デスとハイエロファントの物語:REBOOT 最終章 作:桁石スミオ
ガタッ、と同時に席を立ち、起立するブルースとマッコイ。
椅子から離れ、マッコイは傍らに置いていた黄色いバックパックを背負う。
並んで立ち、身体を長テーブル側に向け、全員を見渡すふたり。
ブルース、マッコイの背中のバックパックを左手で示す。
ブルース「装備はこの通り、背中にバックパックを背負ってます。実はこのバックパック、霊力を生み出す装置が内蔵されており、身に着けていれば・・・」
マッコイ、右肘を直角に、右掌を上に向ける。
ポウ・・・と、瞬間光った掌から、直径10センチほどの橙色の球体が出現する。
方々から、驚いたような吐息が漏れる音のが聞こえる。
マッコイ「(光のボールをお手玉をするように、ポン、ポン、と投げ上げ)これが、霊力ボールだぜ」
ストレングス「(目を輝かせ)へぇーっ、綺麗な光の球」
マジシャン「装置を機動させた様子はないな。引鉄のような物は使わぬのであーるか?」
ブルース「霊力という力自体、使用者の思考と連動しておりまして、バックパックを背負った者が発生を念じるだけで、霊力ボールを生み出せるのです。起動ボタンやスイッチは必要ありません」
マッコイ「まあ見てなって。(奥の壁を左手人差し指で指差し)あそこにゴーストがいるとしてだ、こいつを、こうして・・・」
客間後方、装飾品も絵画の額縁も何もない壁。
マッコイからの距離、およそ5メートル。
身体全体を捻るように、右腕を背後に振り翳すマッコイ。
僅かの、後。
野球の投手のような動作で、右腕をバネ仕掛けのようにブン!と振り抜く。
橙色の光の球が、ボッ!と燃焼するような尾を引き、瞬時に空を裂く。
直後。
バシイィィンッ!!!と、壁に衝突した光球が、波紋のような仄かな光を拡散させ、跳ね返る。
それは床を一度バウンドし、正確な軌道でマッコイの元に戻ってくる。
パシ!と、横から掻くような動きで、光球を確保するマッコイ。
ストレングス「(立ち上がって、感嘆して)カッコいいーっ!!!」
マッコイ「(得意げに)とまあ、ゴーストに命中すればヤツらは消えちまう、って寸法だ。ただ見ての通り、壁や障害物に当たると跳ね返ってくる。そいつをキャッチ出来れば、何回でも同じボールを使って攻撃出来んだケド、どっか行っちまった場合は新しいボールを発生させて攻撃すればいいんだぜ」
ブルース「ゴーストには3つの種類が存在します。その色から、(右手人差し指から薬指に掛けて、順番に立て)オレンジゴースト、ブルーゴースト、グレーゴーストと称します。(右手を下ろし)実はこの色の違いが重要でして、同じ色の霊力ボールを当てないと、消滅しないのです。今、マッコイが出しているのはオレンジの霊力ボール、これはオレンジゴーストに対して有効。ではブルーゴーストが出現した場合・・・」
マッコイ、右掌の上の霊力ボールを、テーブル側に掲げる。
途端。
ブイーン・・・という音と共に、果実の皮を一瞬で剥くような変化で、光球が薄青色になる。
ジャスティス「(目を丸くして)色が変わった!」
マッコイ「霊力ボールは、頭で考えれば色が変えられんだ。だからこうして・・・(ポーン、と高く投げ上げ)投げてる途中でも、色が変えられるぜ」
天井近くまで到達しようとしている、薄青色の光の球。
それが放物線の描いて落下する最中、再び、ブイーン・・・という音で変化。
橙色に戻った霊力ボールを、大事そうに、パシン、と両掌で掴むマッコイ。
ジャスティス「(驚嘆して)ホントだ。すっごい!」
マッコイ「ただし、グレーゴーストってのは、面倒でも2回攻撃しないと倒せない。色はどっちでもいいから、霊力ボールを2回当てればオッケー、ってな具合だ」
ブルース「我々ゴーストハンターの攻撃方法は、以上です。(一同を見渡し)さて、問題はここからですが・・・」
マッコイ、手元の光球を包み込むような動作。
フシュウウ・・・と小さくなって消滅する霊力ボール。
完全に消えたことを確認し、腕組みをしてブルースを見るマッコイ。
