デスとハイエロファントの物語:REBOOT 最終章 作:桁石スミオ
★ マジカルランド上空・高層圏
漆黒の宇宙と、マジカルランドの大気層の、境目。
そこには、ひしめき合うゴーストで構築された、直径数キロメートルに及ぶ大円盤。
厚みは数百メートルはあり、それがすべて3色のゴーストで積み成されている。
まさに数え切れない頭数。万単位、あるいは十万単位。
ゴースト一体一体の半透明の身体が、反対の満月側からの蒼白い月光からの照度を殺している。
そこに、タワーより射出された光線の先端が、急接近。
万を超えるゴーストの目線が、一斉に向けられる。
途端。
白金色の極太の光、ゴースト大円盤の中心点に激突。
ズガブシャアアアアアアッッッ!!!と、濃度の低い大気の空間に、轟き渡る爆裂音。
直撃を受けた何百体というゴーストが、瞬間的に蒸発。
そのまま光の砲撃が、一本の線を地上と結んだまま、円盤を抉る。
その表面を一気に拡散していく、霊力光と魔術光が複雑に混合された光の波。
ズゴドドドドドド・・・と、次々にゴーストを飲み込みながら、四方八方に広がる。
それでも、白金光の破壊は、止まず。
ゴーストで構成された大円盤が、ドーナツ状に大きな穴を開け始める。
中心から崩壊していく、ゴーストの密集体。
怒涛の波紋が、声も上げられず固まって目を向けるゴーストを、一匹残らず喰らっていく。
ドーナツ形の穴の直径が、あっという間にキロメートル単位まで膨張。
何万体というゴーストが、恐怖に歪んだ顔で殲滅され続けている。
やがて、光は貫通。
尚も進路を切り拓き、宇宙空間へと射出される。
最後に残った、大円盤最大周部の数百体、余韻のような光の波動で掻き消されていく。
光の柱が、地上から最後尾を競り上げて、とうとう何も存在しなくなった空域を通り過ぎる。
高層圏の大円盤を造っていたゴースト、全滅。
静寂。
静寂。
更に、静寂。
遂に、静かな空間が戻ってくる。
いつもの時間が戻っている。
そして、いつもの煌々と光る満月の明かりが、マジカルランド全域に降り注ぐ。
★ マジカルランド中央・フォーチュンの居城・尖塔の上空
尖塔上空に固定されている、マッシュマンが作ったワームホール。
突然、輝かしい月光を浴びさせられる。
それまで存在していた紫と黒の混じった禍々しい煙渦が、ゴオウッ・・・と急速に回転し始める。
回る速度が更に増し、渦の中心、漆黒の闇の凹みが小さくなっていく。
刹那の、後。
ブシュッ・・・という弾けるような音を残して、ワームホールが霧散。
僅かな煙を空域に漂わせ、消滅する。
後の上空から、月の光が朗々とした雅楽を奏でるように、舞い降りてくる。
★ マジカルランド中央・フォーチュンの居城・フォーチュンの自室
フォーチュンの自室の窓際、しゃがみ込んで目を閉じているハイプリエステス。
中庭からの、爆発のような眩しい光を遮断するように、顔を伏せて瞼を閉じているマジシャン。
音も、光もすべて治まる。
暫く、そのまま。
尚も、間。
マジシャン、そっ・・・と窺うように目を開け、周囲を見回す。
天蓋付きベッドに横たわるワールドと、抱きかかえた自分の妻に交互に目線を繋ぐ。
急に、サアッ・・・と、外に蒼白い光が満ちる。。
マジシャン、ハッ!と顔を上げて、上半身を伸ばすように窓から外部を見る。
彼の目に映る、中庭で構えたままのタワー。
そしてその天空から、燦々と降り注ぐ月光。
マジシャン「(思わず息を停め)おお・・・月が、戻った・・・」
突如。
ガバッ!と跳ね起きるように、身体を前屈みにするハイプリエステス。
そのまま起立して窓枠に跳び付き、顔を突き出して天頂を見上げる。
彼女の瞳にも、正円の月が映る。
徐に、静かな動作で立ち上がり、ハイプリエステスの背後に寄るマジシャン。
ハイプリエステス「満月・・・(マジシャンを振り返り)マジシャンさん! あのブツブツは!?」
マジシャン「安心し給え。フォーチュンとタワーが、排除してくれたようであーる」
途端。
全身の力が一気に抜け、へなへな、と脱力させ、マジシャンに寄り掛かるハイプリエステス。
マジシャン、柔らかく、優しい仕草で両腕で彼女を抱き締める。
ハイプリエステス「(はあああ・・・と大きな溜め息)良かったざますぅ・・・一時はどうなることかと・・・」
