デスとハイエロファントの物語:REBOOT 最終章   作:桁石スミオ

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最終章第五話:佳き日、めでたき時ー5(最終話)

★ (数時間後)神殿正門

 

 陽が山の端に接近し、全空を仄かな茜色に染め上げている。

 灰色と朱色で構成された雲が、遥かな上層を、流線を成してたなびいている。

 神殿正門の石柱の下に、姿を現すデス。

 大鎌を左肩に掛け、歩いて門をくぐる。

 顔を上げた、正面。

 前庭のずっと先、神殿正面の階段の最上段に、ハイエロファントの姿。

 デス、思わず綻ぶ。

 そしてすかさず、タッ、と地面を蹴って、真っ直ぐに石畳を走る。

 後ろ手に両手を組み、愛おしげにデスを見詰めているハイエロファント。

 息を切らすことなく、一気に階段を駆け上がり、彼の眼前に達するデス。

 

ハイエロファント「(満面の笑みで)お帰り。お疲れ様」

デス「(嬉しそうな笑みで)よく判ったな、帰ってくる時間が・・・待ってたのか?」

ハイエロファント「(首を左右に振って)ううん、ここで待ってたんじゃなくて、そろそろ帰ってくるかなぁ、って思って出てきたところだよ」

 

 デス、最上段まで昇り、ハイエロファントと正対する。

 大鎌を肩から下ろし、左体側に刃を下げて持つ。

 深く絡み合う、ふたりの眼差し。

 

ハイエロファント「フォーチュンから、伝言を預かってるよ」

デス「(小首を傾げ)・・・何て言ってた?」

ハイエロファント「いろいろとお礼を言いたいし、ご馳走もしたいんで、いつでもお城に来てほしい、って言ってた」

デス「礼、か・・・(自嘲気味に)礼を受けるようなことは、何ひとつやってないんだがな」

ハイエロファント「君は、成すべきことを成しただけ、と思ってる?」

デス「(こくん、と頷き)そうだ。大きな“仕事”をひとつ片付けただけに過ぎない」

ハイエロファント「それが・・・(柔らかく微笑んで)マジカルランドを救ってくれたんだよ」

デス「(驚いたように)救った? まさか・・・死神のあたしが、救うことなどあり得ない」

 

 意外な言葉に、目を少し見開くデス。

 真摯な視線を、デスに繋げるハイエロファント。

 

ハイエロファント「デス、今まで君は、死神として多くの魂を転生の輪へと導いてくれていた。以前も言ったけど、これだけでも充分過ぎるくらい“救って”きていたんだ。そのままでは苦しみ続ける命に、安息の眠りを与えてくれていた。君は誰よりも生命を、魂を尊び、実直に“救い”続けてきたんだよ」

デス「(目を伏せ、はにかんだ微笑で)・・・そう言ってくれるのは、お前だけだ」

ハイエロファント「そして今回は・・・(清涼な声で)君にしか出来ない方法で、僕たちが生きていくマジカルランドを、滅亡の危機から救ってくれた。夫として、本当に誇りに思うよ」

デス「(顔を上げ)マジカルランドを救ったのは、お前だ、ハイエロファント。お前の力がなければ、今こうして向き合うことすら出来なかった・・・あたしみたいな死神を妻にしてくれて、しかもそこまで言ってくれるなんて・・・・(少し言葉に詰まり)もう・・・何て言っていいのか・・・」

ハイエロファント「死神だから、君を娶りたかったんだ。そして今、毎日幸せに思えるのは、君と一緒になれたからだよ・・・本当に・・・」

 

 少し、間が空く。

 僅かに俯き、何かの想いを溜めているような表情のハイエロファント。

 そんな彼を、ただひたすら見詰め続けるデス。

 暫くの、間。

 尚も、間。

 更に、間。

 ハイエロファント、一直線にデスの瞳に、自分の瞳の色彩を送る。

 

ハイエロファント「(弾ける満面の笑みで)死神として生まれてきてくれて、ありがとう! デス!」

 

 破顔一笑。

 溢れ零れる、笑顔。

 多幸感を惜しみなく表す、ハイエロファントの笑顔。

 デス、固まる。

 両目を正円に近いほど丸く見開き、完全に凝固する。

 暫く、そのまま。

 暫く、そのまま。

 尚も、尚も、そのまま。

 やがて。

 ぽろ・・・と、デスの目頭から、涙。

 ぽろ・・・ぽろ・・・と、連鎖する落涙。

 頬を伝い、顎を離れ、胸元へと舞い落ちていく、純な水滴。

 幾筋も、幾筋も。

 