フォーチュン「ゴーストやマッシュマンには、霊力の攻撃は必須。しかし現状、霊力ないしそれに匹敵する力で対応出来るのは、デス、エロファント、客人であるブルースとマッコイの4名だけじゃ。他の者が闘うには、霊力を身に付けねばなるまい。ここにおる一同が霊力を使うにはどうしたらよいか、皆で知恵を出してほしいのじゃ」
マジシャン「魔力とは異なる力を、しかも全員が、であーるか? (机に右腕を乗せ、人差し指で、トントン、と叩きながら)各自、武器を持つ者もいればそうでない者もいる。一律で霊力を使用出来るとは思えんのだが・・・」
ブルース「先程の霊力ボールを使うには、このバックパックが必要です。これは私たちも持ち合わせがありません」
デス「(腕組みをして)じゃあ、話は早い。あたしが・・・」
ジャスティス「(ガタン、と椅子を鳴らして立ち上がり)それじゃ駄目なんだよ!」
起立しながら、素早くデスに視線を繫げるジャスティス。
間髪入れず、ジャスティスに据えた目線を結ぶデス。
デスの横顔に、静かな表情を向けるハイエロファント。
他の同席者、一斉にジャスティスに注視している。
ジャスティス「デス、キミはまた、自分ひとりでゴーストに立ち向かうつもりなんだろ?」
デス「(落ち着いた声色で)それが、一番確実だ」
ジャスティス「(デスと眼差しを絡め)マジカルランドが滅ぶかどうかの瀬戸際で、黙って指を咥えて待ってろ、っての? 確かに今もボクは、ゴースト一体も倒せないよ。でも! だからってキミひとりに何でもかんでも押し付けるコトが出来ると思う!?」
ストレングス「アタイも、ジャスティスに賛成」
ガタン、と大きく椅子を引き、すっく、と起立するストレングス。
既に視線は、デスに固定されている。
ストレングス「アタイも、今はゴーストを倒せないよ。(キリッ、とした瞳で)それでも、全部デスに負担かける気はサラサラないし、霊力、ってのがあれば、アタイだって闘えるんでしょ? だったら決まってるよ」
ジャスティス「(コク、と頷いて)霊力さえ使えるようになれば、デスやエロファント、そして、ブルース、マッコイと同じように、ゴースト、そしてマッシュマンと闘える! ボクは何が何でも、霊力を使えるようになりたい!」
ストレングス「(張りのある声で)アタイも! 一緒に闘う!」
ジャスティスとストレングス、真っ直ぐで揺るぎない、決意を秘めた瞳。
ふたりを交互に視界に映しているデス。暫く無言のまま。
そして、隣のハイエロファントに眼差しを移す。
宙で結合する、ふたりの目線。
ゆっくりと、緩やかに微笑みを浮かべ始めるハイエロファント。
ハイエロファント「(デスを穏やかな眼で見詰め)・・・判ってるよね」
ふっ、と唇の両端を綺麗な角度に上げ、小さく頷くデス。
そしてもう一度、ジャスティスとストレングスを交互に見て、ふう、と息をつく。
デス「(深い響きを含んだ声で)・・・お前たちは、そう言うだろうと思った」
弾かれたように顔を見合わせ、安堵したような笑顔になるジャスティスとストレングス。
場を占めていた一時の緊張感が、緩む。
ストレングス(父)「子供たちに先言われちまったが、オレもおんなじダァ。(パシィ!と左掌に右拳を叩き付け)ゴーストもマッシュマンってヤロウも、纏めてブン殴ってやるズォ!」
ガオガオ「(猛々しく)ガーオンッ!」
エンプレス「アタシも同じさぁね。(ギン!と鋭い目線で)ゴーストだか何だか知らないが、これ以上好き勝手やられて黙ってられるかってんだい!」
ハイプリエステス「(凛々しい表情で)同意ざます! 滅亡なんて恐ろしいこと、是が非でもやめさせるざますよ!」
マジシャン「(フッ、と口角を上げ)そうであーるな。霊力が使用出来ぬなどと言うより、使えるように出来る手段を探さねばな」
エンペラー「(ハーッ、と長めの溜め息をつき)滅ぼされるのはイヤよねェ・・・仕方がないわ」
フォーチュン「(大きく首を縦に振り)うむ。皆の決意が揃ったようじゃな。では、会議を続行するぞよ」
フォーチュン、立ったまま待機しているブルースとマッコイに、右手で椅子を勧める。
同時に首を縦に振り、マッコイはバックパックを椅子の横に置き、ブルースはそのまま着席する。
フォーチュン「(改めてブルースとマッコイを見て)わらわたちが一時的でも霊力を扱うには、何か方法があるまいか?」
