デスとハイエロファントの物語:REBOOT 最終章 作:桁石スミオ
★ 神殿・ハイエロファントの居室
窓の柱と、反対の壁の柱にあるランプが、橙色で部屋全体を照らしている。
手前の書斎机に向かい、椅子に座っているハイエロファント。
既に扉側に上半身を返していて、デスを見詰めている。
ハイエロファント「(微笑んで)お帰り、デス。丁度良かった。紹介したい方が来てるんだ」
ハイエロファントと一度眼差しを絡め合ってから、机の向こうに視線を移すデス。
書斎机に相対して2脚の椅子が並び、ふたりの人物が座している。
ひとりは、全身赤い作業着と帽子、面長の顔立ち、痩せ型、キャッツアイタイプのサングラス。
もうひとりは、全身緑の作業着と帽子、丸い顔立ち、小太り、円型のサングラス。
座っている椅子の横には、それぞれ黄色いバックパックが床に置かれてある。
ふたりとも、入室してきたデスに目線を固定したまま、身動ぎもしていない。
ポカン、とした様子で、口を半開きにしている。
ハイエロファントが身体を戻す。
その際の、ギッ、という椅子の軋みで、ハッ、と同時に我に返る2名。
マッコイ「(笑顔で)オオー、すっげー美人さん!」
ブルース「(マッコイを向き)いきなり失礼だぞ。(椅子から立ち上がって、咳払いして)はじめまして、私の名はブルース。職業は、探偵をしております」
マッコイ「(続けて立ち上がり)俺はマッコイ! ブルースの相棒で、同じく探偵!」
デス「(訝し気に)探偵?・・・マジカルランドにはいない職業だな」
ハイエロファント「おふたりに紹介します。(右掌をデスに掲げ)僕の妻で、名はデス。このマジカルランドの死神です」
マッコイ「(驚嘆して)ええッ! 死神ッ!? スッゲー! 初めて会った!」
ブルース「(感心したように)ほお、死神とは・・・これは素晴しい・・・実体としての死神、ですか」
ふたりの反応に、ぴく、と両目の端が動くデス。
僅かの後、微かに唇の端を上げる。
再度振り返ってデスに視線を送り、柔らかい笑みを浮かべるハイエロファント。
ハイエロファント「デスにも紹介するね。こちらのふたりは先ほど名乗ってもらった通り、探偵のブルースさんとマッコイさん。マジカルランドではない、他の世界から来てくれたそうなんだ」
デス「他の世界?・・・(納得した様子で)なるほど、魂の質がまったくの別物だからな。(ブルースとマッコイを見て)ああ、とにかく座れ」
デスの言葉を耳にして、ほぼ同じ動作で椅子に腰掛けるブルースとマッコイ。
それを視界に映しながら歩き、窓の近く、書斎机の左側に立つデス。
ブルースとマッコイに身体を向け、左肩の大鎌を持ち替えて、刃を下方にする。
正面に向き直るハイエロファント。
デス「それで? どうやってマジカルランドに来れた?」
ブルース「実は・・・(重めの声質で)“ある存在”を追っていたら、こちらの世界まで来てしまった、という顛末なのです」
マッコイ「気が付いたらいきなり(外を指差して)ここの神殿みたいなトコにいて、何だか判らないでどーしよっかって言ってる時に・・・」
ブルース「こちらのエロファントさんに声を掛けて頂いた、という訳です」
ハイエロファント「それから、少し話を聞かせてもらってたんだけど・・・(デスを見詰め)詳細は君にも聞いてもらいたくて、ふたりにお待ち頂いてたんだ。多分この件は、君ならすぐ理解出来ると思うからね」
短く、コクン、と首を上下に振り、真剣な視線を送るデス。
デス「解った・・・聞かせてくれ」
ハイエロファント「(ブルースとマッコイに視線を戻し)恐れ入りますが、先程の話から再度お願いします」
ブルース「(首を縦に振り)判りました。起こったこともありのままにお話ししますが、多分、意味が解らないかも知れません」
デス「構わん。情報はどんな細かいことでもいい。耳にしておく必要がある」
マッコイ「(右手でOKの印を作り)オッケー、全部喋っておくぜ」