デス「(止めどなく涙を流し)ハイエロファントぉ・・・」

 

 彼女の声が、震える。

 ずっと流れ続けている、涙の雫。

 ハイエロファント、柔和で穏やかな微笑で、ずっとデスを見続けている。

 デス、右手の甲を両眼下に当て、ぐいっ、と拭う。

 

デス「(止まらない涙を何度も拭きながら)すまない・・・もう・・・涙が・・・止まらなく・・・て・・・」

 

 ひくっ、ひくっ、と喉元をしゃくり上げさせているデス。

 ただ、視線はずっとハイエロファントに結んだまま。

 

デス「(上擦った声で)・・・お前の前で、嬉しくて泣く度、一番、嬉しい瞬間、だって、思ってた・・・これが生まれて、から、最高に嬉しい、時だ、って・・・でもっ・・・お前にまた、今まで以上に、嬉しい言葉を、掛けてもらえて・・・(涙を散らしながら、歓喜に溢れる笑顔で)思えるんだ! あたしは! 幸せなんだ、って!」

 

 途端。

 デス、がばっ!と跳び込む動きで、両腕をハイエロファントの首に回す。

 右腕をしっかりと彼の襟足に巻き付け、大鎌を持つ左手を添えるように重ねる。

 そして、きゅうううっ・・・と渾身の力で抱き着く。

 デスの頬、ハイエロファントの頬、密着。

 彼女の思わぬ動作に、鮮やかな紅色に顔を染めるハイエロファント。

 彼の頬に自分の頬を擦り寄せ、一際大きな涙の粒を零すデス。

 

デス「(歓喜で)あたしを選んでくれて! ありがとう! ハイエロファント!」

 

 破顔一笑。

 柔らかく、綺麗で、可愛らしい笑顔。

 多幸感を余すことなく表に出した、デスの笑顔。

 ハイエロファント、感激の表情。

 緩やかに、且つ確実に彼女の背に腕を回し、力を込める。

 両瞼を閉じ、強く抱き締めあう、ふたり。

 長い時間、そのまま。

 長く、そのまま。

 夕焼けからの薄い茜色に染まっている、身体を重ねる両名の姿。

 少し開かれる、ふたりの眼。

 甘い感触に、酔いしれているかの如し。

 

ハイエロファント「(沁みるような声で)何度も泣かせちゃって、ごめんね・・・」

デス「(小さく首を振り)いいんだ、謝るな・・・嬉しいから、嬉し過ぎるから泣くんだ・・・」

 

 ふたりの腕の力、一度抜かれる。

 今度は、非常に近い距離で目を合わせる。

 更に、鼻が擦り合うほどの近さまで、顔を寄せる。

 

デス「今、お前に言ってもらえて・・・心の底から感じている・・・」

 

 言葉を切って、見詰め合うデスとハイエロファント。

 絡む、眼差し。

 互いに注ぎ込んでいる、無限の愛おしさ。

 

デス「(凛として、透明な声で)あたしは・・・本当に、死神で良かった」

ハイエロファント「(明瞭で、澄み切った声で)うん・・・本当に、君が死神で良かったよ」

 

 両腕を双方の背中に回した状態で、顔を寄せていく、ふたり。

 

ハイエロファント「(至上の愛しさを込め)デス・・・」

デス「(至上の愛しさを込め)ハイエロファント・・・」

 

 緩やかに、双方の唇が、近付いていく。

 重なる。

 深く、強く、求めあうように絡む。

 いつまでも、いつまでも、唇を重ね続けるデスとハイエロファント。

 抱き締め合った身体を、更に、ぐっ、と引き寄せあう。

 茜から、紅を濃くしていく空。

 ふたり、時を忘れるよう、ずっと口づけを交わしたまま、動かない。

 暮れゆく空。

 天空の端に、宵の明星が浮かんでいる。

 それは父なる神の恩寵を現したように、静かにふたりを見守っている。

 繋がり合ったデスとハイエロファントに、永遠の安息をもたらしているかの如く、煌く。

 

 

 

【 最終章第五話:佳き日、めでたき時  了 】

 

デスとハイエロファントの物語:REBOOT 最終章[ FINALE ] THE END

 

 

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