デスとハイエロファントの物語:REBOOT 最終章 作:桁石スミオ
★ 荒野
デスとハイエロファントがいる、岩盤ドームの外側。
そこに向けて両腕を真っ直ぐに伸ばして、掌を翳したままのマッシュマン。
未だに、飛来する土板や岩石は、止まらず。
ドゴン! ドガン! ズドッ!と凄まじい物量が、今も降り注ぐ。
その度に、猛烈な重量で軋む岩盤の塊。
既に、無機物で構成された半球体は、直径8メートルほどに達する勢い。
マッシュマン、その端から10数メートルほどの位置で、攻撃を続行している。
彼の立つ場所と、目の前のドーム以外の荒野は、広大に抉られて赤土が晒されている。
マッシュマン「(勝ち誇ったように)ムシュシュシュシュ! 終わりなのは貴様らの方ゾォォッッ!!!」
殲滅を確信して、愉悦に歪むマッシュマンの顔面。
直後。
細い一筋の、光。
岩盤ドームの中程に、真横に走る、光。
一瞬だけ膨れ上がり、半球の前面、マッシュマン側に三日月形の光輪を成す。
その輝きは、蒼白と純白の二層。
次の、瞬間。
バシュウウウウウウウウッッッ!!!という、裂空音。
三日月の光の刃が、地面と水平の軌道を、駆ける。
宙を斬り、劈く。
刹那の、後。
ズッッシャアアアアアアアアアッッッ!!!と、腹部で切断されるマッシュマン。
岩盤ドームから発せられた三日月形の光、そのまま彼を後方に置き、荒野を飛行。
遥か彼方の地の端まで向かい、やがて四散して消滅する。
マッシュマン、すべての表情を固形化させ、目線を下ろす。
マッシュマン「(自分の腹部を見て)・・・ハ?・・・」
自分の身体が、上下に分断されている。
その切り口に蒼白い光が貼り付き、挟まれた空間を純白の光が埋め尽くす。
じっ、とそれを凝視するマッシュマン。
それまで彼の魔術で集合していた岩盤類、突如飛来を止める。
ドゴッ、ガラッ、ズーン・・・と、次々と飛んで来た位置で地面に落下している。
マッシュマンの両腕は伸ばされた状態だが、魔法は既に発動していない。
岩石や土板の乱舞が、完全に終息する。
ひと度の、沈黙。
暫く、そのまま。
尚も、そのまま。
マッシュマン、奥歯を食い縛り、息を停め、頬をパンパンに膨らませて、全身に力を込める。
マッシュマン「(踏ん張って)ふん!・・・ふぬっ!・・・ふぐぐぐぐぐ・・・」
何度も何度も息張るマッシュマン。
変化なし。
腹部の切断面が、一向に変わらない。
今も、蒼白色と純白色が織り成す光が、自分をふたつに分けたまま。
ガバッ!と、顔を上げるマッシュマン。
急転直下の、悲愴な顔。
マッシュマン「(愕然と)・・・再生出来ないッ!!!」
直後。
目の前の岩盤ドーム、崩壊。
パアアアアアンン!!!という一際高らかな音を撒き散らし、内側から弾ける。
それまでへばり付いていた岩石や土塊が、まるで花弁が開くように外側に捲れる。
ゴロン・・・パラ・・・パラ・・・と、荒野の地に転がっていく石や鉱物。
中から現れた、姿。
大鎌を、刃が水平の位置で、左側方に完全に振り抜いているデス。
バクルスを左手で垂直に掲げ、右手をデスの大鎌、刃の下方を握っているハイエロファント。
まるでふたりの身体がひとつになったような、体軸を中心に全身を捻っている態勢。
そして、ゆっくりと、非常にゆっりと、身体を戻す。
デス、通常の構え。両手で大鎌を持ち、正面を見据える。
ハイエロファント、デスの動きに合わせながら、左手のバクスルを、フシュン!と消す。
その空いた左手を、今度はデスの左手下方に沿え、大鎌の柄を、ぎゅっ、と握る。
