デスとハイエロファントの物語:REBOOT 最終章 作:桁石スミオ
マッシュマンの両掌から、爆風。
バァウオオオオオオオンンン!!!と、火花混じりの猛烈な風が発生する。
直後。
マジシャン、床を蹴ってフォーチュンに駆け寄る。
彼女の右隣に飛び込み、ズダン!と左足を踏み付ける。
同時に、左腕を真っ直ぐマッシュマンに伸ばし、掌を縦にして翳す。
間髪を入れず、右腕を、すっ、と正面に伸ばして掌を開くフォーチュン。
途端。
ブオン・・・と、半透明な膜が一気に広がり、フォーチュンとマジシャンの前にそそり立つ。
それは瞬時に部屋を拡散し、大広間を横断する巨大な壁となる。
ドッバア―――ッン!!!と衝突するマッシュマンの魔法。
だが、フォーチュンとマジシャンの魔術壁に完全に阻まれ、威力を失う。
その光景をただ茫然と見ている、他の各位。
マッシュマン、発狂したように何度も腕を振り翳しては振り下ろし、魔法攻撃を続けている。
意味不明な奇声を発し、口角に泡を飛ばし、術を繰り出す。
爆炎を放ち、豪風を叩き付け、氷の塊までもぶつけてくる。
しかしいずれの魔法も、フォーチュンとマジシャンの魔術壁より後方には至らず。
完璧な遮断。
フォーチュン、余裕の微笑みを浮かべる。
マジシャン、フォーチュンの横顔を見て、眉を寄せる。
マジシャン「フォーチュン! 煽り過ぎだ! 自重しろ!」
フォーチュン「(自嘲した口調で)すまんすまん、つい、カッとなってしもうてのう」
マジシャン「まったく・・・まあ、魔術であれば防御するつもりだっただろうがな」
一度息を継ぎ、再度マッシュマンに目を向けるマジシャン。
急に、フォーチュンの表情が、真剣そのものに変化する。
フォーチュン「(真摯な声で)・・・先程言ったことは、本音じゃぞ」
マジシャン「(思わずフォーチュンを見て)本音?」
フォーチュン「(マジシャンを見詰め返し)わらわのような未熟者を、よくぞここまで導いてくれおった・・・父上、そなたがわらわの父上で本当に良かった・・・母上も、わらわの母上で本当に良かった・・・(蕩けるような声色で)感謝しておる・・・」
マジシャン「そうか・・・(フッ、と清涼な笑み)フォーチュン、お前も・・・よくぞ私たちの娘でいてくれた。私たち夫婦の最愛が、お前で良かったであーる」
ふたりが、掌を前面に掲げたまま、すっ、と同時に反対の腕を背後に引く。
マジシャンは右腕を横から後方に移動させ、右掌を軽く握ってから開く。
フォーチュンは左腕を横から後方に移動させ、左掌を軽く握ってから開く。
ポウ・・・と、後ろに引いた掌から、霊力の光を湧かせるふたり。
フォーチュン「父上、わらわの魔術に乗せてもらえるかのう?」
マジシャン「(自信満々に)任せておけ。余裕であーる」
刹那の、後。
フォーチュン「(腹の底からの声で)ダークホイールッッ!!!」
マジシャン「(腹の底からの声で)マジカル・フレイムッッッ!!!」
気合一閃。
振り翳した掌を、一瞬で前方に振り抜くフォーチュンとマジシャン。
途端。
目も眩むばかりの輝きとなり、霊力光が一塊となって膨れ上がる。
一瞬で、光は巨大な縦の目の竜巻となる。
更に、凄まじく荒れ狂う炎を纏って渦を成す。
それが、ゴオオオオ・・・ゴオオオオオッッ!・・・と、急速に回転を速める。
ゴゴゴゴゴゴオオオオオッッッ!!!と、凶暴なほどの加速と風圧が加わる。
霊力光、突風、爆炎の3つが混合し、部屋前方を一瞬で埋め尽くすほどの大きさ。
マッシュマン「(驚愕)何ィッ!」
それまで放っていたマッシュマンの魔法、消し飛ぶ。
愕然としている彼の眼前、自分の術はすべて飲み込まれていく。
フォーチュンとマジシャンが放った魔術、巨大な生物のようにうねる。
それはまさに、炎の龍の如き。
“龍”は空中で回転してとぐろを巻き、マッシュマンに襲い掛かる。
獲物を頭から丸呑みするよう、頭上から急襲する。
直後。
ドバアアァァァンン!!!と、玉座から炸裂音。
叩き付けられた魔法が爆発し、マッシュマンは全身炎上し始める。
舐めるような火に包まれ、火達磨と化すマッシュマン。
両腕をばたつかせ、猛烈な熱さでもがき苦しんでいる様子。
