デスとハイエロファントの物語:REBOOT 最終章 作:桁石スミオ
ハイエロファント、両足を肩幅に踏み、前屈みになる。
両腕を左右に大きく広げ、掌を下に翳す。
右手をワールドの足元、膝の辺り。左手をワールドの額の上。高さは30センチほど。
ハイエロファント「(清廉な発声)聖なる力!」
パアアアアッッッ・・・と、ハイエロファントの両掌が、純白の光を放つ。
発光に伴い、ワールドの全身が、ポウ・・・と白い光に覆われ、瞬時に包まれる。
デス[面の奥から]「よし・・・次は、ワールドの足元から頭上に向かって、力を集めてくれ。右手だけを寄せて、左手はそのまま」
掲げた右手を、すーっ、と緩やかな動作で移し始めるハイエロファント。
すると、右掌の動作に従い、ワールドの脚の純白光が、彼女の頭上に寄り集まっていく。
移動するハイエロファントの手、その真下で範囲を狭めていく光。
デス[面の奥から]「いいぞ、その調子だ」
ハイエロファントの左手は、ワールドの額の真上。
ハイエロファントの右手が、純白の光を下に引き連れ、ワールドの胸元上を通過。
現在、白い光は、直径50センチほど円型となっている。
デス[面の奥から]「最終段階だ・・・ワールドの『第三の目』に、全部の力を集めてくれ。そして、両手で『第三の目』を覆う感じで・・・暫く、力を維持してくれ」
こくん、と自分の両手を見たまま頷くハイエロファント。
ワールドの脚方向から寄せてきた右手を、固定された左手側に更に近付ける。
掌同志をゆっくりと、重なりそうな距離まで接近させる。
そしてワールドの額の、閉じた『第三の目』を、両手で覆い隠す。
ハイエロファントの五指と掌が、半球体の形を成す。
彼の指と手の隙間から、白色の光がかなりの照度を持って溢れる。
その光から、キィ―――ン・・・と高周波音が響き始める。
相当な圧力で凝縮された、純度の濃い光。
他の各位が、固唾を飲んでその一部始終を目に映している。
掌と掌の内側の純白光、キュイイイイン・・・と、昂る音を掻き鳴らし出す。
それに従い、光源が醸し出す周囲の陰が、一際明確化する。
デス[面の奥から]「出てくる・・・(深い声色で)いよいよだ、ハイエロファント。何が出て来ても、手を動かさないでくれ・・・頼むぞ」
ハイエロファント「(ごく、と生唾を飲み)判ったよ」
少しの、間
更に、間。
突然。
ワールドの額真上に被せたハイエロファントの手と手の隙間に、薄黒い紫色が湧き出してくる。
それは見る見る発色を濃くしていき、明らかに層を成していく。
直後。
紫と黒の混じった物体、飛び出す。
プックウウウウッッ・・・と、網で焼いた餅が膨れ上がるが如し。
眼前で目の当たりにしたハイエロファント、思わず目を丸くし、身を固める。
デスとハイエロファント以外の一同「「「(大驚愕)えええええええっっっ!!!」」」
部屋中が、素っ頓狂な声で満ち溢れる。
膨張した黒紫色、尚も大きくなっていき、まるで風船のような形状へと変化する。
ププププ・・・と妙な音を立て、ブ・・・ブ・・・と直径を拡大。
途端。
デスが左手を上から被せ、ガシッ!と紫の物体を捕まえる。
そのまま彼女は、左腕を真上に引き上げ始める。
ムニュゥ・・・と、パン生地を伸ばしたように延びる、紫と黒の混合色の異物。
デスが掴んだ部分から、ハイエロファントの覆った手までの高さ、70センチほど。
その間を繫げている部分が、中間辺りで別の色に変わっている。
上側、デスが持っている部分から黒紫、下側、ハイエロファントの手までは蒼白。
ふたつの別々の色が、癒着して結合している。
デス、右手の大鎌を静かに上げて、柄を短めに持ち直す。
ワールドの身体と水平の位置、延伸している物体の向こう側に、刃を翳す。
そして、物体の黒紫と蒼白の境目に、慎重に刃を当てる。
左手で異物、右手に大鎌。
ハイエロファント、目の前の状況を、固唾を飲んで見守る。
デス、暫し動かず。