再度、コホン、と咳払いをして、居住まいを正すブルース。
ブルース「まず、私たちの職業について、改めて説明します。私とマッコイは、元の世界で探偵社に所属していて、レイチェルという社長に雇われていますが・・・私たちふたりの真の職業は『ゴーストハンター』と言います」
デス「(瞬きを数回して)ゴーストハンター、とは?」
ブルース「私とマッコイは探偵・・・(少し間を置いて)ああ、申し訳ない。説明が遅れました。探偵とは依頼を受けて人や物を捜し出したり、様々な調査を引き受ける職業のことです。そして私たちは同時に・・・(張りのある声で)心霊現象、霊障現象を引き起こす“お化け”や“幽霊”と呼ばれる存在、通称『ゴースト』を捕獲、退治、もしくは消滅させる専門職『ゴーストハンター』なのです」
デス「(感心して)ほお・・・」
マッコイ「(ビシ!と自分を右親指で差し)アイアム、プロフェッショナルゴーストハンター! 俺とブルースは対ゴースト戦じゃあエキスパートってワケだ!」
ハイエロファント「(頷いてから、デスに視界を向け)君はゴーストって見たことある?」
デス「“お化け”や“化け物”、あるいは“物の怪”と呼ばれる存在が、昔からマジカルランドにいる可能性は薄々感じていた。ただあたしは実際に見たこと・・・(ハッ、と気付き)待て、もしかしたら・・・さっきの・・・」
右手の人差し指と親指を、自分の顎に当てて、眉間に皺を寄せるデス。
デスの仕草を視線で追い、小首を傾げるハイエロファント。
少しの、間。
デス、目線をブルースとマッコイに戻し、神妙な表情を浮かべる.
デス「お前たちが相手にしてきたゴーストとは、どんな姿形をしている?」
ブルース「様々な姿がありますが、圧倒的に多いのは、(両手で宙に、直径50センチくらいの円を描き)丸い、これくらいの大きさの球体ですね」
デス「何色をしている?」
マッコイ「オレンジと、ブルーと、グレーだな。大体が」
デス「模様があるか? 顔のような」
ブルース「ええ、ありますよ。オレンジにもブルーにも顔がありますし、グレーのゴーストには骸骨の顔が・・・(はた、と何かに気付き)よくご存知ですね?」
右手を再び下げ、一層眉を寄せるデス。
デス「(真剣な眼差しで)・・・つい今しがた、神殿に戻る途中で襲撃された」
ブルース「(驚いて)何と!」
マッコイ「(驚いて)うえええッ! こっちまで来てるのかよ!」
ハイエロファント「それで、大丈夫だったの?」
デス「(微笑んで)ああ。この大鎌で一撃で消滅出来た」
ブルース「(更に驚嘆して)一撃? 骸骨の風体をした奴にも一撃、ですか?」
デス「(頷き)そうだ。一振りで方が付いた」
マッコイ「(息を飲んで)マジかよ・・・グレーゴーストは、普通2回攻撃を当てないと消えないんだぜ」
ブルース「いやはや、これは恐れ入りました。(デスに目線を繋いで)差し支えなければ、その大鎌、間近で拝見させて頂けますか?」
デス、数歩歩み寄り、ブルースとマッコイの傍らに立つ。
そして、左腕に持った大鎌を、スッ、とふたりの前に、片手で水平に掲げる。
顔を近付け、じーっ・・・と大鎌を凝視するブルースとマッコイ。
暫く、そのまま。
やがて、ブルースとマッコイの口から、ほーっ・・・と同時に息が漏れる。
ブルース「死神の大鎌・・・実物を見るのは初めてです。実に興味深い」
マッコイ「俺たちの世界にいた、パンプキンヘッドってゴーストも大鎌持ってたケド、こっち大鎌の方がカッコいいなぁ!」
デス「(ふっ、と唇に笑みを浮かべ)こいつを褒められるとはな」
スイッ、と再び大鎌を、刃を下にして持ち直すデス。
踵を返し、立っていた元の位置、書斎机の横まで戻り、ブルースとマッコイに向き直る。
ハイエロファント「(デスに視線を送り)デスの大鎌で退治出来るってことは・・・こないだジャスティスに憑依した、あの“紫の影”と同じなのかな?」
ブルース「紫の影?」