マッシュマン「(悲鳴混じりで)アチチチチチチィッ!!! ヒイイイイッッ!!!」
マジシャン「ほほお、効いてるであーる。霊力に魔力を上乗せすれば、こうも効果があるとはな」
フォーチュン「(にぃ、と笑い)どうじゃマッシュマン? 少しは温まったじゃろう? 折角じゃ、もっと温まっていくとよい!」
マッシュマン、火を消そうと身体を前後左右に大きく振っている。
そして重心を崩し、玉座から手前の段差に躓き、前方に倒れていく。
ドオッ、と俯せで転倒するマッシュマン。
その頃には、全身の炎はいつの間にか鎮火。
ただ周辺には、生物細胞の焼け焦げた異臭が漂い、それが謁見室後方へと流れていく。
ピク、ピク、と身体が痙攣している様子のマッシュマン。
フォーチュンとマジシャン、防御と攻撃の魔術を放った両掌を下げ、腕を体側に戻す。
暫しの、間。
暫しの、間。
気が付いたように、ガバッ!と顔を上げて、フォーチュンとマジシャンを見るマッシュマン。
ゼェ・・・ゼェ・・・と苦しそうな呼吸。憎悪に染まる両眼。
フォーチュン「(呆れ果てた目で)なーんじゃ、あれだけ偉そうな口を叩いた割にはあっけないのう。もう終いか? まあ、その方が良い。無駄な時間を過ごさんと済むわ」
マジシャン「その通りだな・・・(冷酷な目線で)さて、マッシュマン・・・先程の私の言葉を覚えているであーるか? 命乞いの時間だ・・・神に祈るといい。父なる神も、少しはマシな転生を望むくらいの慈悲はくれるであろうからな」
マッシュマン「(凄まじく荒い息で)た・・・たかだか一度魔術を喰らわせたくらいで・・・(怒声)ふざけるな! 大王がこれしきで負けると思うか!?」
フォーチュン「認めぬなら、認めるまで術を喰らわすだけじゃ。マジカルランド第一位と第二位の魔導士を相手に魔法対決で勝とうなど、千年早いわ! 生まれ変わってまいれ!」
マジシャン「(フッ、と笑い)ちなみに第一位は私であーるがな」
マッシュマン「(愕然と)馬鹿なッ! 魔力の量は格段にフォーチュンが上、ゾ!?」
フォーチュン「(愉快そうに笑い)ははっ! 人生経験の質の差じゃよ! わらわなど足元にも及ばぬ!」
マッシュマン、押し黙り、ギリギリギリ・・・と歯軋りをして顔を歪める。
そのまま、少しの沈黙。
フォーチュンとマジシャン、マッシュマンの目線が宙でせめぎ合う。
マジシャン「命乞いの言葉はない、であーるか・・・止むを得まい。(右掌を上げ)覚悟しろ」
フォーチュン「(左掌を掲げ)茶も出さんとすまんかったのう、マッシュマン・・・(殺気を込めた声で)終わりじゃ!」
突然。
力を溜め込んでいたような動作で、バン!と起き上がるマッシュマン。
素早く身体を起立させると、右掌を背後に向けて翳す。
ブウオン・・・と、玉座前方の空間が紫色の渦を巻き、中央が凹んで漆黒の闇を晒す。
直径1メートルほどの、ワームホールが出現。
マッシュマン、あっという間に、且つ慌てたようにその“穴”に飛び込む。
誰もが言葉を発することが出来ぬまま、ブイン・・・と閉じるワームホール。
束の間の、静寂。
フォーチュン「(チッ、と舌打ち)奴め! 逃げおったか!」
ブルース「(大声で)第二陣が来ます! 本格的な攻撃はこれからです!」
ブルースに、部屋中の視線が一気に繋がる。
マッコイ「マッシュマンのいつもの手だ。ああやって俺たちを怖ろしがらせておいて、その後、ゴーストの軍勢を攻め込ませる。そしてボロボロになったトコで憑依させて乗っ取る、って具合なんだぜ」
フォーチュン「すると・・・次には城内にゴーストを送り込んでくるのじゃな?」
ブルース「(頷いて)そうです。時間を置かずに攻撃を開始するでしょう。先程決めた戦闘配置を、皆さんにお伝えします。至急、各位で迎撃の用意を願います!」
フォーチュン「判ったぞよ。(全員を見渡し)皆! 指示を仰ぎ! 準備次第配置に着くのじゃ!」
一斉に、全員が頷く。
ブルースとマッコイを中心に、他の同室者が集まり出す。
フォーチュンとマジシャン、肩を並べ、カーペットを歩み寄っていく。
待ち兼ねたように、ハイプリエステスがふたりに小走りに近付く。
フォーチュンも、少し急ぎ足でハイプリエステスに向かう。