刃の切っ先を、僅かに、ミリ単位で高さを調整している模様。
まだ、動かない。
まだ、動かない。
ぐっ、と一瞬だけ息を停めるデス。
直後。
刃が、稼働。
ザッシュッ!と、短くも大きめの音を発生させ、デスが大鎌を手前に引く。
パチーン!・・・と、ゴムが弾けるように、二色の物体が別々に分断される。
デスが握った黒紫色の物質、蒼白の光に、クルン、と包まれ、直径10センチほどの球体に変形。
まるで蛙の卵の如く、内側に黒い紫、外側が蒼白い透明な膜の二層構造。
全体は蒼白色の、仄かな灯り。
それを、しっかりと手放さぬように握り締めるデス。
そして手首を返し、球形を上に向けて五指に力を込める。
一方、切り離された下側、蒼白い物質は、スーッ・・・と静かに戻っていく。
そのまま、ハイエロファントの手と手の隙間を縫うように、ワールドの額に吸い込まれる。
デス、大鎌を体側に下ろし、刃を下にして、ふうう、と長めに息を継ぐ。
デス[面の奥から]「(達成感溢れる声)よしっ! ハイエロファント! 成功だ! もう手を離しても大丈夫だ!」
驚きの表情のまま、ワールドの額に被せた両手を、ゆっくりと離すハイエロファント。
デスの左手に掴まれた球体に視線を結び付けながら、上半身を起こす。
起立して、改めて目の前の奇妙な球形物と、デスを交互に見詰める。
同様にひたすら、デスの握った物体に目線を繋げる、他の各位。
ハイエロファント「それは・・・何?」
デス[面の奥から]「マッシュマンだ」
ブルース「(凄まじく驚き)マッシュマンですか!? 確かに、奴と同じ霊力を感じますが・・・」
マッコイ「(目を見開き)あの野郎は倒したんだろ? じゃあ、それってまさか・・・」
デス[面の奥から]「(頷き)ああ、察しの通り、マッシュマンの身体の一部だ。ワールドは・・・(明瞭な声色で)奴に憑依されていたんだ」
ジャスティス「(一層の驚嘆)憑依!? でも、ボクがされた時の“影”とは違う感じがするね・・・」
デス[面の奥から]「そうだ、お前の時とはまた違う。ジャスティスが憑依された時は、奴の霊力と魔力を併せたような“影”・・・さながら『霊体』とで表現した方がいいかも知れない。だがこれは・・・(左手の球体を睨み)マッシュマン本体を切り離した、奴の生体細胞そのものだ。しかもこれが、ワールドの魂と密着して繋がっていた。一体化するようにな。この生体細胞は、魂そのものと質が似ている。最初にワールドを診ていた時に気が付かなかったのは、こいつが魂本体の陰に隠れていたからだろう。卑劣な奴のやりそうな手口だ。とは言え、気付くのが遅れたのはあたしの失態だ」
ハイエロファント「(首を振って)そこまで巧妙に隠れられたら、誰だって解らない。君が責任を感じることはないよ」
デス[面の奥から]「魂はあたしの管轄だ。責任はある」
ストレングス「(興味津々で)ねぇデス・・・今見た、お餅みたいなのって、持ってるのがマッシュマンで・・・下の蒼白いトコって何だったの?」
デス[面の奥から]「ああ、あれがワールドの魂だ。同じ物が、お前らひとりひとりに存在する」
マジシャン「(唖然としながら)何という・・・魂を見たのは初めてでーある・・・」
ハイプリエステス「(茫然としながら)魂の世界は、デスさんだけにしか解らないざますものね・・・」
エンペラー「(ハァ、と息を吐き)まさか誰かの魂を目の前で見るコトになろーとは・・・夢にも思わなかったわ・・・」
エンプレス「ひとつ、聞かせておくれ・・・(デスを見て)アンタが死神の正装になったのは、ワールドを“送る”為じゃなかったんだね?」
デス、エンプレスに目線を投げ返す。
デス[面の奥から]「(深く頷き)ワールドはまだ“送ら”ない。(大鎌を見詰め)こいつも、まだだと言っている。(全員を見渡し)あたしが正装束になったのは、死神の力を使い、魂を一旦引っ張り出す必要があったからだ。魂をその場で扱うことも、死神の“仕事”のひとつだからな」
寝室内の空気、一気に緩む。