ハイエロファント「(ブルースに目線を戻し)実は先日、ジャスティスという剣士が、紫色をした影のような存在に憑りつかれ、操られるという事件があったんです。その際、デスがその“紫の影”を大鎌で退治出来たのですが・・・」
デス「ジャスティスの身体からそいつを引き離せたのは、(ハイエロファントを見詰めて)ハイエロファントの力だ。あたしひとりではどうしようもなかった」
急に、厳めしい表情に変化するブルースとマッコイ。
申し合わせたように顔を見合わせ、目線を交わす。
マッコイ「(ブルースと顔を見合わせ)もしかしたら・・・あの野郎、もうとっくに来てたのか?」
ブルース「(頷いて)あり得るな。異世界を壁を越えて来るのも、奴なら不可能じゃない」
デスとハイエロファントが、何事かと伺うような顔付きになる。
ブルースとマッコイ、顔を戻し、視線を改めて正面に送る。
ブルース「その紫の影、私たちが追ってきた存在と関連しているかも知れません」
ハイエロファント「(真剣な眼差しで)・・・聞かせて頂けますか?」
書斎机に両手を置き、五指を組むハイエロファント。
ブルース、両掌を自分の膝頭に置き、腕を突っ張り、背筋を伸ばす。
やや長めに息を吐いてから、一度唇をきつく結ぶ。
場に、緊張の空気が漂う。
ブルース「(重みのある声で)名前は『マッシュマン』、自らを“恐怖の大王”と名乗ってます」
デス「(眉間に皺を寄せて)大層な名乗りだな」
マッコイ「マッシュマンは、俺たちゴーストハンターが封じようと頑張ってきた大物なんだぜ」
ブルース「姿形は、紫色のブヨブヨとしたゼリー状の身体。あらゆるゴーストの頂点に立ち、あらゆるゴーストを手下、いや、下僕として操ります。私たちの住んでいる世界での霊障事件の足跡を辿ると、マッシュマンが関係している事例が圧倒的多数を占めます」
ハイエロファント「そこまでの存在とは・・・」
ブルース「マッシュマンは、そうですね、大まかに表現すれば『犯罪集団のボス』とでも言いましょうか。そいつの居場所を特定し、部屋に踏み込んだら、奴は空間に出来た黒い渦に飛び込んで逃げてしまいました。一時、私たちも追おうと判断しましたが、身の危険も同時に感じました。しかし、一旦引き返そうとしても既に遅く、空間の渦に吸引され、抗おうとしましたが闇に飲み込まれるように・・・」
マッコイ「(腕組みをして)ブラックホールみたいな渦に吸い込まれて、目ェ閉じて暫くして開けたら、ここの前庭に立ってた、って次第なんだ」
デス「なるほどな。捕まえようとした矢先に逃走され、巻き添えを喰った訳か・・・それでお前たちは、マッシュマンとやらの目的は掴んでいるか?」
マッコイ「以前対決した時にハッキリ言ってたのは、世界の滅亡だったな」
ハイエロファント「(息を飲んで)滅亡! ですか!?」
デス「(更に眉を顰め)・・・実際に闘ったお前たちも、マッシュマンにはそれだけの力があると思っているのか?」
ブルース「(真剣な声で)思います。“恐怖の大王”の名は伊達ではない、と」
ふう、と溜め息をつくデス。
卓上で組んだ両手の五指を、ぎゅっ、と強く握るハイエロファント。
表情は冷静さを保っている。
デス、ハイエロファントの横顔をしっかりと見詰め、それから少し目を伏せる。
デス「そのマッシュマンとゴーストたちが、マジカルランドに侵入してきた、という訳か・・・」
ハイエロファント「(疑念の表情で)でも、今まで入ってこれなかったのに、急に来れるのかな? このマジカルランドにはワールド様がいる。簡単に異世界から入れるとは・・・」
デス「(はっ、と顔を上げて)それだ! ハイエロファント!」
ハイエロファント「(驚いて、デスを見詰め)え?」
デス「話の順番が遅れたが、(重厚な声質で)ワールドが意識不明になった」
ハイエロファント「(思わずデスに身体を向け、一層驚き)えええっ!!!」
きょとん、とした顔になるブルースとマッコイ。
マッコイ「ワールドって?」
