デスとハイエロファントの物語:REBOOT 最終章 作:桁石スミオ
★ マジカルランド中央・フォーチュンの居城・フォーチュンの自室(同時刻)
未だに城全域に続いている、微震と重低音。
フォーチュンとタワー、マジシャン、散発的に襲来するゴーストを駆逐している。
家具や家財道具の異常な動き、一向に治まる気配がない。
天蓋付きベッドの上で、ワールドに覆い被さったまま、顔を上げるハイプリエステス。
ハイプリエステス「やっぱりおかしいざますっ!」
マジシャン「(ハイプリエステスを振り向き)どうしたッ!?」
ハイプリエステス「(フォーチュンを見て)フォーチュン! 月は今、どうなってるざますか!?」
中庭を望む窓から身体を乗り出し、天空の月を見上げるフォーチュン。
フォーチュン「相変わらず皆既月蝕じゃ・・・(眉を顰め)皆既? 今も?」
暫しの、間。
尚も、間。
フォーチュンとマジシャン、ハッ!と閃いた表情。
対角の位置から同時に、バッ!と振り返ってハイプリエステスに視線を結ぶ。
マジシャン「(息を飲んで)長過ぎるッ!」
ハイプリエステス「そうざます! こんなに長時間! 皆既月蝕が続く筈がないざますっ! どんな月蝕でも! 第一接触から第四接触まで長くて2時間! でももう深夜近く! 6時間も月蝕が続くなんて聞いたことがないざますよっ!!!」
フォーチュン「(窓の外に目をやり)ではあれは何じゃ!? 何が月を隠しておるのじゃ!?」
ハイプリエステス「フォーチュン! 望遠鏡はあるざますか!?」
フォーチュン「(壁を指差し)壁際の机の、一番下の引き出しにあるぞよ!」
ハイプリエステス「(マジシャンを見て)マジシャンさん! ワールド様の護りもお願いざますっ!」
マジシャン「(少し慌てたように)あ、ああ! 判ったであーる!」
ベッドに走り寄るマジシャン。
入れ違いに飛び降り、すぐさま壁寄りにある小振りな書斎机に近付くハイプリエステス。
ガタン、ガタン、と跳ねるような動きを続行している机。
ハイプリエステス、それにも拘わらず、三段の引き出しの一番下に右手を掛ける。
書斎机が抵抗するように、ガタガタガタッ!と、もがきながら上下に弾む。
卓板の端を、むんず、と左手で掴み、据えた目線を繫げるハイプリエステス。
ハイプリエステス「(ぎっ、と歯を食い縛り)このっ・・・暴れるんじゃないざますっ!」
そして、ガザッ!と渾身の力で取っ手を引き、遂に引き出しを開ける。
中に鎮座している、長さ30センチ、太さ5センチほどの黄土色の筒。
ハイプリエステス、それを右手で取り出し、中庭に面した窓に駆け寄る。
フォーチュンの立つ窓の隣、既に外側に開放されている別の窓際に立つ。
素早く、カシャカシャッ、と三段望遠鏡を伸ばし、両手で持ち直す。
ずいっ、と身体を乗り出しながら、皆既月蝕に向けて筒を掲げる。
左の瞼を閉じ、右目で接眼側を覗き込む。
途端。
一瞬で、ハイプリエステスの顔から血が引く。
ハイプリエステス「(大悲鳴)嫌ゃぁぁぁぁっっっっっ!!!」
望遠鏡から目を離し、顔面蒼白となってその場にへたり込むハイプリエステス。
血相を変え、思わずベッドから離れて、ハイプリエステスに跳び付くように近寄るマジシャン。
マジシャン「どうしたッ! 何が見えたッ!?」
マジシャン、ハイプリエステスの手から望遠鏡を取り、窓際に立つ。
そして彼女が見た方向と同一の角度に、筒の照準を合わせて覗く。
瞬時に、彼の顔色も変わる。
マジシャン「(蒼くなり)ウグッ! これはッ!」
気分が悪そうに眉を顰め、接眼側から目を離すマジシャン。
フォーチュン、マジシャンの隣に即座に移動し、望遠鏡を受け取って両手で持つ。
窓から身を乗り出して、皆既月蝕に筒の視界を向ける。
直後。
フォーチュンの右目に映る、奇奇怪怪な映像。
フォーチュン「(凄まじく息を飲み)何じゃありゃあっ!!!」
対物レンズに投影されている、皆既月蝕の陰の部分の拡大。
すべて、ゴースト。
ひしめき合う、莫大な数のゴースト。