ほぉーっ・・・と方々から安堵の溜め息が漏れ、聞こえてくる。
フォーチュン、ハイプリエステスから腕を解き、身体をデスに正対させる。
フォーチュン「とんでもない事態が起こっておったのじゃな、ワールドの身体には・・・(怪訝そうに)しかし、マッシュマンはそなたらで倒した、のじゃろう? 今そこにある物体がの身体の一部ということは・・・まさか、奴め、少しでも身体が残っておれば活動出来るのか?」
デス[面の奥から]「マッシュマンは、確かに倒した。しかし本体が消滅した後も残り続けているということは、この分体だけで何らかの状態を保つことが出来る、ということ・・・これこそが、奴の存在の鍵だったんだ」
左手を少し下げて、握った球体を再度凝視するデス。
デス[面の奥から]「マッシュマンとの戦闘中に、ワールドをどうやって襲撃したか、問い質そうとした。具体的な遣り方は聴き出せなかったが、奴が漏らした言葉に『第三の目』『遠視』『利用』という単語があった。ワールドの『第三の目』は『遠視』の力を持ち、マジカルランドを隈なく見通せる筈だ。(声を一段低く)だから、実際の方法を白状させた訳じゃないから、ここからはあたしの推測だが・・・」
僅かの、沈黙の後。
デス[面の奥から]「マッシュマンは、皆既月蝕に“罠”を仕掛けてたのかも知れない」
意外そうな雰囲気となる、デスの話を聴いている各人。
デス、フォーチュンに視線を繋ぐ。
デス[面の奥から]「フォーチュン、尋ねるが・・・『遠視』を使う時は、防御魔法は使えるのか?」
フォーチュン「(首を左右に振り)いや、使えん。基本的に、魔術や他の攻撃に対して無防備になってしまうぞよ」
デス[面の奥から]「そこが・・・ワールドの弱点だった。いつもの完璧な防御魔法が、『遠視』の時だけは使えない。マッシュマンはそこに気が付いたんだ」
部屋中の空気が、未だに腑に落ちない様子。
ハイエロファントだけが、少し微笑んで、デスをしっかりと見詰めている。
デス[面の奥から]「見ての通り、奴は身体を分割しても活動出来る。分体を、例えば、皆既月蝕に仕掛けた絡繰りに仕込んでおく。そして絡繰りを作動させて、月蝕を引き起こす。おかしいと思ったワールドが『遠視』を使う・・・その時、ワールドは防御が出来ない。つまり、その隙に攻撃・・・この場合、分体をそのまま“憑依”させたのだったろう」
フォーチュン「(不思議そうに)しかし、憑依であれば、何故ワールドはマッシュマンに操られておらんのじゃ?」
デス[面の奥から]「『遠視』を止めれば、ワールドの防御魔法が働く。憑り付いたのまでは思惑通りだったのだろうが、自動的に防御の力が発動したワールドを、操りたくても操れなかったのかも知れない。だがワールドの身体も、マッシュマンの憑依で拒絶反応を起こし、全機能を停止・・・というところか。これも実際に確認している訳ではないから、ただの推測の域を出ない」
ハイエロファント「推測とは言っても、君の考察が一番納得いくものだと思うよ。僕は、そこまで見抜くことは出来なかった。マッシュマンは、僕たちの想像を遥かに上回る存在だった、ということだよね」
ブルース「(頷き)長年闘ってきた私たちも、奴の生体原理が何なのかは、解らず仕舞いでした。でも今回のデスさんの活躍のお陰で、その全貌が理解出来たと思います」
フォーチュン「そうじゃのう・・・エロファントとブルースの申す通りじゃ。デスでなければ、あ奴の存在の一端すら解読出来なかったやも知れんのう」
デス[面の奥から]「あたしでなくとも、いずれ誰かが解明していたろう」
ハイエロファント「もしかしてマッシュマンは・・・『第三の目』を使った時に、ワールド様の中に侵入したのかな?」
デス[面の奥から]「恐らくな。だから今、入って来た場所から引き摺り出してやった。『聖なる力』は霊力を持つ連中を追い立てることが出来る。お前に力を借りたのは、そういう訳だ」
デスとハイエロファントの眼差しが、宙で絡む。
