デスとハイエロファントの物語:REBOOT 最終章   作:桁石スミオ

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最終章第四話の壱:光は、義しき人の為に射し出で【前編】-2

★ 荒野

 

 皆既月蝕の、輪郭を成す薄ぼんやりとした光環の元。

 広大な、土が剥き出しの荒野を並走している、デスとハイエロファント。

 ふたりの背後、上空から一気に距離を詰めてくるマッシュマン。

 

マッシュマン「諦めの悪い連中だ! とっとと魔法を喰らえ!」

 

 マッシュマン、大きく右腕を後方に被り、ブン!と前方下に振り抜く。

 中規模の火球が、ボボボボボボッッッ!と、直線状に連鎖して発生。

 彼の右掌から一本の線を形成するように、空間を連なり、ふたりに襲い掛かる。

 次の、瞬間。

 ズザアァッ!と地面を靴底で擦り、急停止するハイエロファント。

 そのまま、くるり、と身体を返し、左手を翳す。

 ポウッ・・・と、半透明の白い膜がそそり立ち、盾のようにそびえる。

 マッシュマンの魔術が、衝突。

 ボ―――ンッ!と弾け飛ぶ火球。

 続いての火の球も、ボン! ボン! ボンッ!と勢いのまま防術の壁に次々とぶつかる。

 その度に、大量の煙が溢れ、ハイエロファントとマッシュマンの間を埋め尽くす。

 暫く続いた、後。

 薄くなって散っていく爆煙の、隙間。

 既に、ハイエロファントはバクルスをマッシュマンに向けて構え、先端を差している。

 マッシュマン、何かに気が付く。

 

マッシュマン《(怪訝そうに)死神が、いない?》

 

 地面から4メートルほどの高さに浮かぶマッシュマン。

 身体はハイエロファントの方に対面させ、目だけを忙しく左右に動かす。

 誰かが、走駆する足音。

 自分を中心とした、半径100メートルほどの円を描き、ずっと周回している疾走の音。

 タタタタタタタ・・・と、非常に細かい、規則正しい音調。

 しかし、姿は確認出来ない。

 疾風の如き凄まじい速度で、影だけが駆け回っている。

 その位置を確認しようと、マッシュマンが僅かに右側に顔を傾ける。

 直後。

 左側方、地面から、ダァ―――ンッッッ!!!と土を蹴る音が響く。

 慌てて振り向くマッシュマン。

 眼前に、大鎌を振り翳し、両目を紅に光らせるデスの姿。

 

マッシュマン「(息を思い切り吸い)何イッ!」

 

 デスの大鎌が、劈く。

 マッシュマン、身体を横倒しにするように捻る。

 しかし、左腕が躱し切れず、刃の延長線上に残る。

 ザシュウッ!と、鋭利な切り口で肘の辺りで切断され、吹き飛ばされるマッシュマンの左腕。

 歯を剥き出して食い縛り、デスを睨むマッシュマン。

 斬られた左腕は、蒼白光を纏っていき、やがて消滅。

 デスが空間を翻っていき、地面に近付いていき、着地。

 こちらを振り返りもせず、ダッ!と土を蹴って、再び強烈な走駆を開始する。

 マッシュマンの残った左腕、切断面の蒼白い光、スッ、と消える。

 ズボシャッ!と、体組織を湧き立たせて左腕を復元するマッシュマン。

 チラ、と先程デスを確認した空間と、地上の距離を目に映す。

 やはり、高度は4メートルほどはある。

 ゾワ・・・と、背筋に寒いものが走るマッシュマン。

 

マッシュマン《何だあのスピード! 何だあの跳躍力! あり得ん!》

 

 既に、デスは先刻と同じ、直径200メートルほどの周回軌道に再突入した模様。

 視界内に留めて目視することは不可能な、疾風の影。

 走駆音だけが、タタタタタタタ・・・と一定のリズムで奏でられ続けている。

 何処から攻撃を仕掛けてくるか、判断出来ない。

 マッシュマン、警戒の目線を方々に投げる。

 突然。

 

