デスとハイエロファントの物語:REBOOT 最終章   作:桁石スミオ

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最終章第四話の弐:光は、義しき人の為に射し出で【後編】-6

★ 荒野

 

 デスとハイエロファントがいる、岩盤ドームの外側。

 そこに向けて両腕を真っ直ぐに伸ばして、掌を翳したままのマッシュマン。

 未だに、飛来する土板や岩石は、止まらず。

 ドゴン! ドガン! ズドッ!と凄まじい物量が、今も降り注ぐ。

 その度に、猛烈な重量で軋む岩盤の塊。

 既に、無機物で構成された半球体は、直径8メートルほどに達する勢い。

 マッシュマン、その端から10数メートルほどの位置で、攻撃を続行している。

 彼の立つ場所と、目の前のドーム以外の荒野は、広大に抉られて赤土が晒されている。

 

マッシュマン「(勝ち誇ったように)ムシュシュシュシュ! 終わりなのは貴様らの方ゾォォッッ!!!」

 

 殲滅を確信して、愉悦に歪むマッシュマンの顔面。

 直後。

 細い一筋の、光。

 岩盤ドームの中程に、真横に走る、光。

 一瞬だけ膨れ上がり、半球の前面、マッシュマン側に三日月形の光輪を成す。

 その輝きは、蒼白と純白の二層。

 次の、瞬間。

 バシュウウウウウウウウッッッ!!!という、裂空音。

 三日月の光の刃が、地面と水平の軌道を、駆ける。

 宙を斬り、劈く。

 刹那の、後。

 ズッッシャアアアアアアアアアッッッ!!!と、腹部で切断されるマッシュマン。

 岩盤ドームから発せられた三日月形の光、そのまま彼を後方に置き、荒野を飛行。

 遥か彼方の地の端まで向かい、やがて四散して消滅する。

 マッシュマン、すべての表情を固形化させ、目線を下ろす。

 

マッシュマン「(自分の腹部を見て)・・・ハ?・・・」

 

 自分の身体が、上下に分断されている。

 その切り口に蒼白い光が貼り付き、挟まれた空間を純白の光が埋め尽くす。

 じっ、とそれを凝視するマッシュマン。

 それまで彼の魔術で集合していた岩盤類、突如飛来を止める。

 ドゴッ、ガラッ、ズーン・・・と、次々と飛んで来た位置で地面に落下している。

 マッシュマンの両腕は伸ばされた状態だが、魔法は既に発動していない。

 岩石や土板の乱舞が、完全に終息する。

 ひと度の、沈黙。

 暫く、そのまま。

 尚も、そのまま。

 マッシュマン、奥歯を食い縛り、息を停め、頬をパンパンに膨らませて、全身に力を込める。

 

マッシュマン「(踏ん張って)ふん!・・・ふぬっ!・・・ふぐぐぐぐぐ・・・」

 

 何度も何度も息張るマッシュマン。

 変化なし。

 腹部の切断面が、一向に変わらない。

 今も、蒼白色と純白色が織り成す光が、自分をふたつに分けたまま。

 ガバッ!と、顔を上げるマッシュマン。

 急転直下の、悲愴な顔。

 

マッシュマン「(愕然と)・・・再生出来ないッ!!!」

 

