怪獣ハーレムは作りたいけど美少女擬人化ハーレムが欲しいとは一言も言ってない   作:バリ茶

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解釈違いです

 田中次郎です。

 気がついたら真っ暗で不思議な空間に立ってました。

 そんでもって目の前にはあの黒い巨人が立っています。

 身体の黒さとこの空間の暗さからなんか保護色みたいになってて見えづらいけど彼の眼が白く光ってるので存在の視認はなんとかできた。

 

 ……おれ、倒れてきた巨人に潰されて死んだんじゃなかったっけ。

 

『■■ッ、■■■……』

「はい?」

 

 なんて?

 たぶん巨人が喋ってるんだろうけど外国語よりも何を言っているのか分からない。

 言葉の節々から日本人じゃ絶対に発音できないような独自の言語体系を感じる。

 俺が露骨に聞き返すように耳を傾けると、巨人は意図を察したのか左腕に巻いている腕輪みたいなやつを何回かポチポチっと押してからこちらを向いた。

 

『すまない地球人、これで言葉は通じるだろうか』

「あー……はい、通じてますね」

『ホッ』

 

 文字通りホッと胸を撫で下ろす巨人。

 厳つい見た目に反してかわいらしい動作をしていてなんともギャップがすごい。

 声質からして恐らく男性。

 状況を鑑みるにきっと俺はこの黒い巨人に助けられたのだろう。

 

『申し訳ないが、お前は死んだ』

「ハァ!?」

 

 助けられてなかったし普通に死んでたらしいわ俺。

 じゃあ何だこの場所は天国か何かか。

 ……っていうか、俺いま()()()()

 瓦礫で左足潰れてなかったっけ。

 

『私の力を分け与えたんだ。一応お前の足は治ってはいるが、このままだと私たちは二人とも死んでしまう』

「よく分かんないんだけど……」

『ならば一から説明しよう。あまり時間はないが──』

 

 

 うんたらかんたら。

 むつかしい説明が三分くらい続いた。

 

 

「はぁ……なるほど……?」

『分かってくれたか!』

「まぁ、はい」

 

 ぶっちゃけ話の半分も理解できなかったけど、とにかく『二人で合体すればなんとかなる』という事だけは分かった。

 俺も半分死んでてこの巨人も瀕死。

 でも二人の生命力を共有させれば──とかなんとか。

 他にもいろいろ説明されたが今大事なのはこの部分だ。

 

「俺たちがゴモラを何とかしないと──街がヤバいんだよな」

『そうだ。共に戦おう、地球人!』

「お、おう!」

 

 気合入れて返事をしたあとは何か変な玩具を手渡されて、適当にガチャガチャ弄ってたらいつの間にか俺たちは合体──もとい『変身』していた。

 

 

 

「シュアッ!」

「っ!?」

 

 てなわけでクソでかい巨人になって再び街に現れたワケなのだが、俺たちの突然の登場に驚いたのかゴモラは固まっている。かわいい。

 で、俺と巨人の合体した姿はいわゆる強化形態ってやつらしく、あの巨人がいろいろと武装したような姿になっている。

 顔が銀色になってたり身体中に銀や青のラインが入ってたり──とにかくさっきまでの巨人とは別人に見えるという事だ。

 ゴモラからすれば、敵をやっつけたかと思えばそれよりもっとゴツい敵が現れたということになるので……まぁビビるのも分かる。

 

 そんなことより。

 

(ひぃっ、お、俺、ゴモラと対面してる……同じ体格になって向き合ってるゥ……!)

(ち、地球人!?)

 

 ゴモたんだけでなく俺まで緊張してきた。

 写真集で精通に貢献して頂いたグラビアアイドルが目の前にいるような状況なんだから緊張しない訳がない。

 童貞だってことも災いして完全に動けなくなっちゃった。

 こう、言い知れぬ罪悪感とかもあって感情が無理になってる。

 

(おいしっかりしろ! この姿でいられるのは三分だけなんだぞ!)

(わ、分かってますよフヒッ……大丈夫、ちゃんと戦うから……)

(ていうか何でそんな興奮してるんだ……? 合体してるからその感情私にも伝わってくるんだけど)

 

 いや興奮なんてしてねぇし。

 怪獣を前にしてすぐに発情するような猿だと思われるのは心外ですわ。

 俺だって弁えるとこはしっかり弁えるぞ。

 まずは挨拶からだよな。基本。

 

「デュアッ」

「……?」

 

 よろしくお願いします、とか初めましてって意味を込めてお辞儀をした。

 ゴモラさんは首を傾げている。

 キュートな仕草だぁ……!

 

(おいバカなのか!? 何で怪獣に挨拶してるんだよ!?)

(挨拶は礼儀なのですが……)

(今は必要ないだろ礼儀!)

(ばっ、おま、あのゴモたんだぞ! ザ・有名怪獣で名を轟かせているお方だぞ! ふざけたこと言ってんじゃねぇ!)

(え、えぇ……なんなのこの地球人……)

 

 初対面なのに挨拶の必要なしだなんてふざけた宇宙人だぜ全く。 

 たとえこれから倒す相手だとしても何度か息子がお世話になった女性なのだからしっかり──

 

 

 ……倒す相手。

 

 ……た、たおす……?