途端。
金色の大鎌が、発光。
パアアアアッッッ!!!と、これ以上ないほどの純度で白く輝く。
併せて刃が、ブォーンッ・・・と、鮮やかな蒼白の光を纏う。
それらは混ざり合うことなく、それぞれが主張するように光度を高めている。
ふたつの光が帯となり、ゆらぁ・・・と、オーラ状と化して大鎌から立ち昇る。
デスとハイエロファントが、金色の大鎌をふたりで持ち、構えている。
怯みのない直線の目線が、真っ直ぐにマッシュマンを射抜く。
片や。
ブワッ・・・と全身から脂汗を大量に噴き出し、目を正円に開くマッシュマン。
同時に、ガタガタガタ・・・と急冷されたように震え出す。
マッシュマン「(戦慄して)な、何だその鎌はッ! 何だその力はッ! し、知らぬッ! 解らぬッ! み、み、見たこともないゾッ!」
マッシュマン、腕を振り上げようとする。
だが、動かない。
ピクリとも、動かない。
身体を下げようとしても、足部を動かそうとしても、不能。
生体細胞の再生も、出来ない。
顔面と感覚と感情だけが、稼働出来る。
まるで、金縛りに襲われているかの如く。
生まれてこの方感じたことのない、絶対の恐怖が、マッシュマンを襲う。
だが、それを出さずに留め、ギリイッ!と奥歯を噛み締めて眉を吊り上げるマッシュマン。
ハイエロファント「(清んだ声で)争いは終わりだよ、マッシュマン」
マッシュマン「馬鹿なッ! 我輩は“恐怖の大王”ゾ! ここで終わろう筈がないッ! 負けぬッ! 貴様らを斃し! 屍にし! この世界を滅し支配・・・」
デス「(断ち斬るように)それが遺言でいいんだな?」
ふたりが、大鎌を持ち上げる。
動作に従って、残像で流線形を描く光の帯。
そして垂直に、真正面に構え、刃の切っ先をマッシュマンに向ける。
クワアアアァァッッ・・・と、夥しい光量を発揮している大鎌。
それを更に、後方に振り被る。
すっ、と少し腰を落とす、デス。
ハイエロファント、デスの頭越し、大鎌の柄越しに、マッシュマンに悲し気で憐憫な目線。
デス、柄を額と鼻の軸線の真正面に備え、マッシュマンを睨む。
その紅玉の如き色彩の瞳。
瞳孔が、猫のように縦に割れる。
ゾオオオオッッ・・・と、急激な寒気に襲われるマッシュマン。
デスの眼に、射竦めらている。
上下に分断された身体の状態で、腕はおろか、指一本も動かせない。
ただ、恐怖。
さながら、死刑を宣告後に速攻で処刑される、感情。
号泣寸前の、裡から突き上げる体感。
最後の、咆哮。
マッシュマン「(絶望と抵抗が入り交じった顔)我輩はまだ終わらぬゾォォォォォッッッッ!!!」
デス「(限りなく透明な声)・・・ジ・・・エーンド・・・」
ハイエロファント、大鎌を持っていた右手を、パ、と離す。
それが、合図。
【サイレント】
渾身の力で、大鎌を垂直に振り下ろすデス。
柄を握っている左手を動きに合わせ、後方に流すハイエロファント。
途端。
三日月形の巨大な光の斬撃が、飛ぶ。
前方に蒼白色、他は純白色の二層。縦が2メートルほどに及ぶ。
それが、地面に軌跡の光粉を撒き散らしながら、暴風の如く疾駆。
瞬時に奔り、マッシュマンに到達。
“恐怖の大王”の、絶叫顔。
僅か一拍の、後。
マッシュマン、身体の正中線で、斬られる。
凄まじい光の刃は、彼を情け容赦なく縦断し、一気に通過する。
先刻横断された切断面と、今回の切断面が、十字の形。
縦に斬った光、そのままマッシュマンを後方に置き、荒野を飛行。
遥か彼方の地の端まで向かい、やがて四散して消滅する。
