デスとハイエロファントの物語:REBOOT 最終章 作:桁石スミオ
★ 森の道
宵の口。既に夜の帳が森林全体に降りてきている。
森の道で、ジャスティスが大剣を構えて、肩で大きく息をしている。
かなり疲労困憊の様子。はぁ、はぁ、と荒れた呼吸を切らす。
彼女の周囲に、フヨ、フヨ、と漂う3体のゴースト。オレンジ、ブルー、グレーが各1体ずつ。
嘲うかのような動きで、樹々と道の間を行ったり来たりしている。
すぐ近くまで寄ってきたオレンジゴーストに、正眼で構えた大剣を振るジャスティス。
ブン!と剣が空を裂く音。ゴーストの真芯を捉えるが、無傷。
まったく斬れた様子がなく、虚しく振り抜かれる大剣。
ケケケケ・・・と嫌な嗤い声を上げて、3体のゴーストが回転しながら移動する。
尚も、揶揄うかの如く浮遊するゴースト。
ジャスティス、続け様に3体目掛けて剣で斬り掛かる。
ジャスティス「(焦って)このっ! 何でっ! 斬れないんだよっ!」
3体のゴースト、一瞬、ジャスティスの真正面に集まる。
それを確認し、短く息を吸った後、大剣を大きく振り被るジャスティス。
ジャスティス「(腹の底からの声で)ジャスティス・クラッシュッ!!!」
気合一閃、大剣の刃を叩き付けるジャスティス。
ズドバァァァァンンンッッッ!!!と、凄まじい黄白色の火柱と雷撃が地面より湧き立つ。
周囲が一時、昼間のように明るくなる。
3体のゴーストは、火柱に飲み込まれた模様。
大剣を振り下ろした状態のまま、正面を睨んでいるジャスティス。
放った技の効果が治まり、夜の闇が再び周辺を支配する。
直後。
ジャスティス、大きく息を飲み、眼を正円に見開く。
フヨォ・・・と、技を喰らわせた直前までの位置に浮かぶ、3体のゴースト。
ジャスティス「(愕然と)嘘・・・まるで効いてない・・・」
ジャスティスの全身の力が一気に抜ける。
大剣が途端に重量を持ったように下がり、切っ先が地面に付く。
猛烈な悪寒。そして、小刻みに震え出すジャスティス。
3体のゴーストが、ケッケッケッ・・・と嘲笑を全面に晒している。
少しずつ、少しずつ、空間の距離を狭めてくる。
目を反らすことも出来ず、身動ぎも出来ないジャスティス。
ジャスティス《嫌だ・・・怖い・・・!》
ジャスティスの目頭に、涙が溜まり出す。
次の、瞬間。
フッ、と誰かの影が、ジャスティスのすぐ目の前に割って入る。
キュインッ!・・・と三日月型の白刃が、闇の中を一本の螺旋の軌道を描く。
直後。
ザシュウウウッ!!!と、一斉に身体を両断される3体のゴースト。
まったく間を置くことなく、同時に斬られる。
ギヒャアァァァッッ!!!・・・と、断末魔の悲鳴。雲散霧消する3体のゴースト。
静寂。
静寂。
呼吸を一時停めて、眼前の背中を見詰めるジャスティス。
マントが翻って戻るのと動きを合わせるように、身体を起こすデスの姿。
大鎌を改めて構え直し、周囲に警戒の視線を投げる。
その後ろ姿を見詰め続け、両眼を開いたままのジャスティス。
今度は完全に身体の力が抜け、大剣を両手で持った状態で、内股になり、膝から崩れ落ちる。
ジャスティス、糸が切れたように、ペタン、と地面に座り込んでしまう。
彼女の両目から、スーッ・・・と透明な雫が線を成す。
ジャスティス「(震える声で)・・・デスぅ・・・」
デス「(澄んだ響きの声質で)立て、ジャスティス。ここを離れろ」
少しの、後。
ジャスティス、大剣を杖のようにして、よろ、よろ、と立ち上がろうとする。
身体を起こす過程で、前後左右にぶれながら、尚も四肢に力を入れようとしている。
両脚を踏ん張ろうとするが、ジャスティスの上半身が前方に大きく傾く。
握った大剣の重みの反動から、ト、ト、と左足と右足が覚束なく、交互に前に進む。
急に、ジャスティスの足が動かなくなる。
体重が正面に掛かり、ふわ、と勢い余って、身体が投げ出されるジャスティス。
