デスとハイエロファントの物語:REBOOT 最終章 作:桁石スミオ
エンプレスを中心軸として、橙色の霊力光が、バ―――ンッッッ!!!と弾けて広がる。
多数のオレンジゴースト、ビヒャアッ!と悲鳴を上げて蒸発。
それ以外のゴースト約50体、ビクッ!と驚いたように急停止。
距離を置いたまま、眼前の光景を警戒している様子。
霊力光が鎮まってくるその中心、エンプレスの全身が白色光に包まれている。
彼女を振り返り、唖然と見詰めているジャスティスとストレングスとガオガオ。
やがて。
フシュウゥゥン・・・と、白い光が果実の皮を剥くように捲れ、エンプレスが姿を現す。
金色の王冠、白地に赤の縁取りのマント、薄紫色の法衣。
穏やかで優しそうな顔立ち。髪の色は変化がないが、直毛となっている。
そして何より、全身から発せられる、威厳の覇気。
遠巻きにしているゴーストたちが、怯んだように後退りする。
ジャスティス「(目を丸くして)エンプレス・・・その姿・・・久し振りに見たよ・・・」
エンプレス「(荘厳な雰囲気で)ジャスティス、ストレングス、ガオガオ・・・暫し、飛来物の撃墜をお願いします。その間、私にゴーストの殲滅を任せてもらえますか?・・そして、私もエロファントほどではありませんが、治癒魔術の心得があります。(ストレングス〈父〉を、チラ、と見て)彼を回復させるまで、時を稼いで下さい!」
ストレングス「(ぐい、と頬を拭い)判った。とーちゃんをお願い!」
ジャスティス、ストレングス、ガオガオ、再度背を向け合い、円の陣を組む。
エンプレス、左手に鞭を纏め、ギュッ、と握る。
エンプレス「鞭を使うのは不得手なので、霊力の源とします・・・」
ポウ・・・と鞭本体が、薄青色の霊力光を発生させる。
取り囲むゴーストの内、数体が恐る恐る接近してくる。
バッ、と右手を突き上げ、掌を真上に向けるエンプレス。
掌の中心が、コオオオオォォォォ・・・と発光し始め、10センチほどの光球を形成させる。
エンプレス「不浄なる者どもよ! 地の理に背くその身を! 女帝の名の下に霧散させよ!」
急に、部屋の隅の鏡台から、30センチ四辺ほどの木箱が浮遊して宙を移動。
加速して一直線にジャスティスに向かってくる。
ジャスティス、大剣を真横にして、刃の面を盾のようにして受け止める。
ガン!と衝突して、床に落下する木箱。
ストレングスとガオガオ、家具や道具の動きを目で捕捉し続けている。
思い切ったように、ゴースト軍団が距離を詰めようと動く。
エンプレス「(突き抜けるような声で)ディスペルッッ!!!」
一声、右手を自分の真下、足元に向けて垂直に振り下ろすエンプレス。
直後。
部屋全体の床が、薄青色に発光。
バアァァァァンンンッッッ!!!と、ほぼ全域から、直径50センチほどの光の柱が無数に林立する。
足下から一気に噴き上がり、空間のブルーゴーストを瞬殺していく。
光柱は天井まで達し、数多く、その間隔はゴーストが逃げきれないほど。
エンプレス、鞭から発する霊力光を橙色に変える。
光が入れ替わり、再度、バアァァァァンンンッッッ!!!と突き上げる光の柱。
今度の橙色の霊力も、凄まじい威力で出現。
オレンジゴーストとグレーゴースト、声を立てられず次々と餌食。
攻撃を受けているのはゴーストのみで、ジャスティスたちには何のダメージもない。
やがて、部屋全体の発光が治まる。
最後の一体が煙のように失せ、侵入したきたゴースト約50体、全滅。
しかし部屋の内部は、今も微震と家財道具の奇妙な動作、止まず。
ヒュンッ!と飛んできた小さな円卓を、ガシッ、と捕獲して床に放り出すストレングス。
部屋の隅の椅子が、ガタンガタン・・・と跳ねるのを注視しているガオガオ。
足元に屈み込んで、スッ、と右掌をストレングス(父)の頭部に翳すエンプレス。
両の瞳を閉じ、口元を引き締める。
ボウゥ・・・と、柔らかい白色の光が掌から湧き、照らす。
暫く、そのまま。
尚も、そのまま。
ガオガオ、ビュン!と飛来してきた椅子を、体当たりをするように弾き、押し戻す。
そして、ストレングス(父)の顔に、血色が戻ってくる。
苦痛の表情から、眠るような穏やかな表情へと転化する。
発光を止め、体側に下ろされるエンプレスの右手。
エンプレス「(慈愛に満ちた眼差しで)・・・これで・・・大丈夫です・・・」
突如。
部屋の隅に設置してある鏡台が、ガタン! ズゥッ・・・と動き、急接近する。
