デスとハイエロファントの物語:REBOOT 最終章   作:桁石スミオ

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最終章第二話の弐:怖ろしき終わり、汝らを引き攫う【後編】-3

★ マジカルランド中央・フォーチュンの居城・玄関ホールへの階段の踊り場

 

 玄関ホールへの階段を、並んで下っていくデスとハイエロファント。

 その後ろには、ジャスティスとストレングス、エンペラーが続いている。

 途中の広い踊り場に到達し、先の段の手前、デスが立ち止まる。

 それを目で追い、ハイエロファントも同様に歩みを停める。

 

デス「(振り返って)見送りなど、しなくていい。それよりも・・・」

ジャスティス「(頷いて)判ってるって。でも、せめてもうちょっと見送らせてよ」

ハイエロファント「ありがとう。でも、本当に後は大丈夫だよ」

エンペラー「(潤んだ目で)気を付けてね、エロファントちゃん!」

ストレングス「アタイたちは、一緒に闘ってくれるみんなが大勢いるからいいんだケド、デスとエロファント兄ちゃんは、これからゴーストがいっぱいいるかも知れない中を行くんでしょ。そっちの方がずっと大変だもの。それに・・・(真剣な眼差しで)怪我なんかしないで、ふたりして戻って来てほしいんだ」

デス「(ふっ、と不敵に笑い)無論、そのつもりだ」

 

 ストレングス、すっ、と右腕を挙げ、やや肘を曲げて拳を握り、デスに向ける。

 

デス「(訝し気に)何の真似だ?」

ストレングス「グータッチ、やってよ。拳骨同志を、コツン、ってぶつけ合うヤツ」

ジャスティス「みんなで頑張ろう、って意味と、みんな最後まで無事でいられますように、って意味で」

デス「(はぁ、と溜め息をついて)・・・やれやれ、あたしには解らないことが多いな」

 

 デス、右手に大鎌を持ち替えて刃を下にして持つ。

 そして左腕を掲げ、拳を作ってストレングスの眼前に出す。

 一拍の間を置き。

 こつん、と小さな音を立て、デスとストレングスが拳同志を当て合う。

 すかさず、ジャスティスが右の拳を突き出し、デスに翳す。

 流れるように、デスがジャスティスと拳を突き合わせる。

 デスが左腕を下ろすのと入れ違いに、ハイエロファントが左腕を上げる。

 そしてジャスティス、続けてストレングスと拳を合わせる。

 4名の腕が体側に降り、互いに目線を交わす。

 

ストレングス「(真摯な顔で)本当に、無事に戻って来てね」

ジャスティス「(真摯な顔で)ボクたちも、精一杯やってみるよ」

デス「(深く頷き)ああ」

ハイエロファント「(深く頷き)本当にみんなも、無理しないでね」

 

 エンペラー、両腕を左右に全開でハイエロファントに身体を傾ける。

 

エンペラー「(期待に溢れた表情)アタシとは熱い抱擁でもイイのよん? エロファントちゃ・・・」

ハイエロファント「(即答)じゃあ、グータッチで」

エンペラー「(拗ねたような顔で)んもうッ! エロファントちゃんのテレ屋さんッ!」

 

 既にデスは数歩先に進み、踊り場と階段の縁で、再度振り向いている。

 ハイエロファント、左腕を軽く伸ばし、もう一度拳を作っている。

 右の拳を握って腕を差し出し、コツ、とハイエロファントの拳と合わせるエンペラー。

 その光景を視界に映しているデス。

 エンペラー、右拳を自分の頬に擦り付け、ウットリ・・・とした陶酔振り。

 特に表情の変化がないハイエロファント、くる、と踵を返してデスに歩み寄る。

 

ハイエロファント「(デスを見詰め)お待たせ」

デス「(ハイエロファントを見詰め)すまないが、少しだけ待ってくれ。すぐ終わる」

 

 そして、エンペラーに近付くデス。

 僅かに据えた視線。紅玉のような眼が、重みを包括した光を宿す。

 ビクッ、と狼狽えた顔でデスを見るエンペラー。

 

エンペラー「(怯んだ声で)な、何よ?」

 

 途端。

 すいっ、と持ち上げられる、デスの左拳。

 真っ直ぐにエンペラーの正面に掲げられる。

 

エンペラー「(唖然として)・・・え?」

 

 何が起きたか判断し切れてないような、エンペラーの表情。

 デスはそのまま、左腕を伸ばしたまま、動かず。

 暫くの、間。

 暫くの、間。

 更に、間。

 おずおず、とエンペラーが右腕を上げて、拳を作る。

 デスが左足を半歩前に出し、その動きに同調して左腕が前に出る。

 コツン、と合わせられる、デスとエンペラーの拳。

 これ以上ないほど目を丸くして、固まるエンペラー。

 

デス「(にっ、と笑い)城は、任せたぞ」

 

 反応を待つことなく、くるっ、と軽やかに踵を返し、ハイエロファントに小走りで接近するデス。

 にこっ、と柔らかい微笑みで迎えるハイエロファント。

 

デス「すまない。待たせた」

ハイエロファント「(頷いて)それじゃあ、行こうか」

 