ブルース「私たちが背負っているバックパックに、霊力を発生させる装置が組み込まれていることは、先程説明いたしました。これを身体から離す、つまり身に着けていない時は、霊力ボールを出すことが出来ません」
マッコイ「例えばの話だけど、バックパックを下ろして、(自分の帽子を指差して)この帽子が霊力を持ってる場合ってのは・・・そんな長い時間じゃないケド、霊力ボールが撃てるんだぜ。前に試してみた」
フォーチュン「ほう・・・(腕組みをして)霊力が備わっておる物であれば、装備者本人が霊力を行使出来る、のか?」
マッコイ「(頷いて)実際出来たんだ。ブルースの研究施設で、な」
ブルース「(続いて頷き)ええ。人工的にブレスレットに霊力を蓄積させ、扱えるかどうか・・・結果は成功でした。しかし、バックパックはほぼ無制限に霊力を駆使出来ますが、人工的に溜めた物では、数時間後には霊力は自然消滅してました」
フォーチュン「数時間・・・(瞼を半分閉じ)それでも、闘える可能性があるのう。(再度目線を向け)身に着ける物に、どうやって霊力を溜めたのじゃ?」
ブルース「その装置は結構大掛かりな代物でして・・・私の研究施設に戻らねば、同じ装置は存在しません」
マッコイ「何か、こう・・・(右手を左側から右側に、ひょい、と動かし)魔力とかを物から物へ移動出来るマジックアイテムとか、この世界にはない? あれば代用効くかも知れないぜ」
すかさず、バッ、と右手を高々と挙手するエンペラー。
長テーブルの端の彼の方向に、胡乱気に視線を投げるフォーチュン。
エンペラー「その霊力ってヤツ・・・『小アルカナのカード』の『カップ』で移せないかしらん?」
同席者数名の表情が、ヒントを探し当てたような、少し明瞭なものに変わる。
その中で、ハイエロファントは軽く腕組みをした後、右手親指と人差し指を口元に当てる。
やや目を伏せ、何かを考え始めている様子。
傍らのデス、ハイエロファントの横顔を、じっ、と見詰めたまま身動ぎせず。
フォーチュン、瞬きを数回して、再度エンペラーを見る。
フォーチュン「良いところに気付いた。着眼点は褒めよう。しかし・・・(目を伏せ)『小アルカナ』は、すべて四大元素を元に具現化される。火水風土の魔力なら問題ないが、残念ながら霊力は範疇外じゃ」
エンペラー「(ハァ、と溜め息を吐き、肩を落とし)・・・だったわねェ。使えると思ったんだケド」
ブルース「(訝し気に)『小アルカナのカード』とは?」
フォーチュン「古代魔術アイテムのひとつでな、先程言うた通り、四大元素の魔術を使い、カードに描かれた絵柄を具現化する、という代物じゃ。その中で『カップ』のカードは、魔力を何か別のアイテムに移動出来る特性を持つ。エンペラーが言うた手段というのは、その『カップ』で霊力を、そなたたちが背負って闘うその背嚢から、わらわたちが身に着けている物、もしくは武器に移せないか、ということ・・・(エンペラーを見て)で、間違いないな?」
エンペラー「(大きく首を上下に振り)そーゆーこと」
ブルース「差し支えなければ、その『小アルカナのカード』を見せて頂けますか?」
フォーチュン「ああ、今は宝物庫にあるでな、暫し待って・・・」
マジシャン「(右手を挙手し)私が持ってきている。実は先程、宝物庫に行ってたので、じっくり見てみようと持ち出していたのだ。(懐に手を入れ)これも何かの導きであーるかな?」
マジシャン、卓上に、タン、と木製の蓋付きのケースを置く。
木目を生かした表面の柄。縦長の箱の蓋に、魔法陣のような円形の彫刻細工がある。
それを勢いをつけて、シュッ!とテーブル上を滑らせるマジシャン。
真っ直ぐに滑走した木箱が、フォーチュンの手元へと距離を詰める。
パシ!と軽やかな音を立て、ケースを左手で受け取るフォーチュン。
そのままの流れで、スッ、とブルースの眼前に木箱を差し出す。
フォーチュン「(にっ、と笑い)流石は父上、見事な先見の明、じゃのう」
マジシャン「(フッ、と笑い)まあな。伊達に魔導は学んでおらぬよ」
ブルース「では、失礼して・・・」
カパ、とケースの蓋を外すブルース。
その中には、かなりの枚数の、魔法陣を描き込んだカードが鎮座している。