デス、異変に気付いて、くるっ、と踵を軸に反転する。
途端。
ポッスン・・・と、デスの右肩に顔を埋めるように飛び込むジャスティス。
デスの肩から胸、腰の付近に掛けて、ジャスティスが身体を預ける。
刹那の後、見る見る頬を鮮やかな、朱色の色彩を帯び出すデスの頬。
一方、ジャスティスはこれ以上ないほどの安堵の顔で、両瞼を閉じる。
蕩けるような、柔らかい微笑み。頬も綺麗な桃色に染まる。
デス「(慌てた様子で)お前っ!」
ジャスティス「(申し訳なさそうだが、嬉しそうに)ごめんね・・・でも、避けないでくれて、ありがとね、デス」
デス「(焦りながら)いいから離れろ! しっかり立て!」
名残惜しそうな笑みを浮かべ、一歩、後方に下がるジャスティス。
未だ、足元が覚束ない。
すう、ふううう・・・と深呼吸をして、大剣を背中の鞘に、カシュン、と収める。
そして、パンパン!と、自分の両頬を自分の両掌で思い切り叩くジャスティス。
呆気に取られた様子で、それを見ているデス。
ジャスティス「(ふん、と鼻息をついて)うん! 大丈夫!」
デス「(はああ、と溜め息を吐き)何なんだ一体・・・(落ち着きを取り戻して)それよりお前、さっき闘ってた奴、攻撃出来たのか?」
ジャスティス「(首を左右に振り)ううん、効かなかったんだ。剣も、技も全然・・・デスの鎌は効果あったよね?」
デス「(頷き)ああ。あたしの大鎌は、奴らを斬ることが出来る」
その台詞に、間を置かず。
ヒュウウウ・・・と急速に接近してくる、2体のゴースト。
今度は、オレンジゴーストとブルーゴースト。
森の奥の方から、一直線に宙を泳いでくる。
スチャッ、と改めて正面に大鎌を構えるデス。
デス「(チッ、と舌打ち)またか!・・・次々と! (ジャスティスを見て)お前は下がっていろ!」
ジャスティス「でも!」
向かってくるゴースト、急上昇してふたりを眼下に見下ろす位置に到達する。
直後。
デスが来た森の道の方向、ふたりの背後より、ボン!という何かが発射される音。
空中を、ゴォッ・・・と燃え盛るように、二種類の光球が一直線に飛来する。
橙色の光球と、薄い青色の光球。
それらは瞬時に空を裂き、橙色はオレンジゴーストに、薄い青色はブルーゴーストに命中する。
同時に、ブワシュッ!と、ゴーストの真芯を貫通していく二種類の光球。
キョエェェェェッ・・・と、悲鳴を上げながら消滅していくゴーストたち。
ふたつの光球は、ゴーストを葬った後、更に空中を進んで、やがて見えなくなる。
茫然と、その光景を目の当たりにしているデスとジャスティス。
ジャスティス「(驚嘆した声で)何、今の?」
振り返って、道の奥よりランタンの灯りが揺れながら近付いてくるのを確認するデス。
森の道を、神殿の方面より走ってくる3人の姿。
ブルースとマッコイ、その後ろに、ランタンを掲げたハイエロファント。
マッコイ「(フン!と鼻を鳴らし)ざっとこんなもんだぜ!」
ブルース「(ニッ、と笑い)こっちの世界でも効果アリ、って訳だ」
デスとジャスティスの近くで立ち止まって、胸を張るブルースとマッコイ。
数歩遅れて、ハイエロファントも到着し、ふう、と小さく息を繋ぐ。
ジャスティス「エロファント!」
ハイエロファント「(安堵した表情で)ふたりとも、大丈夫?」
デス「(口角を上げて)問題ない。それより・・・(ブルースとマッコイに目線を移し)今のが、お前たちの攻撃方法か?」
ブルース「そうです。霊力を込めたボールを発生させ、ゴーストに投げてぶつける。そうすると、奴らは消滅します」
和気藹々とした雰囲気の4名。
ジャスティス、暫し、奇妙な者を見るような目線を、ブルースとマッコイに送る。
ジャスティス「(怪訝そうに)えーと・・・お客さん?」
デス「自己紹介は後回しだ。ジャスティス、急ぎフォーチュンの城に向かうぞ。事は急を要する」
ジャスティス「(驚いて)え? 今から?」
デス「今からだ。全員で移動する」
