デスとハイエロファントの物語:REBOOT 最終章 作:桁石スミオ
タイトルは、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ作曲、教会カンタータBWV210(結婚カンタータ)「佳き日、めでたき時 O holder Tag, erwünschte Zeit」より。
登場人物:「マジカルドロップ」シリーズより、デスとハイエロファント、ヤング(リトル)・フォーチュンとタワー、ワールド、マジシャンとハイプリエステス、エンプレス、ジャスティス、ストレングス親子、ガオガオ、エンペラー。「ゴーストロップ」「マジカルドロップV」より、ブルース、マッコイ、マッシュマン。
注:台本形式読み物です。
同一内容を、下記サイトにも掲載しております。
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デスとハイエロファントの物語:REBOOT
【 最終章第五話(最終話):佳き日、めでたき時 】
★ マジカルランド中央・フォーチュンの居城・玄関ホール
静寂の訪れている、フォーチュンの居城の玄関ホール。
両開き扉の片側が外に引かれ、ギイィ・・・という錆びた蝶番の軋む音。
扉と扉の狭間から、城内を窺うように入ってくるハイエロファントとデス。
デスは、大鎌を両手で持ち、身体の前で構え直す。
ハイエロファントは、左手に巾着状の袋を下げて持っている。
玄関を閉め、並んで立って室内を見回す。
正面のなだらかな階段、踊り場、手前の床など、方々に散らばっている家財の破片。
落下して砕けた石像。四散している窓ガラス。
沈黙だけが、安定して現存している。
デス「(ふう、と息をつき)・・・かなり派手な戦闘だったようだな・・・」
ハイエロファント「(頷き)そうだね・・・みんな、何処にいるんだろう・・・」
両の瞼を閉じ、俯くデス。
何かの気配を、捜している様子。
ハイエロファント、隣で彼女のその仕草を、じっ、と見詰めている。
少しの、間の後。
すっ、と顔を上げて、ハイエロファントに視線を繫げるデス。
デス「・・・フォーチュンの寝室に、集まっているようだ」
ハイエロファント「じゃあ、僕たちも行こう」
デスが、大鎌の構えを解いて左肩に掛ける。
頷き合う、ふたり。
そして慎重な足取りで、肩を並べて歩き、階段を昇り始める。
★ マジカルランド中央・フォーチュンの居城・フォーチュンの自室
長い廊下を進んできた先の、素朴な作りの木製の扉。
デスとハイエロファント、その手前に、一度並んで起立する。
一呼吸の後、ガチャリ、と扉の取っ手を下げるハイエロファント。
手前に引いた途端、室内の光景が、目に飛び込む。
壁のランプで、明るく照らし出された内部。
フォーチュンの自室に集合していた、各位。
全員が、ワールドの横たわる天蓋付きベッドに身体を正対させている。
開放された窓の外には、タワーの緑色の左眼がある。
扉が開く音に、全員が顔を向けてくる。
視線が、一斉にふたりに集中。
一様に驚いた表情。
後ろ手に扉を閉め、再び並列して立つふたり。
部屋の隅にいたジャスティスとストレングス、エンペラーが、跳ねるように近寄ってくる。
ジャスティス「(パアッ、と満面の笑み)デスっ! エロファントっ!」
ストレングス「(パアッ、と満面の笑み)ふたりともっ! 大丈夫!?」
デス「(ふっ、と笑みを浮かべ)ああ、問題ない」
ハイエロファント「(部屋を見渡し)みんなも、無事だったんだね?」
ストレングス(父)「(ニマッ、と笑い)オウッ! 怪我ひとつなかったズォッ!」
ガオガオ「(笑顔で)ガウッ! ウガオン!」
ストレングス(父)の言葉に、ふと、申し訳なさそうな顔になるエンプレス。
それでもすぐに表情を戻し、安堵したような目線をデスとハイエロファントに結ぶ。
ハイエロファントの眼前で、両腕を左右に全開にするエンペラー。
エンペラー「(融けた顔で)エロファントちゃーん! お帰りなさーい! (腕を下ろし、表情を変え、ニィ、と笑い)ついでに死神も、ね。まあ、アンタが簡単にヘコタれるとは思ってなかったケドねッ!」
デス「まあな。お前もちゃんと、城を護り切ったようだな」
エンペラー「(フン、と鼻を鳴らし)当然よッ! このエンペラーが責任持って護り抜いたのよッ!」
