デスとハイエロファントの物語:REBOOT 最終章   作:桁石スミオ

10 / 34
最終章第二話の弐:怖ろしき終わり、汝らを引き攫う【後編】-4

★ 森の道

 

 夜目が効かないと視界が確保出来ない程の、闇。

 天空には、仰角50度ほどに皆既月蝕の満月が浮かぶ。

 月蝕の円周には仄かな光が環となっており、その薄明りが森の樹々の上部に降り注ぐ。

 その中、森の道を神殿に向けてひたすら駆けている、デスとハイエロファント。

 進行方向の右側にハイエロファント。左側にデス。

 デスは大鎌を左手に持ち、刃を下にして両腕を体側に、タタタタタ・・・と流れるような足捌き。

 ハイエロファントはバクルス(司教杖)を右手に握り、大きく左右の腕を振って、タッタッタッ、と走駆。

 肩が触れ合いそうな距離で並走している。

 先に進むに従い、ハイエロファントの呼吸が荒いものへと変化し始める。

 一方のデス、普段の呼吸と何ら変わりなし。

 

デス「(ハイエロファントを見詰め)大丈夫か?」

ハイエロファント「(デスを見詰め)大丈夫、気にしないで。急いで神殿と往復しなきゃね」

デス「しかし・・・」

 

 再び前方に視線を固定し、口元を結ぶハイエロファント。

 するり、とデスの右腕が、ハイエロファントの左腕に絡む。

 そのまま内側を滑るように、掌と掌を密着させて、五指同志を結合させるデス。

 ハイエロファント、思わず彼女を凝視する。

 

デス「(にっ、と笑い)手を離すなよ。あたしが引っ張っていく。お前は身体を預ける感じでいい」

ハイエロファント「(嬉しそうに微笑んで)デス・・・」

 

 途端。

 くんっ、とデスが加速する。

 身体全体が吸い寄せられるように、走りの勢いを増すハイエロファントの両脚。

 デスが一歩先を駆け、ハイエロファントが流れに乗るような状態。

 進行した、少し後。

 

ハイエロファント「聖なる力!」

 

 ハイエロファントの右手に握ったバクルスの、先端の蒼い宝玉が発光する。

 驚いたように振り向くデス。

 バクルスより溢れた純白光、薄いベールのようにふたりを覆い尽くす。

 更に、森の道の進む先、周囲の樹々の幹をも明瞭に浮かび上がらせる。

 

ハイエロファント「僕の力には、ゴーストは寄ってこないからね。(デスに眼差しを向け)だからデスは、お城に戻るまで力を温存しておいて。それまで、ゴーストは放っておいてもいいと思うよ」

 

 一拍の、後。

 デス、蕩けそうな、嬉し気な微笑み。

 ハイエロファント、柔和で温かい表情。

 

デス「(ハイエロファントと眼差しを絡め、艶っぽい声で)何から何まで・・・本当に助かる、ハイエロファント」

ハイエロファント「(にっこり、と笑顔で)助けてもらっているのは僕の方だよ、デス」

 

 一層、身体同志を寄せる、ふたり。

 そして前方、尚も続く道を、ひとつの塊となって疾駆し続けていく。

 

 

★ マジカルランド中央・フォーチュンの居城・フォーチュンの自室

 

 天蓋付きのベッドが置かれた、寝室を兼ねたフォーチュンの自室。

 今はワールドが横たわっているベッドの傍らに、腕組みをして立っているエンプレス。

 か細く、消え入りそうな呼吸を繰り返すワールド。

 3つの目はすべて閉じられ、開く気配がない。

 エンプレス、顰め面のまま、ただ彼女を見下ろしている。

 部屋の隅に置かれた小振りの書斎机、引き出しが一段開いたまま。

 それを、スッ、と押して収納し、身体を起こすフォーチュン。

 そして窓際に歩み寄り、チャッ、と外側に観音開きの窓を開放する。

 目の前の庭に、タワーの姿。周囲に忙しく、緑色の左眼を動かしている。

 背後の音に気付き、ズウ・・・と身体を返すタワー。

 

