デスとハイエロファントの物語:REBOOT 最終章 作:桁石スミオ
★ (数週間後)神殿・列柱室奥の祭壇室『至聖所』
快晴。
雲ひとつない、昼過ぎ。
ハイエロファントとデスの住居となっている、神殿の拝殿。
柱が数多く均等にそびえ立ち、屋根を支えている。天井までが、他の建屋より一際高い。
外側を囲むように、回廊が設置してある。
回廊沿いには丸く太い柱が両側に並び、片面が内側の柱、もう片面は庭に通じており、外部に出られる。
正面玄関側に、第一列柱室と祭壇室入り口。
そこから反対側に、回廊を横切った中央通路が前方に延び、第二列柱室と祭壇室がある。
第二列柱室は、左右に3列に連なる丸い石柱、その柱の間から、中庭を望むことが出来る。
陽で暖まった風が、微かに流れてくる。
そこに、数多くの人数が集合している。
あちこちで数人ずつ固まって、話に花を咲かせている様子。
19名の、参列者。
列柱室右手回廊の外側、中庭に片膝を着いて屈んでいるタワー。
タワーに向かい合って回廊の柱に寄り掛かり、何事かの会話をしているエンペラー。
がやがやがや・・・と、気儘な喋りが方々から湧いている。
暫くして。
すたすた・・・と第一列柱室側からハイエロファントとデスが入室してくる。
ハイエロファント「お待たせ。花嫁の準備は整ったよ」
参列者の視線が、一斉に彼に向けられる。
突然、全員の視界が、後ろに控えるデスに結ばれ、凝り固まる。
ハイエロファントは、通常の法衣。
だが、デスは通常の服ではない。
法衣姿。
生地は、純白。
ミトラ(司教冠)を被り、首元から白地のマントが大きく翻る。
ハイエロファントの着衣と、よく似たデザインの模様。
彼の服の色が白に緑と黄であるのに対して、彼女は白に薄紫と蒼。
まさに、清廉を絵に描いたような、美麗さ。
デスの紫の髪が、一層映えて艶やかな輝きを帯びている。
瞬時に、誰もが心奪われる、完璧な姿。
ストレングス「(目を真ん丸にして)デスっ! その格好って!?」
デス「ああ、これはな・・・式の副司祭として立ち会うには、流石にいつもの装束では差し障りがあると思って、エンプレスに借りたんだ。選んでくれたのはハイエロファントだ」
エンプレス「アタシの持ってる祭事用法衣の中で、良さげなのを見てもらってね。身体もサイズも、アタシとデスは近いから、合うのがあったって訳だよ」
ハイエロファント「僕の法衣と柄が似てたんで、これがいいかな、って思ったんだ」
ガオガオ「(感銘したように)ガーウ・・・ウガオー・・・」
ストレングス(父)「(頷いて)まったくだヌァ。コッチの夫婦もお揃いで似合うズォ!」
ススススス・・・と擦り寄るように近付いてくる、ジャスティスとストレングス。
デスのすぐ傍らに並ぶと、ポーッ・・・と揃って顔を赤くして上気する。
瞳が潤み、最早デス以外は眼に映っていない状態。
ジャスティス・ストレングス「「(頬を目一杯染めて)デス・・・綺麗・・・滅茶滅茶きれーい・・・」」
デス「(眉を顰め)お前らは何を言ってるんだ?」
ストレングス「(上の空)こんな綺麗なデス・・・初めて見た・・・」
ジャスティス「(上の空)ホント・・・とっても素敵・・・」
途端。
目一杯苦々しい表情へと顔を変え、きっ、と鋭くふたりを睨むデス。
デス「(突き放すように)いい加減にしておけ! あたしのことは見なくてもいい! 主役はフォーチュンだ!」
ビクウッ!と飛び跳ねるような動作を起こす、ジャスティスとストレングス。
瞬時で、ふたりの顔に冷静さと、申し訳なさが宿る。
ストレングス「(我に返って、頭を下げ)ごめんねデスっ! つい見惚れちゃって!」
ジャスティス「ボクも! ごめん! (頭を下げ)悪気はないんだ!」
ストレングスとジャスティス、尚も低頭し続ける。
少しの、後。
デスから放たれていた張り詰めた雰囲気、さっ、と掻き消される。
目を細め、ふたりの姿を優しく見ているデス。
デス「(ふっ、と笑い)判ってる。お前たちに悪気などないことは、な」