ジャスティス「(ジト目で)・・・もう随分慣れたケド・・・ホント、どっから湧いてるんだろう、このエラソーな責任感・・・」
ブルースとマッコイ、落ち着いた笑みを浮かべて、ふたりの前に立つ。
ブルース「お帰りなさい、デスさん、エロファントさん。よくぞご無事で」
ハイエロファント「ふたりとも、お世話掛けました。感謝します」
マッコイ「(眉を寄せ)ところでさ、マッシュマンっつー紫の太っちょに遭ったかい?」
デス「(大きく首を上下に振り)ああ、マッシュマンなら倒した」
沈黙。
沈黙。
沈黙。
各人が、見る見る目を丸くしていく。
デスとハイエロファント以外の一同「「「(驚愕)えええええッッッ!!!」」」
ブルース「(驚いて)倒した、ですか!?」
マッコイ「(驚いて)封印した、とかじゃなくって!?」
ハイエロファント「(大きく首を上下に振り)はい。封印の仕方とかが解りませんが・・・(デスを見詰め)デスが、大鎌で倒してくれました」
デス「(ハイエロファントを見詰め)あたしの大鎌というより、ハイエロファントの力で倒したんだ」
茫然として、言葉が続かないブルースとマッコイ。
他の各位も、近くの互いと目線を合わせて、信じ難いと言いたげな表情を交わす。
デス「詳しい話は、後でする。(奥のベッドに目をやり)ワールドは・・・どうだ?」
部屋の奥、ベッドの傍らに立っていたフォーチュン、歩み寄ってくる。
デスとハイエロファントのすぐ前に足を停め、微かな笑みを口元に湛える。
フォーチュン「(労わるように)デス、エロファント・・・ご苦労じゃった。マッシュマンを倒したのじゃな? 見事じゃった。仔細は後に聞くとして・・・ワールドは・・・(ベッド上を見て)まだ、目覚めん」
デス「(眉を顰め)そうか・・・」
ベッドに寝ているワールドの3つの目は、固く閉じられたまま。
ハイエロファント、左手に下げていた巾着から、中身を出す。
ジャラ・・・と音がして、マジカルドロップが入っている壜が姿を現す。
部屋中の視線が、それに繋がれる。
蓋の閉まっている壜の内に、半分ほど収まっている、無色透明の飴玉。
ハイエロファント「ドロップがこの状態なので、もしかしたら、と思ったけど・・・」
再び全員の眼が、ワールドの方を向く。
暫く、そのまま。
尚も、間。
デス、じっ、とワールドを凝視する。
デス「(怪訝そうに)何が、足りないんだ? マッシュマンは、確かに“送った”・・・魂が離れていないし、生命力もかなり復活している以上、最早覚醒の障害になるものはない筈だ・・・」
再度の、沈黙。
今度は非常に重苦しい、沈黙。
数刻、その状態。
突如。
フォーチュン、つか、つか、とベッドに近付く。
そしてワールドの頭、枕のすぐ左隣の位置に立つ。
顔を伏せ、瞼を閉じる。
彼女の肩が、震え出す。
フォーチュン「(声をも震わせ)ワールド・・・何をしとるんじゃ・・・」
ガバッ!とベッドに覆い被さり、両手を枕元に突き立てるフォーチュン。
間髪を入れず、ワールドの顔の真上に自分の顔を持っていく。
フォーチュン「(湿り気のある大声で)さっさと目を覚ませ! いつまで寝とるつもりじゃ! いつまでも・・・(つう、と一筋の涙)わらわを待たすでない!」
それから一度、ぐっ、と息を飲み、少し吐く。
じわ・・・とフォーチュンの瞳から、透明な雫が湧き、溢れる。
それは頬を粒となって滴り、顎を経由して落下。
枕の端を、濡らす。
フォーチュン「(涙を続けて落とし)そなたが生まれる前・・・わらわはタワーと何千年もふたり切りじゃった・・・そなたが生まれ、マジカルランドを造り、それから400年・・・こんなに賑やかで楽しい日々が送れるとは、思っていなかったぞよ・・・そなたの・・・そなたのお陰なのじゃ・・・(泣きながら、響く声で)ワールドっ! そなたはわらわにとって! 初めての『友』じゃ! じゃから目覚めよっ! (悲鳴に近く)目覚めてまた、いつもの小言でも聞かせぬかっ!」
直後。
エンプレス、ダッ、と床を蹴ってベッドに駆け寄る。
すかさず、フォーチュンと同様に、ワールドの頭の載る枕の右横に、両腕を置く。
ブワッ、と両眼を一気に潤し、抑えることなく涙を流すエンプレス。
体裁をかなぐり捨てるよう、身を乗り出しワールドに顔を着けそうな態勢。
エンプレス「(落涙を止めず)そうだよっ! いつまで寝こけているつもりだい! どんだけ腹の立つ、説教臭いこと言われたって!・・・(声を震わせ)アンタがいなくちゃ・・・つまんないだろっ・・・(一転して大声)だから目ェ覚ましなっ! ワールドっ! とっとと戻って来いっ!」