 

 

「キシャアァァッ!!」

「デゥアッ!?」

 

 ゴモラの長くて太い尻尾にぶっ飛ばされた俺は街の十字路に倒れ込んだ。

 なんとか建物は壊さずに済んだがその代わり俺の心が壊れそうになってる。

 

(む、むりぃ……ゴモラをこの手で殺すなんて……そんなことしたら俺が死ぬゥ……っ)

(地球人!?)

 

「ッスゥアッ!」

 

 ゴモラが死者を出さないよう、急いで起き上がり彼女にしがみついた。

 これくらいの拘束ならできるが()()()()の俺にこれ以上の攻撃なんて出来るワケがない。

 確かに宇宙人の話を聞いているときはなんとなくゴモラを止めなきゃヤバイってことは理解してた。

 それから彼女と戦うことになるってことも──しかしいざ相対してここまで怖気づいてしまうとは思わなかった。

 

(しっかりしろ! 今ここで私たちがやらなきゃ大勢の犠牲が)

(分かってるけどさァ!? それにしたって初恋のヒトを殺せとか鬼畜過ぎない!? お前できんのかよぉ!!)

(逆ギレ……! この地球人想像以上に怪獣愛こじらせてるッ!)

 

 いや俺も分かってはいるんだ。

 戦わなきゃ街に多大な被害が出るだなんてことは百も承知なのだ。

 でも、それにしたって、ゴモラを自らの手で殺せだなんて酷すぎる。

 俺と合体してるこの宇宙人は家族や友人の為を想うなら戦えとそう説得してくるのだろうが、俺にとってはどちらも天秤にかけられるようなものではない。

 妹や友達のことは守りたい。

 かといってその為ならこの手で初恋の怪獣を惨殺できるかと言われたらノーだ。

 

(おい宇宙人! なんかこう、折衷案とかないの!? ゴモラを殺さずに無力化する方法とかさ! このままゴモラを殺せって言われたら俺あの女性(ひと)を葬ったあとお前と一緒に自爆するくらいの勢いなんだけど!!)

(落ち着け地球人!? 早まるな早まるな! ある!方法あるから一旦落ち着け!)

 

 えっマジ? 無力化する方法あるの?

 

(あ、あぁ……本当に一応、な)

(詳しく!!!)

(うるさいな騒ぐな! ……確かにこの手段を取ればゴモラを無力化して、尚且つヤツの身体を地球人サイズまで縮ませることができる)

(おぉ……)

 

 何だよー! そんな方法があるなら早く言えよこの~! 

 ったくお前と組んで正解だったぜ宇宙人くん!

 

(熱い手のひら返しに困惑してるよ私は)

(ありがとな宇宙人。ゴモラを人と同じ大きさまで縮ませることが出来るならいつか叶えたいと思っていた俺の夢も実現できそうだぜフフフ……)

(たぶんロクでもない夢だろうから聞かないぞ)

(なんで! まぁ聞けよ)

 

 ずばり夢とは怪獣ハーレム。

 俺は別に怪獣の大きさ自体にエロスを見出してるわけではないので、同じ大きさにして侍らせることが出来たらそれでいいんだ。

 四六時中怪獣に囲まれた生活をしたい。

 鳴き声を目覚ましにして尻尾を抱き枕にして寝たい。

 幼き頃からの純粋な夢だ。

 

(どこが純粋な夢なんだよ……煩悩にまみれすぎてるだろ……)

(男ならハーレムは一度でも夢見るもんだろ? 俺はお前と組んでそれが実現可能な夢になりそうで感動してるぜ)

(協力してもらう地球人まちがえたかな?)

 

「デュッ?」

 

 そんなこんなで宇宙人と心の中でやり取りをしていたら、いつの間にか胸のランプみたいなやつがピコンピコンと音を立てながら赤く点滅し始めた。

 

(あと三十秒しかこの姿でいられない!)

(マジでヤベーじゃん)

(ここまで追い詰められたのはお前のせいでもあるんだがな! もういいからさっき言った方法でトドメいくぞ!)

 

 殺さずに無力化する手段──宇宙人と合体しているからなのか、自然とその方法が頭の中に伝達された。

 両腕を十字にクロスさせて特殊なビームを放ちそれをゴモラに命中させればいいらしい。

 そうすればゴモラは暴れる力を失い、且つ人と同サイズまで縮むとのことだ。

 

(ふ……ふひっ、小さくなったゴモラの処遇はどうしようか)

(そんなことは後で考えろ! とにかく呼吸を合わせて──)

 

「スィアッ」

 

 プロレス技のような態勢で拘束していたゴモラから一旦離れ、全身の血液を両腕に集中させるかのように意識して力を込めた。

 その瞬間バチバチと周囲に電撃が飛び交う。

 それらが一気に発射されゴモラに着弾、身体を痺れさせることで彼女の拘束に成功した。

 これなら確実に必殺技を当てられる。

 

 ──いくぞっ!