ジャスティス、くる、と森の遥か向こうに顔を向け、眺めるような眼差しとなる。
猛烈に不安そうな表情。僅かに顔を伏せる。
ハイエロファント「何か、気になることがあるの?」
ジャスティス「(顔を上げて)・・・ストレングスが、まだ家にいるんだ。つい今さっきまで、ボクたち一緒にいて話をしてた。あの後、夕ご飯にするって言ってたから・・・ストレングスさんも、ガオガオも、まだ・・・」
すぐさま、バッ!とマントを翻して、草原の方向に身体を向けるデス。
ハイエロファント、デスの行動を見詰め、微かに眉を寄せる。
何かを言おうとするが、振り向いたデスと眼差しを絡め、唇を結ぶ。
デス「(真剣な表情で)ハイエロファント、3人を連れて城に向かってくれ。あたしはストレングスの家に向かう」
視線をデスと繋いだまま、暫くその状態で言葉を発しないハイエロファント。
少しの、後。
ハイエロファント「・・・判ったよ。気を付けてね」
こくん、と大きな頷きをして、タッ、と地面を蹴り、樹々の間に身を躍らせるデス。
そして、ザザッ、ザッ、ザッ・・・という、道のない草叢を走り出す音。
それがどんどん遠ざかっていき、やがて聞こえる範囲から出ていく。
沈黙が、訪れる。
ハイエロファント、物憂げで不安げな表情。ただ、デスが去った付近に目線を固定している。
ジャスティス、一歩、ハイエロファントに近付く。
ジャスティス「(芯の通った声で)エロファント、提案があるんだケド・・・」
ジャスティスに視線を向け、普段の落ち着いた顔を戻すハイエロファント。
★ 森と草原の境・ストレングスの家
不気味な、生温かい風が草原を横切り、木造の家目掛けて疾駆する。
ストレングスの家の、大樹を挟んだ前庭。家の窓からの灯りが、庭全体を明るく照らす。
その庭を縦横無尽に、フヨォ・・・と漂う、10数体のゴースト。
円を描くような軌道で、グルグルと動き続けている。
円周の中心には、ストレングス、ストレングス(父)、ガオガオがいる。
3名とも、眉間に皺を寄せ、これ以上ないほど厳しそうな表情。
周囲を旋回しているゴーストの1体に、ブンッ!と右拳で殴り掛かるストレングス。
確実に中心に当たるも、手応えなし。
ゾクッ、と寒気を覚えるも、歯を食い縛り、一度拳を引くストレングス。
ゴースト、口を耳辺りまで割き、ヒャハハハ・・・と嘲りの高笑いを上げる。
同様に、ストレングス(父)とガオガオも打撃を繰り出すも、まったく効果なし。
ストレングス「(息が上がって)とーちゃん! こいつら全然倒せないよ!」
ストレングス(父)「(焦れたように)ヌオオオオッ! 拳骨も効かないズォ!」
ガオガオ「(ギリッ、と奥歯を噛み)ガオオッ! ガアッ!」
周遊し続ける10数体のゴーストが、円の直径を狭めてくる。
刹那の、後。
森の方向から、一陣の疾風。
それと共に影が、躊躇なくゴーストの輪に飛び込んでくる。
チカッ、と半月型の白刃が、煌く。
瞬間。
ゾン! ザン! ズシュッ! ザッシャアアアアッッッ!!!と、稲妻の軌跡を描く斬撃。
あっという間に、ギャ! ヒャァ! ヒイェッ!・・・と悲鳴を上げ、7体のゴーストが消滅。
ストレングスたちの眼前に、大鎌を鮮やかに操り、ゴーストに攻撃するデスの姿。
残存するゴーストたち、一斉に怯んだように停まる。
間を空けず、情け容赦なくデスの大鎌の餌食となり、次々に消えゆく。
ストレングス「(嬉しそうに)デスっ! 来てくれたんだっ!」
デス「(攻撃を休ませることなく)全員家に入ってろ!」
ストレングス(父)「すまんッ! (ストレングスとガオガオを見て)ムスメッ! ガオガオッ! 家ん中入るズォッ!」
ガオガオ「ガアウオッ!」
ストレングスの家を背に、未だ宙に浮かぶゴーストを睨むデス。
大樹の向こう、草原の方面から、援軍のように10数体のゴーストが襲来するのが確認出来る。
家の扉に走り寄る、ストレングス親子とガオガオ。
