デスとハイエロファントの物語:REBOOT 最終章   作:桁石スミオ

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最終章第三話の弐:我らは、多くの患難を経て【後編】-6

★ (同時刻)マジカルランド中央・フォーチュンの居城・玄関ホールから階段

 

 玄関ホールに面する窓が、天窓を含めて一枚残らず外側に開放されている。

 再び各所から断続的に侵入してくる、ゴーストの群れ。

 それらを、霊力ボールを駆使して撃墜しているブルースとマッコイ。

 その最中も、空気振動と微震は治まっていない。

 

マッコイ「まったく、キリがねぇな! 窓が一通り開けられちまったみてぇだ!」

ブルース「一時ほどではないが、ポルターガイストもまだ続いている・・・止むを得ん。フォーメーションを変えよう・・・(エンペラーに向けて大声)エンペラーさん! 3人一塊になりましょう! こちらに移動願います!」

エンペラー「(ブルースに視線を飛ばして)判ったわ!」

 

 階段踊り場で、数体のゴーストを斬ったエンペラー、踵を返す。

 手に持った剣が役目を終え、霧のように消える。

 途端。

 バキッ! バキイッ!と何かが割れる音が近くで響く。

 立ち止まって辺りを見回すエンペラーの眼前を、ヒュンッ!と横切る物体。

 目で追うと、それは壁に設置してあった筈のふたつのランプ。

 黒い金属枠と煤けたガラスの内側に、炎を爛々と燃やしている。

 まるで飛ぶ鳥のように、エンペラーの周囲を飛び回り始める。

 

エンペラー「(跳び上がるほど驚き)ウッソォォッ! 壁のランプまでッ!?」

 

 明らかに自分を狙って飛来するランプを、身体を捻りながら躱しているエンペラー。

 更に。

 上方の高窓から、ヒュウウウ・・・と大量に流れ込んでくるゴースト。すべてグレー。

 高い位置から、滝壺への落水のように、エンペラー目掛けて急襲。

 

エンペラー「しかもゴーストいっぱい来たァッ!」

マッコイ「飛んでくる物だけ避けて来れないかッ!?」

エンペラー「(歯を食い縛り)な・・・何とか頑張るわん!」

 

 エンペラー、『小アルカナ』を構えることも出来ず、ひたすらランプを避けている。

 同時に階段の縁へ、じりじり、と摺り足でにじり寄る。

 加速してエンペラーの頭上に接近する、グレーゴースト20体。

 襲撃に気を取られ、身体の返しが遅れるエンペラー。

 宙を飛ぶランプ、彼の前後から、一気に挟むように間を詰める。

 衝突する、直前。

 

エンペラー「(悲鳴)ヒエエッ!!!」

 

 紙一重で顔だけ躱すエンペラー。

 しかしその至近距離で、向かい合わせに激突するふたつのランプ。

 ガッシャ―――ンッ!!!と、凄まじい破壊音。

 一瞬空間に、ボウッ!と大きな火球が発生し、爆裂する。

 ハッ!とエンペラーに目線を投げるブルースとマッコイ。

 身体を丸めるように伏せて、顔を両腕で覆い隠しているエンペラー。

 その上空で、ケケケケ・・・と嘲う声を立てて旋回しているグレーゴーストたち。

 

ブルース「大丈夫ですかっ!」

マッコイ「(奥歯を噛んで)マジか! 当たっちまったのか?」

 

 エンペラー、そぉ、と身体を起こす。

 どうやら傷は負っていない様子。

 ブルースとマッコイ、ホッ・・・と安堵の息をつき、周囲のゴーストへの攻撃を再開。

 しかし、急に眉を顰めて虚空を睨むエンペラー。

 

エンペラー「(違和感を覚え)・・・え?・・・もしかして・・・」

 

 恐る恐る右手を頬の辺りに持ち上げる。

 スカッ、と空を切る右掌。

 そこに生えている筈の、泥鰌髭がない。

 焼き切れたようにチリヂリと、根元に数センチ残るだけ。

 エンペラー、背景暗転。白色化。

 【効果音】ドッギャア―――ン!!!という裂空音。

 

エンペラー「(絶叫)アタシの髭ェェェェェェッッッ!!!」

 

 ヨロ、ヨロ、と覚束ない足取りになり、ふら付くエンペラー。

 白目を剥き、空虚そのものの姿。

 ケタケタケタ・・・と、愉快そうに嗤い始めるグレーゴーストの群れ。

 

エンペラー「髭・・・アタ・・・シ・・・の・・・」

 

 ゴーストが待っていたかのように、エンペラーに接近して、骸骨の口を開く。

 途端。

 プチン、と何が切れた奇妙な音。

 掃討を続けながら、思わず周囲を見渡すブルースとマッコイ。

 

マッコイ「(眉を顰め)プチン?」

ブルース「(眉を顰め)・・・変な音がしたな」

 