1メートルほど滑り、それから宙に浮かんで、フワァ・・・と飛行。
真っ直ぐエンプレスの頭上、天井付近に達した後、ブンッ!と垂直落下してくる。
ジャスティスとストレングスとガオガオ、それに気付いて振り向く。
直角の軌道を成し、エンプレス目掛けて迫り来る鏡台。
エンプレス、屈んだまま顔を上げて、目を見開く。
刹那の、後。
3名が動くより早く、巨大な影が素早く起立。
ガッシイィィィッッ!!!と、墜落してきた鏡台を、両手で受け止めたストレングス(父)。
飛来物はエンプレスの頭上1メートル半ほどで、完全に停止。
ストレングス(父)、彼女を足元に、守護神のように雄々しく立っている。
間を置かず、右方の窓から、フヨォ・・・と5体のオレンジゴーストが遅れて入ってくる。
それらが旋回し、前方に一列になってからこちらに向かってくる。
ギロッ・・・と、目を剥いて睨むストレングス(父)。
橙色の霊力光を、ポウ・・・と掴んだ鏡台に湧き立たせる。
それを振り被って、ブンッ!と渾身の力で前方に投げる。
一直線に空を裂く鏡台、先頭のゴーストに衝突する。
ピッギャアァァ!・・・と絶叫を残し、5体のオレンジゴーストは一揉みにされ、圧潰。
正面奥の壁に激突し、ドガッシャンッ!とバラバラになる鏡台。
床に部品が飛び散る音が、残響となる。
ストレングス(父)、両肘を腰に付け、拳を握って、フンヌ!と鼻息をつく。
4名の、安堵の眼差し。見る見る笑顔を浮べる。
ストレングス(父)「(ニマッ、と笑い)エンプレス様は! オレが護るズォッ!!!」
ストレングス「(歓喜で)とーちゃん! 治ったっ!」
ストレングス(父)「すまんなムスメ! ガオガオ! ジャスティス! 復活したズォ!」
ガオガオ「(歓喜で)ガーオーンッ!」
ジャスティス「(歓喜で)よかったっ!」
気付くと、微震も家具の異様な動きも、ゴーストの出現も停止している。
少しの静寂が、戻る。
エンプレス、すっ、と立ち上がる。視線はストレングス(父)に繋げたまま。
ストレングス(父)、スッ、と入れ違いに屈んで、片膝立ちになる。
それからエンプレスを見上げ、真っ直ぐで揺るぎない目線を送る。
宙で絡む、ふたりの眼差し。
ストレングス(父)「(勇ましい眼で)エンプレス様・・・このストレングス、生涯の忠誠を誓い、この身を捧げまス・・・必ずや、アナタの傍で、アナタの盾となり、護り抜いてみせますズォ・・・」
途端。
エンプレス、瞳を全開にして、両頬を真っ赤に染め上げる。
ぐぅっ、と息を詰め、唇を真一文字に結び、絶句する。
ジャスティスとストレングスとガオガオ、顔を互いに合わせて、驚きの表情を交わす。
暫く、そのまま。
沈黙。
沈黙。
尚も続く、ストレングス(父)の真摯な視線。
緩やかに、溶解するように肩の力を抜いていくエンプレス。
エンプレス「そうですか、それは・・・(顔を伏せ)頼もしい限り・・・」
ストレングス(父)、期待を込めたように顔を向けている。
エンプレス、俯いたまま、顔の上部に影を落としている。
エンプレス「(口角を、フッ、と上げて)なーんて・・・」
ストレングス(父)「え?・・・」
ガバッ!と顔を上げて、一瞬で全身を白色光で覆わせるエンプレス。
即座に光は捲れるように消え、ボンデージの服を着用した姿に再変身。
ストレングス(父)が驚愕の表情になるのと、エンプレスが鞭を振り翳すのが同時。
エンプレス「(腹の底からの声で)言うと思ったら大間違いだよッ!!!」
鞭が、唸る。
バッシイイィンッ!と、ストレングス(父)の肩口に鮮やかに叩き付けられる。
ストレングス(父)「(残念だが、嬉しそうに)ズォォ―――ンッ!!!」
エンプレス「誰が誰を護るって! 冗談じゃないよ! アタシは護られるほど弱かぁないんだよッ!」
尚も連続して、ストレングス(父)の左右の肩を打つ、しなやかな鞭の軌跡。
バシィッ! バシン! バシッ!と情け容赦なく叩き捲る。
その度に、快感を覚えたような恍惚の顔となるストレングス(父)。
片やエンプレス、怒ったような表情だが、未だに頬の赤みは取れていない。
その一部始終を見ている3名、はあああ・・・と盛大な溜め息を吐く。
ストレングス「(ジト目で)あーあ、素直じゃないんだよな、エンプレス様」
ジャスティス「(呆れたようだが、微笑んで)照れ隠しだよね、あれ」