マジシャン「(フッ、と笑い)もう大丈夫だ。後は・・・(ワールドに目線を投げ)デスとエロファントが戻り、ワールドが目覚めれば・・・」
それから、至近距離で眼差しを絡ませる、ふたり。
安堵の微笑みを、交わし合う。
★ マジカルランド中央・フォーチュンの居城・謁見の大広間の裏廊下
『従者控えの間』の奥扉を抜けたところにある、一本の廊下。
階段の方向から、一気に間合いを詰めてくるオレンジゴーストに対し、剣を引くジャスティス。
大剣の刃に、ポゥ・・・と微かな橙色の霊力光が宿る。
背中合わせに立ち、目の前から迫り来るブルーゴーストに、右拳を翳すストレングス。
その拳に、ポゥ・・・と小さな薄青色の霊力光が灯る。
四肢を広げ、腰を落として身構えるガオガオ。
3名に距離を狭め、カパァ・・・と大きく口を開くゴーストたち。
突然。
その両方向のゴースト、フッシュン!と四散するように消える。
ジャスティス、ストレングスとガオガオ、同時に目を丸くする。
ストレングス「(驚いて)えっ? 消えたっ?」
ガオガオ「(驚いて)ウガウッ? ガアゥ?」
廊下の長手方向のあちこちから、フシュ! フシュン!と連鎖して聞こえる音。
見渡すと、視界範囲のゴーストが、次々に姿を消していく。
まるで、パズルゲームの連鎖の如し。
唖然とその光景を眺めている、3名。
数秒後、廊下の全空域から、ゴーストが消滅する。
ジャスティス「(廊下奥から、振り向いて背後まで見て)いなくなった・・・一体も・・・」
カチャ・・・と八双の構えを解き、大剣を右手に下げて持つジャスティス。
態勢を戻しつつ、顔を合わせるストレングスとガオガオ。
ガオガオ「ガアオ・・・ガウン・・・」
ストレングス「(ふう、と息をつき)そうだといいんだケドね・・・」
ジャスティス、ふたりに身体を正対させ、少し微笑む。
ジャスティス「さっきエンプレスとストレングスさんと、分けられちゃった場所まで戻ってみる? 中に入れれば、少しは状況が好転してるって気がするんだ」
ストレングス「(頷いて)うん!」
ガオガオ「(頷いて)ガォン!」
3名、タッ、と踵を返し、『従者控えの間』の奥扉側へと走る。
その廊下の突き当たり、明かり取りの窓の下、別の扉が存在する。
小振りだが綺麗な装飾を施した扉の取っ手に、跳び付くストレングス。
★ マジカルランド中央・フォーチュンの居城・来客用寝室
来客用寝室の扉が、何の抵抗もなく、ガチャリ、と開かれる。
ストレングス「(安心した声で)開いたっ!」
一斉に、3名の顔が綻ぶ。
ストレングスが思い切り取っ手を引き、流れるように室内に駆け込む。
続けて飛び込む、ジャスティスとガオガオ。
ジャスティス「(駆け込みながら)エンプレス! ストレングスさん! 大丈・・・」
直後。
ストレングスとガオガオ、ジャスティス、絶句して動きを停める。
部屋の中央付近で、床に胡坐を掻いて座っているストレングス(父)。
その左膝を椅子にするように座り、脚を揃えて、顔を彼の胸元に枝垂れかけているエンプレス。
ハッ!と、ふたりが顔を上げ、後から入室してきた3名と鉢合わせる。
沈黙。
沈黙。
沈黙。
得も言われぬ、妙な空気。
ジャスティス、少し口の端を上げて、意味あり気な表情を浮かべる。
ジャスティス「あらー・・・(冷やかすように)ひょっとして、お邪魔だったかなぁ?」
ガオガオ「(意味深な顔で)ガーウ? ウガォー?」
エンプレス「(真っ赤になって)ち! 違うんだよ! 勘違いしないどくれよ! これはその! ストレングスに背中を預か・・・いやいやいや! たまたまだよ! たまたま転びそうになっちまってさ! 何でもないんだったら!」
ストレングス「(安堵した顔で、悪戯っぽい口調)とーちゃんに護ってもらってたって、素直に言えばいいのに。でしょ? とーちゃん」
ストレングス(父)「(喜色満面で)オウッ! エンプレス様を護ってたズォ! 背中を預けてもらったんだズォ! そこのベッドがいきなり飛んできたんで、身体張って防いだら『怪我するんじゃない』って言ってもらえて、無茶苦茶嬉しかったズォ! 他にもいろんなのが飛んできたケド、ぜーんぶ止めたズォ! んで、エンプレス様が急によろけたのを受け止めていたトコだズォッ!」