ハイエロファント「(ブルースとマッコイに向き直り)『天空の女神』です。このマジカルランドを創ったのはワールド様なんです」
ブルース「今、私たちがいるこの世界の創造神、という方ですか」
デス「厳密に言うと創造神は別にいるが、その認識で差し障りない」
ブルース「(感嘆したように)成程、実に興味深い・・・(声質を一段落として)しかし今のお話しだと、ワールドさんが意識不明とのこと・・・マッシュマンとゴーストの侵入・・・(サングラスの奥の目が、キラ、と光り)繋がってきましたね。探偵の勘がそう告げてます」
マッコイ「(ニッ、と笑い)勘が鈍いとか言われてる俺でも、流石に読めてきた!」
ハイエロファント「(再度デスに視線を結び)何があったか解りそう?」
デス「(首を左右に振って)まだ明言は出来ない。(ハイエロファントを見詰め)原因に直接結び付くかどうか不明だが・・・変わったことが起きてるとすれば、今夜は珍しく、皆既月蝕だ。完全に月が隠れたのは、かつて一度か二度しか見たことがない」
ブルースとマッコイ、改めて顔を突き合わせる。
今度は、何かが判明したかのような、納得したような表情。
互いに、コックン、と頷き合い、デスとハイエロファントに目線を投げる。
ハイエロファント「・・・何か、思い当たることが?」
ブルース「奇遇にしては余りにも出来過ぎた話ですが・・・(ゴクリ、と一度唾を飲み込み)マッシュマンを追い詰めようとしてた時、私たちがいた世界では、ちょうど皆既日蝕が起きていました。こちらに飛ばされる寸前でも、太陽は昏く、昼間だというのにゴースト達も姿を見せてた程です」
ハイエロファント「(右手の人差し指と親指を顎に当て)皆既日蝕と、皆既月蝕・・・繫がりはありそうですね」
ブルース「マッシュマンもゴーストも、太陽や月の光を苦手としてます。彼等が活発になるのは夜の闇、出来るだけ漆黒の闇の方がいい筈です」
マッコイ「んじゃあ、月蝕のタイミングを見計らって、こっちの世界に侵入して、女神様を気絶させちまったのかい?・・・(腕組みを解き)それにしてもタイミング良過ぎな気がするなぁ」
デス「・・・逆、だとしたらどうだ?」
マッコイ「(意外そうな声で)逆?」
デス「普段、マジカルランドはワールドの庇護の下にある。『第三の目』がこの世界全土を見渡し、管理しているんだ。異世界からの侵入者があろうものなら、即、認識する。つまりマジカルランドに侵入する為には・・・(眉を顰め)ワールドの力を封じるか、使えない状態にするしかない」
ハイエロファント「それじゃあ、ワールド様は・・・」
デス「(大きく頷いて)何者かに、何からの形で襲撃されたんだろう。最早何者かは、答えが出ているが」
その場の4人が、互いに視線を交わし合う。
恐らく、全員が同じ認識を持った様子。
デス、窓の外に、ちら、と目をやり、すぐに戻してハイエロファントに目線を結ぶ。
デス「急ですまないが、ワールドが『聖なる力』で回復させられるかどうか、頼めるか?」
ハイエロファント「もちろん、僕が出来ることなら何でもやるよ」
デス「(ブルースとマッコイに視線を向け)ふたりにも、同行してもらいたい。異世界に飛ばされた挙句に申し訳ないが、こっちの世界の住人はゴーストに太刀打ち出来ない可能性がある。その知識と経験を、思う存分披露してもらえないか?」
ハイエロファント「僕からもお願いします。元の世界に帰れる方法も、僕たちで見付けます」
マッコイ「(ドン!と胸を叩いて)オッケー! やってやるぜッ!」
デス「(ふっ、と笑って)ふたつ返事だな」
ブルース「(ニッ、と不敵に笑い)ゴーストハンターの腕の見せ所、ですからね。マジカルランドも実に興味深い。最後まで見届けるのも、プロの仕事です」
ガタン、とほぼ同時に、ブルースとマッコイが椅子から立ち上がる。
既にふたりは、脇に置いてあったバックパックを背負おうとしているところ。
ハイエロファントも続けて椅子から起立し、デスと眼差しを絡ませ合う。
デス、大鎌を持ち上げて、左肩に掛ける。