デスとハイエロファントの物語:REBOOT 最終章 作:桁石スミオ
タイトルは、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ作曲、教会カンタータBWV195「光は義しき人のために射し出で Dem Gerechten muß das Licht」より。
登場人物:「マジカルドロップ」シリーズより、デスとハイエロファント、ヤング(リトル)・フォーチュンとタワー、ワールド、マジシャンとハイプリエステス、エンプレス、ジャスティス、ストレングス親子、ガオガオ、エンペラー。「ゴーストロップ」「マジカルドロップV」より、ブルース、マッコイ、マッシュマン。
注:台本形式読み物です。残酷な表現アリ。
同一内容を、下記サイトにも掲載しております。
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【挿絵表示】
デスとハイエロファントの物語:REBOOT
【 最終章第四話の壱:光は、義しき人の為に射し出で(前編) 】
★ 森の道から森林地帯
未だに、樹々の焦げた臭いが充満している、森の道。
見上げた5メートルほどの高さに浮かんで、歪んだ嗤いを浮かべているマッシュマン。
ハイエロファントのバクルス先端、蒼い宝玉は、マッシュマンに照準を合わせたまま。
デスの腰に回した左腕を、すっ、と一旦解くハイエロファント。
大鎌を両手で持ち直し、身体をマッシュマンの方向に正対させるデス。
一際、マッシュマンの目が卑下するような色を帯びる。
マッシュマン「ご挨拶しておこう。我輩の名はマッシュマン! またの名を“恐怖の大王”ゾ! 貴様らがこの世界の法王と死神、だな?」
デス「(眼光鋭く)・・・答える理由はない」
マッシュマン「・・・まあ良い。答えなくとも、貴様らが憑依した時の我輩の“影”を追い立て、斬った連中であることは判る、ゾ。あの時の感覚と・・・(眉を吊り上げ)まったく同じ力を宿している・・・」
ギロリ、と両眼を剥くマッシュマン。
ふたりを見下ろしながら、値踏みするような目線を投げる。
マッシュマン《こいつらふたりには、霊力も魔力も感じない・・・ならば魔法で押し切れば、勝てる!》
マッシュマン、両掌を上に向け、スッ、と身体の左右に展開させる。
マッシュマン「貴様ら如き格下に、恨みや憎悪などという下賤な感情は抱かんが・・・(それでも憎々し気に)我輩の支配の邪魔ゾ。よって・・・(非常に低い声色で)今ここで殺す。そして屍をフォーチュンたちに見せ付け、奴らを絶望に沈め、ゴーストの王国を築き上げるのだゾッ!」
デス「(不敵に笑って)死神を殺すとは、笑えない冗談だな」
マッシュマン「冗談かどうか・・・すぐに判る・・・」
ハイエロファント「その前に・・・(きり、と視線を向け)僕が止める。君の行為を、見過ごす訳にはいかない」
マッシュマン「止められるものなら・・・」
両手を高々と頭上に振り翳し、ボッ!と火球を発生させるマッシュマン。
突然、デスが流れるような動作で、ハイエロファントの左耳に口を近付ける。
デス「(素早く耳打ち)ハイエロファント・・・」
そして小声で、いつもより早口で何事かを喋っているデス。
僅かの、間の後。
ふたりが眼差しを至近距離で絡める。
ハイエロファント「(即座に頷き、小声で)判ったよ。気を付けて」
マッシュマン「(腹の底からの声で)止めてみるがいいゾォッ!!!」
マッシュマン、渾身の力で両腕を振り下ろす。
一瞬、大きく膨れ上がった火の玉を、真下に向けて叩き付ける。
ボオオオオオッッッンンン!!!と猛烈な炎が、巨大な半球状を成す。
