デスとハイエロファントの物語:REBOOT 最終章   作:桁石スミオ

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最終章第三話の壱:我らは、多くの患難を経て【前編】-3

★ マジカルランド中央・フォーチュンの居城・中庭の上空

 

 星の瞬く夜空に、皆既月蝕の満月。数刻で天頂に達しようとする位置。

 城の中庭上空。3階層ほどの高さ。

 空間に突然、ブウイン・・・という音と共に、ワームホールが口を開く。

 中央の闇より、転がるように飛び出してくるマッシュマン。

 漆黒の渦は、彼が姿を現した後、ブイン・・・と追っ手を遮るように閉鎖される。

 マッシュマン、紫黒色のオーラを纏い、中空に浮かんでいる。

 息を切らせたような呼吸。惑っている表情。

 

マッシュマン《(冷や汗を垂らし)何だあの無茶苦茶な魔力は! まさかここまで差があるとは想定外、ゾ!》

 

 チラ、と振り返って城を見るマッシュマン。

 

マッシュマン《だが・・・あれほどの罵倒・・・ここまで我輩を虚仮にしようとは・・・》

 

 マッシュマンの裡に、先程のフォーチュンの嘲りの表情が浮かぶ。

 連続して思い出されてくる、蔑みの目、罵りの言葉の数々。

 見る見る、マッシュマンの顔が般若のような怒りの形相に変わる。

 

マッシュマン《おのれ! 散々馬鹿にしおって! 目にもの見せてくれようゾ!》

 

 そして、身体を城の方向に、グルリ、と返す。

 途端。

 自分の左右、下方から急激に陰が迫るのを察するマッシュマン。

 

タワー「(轟く声で)ターッ! ワーッ!!!」

 

 ズオーンッ!と風を巻き上げ、タワーの両掌が競り上がってくる。

 マッシュマン目掛けて、頭上で蚊を叩き潰すように移動する。

 急上昇するマッシュマン。

 間一髪、自分の真下で、バズンッッ!とタワーの両方の掌が合わせられる。

 衝撃波で、震撼する周囲の空気。

 無傷のマッシュマン、足下で両腕を体側に戻しているタワーに目線を投げる。

 

マッシュマン「(見下した目で)おおー、危ない危ない。潰されるところだった、ゾ」

タワー「(緑の左眼が、ギラッ、と光り)オマエ! マッシュマン、カ!?」

マッシュマン「ご名答。貴様はタワーだな。我輩に何用、ゾ?」

タワー「オリテ、コイ! ワタシガ、アイテ、スル!」

マッシュマン「(嘲笑)ムシュシュシュ・・・フォーチュンの下僕の分際で、何が出来るというのだ?」

タワー「フォーチュンサマ! マモル! シロ! マモル!」

マッシュマン「この“恐怖の大王”を甘く見ないことだ・・・霊力を全身に蓄えているようだが、魔法の耐性はどうかな? 我輩の魔術で試してやろう、ゾ」

 

 ズイッ・・・と、右掌を広げてタワーに向けるマッシュマン。

 タワー、右拳を握って眼前に掲げ、左拳を胸の前で握り締めて構える。 

 

 

★ 森の道

 

 『聖なる力』の白色光が浮かび上がらせる、深夜の森の道。

 その中を、手を固く結び合ったまま、神殿へと駆け続けているデスとハイエロファント。

 急に、デスが後方の、森林を越えた上空を一度振り返る。

 即座に、ハイエロファントを見詰める。

 

デス「(張るような声で)すまないが! 少し停まるぞ!」

 

 ふたりの足が、ズザァッ、と地を擦り、土埃を漂わせて停止する。

 再度、今まで走ってきた方向に視線を向けているデス。

 

ハイエロファント「(心配そうに)何か感じた?」

デス「(彼方を見るような目線で)・・・城の方角に、凄まじい気配を感じる・・・」

ハイエロファント「(息を飲み)まさか・・・」

デス「(ハイエロファントを見詰め)ああ、どうやら・・・親玉の登場らしい」

 