取っ手を、むんず、と掴み、ガチャッ!と勢いよく開けるストレングス(父)。
途端。
扉開口部全面をびっしりと埋め尽くす無数のゴースト群が、家の中から顔を出す。
ムニィ・・・と玄関から、心太のように押し出されて来ようとしている。
ストレングス「(驚愕)うわあぁぁぁぁぁっっっ!!!」
ストレングス(父)「(驚愕)ヌオオオオッッッ!!! 家ん中からアッ!!!」
ハッ!と、思わず振り返るデス。
思わず尻餅を付いて座り込んでいる、ストレングス親子。後ろ脚を思い切り引いて構えるガオガオ。
デス「しまった!」
すぐ近くのゴーストに刃を浴びせ、くるっ、タンッ!と踵を返すデス。
大鎌を両手でしっかり握り、跳躍するような歩幅で家に駆け寄る。
更に、後方から急速に接近してくる、ゴースト10数体。
家から溢れ出すゴーストが、ストレングスたちに、カパァ、と大きく口を開けて襲い掛かろうとする。
直後。
森の方向が、音もなく純白色を放つ。
デス、すべてのゴースト、その光が発生した方向に目をやる。
刹那の、後。
クワアアアアアアアアアッッッ!!!と、ドーム状の光が物凄い勢いで膨れ上がる。
それは瞬時に、前庭から家、大樹、そして草原の半分近くまで拡大する。
純白光の空間が、視界すべてを覆い尽くす。
壁を擦り抜け、ストレングスの家の中にまで光の層が出来ている。
デス、瞼を半分閉じ、光源の方向に顔を向ける。
ストレングス親子、ガオガオ、余りの眩しさに両目を固く閉じる。
その光のドームの中を、必死の動きで離れようとするゴーストたち。
見る見る内に、今まで居たすべてのゴーストが、白色の光から外へと逃走。
漸く光の圏外へと脱出したゴーストの群れ、眼下の純白光を、怯え切った目線で見下ろしている。
やがて、ヒャァァァ・・・と、命乞いするような憐れな声を上げ、夜空に飛んでいく。
視界にいた全ゴーストが、闇の彼方へ消える。
白色光のドームが、シュウウウ・・・と一気に収縮して、森との境辺りに吸い込まれていく。
沈黙。
そして、静寂。
ひゅう・・・と涼しい夜の風が、立ち尽くすデスの頬を撫でる。
視線が、森の道から歩いて近付いてきているハイエロファントに繋がれたまま。
ハイエロファント、左手にバクルス(司教杖)を持って、デスを優しい眼差しで見詰めている。
静けさに目を再び開いたストレングス親子、ガオガオ。
足音に気付いて森の方向を見て、ハイエロファントの姿を目に映す。
ストレングス「(安堵して)エロファント兄ちゃんっ!」
ガオガオ「(安心したように)ガオン!」
ハイエロファント「良かった、間に合って。僕の力でも、ゴーストを追い返すことが出来そうだね」
デスのすぐ前に立ち、じっ、と真っ直ぐな視線を送るハイエロファント。
対して、両眼を細めて微かに潤ませ、ぐっ、と唇の端を引き締めるデス。
ハイエロファント「(諭すように、よく響く声で)ひとりで抱え込まないで。僕も力になれるから」
デス「(申し訳なさそうに、しっとりとした声で)すまない・・・」
起き上がって、ふたりに小走りで寄ってくるストレングス親子とガオガオ。
ストレングス(父)「(安堵の顔で)救かったズォ、デス、エロファント。アイツらブン殴っても全然倒せないし、どーしていいかワカランかったトコだァ・・・」
ストレングス「でも、よくアタイたちが家にいるって判ったね?」
ハイエロファント「(親子とガオガオを視界に映し)ジャスティスと逢ったんだよ。それで、君たちが家にいるって教えてくれたんで、こっちに来れたんだ」
デス「(はっ、と顔を上げて)すると、城に向かったのは?」
ハイエロファント「(デスに視線を繋げ)ジャスティスがお城に案内という形で、ブルースさんとマッコイさんを連れて行ったんだよ。実はね、これ・・・ジャスティスからの提案があったんだ」
デス「ジャスティスが?・・・」