それは焼失していた樹木をも纏めて、再度の爆風と火炎を伴って巨大化。
直径40メートルほどが、黒炭と灰だけを生み出す紅蓮の光景。
ニヤァ・・・と、マッシュマンの顔が歪む。
火炎の勢いが小さくなり、やがて消える。
燻った煙が徐々に拡散し始め、足下を視界に映すマッシュマン。
誰もいない。
遺体と思しき陰も、見当たらない。
マッシュマン「・・・消えた?」
マッシュマン、少しの間、奇妙な表情。
目線をキョロキョロと方々に向け、森の樹々の間を縫うように配る。
すぐに何かに気付き、一方向に視線を固定し、眉を顰める。
マッシュマン《片方の気配が、あちらに移動している・・・もう片方は、何処ゾ?・・・》
左右に目配せをするマッシュマン。
間を置かず、探知した気配の方角に身体を向ける。
マッシュマン《まあいい。ひとりずつ潰せばいいこと、ゾ》
そして音もなく、地面から5メートル付近の高度を浮遊して進み始める。
移動中の気配と、段々と距離が狭まっているのを認識するマッシュマン。
一気に間を詰めようと、クンッ、と加速する。
途端。
前方下、樹々の隙間が白く発光する。
すぐさま、バッシュウッ!と何かの発射音。
純白の光線が、一直線にマッシュマンに向かってくる。
マッシュマン「(驚いて)ヌウッ!」
左の空間に跳ぶように、真横に移動するマッシュマン。
自分の右手のすぐ近くを掠め、直進していく光の槍。
紙一重で躱した、マッシュマンの背後の宙。
ザッ・・・と、樹の枝が揺れる音と、ほぼ同時。
フッ・・・と瞬間移動したように、デスが現れる。
既に彼女は、右側側方に大鎌を振り翳している。
ハッ!と振り返るマッシュマン。
マッシュマン「(更に驚き)なっ!」
一気に振り抜かれる、デスの大鎌。
慌てて急上昇する、マッシュマンの図体。
彼の足元、ギリギリの間隔で、刃が空を裂いていく。
空振りされた大鎌を起点に、くる、と宙を舞うデス。
跳躍したままの姿勢で、綺麗な横回転を披露する。
マッシュマン、更に高度を上げ、眼下で翻っていくデスを見る。
不敵な笑みと、紅玉の如く鮮やかに染まる両目。
そのまま、森の樹々の間に、自然な動きで吸い込まれていく。
ザッ・・・ザザッ・・・と葉が擦れ合う音。
暫しの、間。
再び不明となる、デスの気配。
茫然とした状態で、デスが姿を消した付近に目線を固定するマッシュマン。
マッシュマン《馬鹿なッ! あの高さまで跳べるのかッ!? ならばもっと高く飛ばぬと・・・しかし高過ぎると魔法の命中精度と威力が落ちる・・・攻撃範囲寸前の高さでないと・・・(歯軋りして)あの死神・・・奴の身体能力を甘く見てはいかんということ、ゾ・・・》
マッシュマン、もう一度、別の気配に意識を向ける。
そちらは、今も同一方向に進行し続けており、位置も把握出来る。
奥歯を一度噛み、再度の飛行を開始するマッシュマン。
★ 森林地帯と荒野の境
天空の皆既月蝕が、不気味な様相のまま浮かぶ。
マッシュマン、森林地帯の上、数メートルの高さを飛び続ける。
前方の眼下、荒涼な大地が剥き出しになっている場所を確認。
樹木はそこから先はなく、地面のみの野となっている。
マッシュマン《荒野?・・・よし、あの地まで出れば、樹を足場には出来ない・・・》
森林と荒れ野の境が、あと十数メートル。
マッシュマン、加速。
荒野との境、端の高木が足下に迫る。
直後。
バッシュウウゥッッ!と、再び前下方から発射音。
向けられるマッシュマンの顔目掛けて、急襲する純白の光線。
マッシュマン「(心底驚き)ヌアウッ!」
ブオッ、と大慌てで、身体を真下に垂直落下させるマッシュマン。
頭上の紙一重の位置を、一直線に貫く光の束。