ブルース、木箱を傾け、中身をすべて出す。
そしてカードの束を卓上に置き、最上部にある1枚を捲る。
図柄は、大きな剣を持って座っている人物の姿。カード下方に『KING of SWORDS.』と記載されている。
絵の入っている面が表、魔法陣の描かれた方が裏、と思われる。
それを卓上に置き、次々とカードを捲っては並べるブルース。
すぐ横で、その一枚一枚を見て、忙しく目線を動かすマッコイ。
ブルース、途中まで同様に並べていたが、残りを一気にひっくり返し、ザッ、と扇型に広げる。
ブルース「(サングラスの奥の眼が、キラリ、と光り)これは大変素晴しい・・・探偵業を長く続けてきましたが、ここまで美しいデザインの魔術カードは初めて見ました。実に興味深い」
マッコイ「剣に、棍棒に、杯、それとこりゃコイン? いや、魔法陣か? 面白いカードだなぁ。俺たちの世界のトランプに似てるな」
ハイプリエステス「トランプ、って何ざます?」
マッコイ「主にゲームに使うカードで、絵柄は4種13枚ずつ、1組が全部で52枚あるんだ」
フォーチュン「『小アルカナ』は4種14枚ずつで、56枚じゃ。確かに共通点があるのう」
ブルース「それで、先程お話しにあった『カップ』が、(数枚のカードを引き出して)これら、ですか?」
フォーチュン「(頷いて)そうじゃ」
ブルース「カード自体に霊力の気配は感じませんが・・・実践する価値はあると思います」
ハイエロファント「(右手を挙手して)あの・・・ひとつ提案をしたいんだけど・・・」
一同の視線が、一斉にハイエロファントに集中する。
隣席で見詰めていたデス、ふっ、と静かな微笑を浮かべる。
ハイエロファント「その『カップ』のカード、僕の力を使って具現化してみる、というのはどうかな?」
デス「(感心して)そうか・・・お前の『聖なる力』なら、霊力に対応出来る可能性があるな」
フォーチュン「確かに、そなたの力は四大元素ではない、第五元素エーテルを根幹にしておる」
ブルース「(思わず身を乗り出して)本当ですか!? エーテルは、神学や物理学では宇宙を満たす物質、光を伝える触媒のこと! それを源に力を発揮出来るとは! 何とも素晴しい!」
マッコイ「(ブルースの横顔を見て)いやー、大興奮だなブルース。オマエの好みのネタばっかりだ」
ハッ!と、我に返るブルース。続けて、キョロキョロ、と周囲を見回す。
それから緩やかに頬を染め、頭を軽く掻き、苦笑いをして背筋を伸ばす。
ブルース「(ふうう、と息を継いで)いやはや、お見苦しいところをお見せしました。では改めて・・・(コホン、と咳払いをして)エロファントさんのお考えを聞かせて頂けますか?」
ハイエロファント「(大きく頷き)はい、じゃあ・・・」
改めて同席者の視線が集まってくる中、両手を卓上で重ねて組み、落ち着いた表情を見せるハイエロファント。
ハイエロファント「まず『カップ』のカードを1枚、僕が具現化してみます。その『カップ』を使って、ブルースさんとマッコイさんのバックパック、だったかな? そこから霊力を汲み出して、次に『小アルカナ』残りのカード全部を箱に入れた状態で、霊力を移します。そうすると、残るカード全体をひとつの道具として、一辺に霊力を込められるんじゃないかと、思い立ちました。これが上手くいけば、『ソード』『ワンド』は霊力を持つ武器になりますし、『ペンタクル』もゴーストから身を護る結界となるでしょう。更に残り13枚の『カップ』で、追加でバックパックから霊力を汲み出し、みんなの装備品にそれぞれ移せば・・・(落ち着いた声色で)全員が霊力を駆使出来るんじゃないかと、考えました」
ほう、と感心したような息が、あちこちから聞こえてくる。
デス「(ハイエロファントを見詰め)流石だな・・・そこまで思考が及ぶとは」
ハイエロファント「(デスを見詰め返し)実際に出来るかどうか、判らないけどね」
エンペラー「(ガタン、と立ち上がって、身体をくねらせ)エロファントちゃんスッゴイわァッ!!!」
ブルース「考察には、非の打ち所がありません。やってみましょう。ではエロファントさん、こちらでお願い出来ますか?」
ハイエロファント「(頷いて)判りました」