デスとハイエロファントの物語:REBOOT 最終章 作:桁石スミオ
タイトルは、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ作曲、教会カンタータBWV146「われらは多くの患難を経て Wir müssen durch viel trübsal」より。
登場人物:「マジカルドロップ」シリーズより、デスとハイエロファント、ヤング(リトル)・フォーチュンとタワー、ワールド、マジシャンとハイプリエステス、エンプレス、ジャスティス、ストレングス親子、ガオガオ、エンペラー。「ゴーストロップ」「マジカルドロップV」より、ブルース、マッコイ、マッシュマン。
注:台本形式読み物です。
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デスとハイエロファントの物語:REBOOT
【 最終章第三話の壱:我らは、多くの患難を経て(前編) 】
★ マジカルランド中央・フォーチュンの居城・謁見の大広間
玉座から起立したまま、フォーチュンたちを視界に映しているマッシュマン。
蔑み、見下した表情。両口角をこれ以上ないほど歪ませ、上げている。
眼光鋭く睨み返しているマジシャン。霊力光を放つ右掌を掲げている。
フォーチュンの両肩に乗せた両掌に、更に力を込めるハイプリエステス。
やがて。
それまで顔を伏せ、視線を投げていたフォーチュンが、一層頭を垂れる。
フォーチュン「(低い笑い声)ふっふっふっ・・・(少し顔を上げ)はっはっは・・・(がばっ、といきなり顔を上げて、一際高い笑い声)はーっはっはっは!!!」
謁見室にいる全員の目線が、一気にフォーチュンに集まる。
誰もが意表を突かれたように、驚きの表情。
今までとは打って変わった、愉快そうなフォーチュンの笑顔。
フォーチュン「そうか! そうであったか! すべての点が! 線が! 全部繫がりおった! 全部納得じゃ! その話が真実なら! マッシュマン! そなたに感謝せねばのう!!!」
直後。
マジシャンとハイプリエステス、愕然とした表情へと変化させる。
その目の前、すっ、と再び顔を伏せて俯くフォーチュン。
口元には、意味あり気な笑みを湛えたまま。
ハイプリエステス「(声を震わせ)嘘・・・ざましょ?・・・」
マジシャン「(唖然と)フォーチュン・・・お前・・・何を言って・・・」
ハイプリエステス、衝撃の余り彼女から手を離し、蒼褪めて凝視する。
マジシャン、思わず右掌を下げ、霊力の光を消す。
その眼前で、ニヤアリ、と歪んだ顔を更に歪ませ、目尻を下げるマッシュマン。
マッシュマン「(勝ち誇った嗤い)ムシュシュシュ・・・その通り、ゾ。フォーチュン、貴様は我輩と共にこのマジカルランドを滅ぼし、ゴーストの王国を築き、支配するのだ。さあ・・・我が娘フォーチュン、我が元に来い」
ぴく、とフォーチュンのこめかみが反応する。
マッシュマン、右腕を伸ばし、誘うように五指を内側に返す。
沈黙。
沈黙。
長い、間。
尚も、間。
フォーチュン「(伏せた顔から見える口角を上げ)・・・お断りじゃ」
マッシュマン「(ピク、と反応し)・・・何ィ?」
フォーチュン「(バッ!と顔を上げ)聞こえんかったのか? (明確な声で)お・こ・と・わ・り・じゃ!」
何とも爽快そうな、曇りの欠片もない笑顔のフォーチュン。
急な展開に、声を失ったままのマジシャンとハイプリエステス。
意味不明といった様子のマッシュマン。
少しの、間を置き。
フォーチュン、マジシャンに視線を結んで、こくん、と首を縦に振る。
何かを理解したような、安堵の顔になるマジシャン。
続いてフォーチュン、ハイプリエステスに視線を結んで、こくん、と首を縦に振る。
何かが解ったような、柔らかく温かい微笑みを、ゆっくりと浮かべるハイプリエステス。
そしてフォーチュン、今度は抉るような冷たい目線を、マッシュマンに向ける。
マッシュマン「(怪訝そうに)聞き違いか? 断られたように聞こえたが?」