 エンペラーに最も近付いたグレーゴースト、突然、ガシッ、と鷲掴みにされる。

 そのまま壁に叩き付けられ、ブッシャーッ!と潰されて消滅する。

 驚いたゴーストたちが顔を向ける方向に、背を向ける姿。

 全身から、ボワァ・・・と金色のオーラを噴き上げ、壁に右手を当てて立っているエンペラー。

 その空域だけが、ゴゴゴゴゴゴ・・・と地鳴りのように空震している。

 

エンペラー「(地の底から湧くような声で)余の・・・大事な・・・髭を・・・」

 

 ユラアッ・・・と振り返るエンペラー。

 瞳孔が開き切り、射殺すような両眼。憤怒の表情。

 ビクウッ!と、凄まじい恐怖を覚えて動きを停めるゴーストの群れ。

 

エンペラー「(猛烈な殺気を放つ怒声)何してくれとんじゃゴルアァァァッッッ!!!」

 

 直後。

 2体のグレーゴーストに両手を掛け、そのまま左右から、蚊を潰すように合わせるエンペラー。

 ゴーストは、ボグジャァッ!と、果実が砕け散るように四散する。

 ブルースとマッコイ、思わずエンペラーを注視する。

 

ブルース「(愕然と)エンペラーさん!」

マッコイ「(唖然と)まさかッ! キレたのか!?」

 

 エンペラー、驚くべき身体の動作を見せる。

 目にも留まらぬ速さで腕を振り、捕まえたゴーストを床に叩き付けて消す。

 左右の手刀で宙を裂き、ゴーストを真っ二つにして斬り散らせる。

 逃げようとしたゴーストを両手で捉えて引き戻し、悲鳴を上げる前に膝蹴りを叩き込んで破裂させる。

 尚も、ゴーストに一気に間合いを詰め、拳を前後左右から殴り付ける。

 パン! パン!と風船が割れるように、ゴーストが一体一体滅せられていく。

 それは、すべての格闘を極めた武闘家の如く。

 ブルースとマッコイだけでなく、玄関ホールの全ゴーストが視線を繫げている。

 

ブルース「これは・・・私は夢を見ているのか?」

マッコイ「いや・・・俺も見ているから、夢じゃねぇよ!」

ブルース「(ゴク、と唾を飲み)信じられない・・・霊力を使っていないのに、素手でゴーストを撃破している」

マッコイ「スッゲーけど・・・あれ、デスさんみたいな能力なのか?」

ブルース「(首を左右に振り)解らないが・・・また違う力のような感じがする」

マッコイ「しっかし・・・(エンペラーを凝視し)無茶苦茶な闘いっぷりだぜ」

 

 残り数体となった、エンペラー周辺のグレーゴースト。

 最早、畏怖の目線しか向けていない。

 

エンペラー「(蔑むような声色)・・・おどれら、たかが化け物風情の分際で、舐めた真似さらしおってからに・・・皇帝たる余の逆鱗に触れるたぁ、滅ぼされても文句は言えんじゃろうて! (グルリ、と取り囲むゴーストを睨み付け)コラ、何遠巻きにしとんじゃ。来いや。掛かって来いや。一匹ずつやのうて、纏めて掛かってこんかいィッ!!!」

ブルース「流暢に凄いこと言ってるな・・・何か“ジャパニーズヤクザ”に近い口調だな」

マッコイ「何か雰囲気変わっちまったケド、とにかく強いからいいか!」

 

 突然。

 エンペラーの金色のオーラと覇気、フッ・・・と失せる。

 吊り上がった眉が下がり、激怒の雰囲気は一瞬でなくなる。

 何事かと、すべての目が彼に集中する。

 その中で、振り返るエンペラー。いつもの顔。

 

エンペラー「(きょとんとして)・・・あら?」

ブルース・マッコイ「「(驚愕)元に戻ってる―――ッッッ!!!」」

 

 我に返ったように、再度襲い掛かっていく残存のグレーゴースト数体。

 本当に我に返り、素早く『小アルカナのカード』をケースから引き抜くエンペラー。

 

エンペラー「(大慌てで2枚のカードを翳し)おおっと! 『ワンド』の10! 『ソード』のジャック!」

 

 投げた1枚のカードから風が湧き起こり、10本の小振りな棍棒が出現。

 それらは真っ直ぐに数体のグレーゴーストに向かい、錐揉みをする動きで打撃を喰らわせる。

 続けて放ったカードから火球が発生し、出現した剣を掴むエンペラー。

 ゴーストへの攻撃の間隙に、ダッ、と階段を駆け下り出す。

 そして、ザアァッ、と床を軽やかに滑り、ブルースとマッコイの傍に到達する。

 周囲のゴーストを掃討しながら、エンペラーを振り向くブルースとマッコイ。

 