マッシュマン、絶望以外の何物でもない顔面で、固形。
十字の切断口、体組織面に蒼白い光が貼られ、その間に純白の光が溢れている。
交わった光体が、十字架の如し。
やがて。
ふたつの光が、拡大し始める。
どんどんと幅を広げ、マッシュマンの身体を浸食していく。
紫色の身体が徐々に融け、崩壊し、消滅。
純白と蒼白の十字架、尚も躯体を膨らませ続ける。
とうとう、彼の歪んだ顔面をも飲み込み、溶解させる。
完全に、消滅。
最終的に、二色の光は正球体となり、上方に弾ける。
そして、大きな柱のような型を形成し、天へと昇り始める。
オーロラのような光の膜を纏い、一気に天頂を目指す。
煌々と照らされる満月に向かって、昇天。
そして、消える。
後には、粉のような光の粒が、余韻のように漂う。
【サイレント終了】
月明かりの元、蒼白い世界。
静寂。
静寂。
ただただ、静寂。
いつもの、深夜の静寂。
戦闘後の、地面が広範囲に抉られた荒野に立つ、デスとハイエロファント。
デス、大鎌を振り切った状態から、身体を起こす。
ハイエロファント、左手を大鎌の柄から離し、体側に下ろす。
マッシュマンが消失し、消えていった方向に視線を投げている、ふたり。
ハイエロファント「・・・終わったね・・・」
デス「・・・ああ・・・本当に・・・終わったんだな・・・」
既に、大鎌は以前の姿に戻っている。
それを暫く目詰め、大事そうに、ぎゅっ、と改めて両手で握り直すデス。
再度、身体の正面に構えた、瞬間。
ふら、とデスの身体が揺れる。
そして重心を後方に振り、ハイエロファントの胸元に倒れ掛かっていく。
大慌てで、がばっ、とデスを背後から抱き締めるハイエロファント。
顔を接近させ、至近距離で見詰めあう、ふたり。
ハイエロファント「(焦って)デスっ! 大丈夫っ!?」
デス「(微笑んで)すまない・・・少し・・・疲れたようだ・・・」
ハイエロファント「(微笑みを返すが、心配気に)最初から最後まで、大変だったものね・・・」
デス「大したことはしていないが・・・今までで一番大きな“仕事”だったのは、間違いない」
ハイエロファント「本当にお疲れ様・・・いっぱい助けてもらったよ、デス」
デス「(首を振って)お前こそ、大変だったな・・・助かった、ハイエロファント」
ハイエロファント「僕の方こそ、何もしてないよ」
デス、ハイエロファントに身体を預けたまま、森の方角に目線を放る。
ハイエロファント、続いて森の方角に目線を送る。
デス「まだ、やることが残っているからな・・・」
ハイエロファント「そうだね、もうひと頑張りだね。少し休んでもいいよ」
デス「いや、そうも言ってられない。全部済ませてから、休む」
ハイエロファント「それじゃあ・・・(甘い声で)ちょっと、元気を分け合おうか?」
耳朶に直接流れ込んでくる、ハイエロファントの優しい囁き。
ふたりは、眼差しを絡め合う。
綺麗な紅色に染まる、デスの頬。
嬉しそうに、この上なく嬉しそうに、微笑みを交わす。
デス「(蕩けそうな声で)ああ・・・頼む・・・」
ハイエロファントが、顔を寄せる。
デスが、顔を寄せる。
唇が、重なり合う。
強く、深く、融け合うように重なる。
デスの腹部に回した両腕に、ぎゅうっ、と力を込めるハイエロファント。
一層密着するように、ハイエロファントの胸元に身体を押し付けるデス。
満月の、元。
ふたりが、陶酔の時を迎えている。
【 To be continued...『最終章第五話(最終話):佳き日、めでたき時』】