フォーチュン「何じゃ、聞こえておるではないか。断ったんじゃ」
マッシュマン「(意外そうに)貴様は我輩と同種の存在、ゾ? かつてマジカルランドの住人の魔力を集め、支配しようとしていたではないか? 今更何を・・・」
フォーチュン「(言葉を割り込ませ)じゃが断るっ!!!」
マッシュマン「(怒気を孕んで)何故断る!? 今しがた、我輩に感謝する、と言ってたではないか?」
フォーチュン「ああ、それは真じゃ。感謝しておるぞよ。仕方ない、一から説明してやるわ」
フォーチュン、深紅の細長いカーペットの上に歩を進める。
噛み締めるように数歩歩き、謁見室全体のほぼ中央付近で立ち止まる。
一度深呼吸をして、ふうう、と息を吐く。
それから、マッシュマンに目線を放り投げる。
フォーチュン「確かにわらわは、マジカルドロップを自分で使う為に、この世界の魔力を独占しようと企んだ。じゃがエロファントに敗れ、赤子になり、それまでの記憶も封じられた・・・それから、今の父上、母上に育ててもろうた。(微笑んで)本当に幸せな日々じゃった・・・わらわが『運命の輪』と承知しておきながら、かつて魔術均衡を歪ませた元凶と知っておきながら、わらわに愛情を注いでくれたのじゃ・・・」
目の端を、異様な物を見るように絞るマッシュマン。
フォーチュン「じゃがその日、マッシュマン、そなたがわらわの記憶を戻し、封印された魔力を開放した日、最大の親不孝をしでかしてしもうた・・・(ギリッ、と奥歯を噛み)今も悔やんでおる。しかし、安心せい、マッシュマン。(マッシュマンに目線を投げ)それをそなたの責任にするつもりはない。わらわの未熟さ、至らなさが原因じゃ。父上、母上の気持ちを踏み躙った贖罪は、これから生涯掛けても償うつもりでおる」
他の誰も言葉を発さない室内。
フォーチュンの一言一句だけが、清廉な響きを持って展開されている。
フォーチュン「記憶が戻って、わらわはここ、自分の城に戻った。そこで・・・タワーに再会出来た。(頬を染め)タワーはわらわの帰りをずっと待っててくれおった。本当に嬉しゅうて嬉しゅうて・・・そして決めたんじゃ。タワーとこの身が朽ち果てるまで添い遂げよう、とな・・・」
マッシュマン「(焦れたように)貴様の惚気話はいい! 我輩に感謝とは何故、ゾ!?」
フォーチュン「(呆れたように、ふん、と鼻で息をして)ここまで話してまーだ解らぬか? 察しが悪いのう」
フォーチュン、両腕を体側で伸ばして突っ張らせ、ぎゅっ、と拳を握る。
きり、と澱みのない両眼を、マッシュマンに向ける。
フォーチュン「父上と母上の恩恵を自覚出来たのも、タワーへの永遠の想いを抱けたのも、マッシュマン、そなたが記憶を呼び戻してくれたのがきっかけじゃろうが? これを感謝せんと何に感謝するのじゃ?」
途端。
明らかに気分を害した様子の顔をフォーチュンに対させるマッシュマン。
それを目に映し、瞼を半分閉じて眉を寄せるフォーチュン。
フォーチュン「(嘲るように)どうしたんじゃ? 何かわらわの言葉に不満がありそうじゃな」
マッシュマン「不満だらけ、ゾ。感謝という割には、我輩と手を組む気はないのだな?」
フォーチュン「やーれやれ、これもはっきり言っとくしかないか・・・時間の無駄、なのじゃがのう」
マッシュマン「(苛つき)話せ! 何が不服、ゾ!?」
次の、瞬間。
フォーチュンの表情が、深い怒りの雰囲気を帯びる。
今までになく鋭く、相手を貫通させるような眼光。
フォーチュン「(心底の怒気を含ませ)・・・誰が、誰の娘、じゃと?」
マッシュマン「(眉間に皺を寄せ)ああ?」
フォーチュン「(劈くような、大声)わらわはフォーチュン! マジシャンとプリエステスの娘、フォーチュンじゃ! わらわを娘と呼んで良いのは! 今の父上と母上だけじゃ! そなたのような下衆が! わらわを娘と呼ぶでないわ! 汚らわしい!」
マッシュマンの顔が、一変。
ピキ、と青筋を立て、見る見る憤怒の形相。
マッシュマン「(地の底から湧くような声で)下衆・・・だ・・・と?」