それから、デスの左掌の中の蒼白色の球体に、同じ呼吸で目線を下ろす。
デス[面の奥から]「こいつが、ワールドの魂の陰に隠れ、融着し、一瞥しただけでは見付けられなかった。最初はな・・・だがマッシュマンと直接闘い、奴の気配は完全に判別出来るようになった。マッシュマンの特性として、本体が消滅した後でも分体だけで活動が可能・・・だが、今はあたしの力で封じた。死神の力からは、死神の大鎌からは、何人足りとも逃れることは不可能だ。後は、このまま“送る”・・・それで、すべて終わりだ」
ハイエロファント、視界を上げ、一度頷く。
そして、くる、と踵を返して、落ち着いた歩調で窓際に寄る。
窓側にいた数名、場所を空け、左右に移動する。
中庭から覗き込んでいたタワー、ハイエロファントと目を合わせる。
ハイエロファント「タワー、もう大丈夫だよ。少し下がってくれるかな?」
タワー「(安堵した声で)ター・・・ワー・・・」
ゴウン・・・と足を後方に引き、身体を下げるタワー。
窓の外の空間が、満月の夜空に繋がる。
開放されている両開きの窓枠近くに立ち、振り返るハイエロファント。
ベッドの横から、悠然とした足取りで窓の方向に歩いていくデス。
死神の正装束のまま、左手にマッシュマンの断片を握り、掲げ。
寝室内の各位、彼女の動きに従って視線を移していく。
デスの脚が、窓のすぐ手前で止まる。
傍で、デスの一挙手一投足に眼差しを結わえ続けるハイエロファント。
左腕を真っ直ぐに前方に伸ばし、球体を外に差し出すデス。
彼女の腕の艶やかな素肌を、涼しい夜風が撫でる。
デス[面の奥から]「行けっ!」
ポーウッ・・・と、デスの左掌が、鮮やかに発光。
すると。
フワアッ・・・と掌を離れ、蒼白光で包まれた黒紫色の球体が浮かぶ。
そして緩やかに、緩やかに、非常に緩やかに上昇を始める。
デスの力で纏われた光で包括され、宙を斜め上空へと高度を取っていく。
音もなく、静かに。
タワーが、その軌跡を目でずっと追っている。
室内の他の各位は、夢見心地のような表情。
球体は、止まることなく空を昇っていく。
尚も、昇る。
やがて。
マッシュマンの欠片、星の煌きの中に紛れていく。
満月の蒼白い光が満ち溢れる夜空に、消えていく。
静寂。
静寂。
静寂。
すべての闘いの終焉を告げる、静寂だけがある。
デス、すっ、と髑髏の面を外し、左手に持って体側に下ろす。
それからフードを頭から捲り、背中側に垂らす。
ハイエロファント、デスと肩を並べ、窓から外の夜空を見上げる。
デス「(重厚な声で)さらばだ、マッシュマン」
ハイエロファント「(諭すような声で)今度生まれ変わる時には、世界を滅ぼすなんて、考えないでね」
直後。
天蓋付きベッド上のワールドのふたつの瞼が、ゆるり・・・と開く。
即座に彼女の頬が薄く血色を取り戻し、緩和したように動く。
半開きの眼、焦点の合ってなさそうな視界。
緩慢な動作で、両肘から腕に力を込め、上半身を起こしていく。
それに気が付いて、次々にワールドに繋がれていく、目線。
皆が、鳩が豆鉄砲を喰らったような、顔。
デスとハイエロファントだけが、安心を表した微笑みを浮かべている。
ベッド上の『天空の女神』の、寝起き顔。
ノンレム睡眠から急速に意識を引き戻された如き、夢遊の状態。
一同の言葉が、何も発せられない。
途端。
ワールド、瞼を再び閉じ、両腕を真上に、ぐううっ、と伸ばす。
伸身のポーズを取り、ブルッ、と一度身体を震わせる。
ワールド「(眠たげに、欠伸混じり)ふあああ・・・何だか良く眠りましたワ・・・」
腕を下ろして腿の上に置き、瞼を開くワールド。
はた、と自分に集まる多くの視線に気が付き、きょろ、きょろ、と顔を左右に振る。
総勢14名の目が向けられている状況の、理解が追い付ていない様相。
ワールド「ここは、何処・・・(部屋中を見回し)えーと・・・皆さん、どうなさったのです? 何で集まってらっしゃるんですの? (ブルースとマッコイを目に留め)あら? お客さんですか? はじめまし・・・」