タワー「(穏やかな声で)フォーチュンサマ・・・」

フォーチュン「周りの様子はどうじゃ?」

タワー「イジョウ、ナシ・・・ゴースト、イナイ」

フォーチュン「うむ。引き続き警戒を頼むぞよ。そなたは今、全身霊力に充ちておる。わらわより早く、ゴーストたちの気配を察知出来るであろう。(柔らかい声で)頼りにしておるぞ」

タワー「(ゴウン、と頷いて)オマカセ、クダサイ・・・」

 

 満足気な微笑みで、タワーを見詰めるフォーチュン。

 それから窓を開き切ったままにしておき、ベッドに歩み寄る。

 フォーチュン、ワールドに視線を結ぶ。冷静さを宿した表情に変化。

 ベッドを挟んで、エンプレスと相対する。

 

エンプレス「ワールドを運んできたのは、デスなんだろ?」

フォーチュン「(こくん、と頷き)そうじゃ。墜落してきたのを確保したらしいぞよ」

エンプレス「落下してくるワールドを、本人に傷ひとつ付けずに、か・・・とんでもない身体能力だねぇ」

フォーチュン「ワールドを救け、その後ジャスティスを救け、ストレングス一家まで救け、挙句にエンペラーまで救けたらしいのう。連中の話では、相対したゴーストは、ほとんどデスひとりで殲滅したそうではないか。(ふっ、と口角を上げ)働き過ぎじゃ。とは言え、わらわたちでは手に負えんかったから、致し方なき行動じゃがな」

エンプレス「(ニィ、と笑い)働き過ぎ、だねぇ・・・デスとエロファントを神殿に向かわせたのも、その理由からかい? デスばかりにゴースト退治の負担を押し付けてきたから、後は闘えるようになったアタシらで、ってことで」

フォーチュン「まあ、それもある。じゃが、マジカルドロップを念の為に手元に置いておくのは、保険、という意味で選択したのじゃ。デスはエロファントと一緒におれば、無茶はすまい」

 

 急に、疑問を具体化したような顔を見せるエンプレス。

 

エンプレス「どうにも気に掛かるんだけどさ・・・(訝しそうに)今回の化け物出現で、デスが八面六臂の行動をしてるのって、何か理由があるのかねぇ?」

フォーチュン「(眉を寄せ)理由?」

エンプレス「だってさ、今までの、いや、厳密に言うと昔のデスは、基本“仕事”の為に行動してることばっかだったじゃないか。他に動くとすれば、単に欲求を満たすとか、解り易いものだった気がするねぇ」

フォーチュン「今のデスは、意外か?」

エンプレス「明らかに変わったろ? 人助けをするような奴じゃなかった」

 

 フォーチュン、両手の甲を腰に当て、少し背中を伸ばす。

 エンプレスの目線と、自分の目線を宙で結ばせる。

 

フォーチュン「デスの行動原理はのう、ふたつあるんじゃ。それは今も昔も変わらん」

エンプレス「ふたつ、かい?」

フォーチュン「(右掌をエンプレスに向け、人差し指だけ立て)ひとつは、本来の“仕事”に関することじゃ。これは死神の役目である以上、絶対に欠かせぬ。(右手の中指も立て)ふたつ目は・・・こっちが、今と昔では違う。昔はそなたの言う通り、生きる為の欲求を満たす行動。食事や睡眠など、じゃな。しかし今のデスには、これを上回る原理が存在しおる・・・(声を一段落として)エロファントじゃ」

エンプレス「(ハッ、と何かに気付いて)あっ・・・」

フォーチュン「デスにとってエロファントは、唯一にして絶対、じゃぞ。生き物としての欲求や本能すら超えておる。(右手を下げ)逆に問うがのう、エンプレス。エロファントの行動原理は、何じゃったか判るじゃろ?」