 

 

(( 超・生体変化・光線(ハイパー・トランス・ブラスター)ッ! ))

 

「ディィアッ!!」

 

 

 腕を十字にクロスさせたそのとき青白い閃光の稲妻が迸り──怪獣は爆炎を上げて四散した。

 

 

 

 

 

 

 どうも田中次郎です。

 実は学校周辺にゴモラが出現したあのときから一週間が経過してます。

 

 ……さて、突然だがここで俺の両親が従事している職場の名前を思い出してみよう。

 怪獣研究所だ。

 その名の通り怪獣の研究をしている公的機関で、父も母も毎日変質者のように興奮しながら怪獣の研究にのめり込んでいる。

 どうして両親がそこで働いていることを改めて思い浮かべたのか──その理由は昨日の夜まで遡ることになる。

 

 実は俺と宇宙人の戦いの一部始終はビデオ撮影で事細かに記録されていたらしく、俺たちが超生体変化光線で()()()したゴモラはすぐさま怪獣研究所に捕獲されてしまった。

 謎の宇宙人による攻撃で肉体が大きな変貌を遂げ縮小化したゴモラ──彼女が国の研究材料として使い潰されることは誰の目から見ても明らかであり、それを危惧した両親が誰よりも早く彼女を回収もとい”保護”したのだった。

 

 そして問題の昨日の夜。

 学校が終わって家に帰ってく来た時、父から電話がかかってきた。

 

『明日からゴモラと一緒に生活してくれ! 昔からの夢だったろ、怪獣と暮らすの! それじゃあよろしく!』

 

 時間にして僅か五秒。

 それだけ言って父は息子との電話を即切りし、病院で検診を受けている妹の夜空を甘やかしに行ったのだった。

 一応メールで今回の諸々についての説明はきていた。

 ゴモラを研究材料として扱うのは間違っている、彼女には()()()()生活をする権利を与えるべきで、そうすることが怪獣との共存の第一歩になるんだ──とかなんとか。

 ぶっちゃけ怪獣キチの両親がゴモラを殺処分させたくなかったのと、合法的に手元に置いておきたかっただけなのだろう。

 

 で、今日。

 日曜日のお昼。

 研究所からゴモラがやってくる。

 夢に見ていた怪獣との同棲──そうなるはずだった。

 

 いや、実際はそうなのだろう。

 事実から言えば俺は怪獣との同居を始める。

 しかし、だ。

 

 

「こんにちは、黒田ミカヅキです! これからよろしくお願いします!」

 

 

 玄関を開けるとその先には元気に挨拶をしてくれた同い年くらいの美少女がいた。

 彼女の名は黒田ミカヅキ。

 またの名を──ゴモラ。

 

 

 

 ……いや人間化した怪獣と生活したかったわけじゃないんですけどォ!?

 

 

 

「えっと、田中次郎くんですよね。話は事前に聞いていたと思うんですけど……」

「あぁ、はい。そうですね」

「……あ、あの」

「よろしくね、とりあえず上がりなよどうぞ」

「は、はい」

 

 うわの空で返事を返しながら彼女を家に上げる俺の顔はきっと引きつった笑みになっていたことだろう。

 謎の宇宙人に”肝心な部分”を説明されないまま喜々として怪獣の無力化を行った俺だったが、現実は幼少の頃から夢見ていた怪獣との生活に程遠い残酷なものだった。

 ぬか喜びもいいところであった。

 光線が直撃したゴモラは女の子になった。

 とてもかわいらしく怪獣のかの字も見当たらないような美少女へと変貌を遂げていた。

 なんかゴモラのコスプレみたいな姿には変身できるらしいけどしょせんコスプレの域を出ない人間そのものな姿であった。

 

 

 ──うわあああぁぁぁァ゛ァ゛ッ!!?

 なんじゃそりゃあああッ!!!

 話しがちげぇぞォォーッ!!

 

『ふふふ、一時的に肉体は消滅してしまったがこのスマホとやらの中は案外快適だな、地球人!』

「うるせぇよ勝手に人のスマホん中に住み着きやがって! 何でもありかテメェは!」

 

 そうだ、そうなのだ。

 超生体変化光線とは怪獣を人間の少女──怪獣娘とやらに変化させることで無力化する必殺技だったのだ。

 デメリットとしてエネルギー消費が激しく使用後は三十時間のあいだ変身できなくなるとかいろいろ言われたけどそんなの俺の知った事じゃねえ。

 怪獣とお近づきになれると思ったらちょっと雰囲気が似てるだけの女の子が出てきて挙句正体不明の不審者がスマホの中にインストールされた今の俺の気持ちがお前に分かるのかよこの野郎。

 

『怪獣に関してはきみの早とちりだろ、タナカジロウ?』

「うるせぇ……うるせえんだよバカ野郎ぅ……っ」

「じ、次郎くん? だいじょぶ?」

 

 スマホと口喧嘩しながら項垂れる俺に寄り添う黒田ミカヅキちゃん。

 意地でもこの子をゴモラとは呼ばねえと思ってたけど、その怪獣から生まれた彼女の優しさがいまはちょっぴり嬉しかった。

 

 でもやっぱり擬人化は解釈違いですゥ!!

 

 


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