 デスとハイエロファント、同時に、フォーチュン城の方面に顔を向ける。

 デスの右手、ハイエロファントの左手は、融着したように繋がれたまま。

 眉を寄せ、やや鋭利な目付きになるデス。

 心配気な目線を、漆黒の空に彼方に送っているハイエロファント。

 暫くの、間。

 ハイエロファント、何かを決意した眼差しをデスに繋げる。

 

ハイエロファント「デス、提案があるんだ」

デス「(冷静な口調で)・・・マッシュマンを誘き寄せて、囮になるつもりだろ? ハイエロファント」

 

 僅かに目を見開き、すぐに感心したような微笑みを浮かべるハイエロファント。

 

ハイエロファント「よく判ったね」

デス「(ふっ、と笑い)お前なら、そうすると思った」

ハイエロファント「僕の私感でもあるんだけど、お城のみんなに全部の闘いを押し付けるのは、したくない。出来るだけ僕たちに誘導して、みんなの負担を軽くしなきゃならない。しかもマッシュマンがお城に来たなら、尚更だと思う。それに・・・ゴーストは僕の力を嫌うけど、マッシュマン個人としてはどうかな、って考えたんだ。確かに『聖なる力』は苦手だろうけど、憑依を止める力を持っている僕を倒せば、多分、有利になると思うだろうね」

デス「その通りだ。それに“影”とは言え、あたしに以前斬られたことを思い出せば・・・まずあたしを倒そうと思うだろうな。ここにいると判れば、奴は来る。お前の私感とは言うが・・・(凛とした気を眼差しに秘め)あたしの考えもまったく同じだ」

 

 同調した動きで、身体を向かい合わせるデスとハイエロファント。

 深く、同化するように絡み合い、融合するふたりの眼差し。

 

ハイエロファント「(デスの瞳をしっかり見詰め)今までにない危険が起こるかも知れないよ」

デス「(ハイエロファントの瞳をしっかり見詰め)お前と一緒なら、何も怖れない」

 

 今も結合し合っている互いの手を、ぎゅうっ・・・と一際強く握り合う。

 そのまま、バクルス(司教杖)を持った右腕を、すっ、と挙げるハイエロファント。

 

ハイエロファント「(清廉な声で)それじゃあ、いくよ・・・」

 

 天空に真っ直ぐ突き付けられたバクルス。

 その先端の蒼い宝玉に、視線を移動して固定するふたり。

 ハイエロファント、すう、と息を大きく吸う。

 直後。

 

ハイエロファント「(突き抜けるほどの発声)ミラクルビームッ!!!」

 

 バクルス先端の宝玉、凄まじい発光。

 非常に濃い白色の光が、クワアアアァァッッ!と頭上に膨れ上がる。

 刹那の、後。

 ズドムッ!!!と、直径50センチほどの純白の光線が、発射される。

 光輪を波紋のように幾重にも纏い、垂直に、天の頂き目掛けて上昇していく。

 

 

★ マジカルランド中央・フォーチュンの居城・中庭から尖塔の上空

 

 突如、遥か遠くの森の中から、光の柱。

 マッシュマン、思わず顔を上げ、立ち昇る白色の垂直線を見る。

 一旦遅れて、タワーも振り返って同じ光を眼に映す。

 フォーチュン城一帯の空気が、何かの圧を受け止めて震える。

 

マッシュマン「(驚愕)あれは! あの光は!? あの時のッ!」

 

 高台の更に上空から彼方に可視出来る、天蓋を支える柱のような純白光。

 暫く、ただ茫然とそれを眺めているマッシュマン。

 その意識内に、かつて自分が行った出来事が克明に蘇ってくる。

 

【回想シーン】

 