 

 驚嘆したように、やや両眼を開いて息を飲むエンプレス。

 そのまま、暫く。

 更に、間。

 エンプレスの表情が、一気に融和する。

 

エンプレス「(ふうう、と大きく息を継いで)人助け、だったねぇ」

フォーチュン「(微かに笑い)なら、デスが何故これだけの行動をしとるか、もう答えは出ているではないか」

エンプレス「自分の旦那だったらこうする、旦那だったらこうしようとしてることを忠実に実行してる、って訳かい・・・」

フォーチュン「ただし、エロファントは心理面で人助けをするが、デスは身体を張って人助けをしとる、という違いはあるがのう」

エンプレス「(頭を掻き)いやぁ、ちょっと予想以上の結論だったんで驚いたけどさ、まあ、(頷いて)デスだったら納得だね」

フォーチュン「同意じゃ。しっかし・・・(はぁ、と息を吐き)やはり奴は働き過ぎじゃ。今も働いておる。とは言うても、今の危機的状況では休む訳にもいかんしのう。早うケリを付けて、労ってやりたいものじゃ」

エンプレス「真面目だからねぇ、デスは」

フォーチュン「(ふっ、と笑い)何を今更言うておる。真面目じゃから、死神の役目も放り出さんと続けておるのじゃぞ」

エンプレス「(愉快そうに高笑い)ハハッ! まったくだね!」

 

 直後。

 ポウ・・・と、フォーチュンの髪に装備された2本の輪、エンプレス所持の鞭が発光し始める。

 どちらの装備品も、薄青色と橙色の光が交互に点滅している。

 ハッ!と気付いて、素早く腰のホルダーから鞭を抜き取るエンプレス。

 

エンプレス「(訝しそうに鞭を持ち上げ)何だい? 急に光り始めて・・・」

フォーチュン「(髪の輪を見て、ハッ、と顔を上げ)霊力が反応しとるんじゃ! 近いぞよ!」

 

 身体を返し、タタッ、と窓に走り寄るフォーチュン。

 

フォーチュン「(大声で)タワー! 城の周りはどうじゃ!?」

タワー「(左眼を左右に動かし)ダレモ、イナイ。チカヅイテ、ナイ」

 

 途端。

 タワーの視線が、フォーチュンを通り越した更に奥、部屋の扉に向けられる。

 

タワー「(城を覗き込み)シロ、ノ、オク!」

フォーチュン「(バッ、と扉の方を向き)しもうた! もう侵入されおったか!」

エンプレス「(踵を返し、チッ、と舌打ち)やられたねぇ・・・急ぐよ!」

フォーチュン「(タワーを見て)タワー! ワールドを頼むぞよ! いざとなれば壁を壊しても構わん! 修繕は後からいくらでも出来る! ワールドにゴーストを近寄せるでないぞ!」

タワー「(気迫の声で)ター! ワー!」

 

 エンプレス、バタンッ!と、荒々しく扉を開いて走り出す。

 フォーチュン、即座に後を追って駆け出す。緊迫した表情。

 

 

★ マジカルランド中央・フォーチュンの居城・客間

 

 先刻まで13名が集っていた、客間。

 部屋の片隅、広めの間隔が取れる場所で、幾度もスクワットを繰り返すストレングス(父)。

 ガオガオはその隣で、猫のようにしなやかに身体を伸ばしたり、首を回したり、柔軟運動をしている。

 ふたりとも、意欲を漲らせている表情。

 片や、長テーブルの端、自分たちが座っていた椅子の付近に立っているブルースとマッコイ。

 ふたりは、卓上に広げられた80センチ角ほどの羊皮紙を覗き込んでいる。

 そこに描かれているのは、フォーチュン居城の見取り図。

 