バッ、と身体を起こす、ジャスティスとストレングス。
デスの微笑みを濃く目に焼き付け、柔らかい安堵の表情へと入れ替える。
ジャスティス「(少し、目頭を潤ませ)ホントにごめんね・・・解ってくれて、ありがとう」
デス「いいから、気にするな。それよりも・・・フォーチュンの衣装は相当な物だ。一見の価値がある」
ストレングス「(安心した笑顔で)デスはもう見たの?」
デス「(頷き)ああ、着付けまで確認してきた。期待してていい。楽しみにしていろ」
ジャスティス「(爽やかな笑み)うんっ!」
その一部始終を離れた場所から見ている、エンペラーとタワー。
エンペラー、ふう、と息を継いでから、再度タワーに身体を正対させる。
エンペラー「あンたはそのままなの? 折角の花婿さんなのに、蝶ネクタイのひとつもしとけばいいのに」
タワー「(ゴウン、と首を左右に振って)ワタシ、オオキスギル・・・フク、ドコロカ、ネクタイ、モ、ツクレナイ・・・」
エンペラー「(ハァ、と息を吐き)そんな時のマジカルドロップじゃないの。“晴れの日”の衣装くらい作っちゃえば良かったのに」
タワー「(再度首を横に振り)ワタシノ、フク、ヨリ、フォーチュンサマ、イショウ、ダイジ・・・」
エンペラー「まっ、その心意気よね、確かに。あンたは天下一の女神の花婿になるんだもんね」
タワー「エンペラー・・・オマエ、ケッコン、マダ、シナイノカ?」
エンペラー「(ニイッ、と笑い)アタシはまだ独身貴族を謳歌するわん! そしてゆくゆくは! エロファントちゃんをお婿さんに・・・」
タワー「(きっぱりと)ムリ」
エンペラー「(ちょっと怒声で)知ってるわよん! 言ってみただけッ!」
ゴウン・・・と首を上下に小さく振るタワー。
それから、ニマ、と楽し気な様子で顔を綻ばせるエンペラー。
直後。
第一列柱室側、祭壇室入り口に、ワールドが姿を現す。
ワールド「(響く声で)皆さん! 花嫁さんの入場ですワ!」
一斉に集中する、部屋中の視線。
ワールドの身体が横に移動し、その背後に控えて立っていたフォーチュンが、数歩進み出る。
参列者一同「「「(感嘆の声)おおおおおっっっっっ!!!」」」
爆発的に放出される、歓声。
そこに起立するフォーチュン、花嫁衣裳。
白。
純白の、服。
小振りなミトラ、首元から後方に下がる薄手の長いヴェール。
引き締まって、美しい流線形を作る、胸元から腰の上服地。
見事な三角錐の形状を成している、スカート。
その衣装に縫い込められた刺繍をも、白い糸で構成されている。
彼女が両手で大事そうに持って胸元に掲げているブーケも、すべて白い花。
究極の、純白。
更に、フォーチュンの赤い髪が、この上なく映えている。
完璧以外の何物でもない、綺麗さ。
全員の目線が自分に繋ぎ止められる中、柔らかく可愛らしい微笑みを湛えるフォーチュン。
ハイプリエステス「(ハンカチで目元を抑えて)フォーチュン・・・最高に素敵ざます・・・」
マジシャン「フォーチュン・・・(口元に右手を当て)んぐっ・・・」
ハイプリエステス「(マジシャンの横顔を見詰め)マジシャンさん、泣いてもいいんざますよ」
マジシャン「泣くなどッ・・・(目を潤ませ)慶事の涙は不吉・・・泣いてなどいない、で、あーる・・・」
ハイプリエステス「こんなことわざがあるざます。『雨の日の結婚式は幸運をもたらす』・・・知ってるざますか?」
マジシャン「(ハイプリエステスを見詰め返し)いや、初耳であーる」
ハイプリエステス「意味は・・・雨が降るのは『神様が結婚するふたりの流す涙を一生分流してくれる』ってことらしいんざます。でも今日は天気は晴れ、結婚の佳き日には最高ざます。だから・・・(優しい微笑みで)マジシャンさんとあたくしで、神様の代わりに、そしてフォーチュンとタワーの分の涙を・・・ここで流してあげるざますよ・・・」
その台詞の、後。
マジシャンの涙腺が、一気に崩壊する。