避けたマッシュマンの眼に、映る姿。
斜め前方の地面で、バクルス(司教杖)の先端をこちらに向けて立つハイエロファント。
マッシュマン、ハッ!と、高度が一気に下がったことを自覚する。
それに気付いた、次の瞬間。
背後に、跳躍しているデスの姿。
大鎌は振り翳され、刃が、キラ、と輝く。
振り向き、顔面を崩壊させるように縦に伸ばし、目を正円に開くマッシュマン。
マッシュマン「(驚愕)しまったッ!」
デス「(凍り付くような声で)・・・貰った・・・」
一閃する大鎌。
ザッシュウウッッッ!!!と、マッシュマンの胴体、大きな腹部から上下に両断される。
白目を剥いたまま、歪に顔を崩したまま、衝撃の表情で固まるマッシュマン。
デス、振り抜いた大鎌の勢いで、ふわ、と身体を回して降下していく。
切断されたマッシュマンの、下半身側の、斬られた面が蒼白く発光。
光はやがて、じわぁっ・・・と浸食していき、蝕むように飲み込んでいく。
森林地帯の端の樹を越え、スタッ、と鮮やかに着地するデス。
前方に立つハイエロファントの元に、素早く駆け寄る。
デス「(ふっ、と笑って)終わったようだな」
ハイエロファント「・・・ううん、まだのようだよ・・・」
ハイエロファント、斬られたマッシュマンに目線を繫げたまま。
デス、表情を変え、振り返って後方を見上げる。
そこに浮かぶ、異様な姿。
腹部から上だけが宙に残り、切断面が蒼白く光った状態のマッシュマン。
下半身は完全に消滅しているが、それ以外の歪んだ顔、胸部、両腕が残存。
マッシュマンの表情は崩壊したままで、固まったまま。
デス「(目を見開いて)上半身が消えていないっ!?」
ハイエロファント「あの時・・・君が“影”を斬った時とは違う・・・でも、効果がまったくない訳じゃない・・・“影”と“本体”の違いはあるとは思うけど・・・」
すると。
マッシュマンの上半身、ゆっくりと回り、正面をデスとハイエロファントに向ける。
切断面の蒼白光、次第に薄くなっていく。
溶解するように顔を戻しながら、今度は嗤う表情へと変化させる。
マッシュマン「(口角を歪ませ)ムシュ・・・ムシュムシュ・・・」
茫然とその状況を見ている、デスとハイエロファント。
僅かの、後。
ズボシャアッ!!!と、奇妙な音を立て、マッシュマンの上半身切り口から体組織が膨れ上がる。
一瞬で巨大化し、バァーン!と空気を震わせ、安定した実体となる。
そこには、斬る前と何ら変わりのないマッシュマンの体躯が存在。
デス「(息を飲んで)再生、だとっ!?」
ハイエロファント「(息を飲んで)そんなっ!?」
マッシュマン、剥いていた白目を、グリン、と元に戻す。
そして自分の全身に視線を這わせて、元通りの身体となっていることを確認。
一挙に、狂喜の崩壊を起こすマッシュマンの顔。
マッシュマン「(勝利を確信した嗤い)ムーッシュッシュッシュ!!! なーんだ! こんな物か! 死神の斬撃はこの程度か! 怖れることなどなかった! 何も懸念などなくなった! やはり我輩は強い! 我輩は“恐怖の大王”! 敗北などない! 勝ったゾォォッッ!!!」
バッ、とバクルスを構え直し、宝玉をマッシュマンに向けるハイエロファント。
腰を少し落とし、真っ直ぐな視線。
ハイエロファント「(大声で)ミラクルビームっ!」
クワァァァッ! ズドムッ!と、光球発生からの発射。
白色の光線が、瞬時に中空のマッシュマンまで間隙を狭める。
落ち着いた様子で左腕を振り、掌を翳して五指を開くマッシュマン。
途端。
ブウォン・・・と重苦しい音を放ち、マッシュマンの目の前に、紫と黒の混じった煙の渦が湧く。
直径1メートルほどのその中心が、漆黒に染まって凹む。