3色のゴーストが、押し合い圧し合い視界内すべてを埋め尽くしている。
間隔など開けず、重なり合い、前後左右、奥の奥まで全部ゴースト。
円型のゴーストが、無限とも思える集団体を形成している。
球体が連続して無数に並ぶ画像は、凶悪そのもの。
フォーチュン、軽い眩暈と吐き気を覚える。
瞳を接眼レンズから離して、改めて皆既月蝕を肉眼で確認。
城の窓から眺めると、巨大な円形の陰にしか見えない。
フォーチュン「(再度息を継いで)あれが全部ゴーストじゃったとは! 数も半端ではない!」
マジシャン「この位置から見て、満月を覆い隠すほどの数・・・数万単位でないと不可能であーる」
フォーチュン「しかも、半透明であるゴーストが影を生み出すとは・・・厚みも相当ありそうじゃな」
ゴク、と生唾を飲み込むマジシャン。
彼の足元で、床に座り込んだまま膝を抱えて丸まっている、真っ青な顔のハイプリエステス。
ハイプリエステス「(ガタガタ震えて、怯えた声で)・・・ブツブツ・・・嫌・・・怖い・・・」
マジシャン、片膝立ちでしゃがみ、静かにハイプリエステスを抱き寄せる。
即座に、縋るようにマジシャンの胸元に顔を埋めるハイプリエステス。
フォーチュン「母上は、集団恐怖症じゃからのう・・・見てはいかんものを見てしまった、という訳じゃ」
マジシャン「あの群れは、恐怖症でなくとも気分が悪くなる。しかし・・・(冷静な目で)ああまでしてゴーストを集め、満月の光を隠していたのは、やはり・・・」
フォーチュン「(こくん、と頷き)マッシュマンじゃろう。奴め、わざと皆既月蝕を作っておったのじゃ」
マジシャン「自身の霊力と魔力を高める為、であーるな」
フォーチュン「左様。じゃとすれば・・・あのゴーストを駆逐すれば、この闘いを有利に出来るのう」
マジシャン「(皆既月蝕を睨んで)しかし遠過ぎる。あの位置は、大気高層圏の縁ではないか。私たちの魔力がいくら強くとも、届かないであーる」
フォーチュン、皆既月蝕を凝視する。
暫くの、間。
暫くの、間。
フォーチュン「・・・タワーの最終兵器なら、届く」
思わずフォーチュンを見上げ、微かに驚いたような表情となるマジシャン。
にっ、と不敵な笑みを浮かべるフォーチュン。
フォーチュン「千年ほど前、月に撃ってみたことがある。月の表面に、一際大きなクレーターがあるじゃろ? あれはその時出来たのじゃ」
マジシャン「(驚愕して)何と! そこまでの威力であったとは!」
フォーチュン「(自嘲気味に)まあ、月を破壊出来なかったのは幸いじゃった。壊してしもうたら、創造神に大目玉を喰らうとこじゃったからのう」
マジシャン「(ふう、と息をつき)まったく・・・私たち夫婦は、とんでもない娘を持ったものであーるな」
フォーチュン、目線を下ろし、中庭で戦闘の構えをしているタワーの背中を見詰める。
フォーチュン「最終兵器で、わらわとタワーの霊力を射出する。暫しここを離れるでな。(マジシャンを見詰め)父上・・・母上とワールドを、頼むぞよ」
マジシャン「(フォーチュンを見詰め返し)任せておけ。こちらの心配は無用であーる」
柔らかく、且つ凛々しい笑顔を向けるフォーチュン。
そして、右足を窓枠に掛け、窓から身を乗り出し、きり、と眉を寄せる。
フォーチュン「(大声で)タワー! 今からそちらに行く! 手を貸すのじゃ!」
タワー「(振り返りながら)ター! ワー!」
ゴウン・・・と身体を城に正対させ、ドスン、と右脚を踏み出すタワー。
★ マジカルランド中央・フォーチュンの居城・玄関ホール
空震と微動の振幅が尚も続く、玄関ホール。
一時すべて自動的に開放されていた窓は、一枚残らず再び閉まっている。
天井の照明、家具が異様で怪しい動きを繰り広げる。
正面の大きな観音開きの扉を、両腕を突き立てて押しているブルース、マッコイ、エンペラー。
しかし開錠されている筈なのに、ピクリとも動かない。
はあーっ、と息を吐いて、両手を扉から離す3名。