ダアッ・・・と、最早抑えることも拭うこともなく、惜しげもなく透明な筋を頬に描く。
隣で穏やかに笑みを浮かべながら、夫と同様に、涙を止めどなく流し始めるハイプリエステス。
マジシャン「(ポロポロ、と落涙)フォーチュン・・・立派になった! 嬉しいであーる!」
ハイプリエステス「(つう、つう、と落涙)本当にあなたは! あたくしたちの自慢の娘ざますっ!」
フォーチュン、列柱室を横切り、中庭にいるタワーの眼前に進む。
近くの参列者が、眩しい物を見るような眼で、目を細めている。
エンペラー、すっ、と身体を下げ、右手を胸元に置き、寄ってくるフォーチュンに深々と頭を下げる。
彼の姿を目の当たりにして、こくん、と頷くフォーチュン。
それを確認すると、静かに後ろ足で後方に離れていくエンペラー。
新郎のタワー、新婦のフォーチュン、眼差しを絡め合う。
フォーチュン、嬉しそうに笑みを湛え、愛おしさを無制限に表す。
タワー、向けられる左眼に、虹色の光彩を宿す。
交わされる視線に、何千年と積み重ねてきた万感の想いが、包括されている。
くる、と身体を返し、マジシャンとハイプリエステスを見詰めるフォーチュン。
中庭から同様に、視界を奥に移動させるタワー。
フォーチュン「父上・・・母上・・・わらわをここまで育ててくれて、本当に感謝しておる。これからはタワーと夫婦となり、長き道を歩む。父上と母上のような、素晴しい夫婦になるつもりぞよ。じゃから、また今まで通り、わらわたち夫婦を導いてはくれぬか?」
タワー「(ゴウン・・・と頭を下げ)ヨロシク、タノム・・・」
フォーチュン「いつまでも世話を掛ける娘じゃが・・・これからも見守ってほしい、ぞよ」
真剣な、また真摯な表情の、ふたり。
同時に、マジシャンとハイプリエステスに対して、深々と頭を垂れる。
落涙を治めぬまま、うん、うん、と何度も何度も頷くマジシャンとハイプリエステス。
安心と、寂しさと、娘への愛情が、混在する顔。
参列者一同がその光景から目を離さず、ただただ視線を結んでいる。
その、さ中。
ぴく、とデスのこめかみが、反応する。
緩やかに振り返り、中庭と反対側、柱と柱の間から見える外庭に、目線を放る。
彼女の視界が、遥か彼方を眺めるようなものへと変化する。
暫く、そのまま。
ハッ、と何かを察知し、やや丸く目を見開いていくデス。
デス《・・・呼んでいる・・・魂が・・・》
ハイエロファント「(一同を見渡し)それじゃあ、そろそろ礼拝の準備をします。ご参列の皆さんは・・・」
ふと、デスを振り返るハイエロファント。
顔を外側の景色に固定したまま、眉を寄せているデス。
ハイエロファント「(デスの横顔に視線を結び)デス?・・・どうかしたの?」
デス「(顔を戻し、ハイエロファントと視線を絡めて)あ・・・いや・・・」
デス、口籠り、少し俯く。
ハイエロファント、即座に優し気な表情を浮かべる。
ハイエロファント「(静かな口調で)“仕事”なんだね・・・」
再度顔を上げ、改めてハイエロファントと眼差しを深く絡めるデス。
列柱室内に、何事かという空気が降りてくる。
ざわ・・・と、微かな緊張を包括して、デスとハイエロファントを見る参列者たち。
その中を、悠然とした歩調で、ふたりの方向に近付いてくるフォーチュン。
いつもの、きりりとした眉の、冷静な顔の彼女。
フォーチュン「呼ばれておるのか?」
デス「(目を伏せ)ああ・・・呼ばれている・・・」
デス、もう一度俯き、申し訳なさそうな表情となる。
フォーチュン「(ふっ、と微笑んで)行ってまいれ」
デス「(顔を上げ)だが! お前と約束している。式に立ち会うことは以前から決めていた。まさか式を中断する訳にはいかないだろう」
フォーチュン「気にするでない。あれはわらわの我儘じゃ。元々そなたは式に立ち会うことも、参列もしないつもりじゃった。そこを無理に曲げて、わらわが立ち会いを望んだ。そなたは、式の段取りを含めてここまで準備してくれたではないか・・・充分過ぎじゃ。釣りが出るわ」