ガオガオ「ガァオン・・・」
直後。
オオオオオオォォォォンン・・・と、一際不気味な鳴き声。
開放された窓の大部分から、ヌウッ・・・と顔を覗かせるゴーストの群れ。
待ち構えてたように一斉に、室内に乱入してくる。
すべてグレーゴースト、その数およそ70体。
全員が、同時に視界を移す。
ジャスティス「うっわー、いっぱい来たね・・・」
ストレングス「(ジャスティスに目線を結び)ねぇ、合体技やってみよっか?」
ジャスティス「(ストレングスを視界を向け)そだね、じゃあ・・・キミからお願い。最後は一緒に決めよう!」
ダッ、と床を蹴り、窓際に走り寄るジャスティスとストレングス。
窓から1メートルほどの水平延長線上、部屋の長手奥に並んで身体を向ける。
すかさず、ふたりの後衛の位置に駆け寄るガオガオ。
ストレングス、薄青色の霊力光を両手に発生させ、左体側から背後に両腕を回す。
ジャスティス、橙色の霊力を大剣に込めて握り、右体側から背後に両腕を回す。
コオオオオォォォォ・・・と、圧力を高めていく、互いの光。
ストレングス「(張りのある声)愛とぉーっ!」
両掌で、大きな霊力球を作り、それを膨れ上がらせていくストレングス。
キュルキュルキュル・・・と核を成して固まり、硬度を増すように形成される。
ジャスティス「(壮明な声)正義のぉーっ!」
大剣に、一層の霊力を溜め込んでいくジャスティス。
刃が、ゴオオオオォォォ・・・と、炎が上がったように朱に染まっていく。
窓から侵入しているグレーゴースト軍団、獲物を見付けたようにふたりを睨む。
そして列を作るように、整然と直線状に集まってくる。
ストレングス「(腹の底から)ワイルドっ!」
ジャスティス「(腹の底から)ブレイドっ!」
腰を一段低く落とし、後方に構えた腕に力を込めるふたり。
眉を寄せ、突き刺すような眼光。
カパァ・・・カパァ・・・と次々に開いていく、グレーゴーストの骸骨の口。
すべてのゴーストが、射程圏内に収まる。
ジャスティス・ストレングス「「(劈くような大声)ボンバーっっっ!!!」」
気合一閃。
渾身の力で前方に振り抜かれる、ふたりの両腕。
ストレングスの大光球と、ジャスティスの大剣が、互いの間で重なる。
寸分違わぬ、時。
丁度、ストレングスの上下の両掌の中間を、ジャスティスの刃が薙ぐ。
まるで、ジャスティスがストレングスの光球をバットで打つかのよう。
交差した瞬間、薄青色と橙色の霊力が混ざり合い、一気に膨張する。
ドゴオォォォォォッッッッンンン!!!と、直径2メートルを超える巨大光球が、砲弾となる。
2色の霊力の光が凄まじい回転を包括し、電撃を周囲に飛び散らせて吹っ飛ぶ。
ゴーストたちが気付いた時には、既に遅し。
一切の声を上げることが出来ず、吸い込まれ、砕け、散り、潰され、失せ、裂かれ、消える。
ふたつの霊力が惜しみなく見せ付ける、驚異的な砲雷撃。
再登場した全ゴーストを一体残らず滅し、部屋の一番奥まで達する巨大光球。
バァ―――ン!!!と壁に当たり、四散する。
可視出来る範囲に、ゴーストはいない。
静寂。
静寂。
更に、間。
ゆっくりと身体を起こし、左右を見回すジャスティスとストレングス。
それから確かめるように向き合い、自然と満面の笑みを浮かべる。
互いの右掌を一旦振り、即座に、パアンッ!とタッチし合う。
ジャスティス・ストレングス「「(歓喜)決まったーっ!!!」」
強く、また深く眼差しを絡ませ合う、ふたり。
足元の破片やガラスを避け、近付いてくるガオガオ、エンプレス、ストレングス(父)。
ガオガオ「(安堵した笑顔で)ガウオッ!」
エンプレス「へぇ、すっごいモノ見せてくれるじゃないのさ。何かジャス子とストコ、いいコンビじゃないか」
ジャスティス「まあね。何ならエンプレス、ストレングスさんと組めばいいのに。ボクはストレングスとガオガオで組むからさ?」
エンプレス「(ぐっ、と息を飲んで、目線を外し)・・・いや、それは・・・別に・・・」
ストレングス「まあ、この5人で組んで動けばいいと思うよ。みんなで闘えば、アタイたちもこれだけ闘えるって判ったもの。何ににしてもこの調子! 次の部屋行こう!」
ストレングス(父)「(雄叫び)ウオオオッ! やったるズォッ!」
大きく頷き合う、5名。
互いに交わし合い、繋がり合う視線。
それから身体を返し、部屋の奥にある小振りな扉に向けて、慎重に歩を進めていく。