デスとハイエロファントの物語:REBOOT 最終章 作:桁石スミオ
★ (数時間後)神殿正門
陽が山の端に接近し、全空を仄かな茜色に染め上げている。
灰色と朱色で構成された雲が、遥かな上層を、流線を成してたなびいている。
神殿正門の石柱の下に、姿を現すデス。
大鎌を左肩に掛け、歩いて門をくぐる。
顔を上げた、正面。
前庭のずっと先、神殿正面の階段の最上段に、ハイエロファントの姿。
デス、思わず綻ぶ。
そしてすかさず、タッ、と地面を蹴って、真っ直ぐに石畳を走る。
後ろ手に両手を組み、愛おしげにデスを見詰めているハイエロファント。
息を切らすことなく、一気に階段を駆け上がり、彼の眼前に達するデス。
ハイエロファント「(満面の笑みで)お帰り。お疲れ様」
デス「(嬉しそうな笑みで)よく判ったな、帰ってくる時間が・・・待ってたのか?」
ハイエロファント「(首を左右に振って)ううん、ここで待ってたんじゃなくて、そろそろ帰ってくるかなぁ、って思って出てきたところだよ」
デス、最上段まで昇り、ハイエロファントと正対する。
大鎌を肩から下ろし、左体側に刃を下げて持つ。
深く絡み合う、ふたりの眼差し。
ハイエロファント「フォーチュンから、伝言を預かってるよ」
デス「(小首を傾げ)・・・何て言ってた?」
ハイエロファント「いろいろとお礼を言いたいし、ご馳走もしたいんで、いつでもお城に来てほしい、って言ってた」
デス「礼、か・・・(自嘲気味に)礼を受けるようなことは、何ひとつやってないんだがな」
ハイエロファント「君は、成すべきことを成しただけ、と思ってる?」
デス「(こくん、と頷き)そうだ。大きな“仕事”をひとつ片付けただけに過ぎない」
ハイエロファント「それが・・・(柔らかく微笑んで)マジカルランドを救ってくれたんだよ」
デス「(驚いたように)救った? まさか・・・死神のあたしが、救うことなどあり得ない」
意外な言葉に、目を少し見開くデス。
真摯な視線を、デスに繋げるハイエロファント。
ハイエロファント「デス、今まで君は、死神として多くの魂を転生の輪へと導いてくれていた。以前も言ったけど、これだけでも充分過ぎるくらい“救って”きていたんだ。そのままでは苦しみ続ける命に、安息の眠りを与えてくれていた。君は誰よりも生命を、魂を尊び、実直に“救い”続けてきたんだよ」
デス「(目を伏せ、はにかんだ微笑で)・・・そう言ってくれるのは、お前だけだ」
ハイエロファント「そして今回は・・・(清涼な声で)君にしか出来ない方法で、僕たちが生きていくマジカルランドを、滅亡の危機から救ってくれた。夫として、本当に誇りに思うよ」
デス「(顔を上げ)マジカルランドを救ったのは、お前だ、ハイエロファント。お前の力がなければ、今こうして向き合うことすら出来なかった・・・あたしみたいな死神を妻にしてくれて、しかもそこまで言ってくれるなんて・・・・(少し言葉に詰まり)もう・・・何て言っていいのか・・・」
ハイエロファント「死神だから、君を娶りたかったんだ。そして今、毎日幸せに思えるのは、君と一緒になれたからだよ・・・本当に・・・」
少し、間が空く。
僅かに俯き、何かの想いを溜めているような表情のハイエロファント。
そんな彼を、ただひたすら見詰め続けるデス。
暫くの、間。
尚も、間。
更に、間。
ハイエロファント、一直線にデスの瞳に、自分の瞳の色彩を送る。
ハイエロファント「(弾ける満面の笑みで)死神として生まれてきてくれて、ありがとう! デス!」
破顔一笑。
溢れ零れる、笑顔。
多幸感を惜しみなく表す、ハイエロファントの笑顔。
デス、固まる。
両目を正円に近いほど丸く見開き、完全に凝固する。
暫く、そのまま。
暫く、そのまま。
