デスとハイエロファントの物語:REBOOT 最終章   作:桁石スミオ

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「マジカルドロップⅢ」「マジカルドロップポケット」「マジカルドロップV」よりデスとハイエロファント主役。本編『しりぞけ、もの悲しき影』以降、及び最終章第四話の弐『光は、義しき人の為に射し出で【後編】』以後の、全編の最終章第五話(最終話)として執筆。2021年1月脱稿。
 タイトルは、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ作曲、教会カンタータBWV210(結婚カンタータ)「佳き日、めでたき時 O holder Tag, erwünschte Zeit」より。
 登場人物:「マジカルドロップ」シリーズより、デスとハイエロファント、ヤング(リトル)・フォーチュンとタワー、ワールド、マジシャンとハイプリエステス、エンプレス、ジャスティス、ストレングス親子、ガオガオ、エンペラー。「ゴーストロップ」「マジカルドロップV」より、ブルース、マッコイ、マッシュマン。
 注:台本形式読み物です。

 同一内容を、下記サイトにも掲載しております。
 pixiv:https://www.pixiv.net/novel/member.php?id=323663


【挿絵表示】



最終章第五話:佳き日、めでたき時-1

デスとハイエロファントの物語:REBOOT

【 最終章第五話(最終話):佳き日、めでたき時 】

 

 

★ マジカルランド中央・フォーチュンの居城・玄関ホール

 

 静寂の訪れている、フォーチュンの居城の玄関ホール。

 両開き扉の片側が外に引かれ、ギイィ・・・という錆びた蝶番の軋む音。

 扉と扉の狭間から、城内を窺うように入ってくるハイエロファントとデス。

 デスは、大鎌を両手で持ち、身体の前で構え直す。

 ハイエロファントは、左手に巾着状の袋を下げて持っている。

 玄関を閉め、並んで立って室内を見回す。

 正面のなだらかな階段、踊り場、手前の床など、方々に散らばっている家財の破片。

 落下して砕けた石像。四散している窓ガラス。

 沈黙だけが、安定して現存している。

 

デス「(ふう、と息をつき)・・・かなり派手な戦闘だったようだな・・・」

ハイエロファント「(頷き)そうだね・・・みんな、何処にいるんだろう・・・」

 

 両の瞼を閉じ、俯くデス。

 何かの気配を、捜している様子。

 ハイエロファント、隣で彼女のその仕草を、じっ、と見詰めている。

 少しの、間の後。

 すっ、と顔を上げて、ハイエロファントに視線を繫げるデス。

 

デス「・・・フォーチュンの寝室に、集まっているようだ」

ハイエロファント「じゃあ、僕たちも行こう」

 

 デスが、大鎌の構えを解いて左肩に掛ける。

 頷き合う、ふたり。

 そして慎重な足取りで、肩を並べて歩き、階段を昇り始める。

 

 

★ マジカルランド中央・フォーチュンの居城・フォーチュンの自室

 

 長い廊下を進んできた先の、素朴な作りの木製の扉。

 デスとハイエロファント、その手前に、一度並んで起立する。

 一呼吸の後、ガチャリ、と扉の取っ手を下げるハイエロファント。

 手前に引いた途端、室内の光景が、目に飛び込む。

 壁のランプで、明るく照らし出された内部。

 フォーチュンの自室に集合していた、各位。

 全員が、ワールドの横たわる天蓋付きベッドに身体を正対させている。

 開放された窓の外には、タワーの緑色の左眼がある。

 扉が開く音に、全員が顔を向けてくる。

 視線が、一斉にふたりに集中。

 一様に驚いた表情。

 後ろ手に扉を閉め、再び並列して立つふたり。

 部屋の隅にいたジャスティスとストレングス、エンペラーが、跳ねるように近寄ってくる。

 

ジャスティス「(パアッ、と満面の笑み)デスっ! エロファントっ!」

ストレングス「(パアッ、と満面の笑み)ふたりともっ! 大丈夫!?」

デス「(ふっ、と笑みを浮かべ)ああ、問題ない」

ハイエロファント「(部屋を見渡し)みんなも、無事だったんだね?」

ストレングス(父)「(ニマッ、と笑い)オウッ! 怪我ひとつなかったズォッ!」

ガオガオ「(笑顔で)ガウッ! ウガオン!」

 

 ストレングス(父)の言葉に、ふと、申し訳なさそうな顔になるエンプレス。

 それでもすぐに表情を戻し、安堵したような目線をデスとハイエロファントに結ぶ。

 ハイエロファントの眼前で、両腕を左右に全開にするエンペラー。

 

エンペラー「(融けた顔で)エロファントちゃーん! お帰りなさーい! (腕を下ろし、表情を変え、ニィ、と笑い)ついでに死神も、ね。まあ、アンタが簡単にヘコタれるとは思ってなかったケドねッ!」

デス「まあな。お前もちゃんと、城を護り切ったようだな」

エンペラー「(フン、と鼻を鳴らし)当然よッ! このエンペラーが責任持って護り抜いたのよッ!」

ジャスティス「(ジト目で)・・・もう随分慣れたケド・・・ホント、どっから湧いてるんだろう、このエラソーな責任感・・・」

 