ハイエロファントの放った光の束、先端が、クイッ、と少し曲がる。
そのまま、シュウウウ・・・と、渦の中に吸い込まれていく。
ハイエロファント「(驚き)えっ!?」
デス「(驚き)今のはっ!?」
僅かの時間で、純白の光線は飲み込まれ、消失する。
その一部始終を目の当たりにして、言葉を失うデスとハイエロファント。
ブイン・・・と、怪しい煙渦を消すマッシュマン。
そして左手を戻し、掌をしみじみと見詰める。
マッシュマン「ワームホールも使える・・・城の上空に固定してある以外にも・・・(バッ、と手を下ろして)貴様の光線も、我輩が異空間に飛ばせる! 斬られても再生出来る! 最早負ける理由など何処にもない、ゾ!」
マッシュマンは森の樹の上空、デスとハイエロファントはそこから斜め下10メートル付近の荒野。
対峙する、双方。
デスとハイエロファント、再び互いの得物を構える。
そして、ぐっ、と奥歯を噛む。
奥の手を封じられたような、苦い表情。
マッシュマン「その顔、その希望を失った顔・・・それが見たかったゾ!」
対して、余裕すら感じさせる顔で、蔑んだ目線を放るマッシュマン。
フン、と息を吐き、胸を反らせて眉を吊り上げる。
マッシュマン「勝利は決まった。森に逃げ込まれても負けはしないのだが、それでは面白くない・・・貴様らにはとことん絶望して死んでもらわないと・・・」
マッシュマン、両手を垂直、頭上に掲げて五指を全開にする。
ボウッ・・・と、ふたつの火球が、宙に湧いて出る。
マッシュマン「(轟く声で)気が済まんゾォッ!!!」
一息で、両腕を足元目掛けて振り下ろすマッシュマン。
2個の火の球、ブンッ、と森林に投げられる。
直後。
ボボボォォォォッッッ!!!と、数本の火柱が一斉に林立。
瞬く間に炭化していく、森の樹々。
更にマッシュマン、両腕を羽のように左右に大きく広げる。
すると、腕の動きに沿うように、炎の柱が移動し始める。
地面から突き上げるように、ボンッ! ボンッ! ボボンッ!と噴出し、右方と左方に展開。
見る見る火炎地獄となっていく、森林地帯。
ハイエロファント「森が!・・・」
デス「(チッ、と舌打ち)奴め、焼き尽くすつもりか」
ものの数秒で、眼前の森、左右100メートル程度ずつが炎上し、夜空を焦がす。
マッシュマンはその光景を眺め、愉悦の表情を顔にへばり付けている。
デス「(ハイエロファントを見詰め)止むを得ん。足場を失うのは痛いが、距離を取ろう。荒野の中心付近まで移動する」
ハイエロファント「(デスを見詰め)マッシュマンに届く?」
デス「以前、加速の勢いを利用して、タワーの頭頂部付近まで跳べることが判った。その高さまでなら行けるだろう。後は・・・お前の身体を、借りるかも知れない」
ハイエロファント「(こくん、と頷いて)いいよ、好きに使って」
デス「戦闘中だからな、予告なしで行く。お前の技と呼吸に合わせる」
ハイエロファント「(意気を上げて)僕も、君の技に合わせるよ」
デス「(意気を上げて)頼むぞっ!」
くるん、と綺麗な動作で踵を返すデスとハイエロファント。
即座に、ダッ、と地を蹴って駆け出す。
向かうは、地平遥かに広がる荒野の中心方面。
それに気付いたマッシュマン、一瞬で不機嫌そうな面を表す。
マッシュマン「(気分が悪そうに)まだ逃げる気か・・・舐めた真似を・・・(ニヤリ、と嗤い)まあいい、足場も遮蔽物もない場所で、我輩から逃げおおせると思うな、ゾ!」
走り去るふたりの姿に視界を固定し、再び飛行を開始するマッシュマン。
その足元後方の、焼け切った樹が、ガッサーッ、と音を立てて倒木。
尚も拡散し続ける、紅蓮。