ハイエロファント「(響く大声で)ミラクルビームっ!」

 

 ハッ!と、視線を正面斜め下方に戻すマッシュマン。

 ハイエロファントのバクルス、宝玉から、クワアッ!と純白光を膨れ上がらせる。

 そして、ズドォムッ!と発射され、直径50センチほどの光線を成して伸びる。

 瞬時に、間を詰めてくる光の槍。

 マッシュマン、すかさず右掌を掲げ、ブウォン・・・とワームホールを出現させる。

 間髪入れず、光線の先端が僅かに向きを変え、異空間の渦に飲み込まれる。

 すべて吸い込まれたのを見定めて、ブイン・・・とワームホールを消すマッシュマン。

 

マッシュマン「(苛立ったように)何度やっても無駄ゾォッ!」

 

 ハイエロファント、真っ直ぐで揺らぎのない目線をマッシュマンに向ける。

 マッシュマン、不快極まりない様相の顔。

 左腕を頭上に振り上げ、五指を広げ、ハイエロファントを睨み付ける。

 

マッシュマン「喰らえェェェイッ!」

 

 振り下ろされたマッシュマンの左掌から、薄青い光が湧く。

 その中から、ビュウワーッ!と、氷の矢が多数飛び出す。

 一斉に群れを成して、ヒュン! ヒュン! ヒュン!と空間を貫き、雨のように降り注ぐ。

 ハイエロファント、バクルスを僅かに上下に振る。

 すると、ポーウッ・・・と一際高い、薄い純白光の壁が出現。上下左右に拡大。

 バシュバシュバシュッ!と、魔術の氷矢は防壁に阻まれて、散り消えていく。

 砕け散る氷の欠片が、霧状となって拡散し、空域に漂う。

 マッシュマン、ふと何かに気付く。

 それまで円周を駆け回っていた気配が、存在しない。

 途端。

 バクルスを構えたまま、右足を引き、腰を落とすハイエロファント。

 彼の右脚から右肩に掛けてのラインが、仰角45度ほどの射角を形成。

 ハイエロファント、ぐっ、と足を踏み締め、全身に力を込める。

 直後。

 彼の背後、数100メートル付近から、刹那の時で迫り来る影。

 ダダダダダダダッッッ!!!と猛烈な砂塵を上げ、駆け寄るデスの姿。

 大鎌を正面に構え、身体を地面擦れ擦れに傾け、空気抵抗を極限まで殺した走法。

 まさに、電光石火。

 デス、そのまま一気に、ハイエロファントの背中に接近。

 そして、彼の腰、右肩を連続で足場にして、タ―――ンッ!!!と宙に跳び上がる。

 即座に、フシュン・・・と防護光壁を消し去るハイエロファント。

 緞帳が落とされたように、マッシュマンの視界が開ける。

 そこには、自分よりも身体ひとつ分以上高い位置に、デスがいる。

 既に大鎌を背後に振り翳し、殺気を放つ紅玉色の両目で凝視している。

 衝撃で歪む、マッシュマンの顔。

 

マッシュマン「(愕然と)高いッ!!!」

 

 凄まじく鋭利な軌道で、デスの大鎌が唸る。

 マッシュマン、慌てて身体を後方に引くが、間に合わず。

 ズバッシュウッ!!!と、左肩から右腹部に掛けて、袈裟懸けに斬られる。

 苦痛に、歯を剥き出して食い縛り、両眼を丸くするマッシュマン。

 デス、大鎌を振り抜いた勢いを維持し、身体を空中で前転させながら、スタッ、と地面に着地。

 息をもつかず、タッ、と地を蹴って、ハイエロファントの隣に駆け寄る。

 一瞬眼差しを絡め、作戦が成功したような、安堵の笑みを交わすふたり。

 そして並んで、得物を構え直してマッシュマンを見上げる。

 デスが斬った傷は、切断するまでは至らなかったが、深手の模様。

 切り口が、蒼白の光を放っている。

 やがて、光を隠すように、ズボボボ・・・と体組織を再生していくマッシュマン。

 大鎌での傷口がどんどん埋まり、そして復元される。

 完了した頃、マッシュマンの顔には疲労の色が濃く浮かんでいる。

 そして5メートルほど眼下、デスとハイエロファントを忌々し気に見る。

 