フォーチュン「(この上ない憤りで)下衆そのものであろうが! マジカルドロップを手にしたいのであれば、正々堂々正面から攻めて来れば良いものを・・・そちらの方が、まだ可愛げがあるわ。それをよくもまあ、反吐が出るような姑息な手段を次々と仕掛けてきおってからに・・・エンペラーを焚き付け、ジャスティスをかどわかし、挙句にワールドを襲いおった! 下衆と呼ばれるのが嫌なら! 腐れ外道の方がよいか!? 好きな方で呼んでやるぞよ!」
ピキ、ピキ、と連続して、マッシュマンの顔に青筋が表面化する。
全身からのどす黒いオーラが、更に濁り、ブワアァ、と天井付近まで立ち昇る。
フォーチュンとマッシュマン以外の全員が、息を飲んで固まる。
マッシュマン「(怒り心頭で)キッ・・・サッ・・・マァッ・・・」
フォーチュン「それにのう、マッシュマン、今ここにおらんが、そなた・・・(眉を寄せ)この世界の死神と法王・・・そなたを追い出して叩き斬った張本人、デスとエロファントが怖いのじゃろう?」
マッシュマン「(絶句して)なッ!・・・」
フォーチュン「知っとるぞよ。そなたは先日、憑依した挙句の果てにエロファントに追い立てられ、デスに斬られたそうではないか? “紫の影”とやらで、それはもう見事に真っ二つ、と聞いておる。そなた本体かどうかは知らぬし、身体でも分割して送り込んだか判らぬが、無関係ではあるまい? じゃからふたりが城を出て行った頃合いを見計らって、ご丁寧にわらわたちの前に登場しおったのじゃろう? まーた斬られては堪らんからのう!」
黙り込むマッシュマン。
顔面にだけ憤怒を貼り付かせ、口を真横に固く結んで、睨む。
全身を、少しずつ震わせ始める。
暫く、そのまま。
更に、そのまま。
フォーチュンから後方にいる各位が、ハラハラしているような不安気な顔。
フォーチュン「(腕組みをして、ふっ、と嗤い)無言、ということは、図星、じゃな・・・しっかしまあ、よくそんな体たらくで大王とやらを名乗れたのう。世界の破滅? マジカルランドの支配? (ギン!と睨んで)はん! 舐められたものよのう! そなた如き腰抜けの小物が! わらわを使役出来るとでも思うたか! 寝言は寝て言うものじゃ! 笑わせるでないわ!」
プチプチプチ・・・と、凄まじい数の青筋が、マッシュマンの頭部を埋め尽くす。
白目を剥き、今度は明確な震えを全身で発する。
マッシュマンの肩、両腕、胴体が、それに連動した周囲の紫黒色のオーラすらも震動している。
フォーチュン、腕組みをしたまま胸を張り、ふっ、と右口角を上げる。
フォーチュン「(これ以上ないほど見下した声)おやぁ? 何じゃそのツマラナそうな面は? 仮にもこの『運命の輪』たるフォーチュンが感謝を述べたのじゃぞ。もっと喜ぶがよかろう? 第一そなた、何じゃったかのう? 自称ナントカ大王様とか抜かしておったな。忘れてしもうたが。(鼻で嗤い)それにしても、王様? 詐称にしてもつまらんな。今のそなたでは屑呼ばわりされても文句は言えんぞ? 王たる者、そんな辛気臭い面ではいかんのう。笑えぃ。支配者は常に勝者の笑みを浮かべるものじゃぞ。それとも何か? もう笑い方まで忘れてしもうたか? 仕方ない、直々に教えてやるわ」
腕組みを解き、右足、左足を順に一歩前に踏み出すフォーチュン。
両脚を肩幅に広げ、一度思い切り顔を伏せる。
そのまま、停止。
少しの、間。
フォーチュン、非常に緩慢な動作で顔を上げ、やや胸を反らし気味にする。
そして、文字通り見下した、虫けらを見るような目をマッシュマンに向ける。
フォーチュン「(ニィヤァッ、と嘲りの笑み)・・・こうするのじゃ」
突然。
ブッッチ―――――――ンンンンッッッッ!!!と、何かが切れる音。
マッシュマン、爆発した如く顔面を崩壊させる。
両目と口、眉、顔の皺が凄まじい角度で吊り上がっている。
絵にも描けない、怒髪冠を衝く形相。
グワバッ!と両腕を真上に上げ、渾身の力で振り下ろすマッシュマン。
マッシュマン「(超激怒)ウッガアアアアアアアアッッッッ!!!」