その後は、最早言葉が出ない、ふたり。
ただひたすらワールドに眼差しを注ぎ、奥歯を噛んで、声を忍ばせる。
部屋中の誰もが、一言も発せない。
沈黙。
沈黙。
長い、長い、沈黙。
その中で、デスだけが真っ直ぐ据えた目で、ワールドを穴の開くほど凝視し続けている。
目を凝らし、深い淵を覗き込む様子。
暫く、そのまま。
突然。
ハッ!と顔を上げ、閃きを得た表情のデス。
デス《・・・まさか! まだ!?》
一瞬だけ、デスの瞳、瞳孔が猫のように縦に割れ、元に戻る。
眉を寄せ、思考するように目を伏せる。
僅かな時間、そのまま。
すぐ隣で、彼女の横顔に視線を留め、見詰め始めるハイエロファント。
デス《可能性はある・・・仕掛けてみるか・・・》
すぅっ、と顔を上げ、傍のハイエロファントと目線を結ぶデス。
眼差しが絡んだ瞬間、口元を彼の耳朶に近寄せる。
デス「(素早く耳打ち)ハイエロファント・・・」
デス、小さな声で、早口で何事かを喋っている。
そして話し終わり、顔を元の位置へ戻す。
再び視線が結合し合う、ふたり。
ハイエロファント「(頷いて、小声で)判ったよ。指示して」
頷き返し、フードを頭から被るデス。
自然な動作で懐から髑髏の面を取り出し、すっ、と装着し、大鎌の刃を下にして持つ。
一瞬、彼女が、ポウ・・・と蒼白い光を放ち、両脇からマントが身体を前を覆う。
それを確認し、ベッドに歩み寄っていくハイエロファント。
ハイエロファント「フォーチュン、エンプレス様、少し、下がっててもらえますか?」
その台詞に、一旦ハイエロファントに全員の目線が向けられる。
手に持っていた、壜入りの巾着をベッドシーツの片隅に置くハイエロファント。
デス、ハイエロファントに続いてそこに近付く。
一同の視線が、今度はデスに繋がれる。
途端。
部屋中の空気が、一変。
目を見開いて、デスを凝視する各位。
絶句。
死神の正装束で、部屋の中央付近に仁王立ちしているデス。
初めて見る者も、かつて見たことのある者も、すべて息を飲む。
ジャスティス「(たどたどしく)・・・デス・・・その格好・・・」
ストレングス「(ゴクリ、と唾を飲み込み)まさか・・・“仕事”?」
デス、こくり、と首を上下に振る。
刹那の、後。
ワールドの最後だと、その場の誰もが認識を抱える。
何度目かの、沈黙。
沈黙。
深い、沈黙。
未だかつてないほどの、泥濘のような雰囲気。
デス、大鎌を正面に構え、ゆっくりとベッドに歩を進める。
ハイエロファント、フォーチュンとエンプレスに目線を送り、静かに頷く。
エンプレス、振り切るように身体を起こし、ベッドに背を向けて速足で窓際に寄る。
そのまま窓の方に身体を対し、奥歯を噛み締め、項垂れる。
傍らに、ストレングス(父)が近寄る。心配気な顔。
即応するように、彼の左肩に額を乗せ、瞼を固く閉じ、もう一筋の涙を流す。
そんな彼女を愛おしげに見詰め、それからベッドに目線を投げるストレングス(父)。
フォーチュン、微かに震えながら身体を起こし、ベッドから離れ始める。
覚束ない足取り、よろめく歩行。ハイプリエステスの眼前に立つ。
ハイプリエステス、はらはら、と落涙。
跳び込むように身体を彼女の胸に預け、両腕を背中に回すフォーチュン。
同様に、包み込む如く両腕を娘の背に持ってくるハイプリエステス。
ぎゅうっ・・・と渾身の力で、抱き締め合う、ふたり。
その側で、フォーチュンとハイプリエステスを見て、再度ワールドに視界を移動するマジシャン。
フォーチュン「(唇を噛み、瞼を閉じ)母上・・・ワールドは・・・もう・・・」
ハイプリエステス「(涙を流し続け)これも・・・運命ざますよ・・・名残惜しいのは・・・あたくしも・・・」
マジシャン「(目を伏せ)こんなに早く、別れが来るとは・・・思わなかったであーる・・・」
やがて、誰もが言葉を失くす。
最早、室内にあるのは、葬送の空気。
ある者は目を閉じ、ある者は顔を伏せ、ある者はしっかりと眼に焼き付けている。
その、中。
デスは、ワールドの横臥するベッドの左横に立つ。
対してハイエロファントが、その反対側、ベッドの右横に立つ。
そして、眠ったような表情のワールドを見下ろす、ふたり。
デス[面の奥から]「まず・・・『聖なる力』を全身に掛けてくれ」
ハイエロファント「(頷いて)判ったよ」