 直後。

 目の前の岩盤ドーム、崩壊。

 パアアアアアンン!!!という一際高らかな音を撒き散らし、内側から弾ける。

 それまでへばり付いていた岩石や土塊が、まるで花弁が開くように外側に捲れる。

 ゴロン・・・パラ・・・パラ・・・と、荒野の地に転がっていく石や鉱物。

 中から現れた、姿。

 大鎌を、刃が水平の位置で、左側方に完全に振り抜いているデス。

 バクルスを左手で垂直に掲げ、右手をデスの大鎌、刃の下方を握っているハイエロファント。

 まるでふたりの身体がひとつになったような、体軸を中心に全身を捻っている態勢。

 そして、ゆっくりと、非常にゆっりと、身体を戻す。

 デス、通常の構え。両手で大鎌を持ち、正面を見据える。

 ハイエロファント、デスの動きに合わせながら、左手のバクスルを、フシュン!と消す。

 その空いた左手を、今度はデスの左手下方に沿え、大鎌の柄を、ぎゅっ、と握る。

 途端。

 金色の大鎌が、発光。

 パアアアアッッッ!!!と、これ以上ないほどの純度で白く輝く。

 併せて刃が、ブォーンッ・・・と、鮮やかな蒼白の光を纏う。

 それらは混ざり合うことなく、それぞれが主張するように光度を高めている。

 ふたつの光が帯となり、ゆらぁ・・・と、オーラ状と化して大鎌から立ち昇る。

 デスとハイエロファントが、金色の大鎌をふたりで持ち、構えている。

 怯みのない直線の目線が、真っ直ぐにマッシュマンを射抜く。

 片や。

 ブワッ・・・と全身から脂汗を大量に噴き出し、目を正円に開くマッシュマン。

 同時に、ガタガタガタ・・・と急冷されたように震え出す。

 

マッシュマン「(戦慄して)な、何だその鎌はッ! 何だその力はッ! し、知らぬッ! 解らぬッ! み、み、見たこともないゾッ!」

 

 マッシュマン、腕を振り上げようとする。

 だが、動かない。

 ピクリとも、動かない。

 身体を下げようとしても、足部を動かそうとしても、不能。

 生体細胞の再生も、出来ない。

 顔面と感覚と感情だけが、稼働出来る。

 まるで、金縛りに襲われているかの如く。

 生まれてこの方感じたことのない、絶対の恐怖が、マッシュマンを襲う。

 だが、それを出さずに留め、ギリイッ!と奥歯を噛み締めて眉を吊り上げるマッシュマン。

 

ハイエロファント「(清んだ声で)争いは終わりだよ、マッシュマン」

マッシュマン「馬鹿なッ! 我輩は“恐怖の大王”ゾ! ここで終わろう筈がないッ! 負けぬッ! 貴様らを斃し! 屍にし! この世界を滅し支配・・・」

デス「(断ち斬るように)それが遺言でいいんだな?」

 

 ふたりが、大鎌を持ち上げる。

 動作に従って、残像で流線形を描く光の帯。

 そして垂直に、真正面に構え、刃の切っ先をマッシュマンに向ける。

 クワアアアァァッッ・・・と、夥しい光量を発揮している大鎌。

 それを更に、後方に振り被る。

 すっ、と少し腰を落とす、デス。

 ハイエロファント、デスの頭越し、大鎌の柄越しに、マッシュマンに悲し気で憐憫な目線。

 デス、柄を額と鼻の軸線の真正面に備え、マッシュマンを睨む。

 その紅玉の如き色彩の瞳。

 瞳孔が、猫のように縦に割れる。

 ゾオオオオッッ・・・と、急激な寒気に襲われるマッシュマン。

 デスの眼に、射竦めらている。

 上下に分断された身体の状態で、腕はおろか、指一本も動かせない。

 ただ、恐怖。

 さながら、死刑を宣告後に速攻で処刑される、感情。

 号泣寸前の、裡から突き上げる体感。

 最後の、咆哮。

 

マッシュマン「(絶望と抵抗が入り交じった顔)我輩はまだ終わらぬゾォォォォォッッッッ!!!」

デス「(限りなく透明な声)・・・ジ・・・エーンド・・・」

 

 ハイエロファント、大鎌を持っていた右手を、パ、と離す。

 それが、合図。

 

【サイレント】

 