そのまま、流れるような動作で、抱き締め合うふたり。
フォーチュンは母の首に腕を回し、ハイプリエステスは娘の背中に腕を回し、ぎゅうっ、と力を込める。
ふたりとも両の瞼を閉じ、互いの体温を交わし合う。
傍らでその姿を見詰めて、穏やかな微笑みを浮かべるマジシャン。
やがて、惜しむように身体を離し、頷き合うフォーチュンとハイプリエステス。
マジシャン、ハイプリエステスの肩に右手を乗せ、目で移動を促す。
ハイプリエステス、マジシャンと並んで身体を返す。
夫婦ふたりが、ブルースとマッコイの元に歩を進めるのを確認し、踵を返すフォーチュン。
今度は、謁見室側方の石柱付近に立っているジャスティスとストレングスに近寄る。
少し俯いて、申し訳なさそうな表情のジャスティス。
フォーチュン「怪我はないか、ふたりとも」
ストレングス「(頷いて)うん、大丈夫。問題なし!」
ジャスティス「(ストレングスに視線を繫げ)ホントにごめんね、ストレングス。ボクが先走っちゃったから迷惑掛けちゃったね・・・」
ストレングス「(首を左右に振り)ううん、気にしないで」
フォーチュン「マッシュマンに煽られた口惜しさ、痛いほど解るぞよ。奴めの卑劣な言動に激高した気持ちも、な。(ジャスティスを見詰め)再度の突撃を、よくぞ自重した・・・悔しかったであろうが、よくぞ耐えてくれた。本当の戦はこれからじゃ。始まる前に怪我がなくて何よりじゃ。その怒り、これから思う存分ぶつけるがよい」
ジャスティス「(自嘲気味に)耐えたワケじゃないよ。抑えてもらってただけ・・・(フォーチュンに視線を結び)マッシュマンにされたコト、キミの方がずっと悔しかったろうし、苦しかったろうって思うよ」
フォーチュン「(頭をゆっくりと振り)わらわなど、ただ長生きしてきただけじゃ」
目を合わせた状態で、ふっ、と一緒に笑顔になるフォーチュンとジャスティス。
凛として真摯な眼差しを結ぶ。
フォーチュン「武者働き、期待しておるぞよ」
ジャスティス「まっかせて!」
ストレングス「(やる気に満ちた笑みで)行こっ! ジャスティスっ!」
床を蹴り、集団の方へと並んで駆け寄っていくジャスティスとストレングス。
その後ろ姿を暫く眺めて、ふう、と短く吐息を漏らすフォーチュン。
そして、確かめるような足取りで、ゆっくりと後に続く。
ブルースとマッコイが、次々と指示を出しているのが聞こえる。
フォーチュンが辿り着いた頃、配置を聞いた各位は、既に部屋を移動し始めている。
その場には、同じ組み合わせとなるブルース、マッコイ、エンペラーが残る。
フォーチュン「客人、わらわの配置は何処じゃ?」
ブルース「(フォーチュンを見て)フォーチュンさんは、ワールドさんの警護を主とした、寝室での防衛を願います。中庭はタワーさんが配置されてますので、連動して頂けますか?」
フォーチュン「(大きく頷いて)心得た」
マッコイ「別件なんだけど・・・(軽く頬を掻き)そろそろ『客人』っつーんじゃなくて、名前、呼び捨てでいいぜ」
ブルース「そうですね、私もそう思います。客としてここに来たのではなく、闘う為に来たのですから」
エンペラー「(ニィ、と笑い)そーね。アタシたち“機動部隊”の仲間ですものね」
フォーチュン「(ふっ、と口角を上げ)調子に乗っとるのう、エンペラー。(ブルースとマッコイに改めて視線を向け)まあ、そなたらがそれで良いのなら、そうさせてもらおうか。改めて・・・ブルース、マッコイ、よろしゅう頼むぞよ」
ブルース「こちらこそ、よろしくお願いします」
マッコイ「(左手で右腕を、パン!と叩き)気合入れてこうぜ!」
4人が、同調したような不敵な笑み。
ほぼ同時に、首を縦に振り合う。
フォーチュン「ところで、つかぬことを聞くが・・・マッシュマンは何歳じゃ?」
マッコイ「(少し思い出すような仕草で)確か・・・二千歳、って言ってたな」
フォーチュン「(一瞬息を吸い、吐き捨てるように)何じゃ! 小僧ではないか! 舐めおってからに!」
エンペラー「(ジト目で)いや・・・一万歳のあンたから見ればほとんど小僧よ・・・」
ブルース「(ジト汗で)まあ、おっしゃる通りです・・・」
腕組みをして、膨れたように唇を尖らせるフォーチュン。