 ブルースとマッコイ、落ち着いた笑みを浮かべて、ふたりの前に立つ。

 

ブルース「お帰りなさい、デスさん、エロファントさん。よくぞご無事で」

ハイエロファント「ふたりとも、お世話掛けました。感謝します」

マッコイ「(眉を寄せ)ところでさ、マッシュマンっつー紫の太っちょに遭ったかい?」

デス「(大きく首を上下に振り)ああ、マッシュマンなら倒した」

 

 沈黙。

 沈黙。

 沈黙。

 各人が、見る見る目を丸くしていく。

 

デスとハイエロファント以外の一同「「「(驚愕)えええええッッッ!!!」」」

ブルース「(驚いて)倒した、ですか!?」

マッコイ「(驚いて)封印した、とかじゃなくって!?」

ハイエロファント「(大きく首を上下に振り)はい。封印の仕方とかが解りませんが・・・(デスを見詰め)デスが、大鎌で倒してくれました」

デス「(ハイエロファントを見詰め)あたしの大鎌というより、ハイエロファントの力で倒したんだ」

 

 茫然として、言葉が続かないブルースとマッコイ。

 他の各位も、近くの互いと目線を合わせて、信じ難いと言いたげな表情を交わす。

 

デス「詳しい話は、後でする。(奥のベッドに目をやり)ワールドは・・・どうだ?」

 

 部屋の奥、ベッドの傍らに立っていたフォーチュン、歩み寄ってくる。

 デスとハイエロファントのすぐ前に足を停め、微かな笑みを口元に湛える。

 

フォーチュン「(労わるように)デス、エロファント・・・ご苦労じゃった。マッシュマンを倒したのじゃな? 見事じゃった。仔細は後に聞くとして・・・ワールドは・・・(ベッド上を見て)まだ、目覚めん」

デス「(眉を顰め)そうか・・・」

 

 ベッドに寝ているワールドの3つの目は、固く閉じられたまま。

 ハイエロファント、左手に下げていた巾着から、中身を出す。

 ジャラ・・・と音がして、マジカルドロップが入っている壜が姿を現す。

 部屋中の視線が、それに繋がれる。

 蓋の閉まっている壜の内に、半分ほど収まっている、無色透明の飴玉。

 

ハイエロファント「ドロップがこの状態なので、もしかしたら、と思ったけど・・・」

 

 再び全員の眼が、ワールドの方を向く。

 暫く、そのまま。

 尚も、間。

 デス、じっ、とワールドを凝視する。

 

デス「(怪訝そうに)何が、足りないんだ? マッシュマンは、確かに“送った”・・・魂が離れていないし、生命力もかなり復活している以上、最早覚醒の障害になるものはない筈だ・・・」

 

 再度の、沈黙。

 今度は非常に重苦しい、沈黙。

 数刻、その状態。

 突如。

 フォーチュン、つか、つか、とベッドに近付く。

 そしてワールドの頭、枕のすぐ左隣の位置に立つ。

 顔を伏せ、瞼を閉じる。

 彼女の肩が、震え出す。

 

フォーチュン「(声をも震わせ)ワールド・・・何をしとるんじゃ・・・」

 

 ガバッ!とベッドに覆い被さり、両手を枕元に突き立てるフォーチュン。

 間髪を入れず、ワールドの顔の真上に自分の顔を持っていく。

 

フォーチュン「(湿り気のある大声で)さっさと目を覚ませ! いつまで寝とるつもりじゃ! いつまでも・・・(つう、と一筋の涙)わらわを待たすでない!」

 

 それから一度、ぐっ、と息を飲み、少し吐く。

 じわ・・・とフォーチュンの瞳から、透明な雫が湧き、溢れる。

 それは頬を粒となって滴り、顎を経由して落下。

 枕の端を、濡らす。

 

フォーチュン「(涙を続けて落とし)そなたが生まれる前・・・わらわはタワーと何千年もふたり切りじゃった・・・そなたが生まれ、マジカルランドを造り、それから400年・・・こんなに賑やかで楽しい日々が送れるとは、思っていなかったぞよ・・・そなたの・・・そなたのお陰なのじゃ・・・(泣きながら、響く声で)ワールドっ! そなたはわらわにとって! 初めての『友』じゃ! じゃから目覚めよっ! (悲鳴に近く)目覚めてまた、いつもの小言でも聞かせぬかっ!」

 

 直後。

 エンプレス、ダッ、と床を蹴ってベッドに駆け寄る。

 すかさず、フォーチュンと同様に、ワールドの頭の載る枕の右横に、両腕を置く。

 ブワッ、と両眼を一気に潤し、抑えることなく涙を流すエンプレス。

 体裁をかなぐり捨てるよう、身を乗り出しワールドに顔を着けそうな態勢。

 

エンプレス「(落涙を止めず)そうだよっ! いつまで寝こけているつもりだい! どんだけ腹の立つ、説教臭いこと言われたって!・・・(声を震わせ)アンタがいなくちゃ・・・つまんないだろっ・・・(一転して大声)だから目ェ覚ましなっ! ワールドっ! とっとと戻って来いっ!」