ハイエロファント「(こくん、と頷き)うん。彼女は僕に言ってくれた。『デスのトコに行ってあげて』って・・・お城の場所は自分が判るから、とも言ってくれて、ブルースさんとマッコイさんも『行く先でゴーストが出ても、自分たちが闘えます』って、快く承諾してくれた。だから僕がこっちに来ることが出来たんだ」
目を伏せ、再び両眼を細め、一度奥歯を噛み締めるデス。
デス「(重苦しい声質で)・・・あまりお前に負担を掛けたくないんだ。こういった戦闘は、あたしの領域だ」
ハイエロファント「普段は力になれないけど、今回は君を補助出来ると思うよ」
デス「重ね重ね、すまない・・・だが、(顔を上げ、ハイエロファントを見詰め)本当に助かる」
ハイエロファント「(デスを見詰め返し)君のお役に立てれば、本望だよ」
にっこり、と満面の笑みを浮かべるハイエロファント。
嬉しそうに頬を紅に染め、瞳を煌かせて、微笑むデス。
ストレングス、両手を後ろ頭で組み、小首を傾げてふたりを見る。
ストレングス「ねえねえ、今、聞いたコトない名前が出てたケド、誰?」
デス「(ストレングスに目線を送り)後で説明する。急だが、全員でフォーチュンの城に移動する。夕食時だと思うが、いつまでもここにいると危険だ」
ハイエロファント「(親子とガオガオを見渡し)移動しながら、何があったか話すよ。急がせて申し訳ないけど、今すぐ準備してくれるかな?」
ストレングス(父)「オオ、判った。食う物は持ってってイイかァ?」
デス「構わんが、城に着くまでに食っておけ。多分、これから食う余裕はなくなる」
ストレングス「デスと兄ちゃんは、何か食べてきた?」
ハイエロファント「(微笑んで)簡単に済ませてきたよ。お気遣い、ありがとうね」
ストレングス(父)「(ストレングスとガオガオを見て)さっき準備してた夕飯を持ってくズォ!」
ガオガオ「ウガアォ!」
トタトタ、と忙し気な足音を立て、開け放たれた扉から家の中に入っていく3名。
その姿に視線を送り、静かに笑みを浮かべるデスとハイエロファント。
★ 森の道・フォーチュンの居城が見える場所
完全に漆黒の闇が充満している、森の奥深く。
デスを先頭に、5名が道を進んでいる。
最後尾のストレングス(父)の持つランタンが、やや高めの位置から進行方向を照らす。
デス、ちら、と森の樹々の上空を見る。
高台に、フォーチュンの居城の尖塔が、遥か彼方の皆既月蝕の僅かな光で浮かび上がっている。
途端。
ぴた、と足を停めるデス。続く全員もその場に停止する。
ハイエロファント「(デスを見詰め)どうしたの? ゴーストの気配?」
デス「(怪訝そうに)・・・悲鳴が聞こえた」
間髪を入れず。
全員が一斉に振り返る。
今まで歩いてきた道の奥から、金色の衣装を身に着けたエンペラーが全力疾走してくる。
エンペラー「(遥か後方から一気に近付き)・・・ァァァァァァァアアアアッ!!! 嫌ァァァァァァァ!!!」
そして、うひゅん!と音速並みの走駆で、5名の横を通り過ぎる。
エンペラーが通過した後、ブワッ、と土埃が舞う。
最早、エンペラーは前方の闇に消えて姿が見えない。
この上なく顔を顰めるデス、ストレングス、ガオガオ。
ハイエロファントとストレングス(父)は、何事かという表情。
デス「(はああ、と盛大な溜め息を吐き)まったく、騒々しいにもほどがあるな」
その、少し後。
フヨ・・・フヨ・・・と、非常にゆっくりとした速度で、森の道を漂って近付いてくるグレーゴースト。
デス、つかつかと後方に歩き、並足でゴーストに接近する。
グレーゴーストがデスの姿に気付くが、次に瞬間、大鎌の刃の先端が貫く。
ペチン!と、極めて間の抜けた音を発し、雲散霧消するゴースト。
僅かに沈黙の、後。
道の前方の闇から、急速に接近してくる金色の影。
ドドドドドド・・・と、けたたましい足音で走駆してくるエンペラー。
エンペラー「(遥か前方から一気に戻って来て)・・・ェェェェェェエエエエロファントちゃあああん!!!」