 眉を顰め、申し訳なさそうな切ない表情のハイエロファント。

 バクルスから、クワァァァァァッッ!!!と光球が膨れ上がり、バーンッッッ!!!と前方に破裂する。

 ジャスティスの身体が吹き飛ぶ。大剣は手から弾かれ、離れて落下していく。

 彼女は、全身を白色の光に覆われたまま、ドサッ・・・と背中から草叢に放り出される。

 純白光はそのまま滞留し、隙間なくジャスティスを包んでいる。

 両目は閉じられ、ジャスティスの表情が穏やかな、眠っているような顔に戻る。

 大の字に横たわる彼女から、急激な速度で紫色のオーラが湧き、瞬く間に人の形になっていく。

 そして明らかな人型を成し、ジャスティスから、ふわり、と離れる。

 表情はない、のっぺらぼうの顔。しかし、何気に狼狽えている様子。

 中空に浮かぶ人型の真横に、フッ、と瞬間移動したようにデスが現れる。

 既に大鎌を振り翳し、殺気を込めた視線で睨む。

 ビクッ!と気付いて、デスに対面する人型。

 デス、渾身の力を込めて、大鎌の刃を薙ぐ。

 ズッシャァァァァッ!!!と、紫の人型が、腹部付近で上下に両断される。

 スタッ、と草叢に着地するデス。

 少しの、間の後。

 鈍い切断面が蒼白い光を発し始め、それが一気に、浸食するように人型の表面を広がる。

 苦痛に喘ぐかの如く、もがいて暴れている人型。

 やがて。

 ヒィィィヤァァァァ!・・・と、断末魔の悲鳴のような音を放ち、人型が消滅する。

 

【回想シーン終了】

 

 一瞬にして、ドッ・・・と冷や汗が、マッシュマンの全身に噴き出す。

 

マッシュマン《奴らが・・・あの時我輩の“影”を追い出した奴らが・・・法王と死神があそこにいる、というのかッ!? 道理で我輩の前に出て来ない訳だ!》

 

 続けて、マッシュマンの裡に、先刻までのフォーチュンとの遣り取りが再現される。

 罵り、嘲り、卑下した数々の文句と表情と目線。

 

【別の回想シーン】

 

フォーチュン「そなた・・・(眉を寄せ)この世界の死神と法王・・・そなたを追い出して叩き斬った張本人、デスとエロファントが怖いのじゃろう?」

 

【別の回想シーン終了】

 

 ギリイィッ・・・と、痛いくらいに奥歯を噛み締めるマッシュマン。

 再度、怒りの色に染まっていく顔面。

 

マッシュマン《誰が・・・怖い、だと?・・・我輩は“恐怖の大王”! 怖れさせることはあっても! 怖れることはないのだゾ!》

 

 マッシュマン、急に、フッ、と表情を元に戻す。

 一時眉を顰め、思考している様子を表に出している。

 そして明察に辿り着いて閃いたように、ニヤァ・・・と凶悪な嗤いを浮かべる。

 

マッシュマン《良い考えを思い付いた・・・法王と死神を斃し、屍をフォーチュンたちに見せてやれば・・・絶望し! 我輩に平伏す筈! まずは奴らを片付けてくれようゾ!》

 

 既に、遠くの白色光の柱は、天に吸い込まれるように消えている。

 中庭で、マッシュマンを見上げて睨み付け、焦れたように右腕を掲げるタワー。

 

タワー「コイ! ワタシ、ト! タタカエ!」

マッシュマン「貴様と遊んでいる時間はない。土塊の人形には、相応しい相手をくれてやろう、ゾ」

 

 スウーッ、と更に上昇し、城の最も高い尖塔の、更に上空に移動するマッシュマン。

 そして城全景を足下にし、両腕を真上に挙げ、掌を上にして掲げる。

 五指を全開にして広げ、夜空を凝視する。

 

マッシュマン「(腹の底からの声で)出でよ! ゴーストの軍団! 城を蹂躙せよッ!!!」

 

 途端。

 ブウウイイイイインン・・・と、重低音を伴い、空間が横に渦を巻く。

 台風の雲のような、紫色と黒色が混ざり合った巨大な渦巻き。

 “目”に当たる部分が一層上空に凹み、漆黒の闇が口を開く。

 その全直径、約10メートルほど。

 黒い霧のような気体が、モヤァ・・・と放出され始める。

 渦の“目”から、薄ぼんやりとした光の球体が、数体見え始める。

 その、直後。

 わらわらわらわらァッ!!!と、3種のゴーストが一斉に飛び出してくる。

 オレンジ、ブルー、グレーのいずれも、数え切れないほど。

 しかも、ドドドドドドドドォッ!!!と、滝の落水の如く噴き出して出現している。

 怒涛と言うべき、勢い。

 無数と言うべき、個数。

 マッシュマンの頭上を中心に、城の全空域を瞬く間に埋め尽くす。

 