 

 その後は、最早言葉が出ない、ふたり。

 ただひたすらワールドに眼差しを注ぎ、奥歯を噛んで、声を忍ばせる。

 部屋中の誰もが、一言も発せない。

 沈黙。

 沈黙。

 長い、長い、沈黙。

 その中で、デスだけが真っ直ぐ据えた目で、ワールドを穴の開くほど凝視し続けている。

 目を凝らし、深い淵を覗き込む様子。

 暫く、そのまま。

 突然。

 ハッ!と顔を上げ、閃きを得た表情のデス。

 

デス《・・・まさか! まだ!?》

 

 一瞬だけ、デスの瞳、瞳孔が猫のように縦に割れ、元に戻る。

 眉を寄せ、思考するように目を伏せる。

 僅かな時間、そのまま。

 すぐ隣で、彼女の横顔に視線を留め、見詰め始めるハイエロファント。

 

デス《可能性はある・・・仕掛けてみるか・・・》

 

 すぅっ、と顔を上げ、傍のハイエロファントと目線を結ぶデス。

 眼差しが絡んだ瞬間、口元を彼の耳朶に近寄せる。

 

デス「(素早く耳打ち)ハイエロファント・・・」

 

 デス、小さな声で、早口で何事かを喋っている。

 そして話し終わり、顔を元の位置へ戻す。

 再び視線が結合し合う、ふたり。

 

ハイエロファント「(頷いて、小声で)判ったよ。指示して」

 

 頷き返し、フードを頭から被るデス。

 自然な動作で懐から髑髏の面を取り出し、すっ、と装着し、大鎌の刃を下にして持つ。

 一瞬、彼女が、ポウ・・・と蒼白い光を放ち、両脇からマントが身体を前を覆う。

 それを確認し、ベッドに歩み寄っていくハイエロファント。

 

ハイエロファント「フォーチュン、エンプレス様、少し、下がっててもらえますか?」

 

 その台詞に、一旦ハイエロファントに全員の目線が向けられる。

 手に持っていた、壜入りの巾着をベッドシーツの片隅に置くハイエロファント。

 デス、ハイエロファントに続いてそこに近付く。

 一同の視線が、今度はデスに繋がれる。

 途端。

 部屋中の空気が、一変。

 目を見開いて、デスを凝視する各位。

 絶句。

 死神の正装束で、部屋の中央付近に仁王立ちしているデス。

 初めて見る者も、かつて見たことのある者も、すべて息を飲む。

 

ジャスティス「(たどたどしく)・・・デス・・・その格好・・・」

ストレングス「(ゴクリ、と唾を飲み込み)まさか・・・“仕事”?」

 

 デス、こくり、と首を上下に振る。

 刹那の、後。

 ワールドの最後だと、その場の誰もが認識を抱える。

 何度目かの、沈黙。

 沈黙。

 深い、沈黙。

 未だかつてないほどの、泥濘のような雰囲気。

 デス、大鎌を正面に構え、ゆっくりとベッドに歩を進める。

 ハイエロファント、フォーチュンとエンプレスに目線を送り、静かに頷く。

 エンプレス、振り切るように身体を起こし、ベッドに背を向けて速足で窓際に寄る。

 そのまま窓の方に身体を対し、奥歯を噛み締め、項垂れる。

 傍らに、ストレングス(父)が近寄る。心配気な顔。

 即応するように、彼の左肩に額を乗せ、瞼を固く閉じ、もう一筋の涙を流す。

 そんな彼女を愛おしげに見詰め、それからベッドに目線を投げるストレングス(父)。

 フォーチュン、微かに震えながら身体を起こし、ベッドから離れ始める。

 覚束ない足取り、よろめく歩行。ハイプリエステスの眼前に立つ。

 ハイプリエステス、はらはら、と落涙。

 跳び込むように身体を彼女の胸に預け、両腕を背中に回すフォーチュン。

 同様に、包み込む如く両腕を娘の背に持ってくるハイプリエステス。

 ぎゅうっ・・・と渾身の力で、抱き締め合う、ふたり。

 その側で、フォーチュンとハイプリエステスを見て、再度ワールドに視界を移動するマジシャン。

 

フォーチュン「(唇を噛み、瞼を閉じ)母上・・・ワールドは・・・もう・・・」

ハイプリエステス「(涙を流し続け)これも・・・運命ざますよ・・・名残惜しいのは・・・あたくしも・・・」

マジシャン「(目を伏せ)こんなに早く、別れが来るとは・・・思わなかったであーる・・・」

 

 やがて、誰もが言葉を失くす。

 最早、室内にあるのは、葬送の空気。

 ある者は目を閉じ、ある者は顔を伏せ、ある者はしっかりと眼に焼き付けている。

 その、中。

 デスは、ワールドの横臥するベッドの左横に立つ。

 対してハイエロファントが、その反対側、ベッドの右横に立つ。

 そして、眠ったような表情のワールドを見下ろす、ふたり。

 

デス[面の奥から]「まず・・・『聖なる力』を全身に掛けてくれ」

ハイエロファント「(頷いて)判ったよ」

 

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