 渾身の力で、大鎌を垂直に振り下ろすデス。

 柄を握っている左手を動きに合わせ、後方に流すハイエロファント。

 途端。

 三日月形の巨大な光の斬撃が、飛ぶ。

 前方に蒼白色、他は純白色の二層。縦が2メートルほどに及ぶ。

 それが、地面に軌跡の光粉を撒き散らしながら、暴風の如く疾駆。

 瞬時に奔り、マッシュマンに到達。

 “恐怖の大王”の、絶叫顔。

 僅か一拍の、後。

 マッシュマン、身体の正中線で、斬られる。

 凄まじい光の刃は、彼を情け容赦なく縦断し、一気に通過する。

 先刻横断された切断面と、今回の切断面が、十字の形。

 縦に斬った光、そのままマッシュマンを後方に置き、荒野を飛行。

 遥か彼方の地の端まで向かい、やがて四散して消滅する。

 マッシュマン、絶望以外の何物でもない顔面で、固形。

 十字の切断口、体組織面に蒼白い光が貼られ、その間に純白の光が溢れている。

 交わった光体が、十字架の如し。

 やがて。

 ふたつの光が、拡大し始める。

 どんどんと幅を広げ、マッシュマンの身体を浸食していく。

 紫色の身体が徐々に融け、崩壊し、消滅。

 純白と蒼白の十字架、尚も躯体を膨らませ続ける。

 とうとう、彼の歪んだ顔面をも飲み込み、溶解させる。 

 完全に、消滅。

 最終的に、二色の光は正球体となり、上方に弾ける。

 そして、大きな柱のような型を形成し、天へと昇り始める。

 オーロラのような光の膜を纏い、一気に天頂を目指す。

 煌々と照らされる満月に向かって、昇天。

 そして、消える。

 後には、粉のような光の粒が、余韻のように漂う。

 

【サイレント終了】

 

 月明かりの元、蒼白い世界。

 静寂。

 静寂。

 ただただ、静寂。

 いつもの、深夜の静寂。

 戦闘後の、地面が広範囲に抉られた荒野に立つ、デスとハイエロファント。

 デス、大鎌を振り切った状態から、身体を起こす。

 ハイエロファント、左手を大鎌の柄から離し、体側に下ろす。

 マッシュマンが消失し、消えていった方向に視線を投げている、ふたり。

 

ハイエロファント「・・・終わったね・・・」

デス「・・・ああ・・・本当に・・・終わったんだな・・・」

 

 既に、大鎌は以前の姿に戻っている。

 それを暫く目詰め、大事そうに、ぎゅっ、と改めて両手で握り直すデス。

 再度、身体の正面に構えた、瞬間。

 ふら、とデスの身体が揺れる。

 そして重心を後方に振り、ハイエロファントの胸元に倒れ掛かっていく。

 大慌てで、がばっ、とデスを背後から抱き締めるハイエロファント。

 顔を接近させ、至近距離で見詰めあう、ふたり。

 

ハイエロファント「(焦って)デスっ! 大丈夫っ!?」

デス「(微笑んで)すまない・・・少し・・・疲れたようだ・・・」

ハイエロファント「(微笑みを返すが、心配気に)最初から最後まで、大変だったものね・・・」

デス「大したことはしていないが・・・今までで一番大きな“仕事”だったのは、間違いない」

ハイエロファント「本当にお疲れ様・・・いっぱい助けてもらったよ、デス」

デス「(首を振って)お前こそ、大変だったな・・・助かった、ハイエロファント」

ハイエロファント「僕の方こそ、何もしてないよ」

 

 デス、ハイエロファントに身体を預けたまま、森の方角に目線を放る。

 ハイエロファント、続いて森の方角に目線を送る。

 

デス「まだ、やることが残っているからな・・・」

ハイエロファント「そうだね、もうひと頑張りだね。少し休んでもいいよ」

デス「いや、そうも言ってられない。全部済ませてから、休む」

ハイエロファント「それじゃあ・・・(甘い声で)ちょっと、元気を分け合おうか?」

 

 耳朶に直接流れ込んでくる、ハイエロファントの優しい囁き。

 ふたりは、眼差しを絡め合う。

 綺麗な紅色に染まる、デスの頬。

 嬉しそうに、この上なく嬉しそうに、微笑みを交わす。

 

デス「(蕩けそうな声で)ああ・・・頼む・・・」

 

 ハイエロファントが、顔を寄せる。

 デスが、顔を寄せる。

 唇が、重なり合う。

 強く、深く、融け合うように重なる。

 デスの腹部に回した両腕に、ぎゅうっ、と力を込めるハイエロファント。

 一層密着するように、ハイエロファントの胸元に身体を押し付けるデス。

 満月の、元。

 ふたりが、陶酔の時を迎えている。

 

 

【 To be continued...『最終章第五話(最終話):佳き日、めでたき時』】

 

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