ブルース「怪我はありませんか!?」

エンペラー「(頷いて)ないわッ! 危ないトコだったケド!」

マッコイ「さっきのスッゲー闘いっぷり、思わず見惚れちまったぜ! 素手でゴースト倒すなんてな!」

エンペラー「(目を、パチクリ、とさせ)え? そうだったのん?」

ブルース「覚えてないんですか? 霊力も使ってませんでしたよ?」

エンペラー「(ハア、と大きく息をつき)またやっちゃったのね・・・アタシ、キレると見境が付かなくなるのよ。昔っからそーだケド、キレて暴れた時の記憶は飛んでるし、凶暴過ぎて自分で嫌ンなるわ・・・(焦げた髭の先を右手で軽く撫で)あーあ、折角ここまで立派にしたのに、また伸ばさなきゃならないなんて、ヒドいわァ・・・」

 

 途端。

 ブルースとマッコイ、破顔一笑。

 

ブルース「(小さく噴き出し)フフッ・・・」

マッコイ「(愉快そうに)ハハッ!」

エンペラー「ちょっと! 面白いコト言ってないわよッ!?」

ブルース「いや、失敬・・・エンペラーさん、貴方は凄い人ですね」

エンペラー「(瞬きを数回して)そ・・・そうでもないわよ?」

マッコイ「そうでもなくないって。頼もしい味方なのは俺が保証する。(周囲を見渡し)とにかくこの辺りのゴーストを片付けてから、次に行こうぜ!」

エンペラー「(ニィ、と笑って)了解よん!」

 

 円陣を組み、凛々しい表情でゴーストと対峙する3名。

 勇ましく、何者にも負けない雰囲気。

 

 

★ 森の道

 

 『聖なる力』が煌々と夜道を照らす。

 未だに、街の端にも達していない位置。鬱蒼とした森林だけが左右に広がる。

 規則正しい呼吸で、ひたすら道を駆け続けているデスとハイエロファント。

 突如。

 後方上空、かなり高い位置に、凄まじい陰の影。

 

デス「(ちら、と後方を見上げ)来るぞ! 気配が急接近している!」

 

 急に。

 ぞわっ・・・と、猛烈な寒気に襲われるふたり。

 

ハイエロファント「(突き抜けるような声で)停まるよ! デスっ!」

 

 ふたりの足が、たっ、と地面を小さく蹴る。

 疾駆の勢いそのままに、ズザザザザッ!と土を舞い上げて履物の足裏を擦っていく。

 速度が一気に落ち、周囲の風景が固定して見え始める。

 途端。

 ハイエロファント、デスと結んである左腕を、ぐいっ、と引き寄せる。

 彼女の身体が流れるように自分と密着する。

 更に、左腕をデスの背中に滑らせるように回し、彼女の腰を強く抱き締める。

 そのまま円を描くように、ワルツを踊るように双方の身体を、くるっ、と回転させる。

 彼の腕の中、肩口に顔を埋めるような姿勢になるデス。

 驚いたように、瞬間で頬を上気させる。

 直後。

 ハイエロファント、右手のバクルス(司教杖)を天に向けて突き上げる。

 そして、ポウウ・・・と半透明な光のドームを、ふたりを中心に発生させる。

 間髪を入れず、上空の闇から、ボウン!と巨大な火球が出現。

 そのまま、デスとハイエロファントに向けて落下。

 一瞬の間の、後。

 ズドォ――――――ンンッッッ!!!と、辺り一帯が爆発する。

 凄まじい爆炎が、猛烈な破壊力を伴って火柱となる。

 直径30メートルほどの範囲の樹々が、飲み込まれて一瞬で黒炭化。

 豪炎が暫くの間残り、やがて鎮火していく。

 そして、静寂。

 デスとハイエロファント、まったくの無傷。

 だが、光のドームで護られている半径2メートルほどの円の外は、惨憺たる有様。

 樹木の燻った臭いが充満し、ふたりの鼻腔に届く。

 デスはハイエロファントの左腕の中で、周囲の有様に眉を顰める。

 ハイエロファントはデスを抱いたまま、右腕でバクルスを垂直に上げたまま、上空を見る。

 誰かが、非常に緩やかな速度で空中から降りてくる。

 ふたりの斜め前方、5メートルほどの高さに浮かぶマッシュマン。

 同時に、短く息を飲むデスとハイエロファント。

 

マッシュマン「(厭らしい嗤いで見下ろし)これはこれは・・・逢引きの最中にお邪魔だったかな?」

 

 ハイエロファントのバクルス先端、蒼い宝玉が、すっ、とマッシュマンに照準を合わせる。

 デス、左腕に下げている大鎌を、ぐっ、と強く握り締める。

 

 

 

【 To be continued...『最終章第四話:光は、義しき人の為に射し出で』】

 

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