクリムとなっておる場合は話が違う。
あれは内部に異なる法、独自の法を持った言わば一つの世界そのもの。
場合によっては最高位魔法と呼んでもええんじゃなかろうか?」
このいかにも魔法使いそうな老人が先見の2つ名を持つヨト。
完全なる未来予知に最も近い位置にいる人で、本来不可能な筈の完全なる未来の予測を限定的ではあるが成し遂げた人物だ。
年齢は今年で144歳とこの場では間違いなく最高齢だ。
魔術師や魔法使いと聞いて一番、イメージしやすそうな白ひげの老人なんて中々居ないんだよな。
「ほう? 言われてみりゃあ確かにかなり違ぇな。
で、どっちなんだ?」
「答えはどちらとも取れるだな。
が、今の俺は世界がベルクリムだと認識している訳ではなく完全にあの邪神と同一の存在だと言える筈だ」
「なるほど、では試しに殺してみてもええかの?
それが一番手っ取り早いとは思うんじゃが」
「流石御老公、素晴らしい案ですね!
今すぐ試してみましょう」
「無駄、仮に死んでもすぐに私が生き返らせる。
アルコーは今すぐその無駄な足掻きをやめるべき」
「そもそもハルト様が死ぬわけがないでしょう?
その気になればそもそもレジストできるのでは?」
「面白ぇな、俺も気になるしやってみろよ」
「ふむ、では撃ってもええんじゃろうか?」
まあ、ヤバけりゃレジストすれ……いやできんのか?
幾ら俺とは言っても相手は創世級とかいう意味不明な神器。
貫通する可能性はあるが別に大丈夫だろうし、即興レジストを試してみるのもいいだろう。
純粋に今の俺の実力がどのくらいかは気になるしな。
「よし、許可する。
全力で撃ってこい」
「ふむ、ではゆくぞ?」
そういうとヨトはどこからともなく一冊の本を取り出した。
禍々しくもあり、どこから神々しくもあるこの本が
それを見た俺は即刻、体内でのみ起動していた万能解析魔術を全力で展開する。
対ツクヨミ用に現在進行形で開発を進めているこの解析の魔法陣は世界初の五次元展開を可能とした最新鋭の魔法陣だ。
その五次元展開の効力は凄まじく、2、3メートル程のコンパクトサイズな魔法陣でも馬鹿げた程の性能を発揮する事ができる。
今こうして展開している魔術も通常の四次元魔法陣だと数十メートルの規模になるが、これが非常にコンパクトになってとても便利である。
問題なのは俺が体内で直接四次元魔法陣を直接描けるからこそできる技術で、平面から五次元に展開したり立体から五次元に展開したりするような技術はまだまだ無理ゲーって所だな。
「ば、ばかな!?
五次元超多面展開だと!?」
「さすがアルコー、正解だ」
全力で解析を掛けるがさすが神が創ったとか言われているだけあって中々読み解けないな。
というか、俺がまだまだ知らなかった技法がどんどん出てきて、ガチで驚くべき代物だと言える。
確か昔の偉大な魔術師によって解析不可能という結論が出されていたと思うが、何とか読み解けなくは無い。
えーと、防御方法防御方法…………。
……こ、こうか?
「彼の者の終焉を今ここに」
俺が何とか防御魔術を完成させたタイミングで向こうもようやく準備が整ったようで、トリガーとなるその言葉と共に世界最高峰の魔術『世界記録の事前記帳』が発動した。
その一撃を受け、『ハルト』は確かに跡形もなく消し飛ぶ。
バジュンッ!
という形容し難い音と緑色をした光と共に俺の目の前にあった牛乳が入った皿が跡形もなく消し飛んだ。
俺がやった事は比較的単純で、世界記録帳が世界から参照している『俺』という情報そのものを目の前のこのミルクへと書き換えてやったわけだ。
さすが神器だけあって真っ向から防ぐなんて真似は無理そうだな。
「ふぅ……、勝ったぞ」
「ふむ、さすがは『魔神』、まさに魔術の神に相応しい技量じゃ。
というよりもはや魔術の神そのものと言った方がええのう」
「リムルット、ハルト様に新しいミルクを」
「畏まりましたノア様」
「要らねぇよ!?
というかこの牛乳お前が用意してたのかよ!」