タワー「(驚愕して)コレガ! ゴースト、カ!」

 

 見る間にゴーストが、城の尖塔から外壁に沿って滑るように降りてくる。

 ハッ、とそれに気付いたタワー、すかさず身体を返す。

 窓の開け放たれたフォーチュンの寝室を背に、ズ、ズズ・・・と後進する。

 慎重に背中を外壁に接近させるタワー。

 やがて、窓枠とガラスの割れる、パリン、という小さな音が響く。

 タワー、自分の背中を、ピタリ、と城の壁に密着させる。

 フォーチュンの寝室の窓は、タワーの背で完全に塞がれている。

 間髪入れず、タワーに襲い掛かるゴーストの群れ。

 ポウッ・・・と、全身に橙色の霊力光を纏うタワー。

 背中を外壁に押し当てたままの姿勢で、バウン!と右腕を横に薙ぐ。

 僅か一掻きで、数十体のオレンジゴーストが、悲鳴を上げて蒸発する。

 

タワー「(勇ましく)シロ、ニハ、ゼッタイ、ハイラセナイ!」

 

 続け様に、今度は全身を薄青色の光で染め上げ、左腕を払うタワー。

 数多くのブルーゴースト、二度目の攻撃を喰らったグレーゴーストが、雲散霧消。

 しかし尚も、ゴーストの軍団は雲霞の如く押し寄せている。

 マッシュマン、両腕を体側に下ろし、闘っているタワーに蔑んだ目線を放る。

 

マッシュマン「何処まで耐えきれるか、見物、ゾ。しかし見届ける暇はない。(遥か遠方を眺め)・・・まずは法王と死神を斃す。すべての支配はそれからゾ!」

 

 それから自分の上にある巨大なワームホールを、チラ、と見る。

 確実に固定され、消える気配はない。

 ニイヤァ・・・と、歪を極めたような嗤いを出し、宙を移動し始めるマッシュマン。

 音もなく、夜空を背景に、森林の彼方目指して加速して飛行していく。

 

 

★ 森の道

 

 光線を放ち終わったバクルスを、すっ、と下に降ろすハイエロファント。

 

ハイエロファント「(城の方向に目線を投げて)上手くいったかな?」

 

 デス、両の瞼を閉じ、少し俯く。

 口元を引き締め、何かを感知しようとしている様子。

 ハイエロファント、その横顔を、じっ、と見詰め続ける。

 

デス「(顔を上げて、ハイエロファントを見て)来た! 大きな気配が動いた! こっちに向かって来る!」

ハイエロファント「(安堵して)良かった・・・」

 

 『聖なる力』の光のヴェールに包まれた中。

 身体を向かい合わせた状態のまま、勇ましい表情を交わす、ふたり。

 

ハイエロファント「(デスと眼差しを絡め)何があっても君を護るから、心配しないで」

デス「(ハイエロファントと眼差しを絡め)心配はしていない。お前と共にいられるだけで、何の不安も迷いもない。そして・・・(微笑んで)どんなことがあっても立ち向かっていけると思えるんだ」

ハイエロファント「(微笑みを返して)それじゃあ、行こう。デス」

デス「(大きく頷いて)ああ、行こうか。ハイエロファント」

 

 自然に、軽やかに、流れるように走りを再開するデスとハイエロファント。

 一層の力を結ばれた両手に込め、五指同志を絡ませている。

 交わし合う瞳は、何があっても離れない、という意志の色彩。

 走駆する爪先は、ただただ真っ直ぐに行く先に向けられている。

 

 

【 To be continued...『最終章第三話の弐:我らは、多くの患難を経て(後編)』】

 

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