マッコイ「やっぱり玄関ホールが一番来そうだな」

ブルース「(頷き)そうだな。思ったよりも、この城は窓が少ない。(見取り図を指で示し)侵入するとすれば、玄関、廊下、階段、廊下、ここの客間までのルートが主筋となるだろう。壁を抜けてくるよりも、空間を移動してくる率を優先して考えなければ」

マッコイ「(ブルースを見て)配置だけどよ、玄関は俺たちでいいんじゃね?」

ブルース「(マッコイに視線を向け)無論、そのつもりだ。出来るだけ、こっちの住人の方々は闘わずに済む配置にしよう」

マッコイ「食い止められるだけ食い止めないとなぁ」

ブルース「我々ふたりとエンペラーさんは、玄関ホールで守備隊とする。廊下から階段に掛けては、移動力と攻撃力を重視した遊撃隊を数名、客間とワールドさんがいる寝室までは、魔法中心の編成部隊で最終防衛ラインとしよう。(マッコイに顔を向け)場合によっては、私たちのどちらかが遊撃、ないし最終防衛に回る」

マッコイ「オッケー。実際に戦闘が始まってからフレキシブルに対応しないとな」

 

 ふと、ストレングス(父)とガオガオが運動を止め、ふたりに近寄ってくる。

 それに気が付いて、視線を向けてくるブルースとマッコイ。

 

ガオガオ「ウガウ、ガウ」

ブルース「(ガオガオに目線を結び)あなたも闘ってくれるんですね。頼りにしてますよ」

ガオガオ「(フン、と鼻息荒く)ガアォ!」

マッコイ「(ガオガオに顔を寄せ)俺たちの世界じゃさ、ライオンとは会話出来ないんだぜ。おっまえスッゲーよな!」

ガオガオ「(牙を見せて笑い)ガウッ!」

ストレングス(父)「(ニカッ、と白い歯を見せ)コッチじゃ当ったり前のことだからヌァ!」

ブルース「いやはや、恐れ入ることばかりですね、このマジカルランドは」

 

 突然。

 壁を挟んだ向こう側から、女性の悲鳴。

 4名が同時に、バッ!と身体をその方向に返す。

 その方向に扉はなく、複数枚の絵画が飾られてある壁面となっている。

 

ブルース「(眉を顰め)悲鳴?」

マッコイ「(右手人差し指で壁を指し)隣の部屋からしたぜ!」

ブルース「(見取り図を素早く見て)隣は・・・『謁見の大広間』ですか!」

ストレングス(父)「さっきの声は、プリエステスだズォ! 何か出たヌァ!」

 

 全身を翻し、ズダッ!と右足を力強く踏み出すストレングス(父)。

 ガオガオも廊下に駆け出そうと、四肢を踏ん張り、一度尻尾の方向に腰を引く。

 

ブルース「(ストレングス〈父〉の背中に向けて)待って下さい! 私たちが先に行きます! ゴーストが出現したかも知れません!」

ストレングス(父)「(フンッ!と鼻息荒く)オレも闘えるズォ!」

ガオガオ「ガオン! ガアウッ!」

 

 間髪入れず、黄色いバックパックを素早い動作で背負うブルースとマッコイ。

 背中に回して位置を直しながら、並んでストレングス(父)とガオガオの眼前に来る。

 

マッコイ「(手で遮って)いきなり出るのは危険だぜ! まずは、俺たちが先頭で入る!」

 

 言い終わるより早く、客間入り口の扉に飛びつくマッコイ。

 そのままの勢いでレバーを、ガチャン!と下げて、扉を大きく開放する。

 ブルースとマッコイ、ほぼ同時に廊下に飛び出していく。

 ふたりに続いて客間を走り出るストレングス(父)とガオガオ。

 4名が駆け寄る方向、廊下側に大きく開け放たれている、巨大な観音開きの扉。

 緊迫感を覚えるブルースとマッコイ。

 廊下の床を滑走するような鮮やかな足捌きで、直角の軌道で隣室に跳び込む。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。