マッコイ「窓も扉も開かねぇ・・・完全に閉じ込められちまったってワケだ」
ブルース「ポルターガイストが長過ぎる。ゴーストの出現も多過ぎる。ワームホールが何処かに固定されているにせよ、対策も現段階では成せない・・・(声を一段低くして)皆さんに渡した霊力も、時間制限がある。今後の長時間掃討は厳しいかもな。(エンペラーを見て)エンペラーさん、『小アルカナ』の残り枚数は?」
エンペラー「(ケースから残りを取り出し)攻撃に使えるのは、5枚だけね。『ペンタクル』が2枚、『カップ』があと3枚あるわ」
ブルース「了解です。エンペラーさんは攻撃のカードがなくなり次第、守備に徹して下さい。攻撃は我々が行います」
エンペラー「(明るい調子で)なーに言ってんのよ。まだ『カップ』があるじゃない。アンタたちのバックパックから霊力をまた貰って、そこいらの棒切れに入れれば、闘えるわよん!」
マッコイ「気持ちはありがたいケド、あまり無茶してほしくねぇな」
ブルース「(頷き)その通りです。まだ戦闘終結の見通しが立たない以上、無理は禁物です。それに最早、籠城戦となっています。籠城戦は援軍があれば有効ですが、外部からの援軍が期待出来ない以上・・・」
エンペラー「いるじゃない。援軍なら」
エンペラーに視線を結びながら、眉を寄せるブルースとマッコイ。
エンペラー「(ニィ、と笑い)エロファントちゃんと死神がいるわ」
マッコイ「そうか・・・(ニッ、と笑い)あのふたりなら、間違いねぇな」
ブルース「(頷きながら、少し考えて)しかし、マッシュマンの動向も気掛かりだ。奴のことだ、ふたりに気付いて戦闘を仕掛けるやも知れん」
エンペラー「だとしても! よッ!」
グッ、と左拳を握り、ふたりに掲げるエンペラー。
自然な動作で、向かい合う3名。
エンペラー「(キリ、とした目で)帰って来るわ、ふたりなら。マッシュマンでしょーが何でしょーが、ブチのめして帰って来るわん!」
ブルース「(確信した笑み)おっしゃる通りです。それまで持たせましょう!」
マッコイ「(左掌を右拳で、パン!と打ち)オッケー! やってやろうぜッ!」
ブルースとマッコイ、エンペラー、改めてホール全体に視線を投げ、警戒を再開する。
意気揚々として、不屈の意志を溢れさせる表情。
★ マジカルランド中央・フォーチュンの居城・謁見の大広間の裏廊下
『従者控えの間』の奥扉を抜けたところにある、一本の廊下。
その中ほど、前後に背中合わせに立ち、戦闘態勢を取っているジャスティス、ストレングスとガオガオ。
ジャスティスは突き当たりに見える階段に向かい、その方向から来るゴーストを迎撃中。
ストレングスとガオガオは、逆の方向、『従者控えの間』方面から来るゴーストを迎え撃つ。
廊下に面している扉は、大小数枚確認出来る。
ストレングス「(不安気に)とーちゃんとエンプレス様、大丈夫かなぁ?」
ガオガオ「(励ますように)ガウアッ! ウガウッ! ガオッ!」
ジャスティス「あのふたりなら、心配ないって。何だかんだ言っても、阿吽の呼吸で闘えそうじゃない」
尚も廊下に侵入し、3名に襲い掛かってくるゴーストたち。
ジャスティスの大剣、橙色の霊力光が点滅している。
その剣を素早く振り上げて、オレンジゴーストに一撃を加えるジャスティス。
ヒギャァ!と、短い悲鳴を上げて斬られるゴースト。
しかしその姿は、残像が暫く宙に滞留し、緩やかに散り消えていく。
ジャスティス「(眉間に汗)・・・そろそろ、霊力の限界、かな?」
ストレングス「かもね・・・アタイの光も、弱くなってきたよ」
ストレングスの左右の拳、薄青色の霊力光、今までの光量を落としている。
ガオガオの下げているペンダント、橙色の霊力光が小さくなっている。
ジャスティス「(一度大きく首を縦に振り)よし・・・常に霊力を出してるんじゃなくて、ギリギリまで引き付けてから込めよう。少しでも長持ちさせられるかも知れない。(ストレングスとガオガオを見て)出来そう?」