マッシュマン「(息を少し荒げ)な・・・何なんだ貴様ッ! 何故そこまで高く跳べるッ!? 浮遊能力も飛行能力もない癖にッ! 何故ゾッ!」

デス「さあ、何故だろうな? あたしが死神だ、という答えしか言えないな」

マッシュマン「(怒りを浮かべて)・・・答えになってない、ゾ!」

 

 すっ・・・と、デスの両眼が切れるように細くなる。

 

デス「ひとつ、聞かせろ・・・(眼光鋭く)ワールドをどうやって襲った?」

マッシュマン「ワールド?・・・ああ、あの忌まわしい魔力を持った女神のことか・・・(途端に落ち着き、鼻で嗤い)ムシュ、ムシュシュシュ・・・冥途の土産に教えてやってもいいが、知らなくてもいいことでもある、ゾ。何故なら貴様らは我輩にここで殺されるのだからな」

デス「そうか・・・つまり、ワールドを襲撃出来たのは、偶然だ、という訳だ」

マッシュマン「(カッ、となって)偶然ではないゾッ! 何百年も綿密に計画を練り! 奴の弱点を見付け出した! 日蝕と月蝕が時を同じくすれば! あの女神の『第三の目』の遠視を利用して! 我輩の・・・」

デス「(眉を顰め)遠視? 利用?」

 

 ハタ、と我に返って、焦ったように右掌で口を隠すマッシュマン。

 デスとハイエロファント、怪訝そうな目線をマッシュマンに向ける。

 少し、そのまま。

 尚も、間。

 マッシュマン、首を左右に振って、ふう、と息を吐く。

 

マッシュマン「おおっと、危ない危ない。誘導尋問に引っ掛かるとこだった、ゾ」

デス「誘導したほどではない。お前が勝手に喋ろうとしていただけだ」

マッシュマン「(小さく舌打ちして)ふざけた真似を・・・だが、もう引っ掛からぬ。これ以上の問答は無駄、ゾ」

 

 急に胸を張り、バッ!と右腕を高々と差し上げるマッシュマン。

 右手人差し指で天空を指し、ニヤアッ・・・と口角を歪ませて思い切り持ち上げる。

 

マッシュマン「(勝ち誇ったように)見よ! あの皆既月蝕をッ! 今や天頂に差し掛かっている! 更に! もうすぐ天の一番上に皆既月蝕が来るッ! 我輩の魔力も! 霊力も! 最大最強になる時ゾ! 先程から見てるだろう!? その大鎌で斬られようが再生し! 憑依を解いた光線も異空間に消せる! 貴様らが勝てる要素など何ひとつ存在しないのだゾ! ムシュ! ムシュ! ムシュシュシュシュ!!!」

 

 デスとハイエロファント、続いて夜空を見上げる。

 皆既月蝕は、ほぼ天の頂に到達しようとしてる状態。

 不気味な光輪を纏い、おどろおどろしい雰囲気の、月を凝視する。

 暫し、そのまま。

 尚も、そのまま。

 デス、何事か理解したように両目を開き始める。

 

デス「(夜空を見上げた目線を下ろし)そうか・・・何故今まで気付かなかった!」

ハイエロファント「(デスと同じように、夜空を見上げた目線を下ろし)何か解ったの?」

 

 ふたりの眼差しが合致し、固く絡む。

 ふっ、と小さな笑みを唇に湛えるデス。

 

デス「皆既月蝕が、こんなに長時間続く筈がないっ!」

 

 

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