尚も、尚も、そのまま。
やがて。
ぽろ・・・と、デスの目頭から、涙。
ぽろ・・・ぽろ・・・と、連鎖する落涙。
頬を伝い、顎を離れ、胸元へと舞い落ちていく、純な水滴。
幾筋も、幾筋も。
デス「(止めどなく涙を流し)ハイエロファントぉ・・・」
彼女の声が、震える。
ずっと流れ続けている、涙の雫。
ハイエロファント、柔和で穏やかな微笑で、ずっとデスを見続けている。
デス、右手の甲を両眼下に当て、ぐいっ、と拭う。
デス「(止まらない涙を何度も拭きながら)すまない・・・もう・・・涙が・・・止まらなく・・・て・・・」
ひくっ、ひくっ、と喉元をしゃくり上げさせているデス。
ただ、視線はずっとハイエロファントに結んだまま。
デス「(上擦った声で)・・・お前の前で、嬉しくて泣く度、一番、嬉しい瞬間、だって、思ってた・・・これが生まれて、から、最高に嬉しい、時だ、って・・・でもっ・・・お前にまた、今まで以上に、嬉しい言葉を、掛けてもらえて・・・(涙を散らしながら、歓喜に溢れる笑顔で)思えるんだ! あたしは! 幸せなんだ、って!」
途端。
デス、がばっ!と跳び込む動きで、両腕をハイエロファントの首に回す。
右腕をしっかりと彼の襟足に巻き付け、大鎌を持つ左手を添えるように重ねる。
そして、きゅうううっ・・・と渾身の力で抱き着く。
デスの頬、ハイエロファントの頬、密着。
彼女の思わぬ動作に、鮮やかな紅色に顔を染めるハイエロファント。
彼の頬に自分の頬を擦り寄せ、一際大きな涙の粒を零すデス。
デス「(歓喜で)あたしを選んでくれて! ありがとう! ハイエロファント!」
破顔一笑。
柔らかく、綺麗で、可愛らしい笑顔。
多幸感を余すことなく表に出した、デスの笑顔。
ハイエロファント、感激の表情。
緩やかに、且つ確実に彼女の背に腕を回し、力を込める。
両瞼を閉じ、強く抱き締めあう、ふたり。
長い時間、そのまま。
長く、そのまま。
夕焼けからの薄い茜色に染まっている、身体を重ねる両名の姿。
少し開かれる、ふたりの眼。
甘い感触に、酔いしれているかの如し。
ハイエロファント「(沁みるような声で)何度も泣かせちゃって、ごめんね・・・」
デス「(小さく首を振り)いいんだ、謝るな・・・嬉しいから、嬉し過ぎるから泣くんだ・・・」
ふたりの腕の力、一度抜かれる。
今度は、非常に近い距離で目を合わせる。
更に、鼻が擦り合うほどの近さまで、顔を寄せる。
デス「今、お前に言ってもらえて・・・心の底から感じている・・・」
言葉を切って、見詰め合うデスとハイエロファント。
絡む、眼差し。
互いに注ぎ込んでいる、無限の愛おしさ。
デス「(凛として、透明な声で)あたしは・・・本当に、死神で良かった」
ハイエロファント「(明瞭で、澄み切った声で)うん・・・本当に、君が死神で良かったよ」
両腕を双方の背中に回した状態で、顔を寄せていく、ふたり。
ハイエロファント「(至上の愛しさを込め)デス・・・」
デス「(至上の愛しさを込め)ハイエロファント・・・」
緩やかに、双方の唇が、近付いていく。
重なる。
深く、強く、求めあうように絡む。
いつまでも、いつまでも、唇を重ね続けるデスとハイエロファント。
抱き締め合った身体を、更に、ぐっ、と引き寄せあう。
茜から、紅を濃くしていく空。
ふたり、時を忘れるよう、ずっと口づけを交わしたまま、動かない。
暮れゆく空。
天空の端に、宵の明星が浮かんでいる。
それは父なる神の恩寵を現したように、静かにふたりを見守っている。
繋がり合ったデスとハイエロファントに、永遠の安息をもたらしているかの如く、煌く。
【 最終章第五話:佳き日、めでたき時 了 】
デスとハイエロファントの物語:REBOOT 最終章[ FINALE ] THE END