ストレングス「あまり得意じゃない闘い方だけど、やってみる。(ガオガオに目線を繫げ)ガオガオは鳴き声じゃなくて、足の攻撃にした方がいいよ。喉嗄らしちゃうからね」
ガオガオ「(頷いて)ガオゥン!」
ジャスティス「(勇ましく)最後まで膝は折らない! 必ず闘い抜いてみせる!」
更に数を増す、廊下双方から押し寄せるゴーストの群れ。
バッ!と改めて構え、その眼差しに漲る闘志を迸らせる3名。
★ マジカルランド中央・フォーチュンの居城・来客用寝室
ジャスティスたちが闘っている廊下に接する、天蓋付きシングルベッドが鎮座する寝室。
かなり広めの室内。煌びやかな装飾品や家具が多数置いてある。
空気振動と微震が続き、隅に置いてある椅子が、カタン、カタン、と動く。
寝室中央付近、壁のランプに浮かび上がるエンプレスとストレングス(父)。
ふたりは隣合って立ち、室内を忙しく見渡す。
エンプレス、鞭と柄を左右の手で持ち、いつでも攻撃出来る態勢。
ストレングス(父)、窓の外に浮遊する幾体かのゴーストを見て、拳を握って掲げる。
エンプレス「ったく、ざまあないねぇ。ジャス子たちと分断されて閉じ込められちまった訳だ」
ストレングス(父)「エンプレス様! オレが扉ブチ壊してもいいズォ!」
エンプレス「(呆れたように)アンタは学習能力ないのかい? さっきの部屋で何があったか、もう忘れちまったんじゃないだろうね? 扉は開けられなかったし、下手すりゃまた怪我しちまうだろ?」
途端。
ズーン・・・と肩を落とし、顔の上半分に陰を下ろすストレングス(父)。
しょぼーん、とした様子。若干、涙ぐんでいる。
彼の横顔に視線を繋ぎ、はあ、と溜め息を漏らすエンプレス。
エンプレス「・・・そんなんでいちいちしょげないどくれよ」
ストレングス(父)「(申し訳なさそうに)イヤ、でも、オレは頭より筋肉使った方が闘えるし、エンプレス様護るって誓ったし・・・こんなんじゃ、役に立たないズォ・・・」
エンプレス「(苛立った様子で)ああもう! アンタ、そんなに肝っ玉が小さかったのかい! 情けないよ!」
ストレングス(父)、未だに落ち込んだ表情。
少しの、間。
エンプレス、厳しい目線を外し、小さく息を吸い、一度口元を引き締める。
尚も、間。
エンプレス「また、いろんな物が飛んでくるかも知れない・・・だから・・・預けるよ・・・」
鞭と柄を握る両手に、グッ、と力を込めるエンプレス。
そして、その頬、綺麗な紅色に染まる。
エンプレス「(口籠りながら)ア、アタシの背中を、あ、預かっとくれ・・・」
ストレングス(父)「(思わず顔を上げ)エッ?」
エンプレスを穴の開くほど見詰めるストレングス(父)。
沈黙。
更に、沈黙。
視線を部屋の隅の方向に投げた状態で、上気して唇を結んでいるエンプレス。
ストレングス(父)「(意外そうに)そ、それってどどどどどう言う・・・」
エンプレス「(くるん、と背を向け)二度も言わせるんじゃないよっ!」
刹那の、後。
ストレングス(父)、嬉しそうな、爽快な笑みを浮かべる。
そして、エンプレスと背中合わせに立ち、グッ、と両拳を作って構える。
直後。
窓ガラスを、じわぁっ・・・と擦り抜け、数匹のゴーストが部屋に侵入し始める。
エンプレス、右手で柄を握り直し、鞭の先端を床に垂らす。
エンプレス「ゴーストはアタシが仕留める。アンタは、飛んでくる物を防いでおくれ。(ストレングス〈父〉を振り向き、微笑んで)任せたよ・・・」
ストレングス(父)「かしこまりましたァッ! (最大の気迫で)ウオオオッ! 何でも来いッ! エンプレス様には当てさせないズォッ!!!」
緩やかに、安心したような表情になるエンプレス。
再び視界をゴーストたちに向け、キッ、と凛々しい雰囲気を醸し出す。
片や、まさに勇者の覇気を身に纏い、闘魂を全身から湧き立たせるストレングス(父)。
幾体かのゴーストが、取り巻く動きで距離を詰めてくる。
【 To be continued...『最終章第四話の弐:光は、義しき人の為に射し出で(後編)』】