エンペラー、ハイエロファントの視界に入ってきて、両腕を左右に思い切り開く。
そして、ビヨーンッ!とバネ仕掛けが発動したような跳躍で、宙に身を躍らせる。
一直線に、ハイエロファント目掛けて飛び込んでくるエンペラー。
直後。
くるっ、すいっ、と軽やかな足捌きで、直線上に割り込んでくるストレングス。
左腕を突き出して掲げ、拳を握る。
避けることも出来ず、顔面から突っ込むエンペラー。
ゴイイイイインンッ!と、全身を震わす音を放ち、エンペラーの顔面に減り込むストレングスの左拳。
空中で、エンペラーが完全に停止する。
間。
間。
ズル・・・と擦り落ち、ドサ・・・と重力の法則に従い落下する、エンペラーの身体。
轢かれた蛙のように、四肢を投げ出して地に伏せている。
突き出した左腕を戻すストレングス。
ストレングス「(ジト目で、心底呆れたように)そんなコトやってる場合じゃないでしょ、オジサン」
エンペラー「(グワバッ!と跳び起きて、怒り)誰がオジサンですってェッ!!! それにッ! いきなり殴るコトないじゃないのッ!」
ストレングス「殴ってないよ。アタイが腕伸ばしてたトコに、アンタが勝手に突っ込んだだけ」
ハイエロファント「エンペラー、丁度良かった。今から僕たち、(高台を見上げ)フォーチュンのお城まで行くところなんだ。一緒に移動しない?」
エンペラー「(パアアアッ、と光り輝く笑顔)行くわッ! エロファントちゃんの行くトコなら何処へでもッ! 夜のお散歩の真っ最中だったケド、エロファントちゃんのお誘いとあらばッ!」
ストレングス「・・・へぇー、突っ走ってったのがお散歩だったんだ」
デス「(ふう、と息をついて)まあ、話が早いのは助かる。説明する時間が惜しいからな」
エンペラー「(キッ、とデスを睨んで)何よそれ!? お化けみたいなのに追っ掛けられてた可哀想なアタシに、何がどーなってるか教えてくれる時間が取れない、っての?」
デス「良く解ったな、あれが化け物だと」
エンペラー「(拍子抜けしたように)えッ? ホントに? アレが? お化け?」
ストレングス(父)「(首を上下に振って)らしい、ズォ」
デス「お前、さっき追い掛けられてた連中が何十体襲ってきても問題ない、か?」
エンペラー「(サッ、と蒼褪めて)嘘ッ!? まだいるのん!?」
デス「(突き放した口調で)問題なくば、好きなだけ森をうろつき回るといい。(全員を見回して)行くぞ」
再び、先に立って歩き出そうとするデス。
急に、エンペラー、真っ青な顔で列の先頭に飛び出す。
左右の手と足が同時に出るほどの緊張と怯えで、せかせかと歩を進め始める。
エンペラー「(震えた声で、空元気で)ささささあッ! おおおお城に行きましょうネッ!」
ストレングス「アンタ運がいいね。アタイら、あの丸いのにいっぱい襲われたのに」
エンペラー「(驚愕)ウエエエッ! ホントにあんなのがいっぱい出てきたのん!?」
ガオガオ「(頷いて)ガオン、ガウガウ」
ストレングス(父)「やっぱもっとキンニク付けないと勝てないのかヌァ・・・」
4名が道を歩き出した後、デスとハイエロファント、一度立ち止まる。
そして同時に身体を返して振り返り、夜空を見上げる。
森の樹々越しに、皆既月蝕の端が視界に飛び込んでくる。
おどろおどろしい空気を纏い、怪異そのものの雰囲気。
ハイエロファント「(重苦しい声で)やっぱり・・・避けられないみたいだね・・・」
デス「(首を上下に、ゆっくりと振り)ああ・・・」
瞼を半分閉じ、月を囲む薄ぼんやりとした微かな光に目線を投げるデス。
デス「(凛とした声で)戦が、始まる・・・」
皆既月蝕の方向から、オオオオオォォォンンン・・・という、不気味な唸り声。
それは終末の到来を告げるように、マジカルランドの天空に響き渡る。
【 To be continued...『最終章第二話:怖ろしき終わり、汝らを引き攫う』】