デス「しかし・・・」
フォーチュン「(ハイエロファントを見て)エロファント、すまぬが、後はそなた中心で進めてくれまいか? デスは、本来の役目に戻り、全うしてもらいたいのじゃ」
ハイエロファント、にこっ、と納得した爽やかな笑みを浮かべる。
ハイエロファント「(深く頷き)判ったよ。君がそれで良いのなら、僕が進めるよ。(デスをしっかり見詰めて)デス、後は大丈夫。心配しないで」
それでも尚、戸惑っている様子のデス。
肩を落とし、唇を噛んで奥歯を食い縛っている。
自分の責務を全う出来ないという雰囲気の、悔し気な顔。
そこに、すいっ、とエンプレスが前に進み出る。
歩きながら、クワァッ・・・と全身に白い光を纏う。
その白色光は、フシューン・・・と瞬時に、果実の皮を剥くように捲れる。
変わって姿を現した、法衣姿、髪が直毛のエンプレス。
デスとハイエロファント、及びフォーチュンの眼前に立ち、穏健な笑みを表す。
エンプレス「この姿なら、司祭として立ち会えます。デス、後は私が引き継ぎます」
デスの両眼が、僅かに緩む。
列柱室回廊、祭壇側の柱に寄り掛かったエンペラーが、腕組みをしてデスを見る。
エンペラー「さっさと行ってきなさいよ。(ニィ、と笑い)あンたにしか出来ないんでしょ? 苦しんでる魂を送ってあげて、安らかにしてやんなさい。(身体を起こし、腕を解き、胸を張り)それでは! このエンペラーも及ばずながら! フォーチュンとタワーの晴れ舞台のお手伝いを・・・」
フォーチュン「(きっぱりと)手は足りておる。そなたは参列だけしておれ」
エンペラー「(悔しそうに)何でよッ! 折角アタシも役に立とうってのにッ!」
ハイエロファント「気持ちはありがたく受け取っておくよ、エンペラー」
エンペラー「ま・・・(コホン、と咳払い)まあ、エロファントちゃんがそう言ってくれるなら、一般参列者でもいいわ」
ジャスティス「(半笑い)・・・ホント、どこまで前に出たがりなのかなー・・・」
ストレングス「(ニッ、と笑って)やる気があるのはいいことだけどね」
フォーチュン「(デスを見詰め、大きく首を縦に振り)気を遣わせた・・・じゃが、すべては万端整ったぞよ・・・」
デスが、一同を見渡す。
新郎新婦、新婦の両親、参列者全員が、彼女を見詰める。
すべて、納得ずくの色合い。
デスに向けて、労いと情愛を余すところなく注いでいる。
各位の目線が、温かく、柔らかく、そして優しい。
ひとりひとりがデスに、こくん、と小さな頷きを行う。
デス、喉の奥に、ぐっ、と込み上げるものを感じる。
それを口元で堪え、緩やかにハイエロファントと視線を結ぶ。
堅固に絡む、ふたりの瞳からの延長線。
デス「(ハイエロファントと眼差しを合わせ)すまない・・・行ってくる・・・」
ハイエロファント「(デスと眼差しを合わせ)行ってらっしゃい・・・」
それから、全員を再度見渡し、こく、と大きく首を縦に振るデス。
間髪入れず、すたっ、と床を蹴る。
皆の目が集中する中、祭壇室から回廊、回廊を回り込んで神殿奥方向へと走駆する。
タタタタタタ・・・と規則正しい音調で、純白の法衣が移動している。
柱の間に見え隠れしていた彼女の姿が、やがて祭壇の裏の廊下、ずっと向こうの扉に消える。
少しの、静寂。
祭壇室の全員が、安心したように息を継ぐ。
片時も目を離すことなく、見送ったハイエロファント。
静かな微笑みを浮かべたまま、祭壇の方向に歩いて寄っていく。
★ (数分後)森の道
太陽が、少しずつ傾き掛けている。
燦々と陽射しが届き、森の道に格子のような模様が描かれている。
その中を、デスが走る。
いつもの服、大鎌を左手に刃を下向きに持ち、駆けている。
ふと、彼女の脚が停まる。
ゆっくりと振り返り、自分が来た道に目線を投げる。
街の端は、既に見えない。
土の路面が、樹々の影を落として鎮座している。
少し、そのまま。
ふっ、と穏やかな笑みを口元に浮かべ、再び前を向く。
再び、森の奥へ、奥へと駆けていく。