フォーチュン「(破顔一笑)ワールドぉぉぉっっっ!!!」
スタッ、と床を蹴り、ぴょーん!と跳ねてベッドに飛び込んでいくフォーチュン。
勢いのまま、ワールドの首元に、バッ!と両腕を回して抱き着く。
時を同じくして、ダッ、と床を蹴り、ベッドに倒れ込むように被さるエンプレス。
彼女も、ガバッ!と、両腕でワールドの背中を包み込み、力を入れる。
ふたりの涙腺の堰が切れ、ぶわっ・・・と透明な雫が流れ出る。
つう、つう・・・と、止めどなく溢れる、涙。
しかし、フォーチュンとエンプレスは、この上ない笑顔。
溜め込んでいた鬱蒼をすべて掻き消すような、破顔。
泣き濡れた頬をワールドに擦り寄せ、蕩けるような表情となる、ふたり。
片や。
突然の展開に、綺麗に頬を紅に染め上げ、戸惑った顔のワールド。
ワールド「(フォーチュンの後頭部を見詰め)ちょ! ちょっとフォーチュン! (エンプレスの髪を見詰め)それにエンプレスまで! 何ですの急に抱き着いて!?」
フォーチュン「(ポロポロと涙を流し、嬉しそうに)馬鹿者っ・・・ようやっと目覚めおった・・・」
エンプレス「(幾筋も涙を流し、歓喜で)まったくだよっ! 寝坊助にも程があるよっ!」
ワールド「(疑問しかない表情)もう・・・どなたか説明して下さいませんか?」
デス「(ふっ、と笑みを浮かべ)何、ちょっと悪い夢にうなされていただけだ」
ハイエロファント「(にこ、と笑みを浮かべ)それに、今日はもう遅い。一眠りして、明日にでも説明しますよ」
ワールド「何だかよく解りませんワ・・・」
はあ、と大きく息を継ぐワールド。
そんな彼女に、部屋中の視線が結ばれている。
全員が、ほっとした表情。安堵の表情。
数名が、フォーチュンとエンプレスの貰い泣きで、目頭を押さえている。
暫くして。
フォーチュン、ワールドに回した腕を解き、右手の甲で涙を拭いながら身体を戻す。
エンプレス、同じくワールドを抱き締めた腕を戻し、ベッドの横に立つ。
ふたりとも、穏やかで澄み切った顔で、笑みを浮かべる。
フォーチュン「確かに、もう日付も変わっておるな・・・(晴れ晴れとした顔で、全員を見回し)皆! 今夜は城に泊っていけ! 部屋は好きな場所を使うといい! 全員が起きたら、宴じゃ! 良いな!?」
わっ、と期せずして声が湧く。
安心から歓びへ、寝室内の空気が入れ替わる。
数歩、床を歩き、ブルースとマッコイに視界を移すフォーチュン。
フォーチュン「ブルース、マッコイ、そなたたちも泊っていけ。約束通り、明日、美味い飲み物を馳走してやるぞよ。飲み物だけでなく、料理もたんまり食うとよい」
マッコイ「(嬉しそうに)オッケー! じゃ、遠慮なく!」
ブルース「(頭を下げ)これは忝い。ご相伴に預かります」
エンプレス「(ストレングス〈父〉を見て)アタシらも、城から食材を持ち込んでやるとするか。手ェ貸しな」
ストレングス(父)「(ドン!と右拳で胸を叩いて)任せて下さいッ!」
ストレングス「アタイも手伝うっ!」
ガオガオ「ガオッ! ガーオンッ!」
未だに訳が解らない、といった様子で眉を顰めるワールド。
フォーチュン、部屋を横切って窓側に歩み寄っていく。
そして、デスとハイエロファントの並ぶ眼前に到着する。
フォーチュン「(しみじみと)ふたりとも、本当にご苦労じゃった。今宵は休め。明日、宴には同席出来るな?」
ハイエロファント「(笑顔で)ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうよ」
デス「(笑顔で)ハイエロファントがいいのなら、あたしも異存はない」
3人が、静かに笑みを交わす。
送り合う眼差しは、深く、互いを労う色彩。
その3名の姿を左眼に映し、中庭から穏やかに見守っているタワー。
フォーチュン城全体に、深夜の帳が、大いなる安らぎを醸し出して降りている。