エンプレス「(カァッ、と更に朱に染まり)そこまで詳しく説明しなくていいんだよっ!!!」
エンプレス、振り切るように、ガバッ!と立ち上がって、くるりん、と横を向く。
ストレングス(父)、続いて悠長な動作で起立し、彼女をしっかりと見詰める。
そのふたりを暫く眺め、それからストレングスとガオガオに視線を移すジャスティス。
ジャスティス「ま、みんな無事で良かったよ。そして・・・(明るい顔で)扉も開いたし、ゴーストもいなくなった。いい方向に進んでるね!」
ストレングス「(深く頷いて)そうだね。後はデスとエロファント兄ちゃんが戻るまで・・・」
ジャスティス「(勇ましい声)もうひと頑張り!」
★ マジカルランド中央・フォーチュンの居城・玄関ホール
玄関ホール全体の空振と微震が、突然止まる。
急速に静寂に包まれていく、室内。
背中合わせに円陣を組んでいるブルースとマッコイ、エンペラー。
エンペラーは『小アルカナ』ソードの剣、ブルースとマッコイは霊力ボールを構える。
そこに襲い掛かろうとしている数体のゴースト。
いきなり、フシュン!と軽やかな音を立てて消失する。
呆気に取られる、3名。
その見回す中を、フシュ! フシュ! フシューン!と連続して蒸発していく。
僅か数刻で、階段を含めた全空域のゴーストが、零となる。
エンペラー「(唖然と)ゴーストが・・・消えちゃったわよ? 目の前で」
ブルース「(玄関ホール全体を見渡し)ポルターガイストも治まっている・・・山を越えたか?」
マッコイ「だといいがな・・・」
スタッ、と床を蹴って、玄関の巨大な両開き扉に駆け寄るマッコイ。
右手を扉同志の境目に当て、強く押す。
ギイィィ・・・と、錆びた蝶番が軋み、扉の板が外側に隙間を開ける。
マッコイ「(振り返って、大声で)扉が開くぜ! 外に出られる!」
ブルース「よし、外部探索にシフト出来るな・・・(エンペラーを見て)ここを出て、前庭から城の中庭、周辺に移動し、ワームホールの捜査と同時に、引き続きゴーストの掃討を実行します。同行願いますか?」
エンペラー「(ドン!と右拳で胸を叩いて)当ったり前じゃないの! アタシたちは3人の“機動部隊”でしょ? どんどん指示してちょーだいッ!」
マッコイ「(意気揚々と)オッケー! そんじゃ行ってみっか!」
先頭でマッコイが、扉を抜けて前庭に飛び出していく。
後を追い、ブルースとエンペラーが、何の躊躇もなく走り出ていく。
★ マジカルランド中央・フォーチュンの居城・中庭・タワーの内部
最終兵器を使用し終えたタワーの、腹部バルコニーから扉を挟んだ内側。
床全面の白金光は治まり、魔法陣もなくなっている。
10センチほど浮いていたフォーチュンの両足が、すた、と足元の煉瓦に着く。
突然。
ふわあっ・・・と真後ろに傾いていく、フォーチュンの身体。
彼女は、慌てたように両手を背後に回し、態勢を整えようとする。
しかし平衡を完全に崩し、臀部から床に投げ出されていく。
転倒の勢いのまま尻餅を付き、ドン、ズザアッ・・・と後方にひっくり返るフォーチュン。
そして、大の字で床に寝そべる。
顔を天井に向け、ふーっ・・・と一際大きな溜め息を吐く。
ただ、表情はこの上なく満足し切ったもの。
タワー(頭上から)[フォーチュンサマ!]
フォーチュン「(にっ、と笑い)案ずるな、ちっとばっかし気が抜けただけじゃ」
タワー(頭上から)[(安堵の声で)ヨカッタ・・・]
フォーチュン「見事じゃったぞよ、タワー。千年前とは比較にならん出来じゃった」
タワー(頭上から)[ゼンブ・・・フォーチュンサマ、ノ、オカゲ・・・フォーチュンサマ、ガ、クレタ、チカラ・・・」
フォーチュン「(首を左右に振って)そなたがおらんかったら、何も出来んかった・・・感謝する・・・」
タワー(頭上から)[ター・・・ワー・・・]
横たわる真正面、天井に向けて、穏やかで可愛らしい笑顔になるフォーチュン。
フォーチュン「これで・・・(晴れ晴れとした声で)後はデスとエロファントが決めてくれるじゃろう・・・」
呼応するかの如く、一瞬小部屋全体が緑色に光り、また元の空間を戻す。
外の中庭は、既に静寂と夜の闇、満月の明かりが織り成す世界。