 同時に身体を翻らせ、そのまま階段を下り始めるデスとハイエロファント。

 タタタタタ・・・と、速度を上げて遠ざかっていく、ふたりの足音。

 ジャスティスとストレングスが見守る中、やがて玄関の扉が開けられ、蝶番が軋む音が耳に届く。

 ふたりの気配が、感じ取れる範囲から消える。

 エンペラー、自分の右拳を胸元に、ジッ、と見詰めたまま身動ぎせず。

 表情は、ただ茫然とした状態。

 突然。

 エンペラーの脳裏に、ある光景が蘇る。

 

 【回想シーン・スローモーション】

 

 デス、10本の剣を身体に貫通させたまま、目を正円に開いている。

 背中から胸、腹、脚、様々な角度から、鍔の付近まで刺さっているものもある。

 両眼をこれ以上ないほどに開き、デスを見るハイエロファント。

 息を飲んだまま、凍て付いたふたり。

 同様に両目を見開き、地面を蹴って近付こうとするジャスティス。驚愕の表情。

 デスの唇の端から、一本の血の流れ。

 それまで右手に握って下げていた大鎌が、重力に従って落下する。

 一方、土煙の流れ切った向こう側、倒れたタワーの頭頂部付近に人影。

 片膝を立てて、こちらに何かを投げ終わった姿勢のまま、屈んでいるエンペラー。

 顔には、悪鬼のような嗤いがへばり付く。

 霞のように消滅を始める10本の剣。

 完全に消え去った直後、デスの胸部、腹部から、噴出する大量の血。

 デスの瞳が仄暗くなり、大きな咳き込む動作と共に、血の塊を吐き出す。

 力が抜け、膝から崩れ落ちるデス。

 前のめりに倒れ始めたデスを、抱き止めるハイエロファント。

 

 【回想シーン終了】

 

 エンペラー、両目を固く閉じ、少し俯く。

 右拳を胸の前に挙げたまま。尚も動かず。

 雰囲気を察知し、意味あり気な顔で小首を傾げるジャスティス。

 

ジャスティス「(少し含みのある口調で)どーしたのかなー? エンペラー?」

ストレングス「ビックリし過ぎて固まっちゃったんじゃない?」

 

 直後。

 バアッ!と鮮やかにマントを翻し、ジャスティスとストレングスに身体を向けるエンペラー。

 完全に何かを振り切ったような、開き直った爽やかな表情。

 腕組みをして胸を張り、フンッ!と荒い鼻息まで放つ。

 

エンペラー「(自信満々の声で)やーっと死神もアタシの強さを判ったみたいねェッ! んま、言われるまでもなく、お城はこのアタシが完ッッッ璧に護り抜いてあげるケドねッ!」

ジャスティス「(呆れ顔で)あーらら、変に自信つけちゃったよ・・・」

ストレングス「まったく、素直じゃないんだねー、オジサンってば」

エンペラー「(ニィ、と尊大な笑みで)だーれがオジサンよ。このエンペラーがいれば百万人力よッ! (バッ、と右手を掲げて、左手を腰に拳で当て)さあ! 行くわよジャス子! ストコ! ゴーストの百万や二百万、ブッ叩いてマジカルランドから追い出してやりましょうねッ!!!」

ジャスティス「(はあ、と溜め息をつき)・・・はいはい」

エンペラー「『はい』は一回よん!」

ジャスティス「(ジト目で)うわぁ、メンドくさくなってきた・・・」

ストレングス「ま、ヤル気ないより全然マシだケドね」

 

 両手を後ろ頭で組み、ジャスティスに視線を繋いで、ニッ、と笑みを浮かべるストレングス。

 ストレングスに目線を向け、笑顔で頷くジャスティス。

 

 

★ マジカルランド中央・フォーチュンの居城・図書室

 

 身の丈の倍はあろうかという、本棚の列が何本も並ぶ、城の図書室。

 天井と壁の各所にはランプが灯されている。仄かな橙色の、落ち着いた光に覆われる室内。

 その中の一列、分厚い本が何百冊とひしめいて鎮座する書棚に、ランタンの灯り。

 それを翳して棚を照らしているマジシャンと、本の背表紙に目線を流しているハイプリエステス。

 ハイプリエステスは眼鏡を着用。凝らすような眼差し。

 ある一冊にハイプリエステスの目が留まり、右手人差し指を本に当てる。

 そのまま手を伸ばし、ズ、と厚めの書籍を引き抜く。

 焦げ茶色の布表紙、背表紙と表には『HOROSCOPE』と記載されている。

 ハイプリエステス、その場で立ったまま、素早くページを捲り始める。

 マジシャン、傍らで彼女を手元にランタンを照らし、じっ、と横顔を見詰めている。

 本の中ほどまで捲り終わったところで、ハイプリエステスが手を停める。

 

ハイプリエステス「(眉を寄せて)やっぱり・・・思った通りざます」

マジシャン「今夜の、月のことか?」

ハイプリエステス「ええ。この『天体運行図』によると・・・今夜は、皆既月蝕が起こらないんざますよ。日蝕は太陽に月が被さる現象、そして月蝕は、月にマジカルランドの影が映って隠す現象ざます。でも、ホラ・・・(本の図を指でなぞって)今夜の太陽と月の位置では、マジカルランドの影は映らないんざます。だからあの皆既月蝕・・・(マジシャンを見詰めて)“別の影”が満月に被さっているんざますよ」

マジシャン「(ゴク、と唾を飲み込み)・・・何ということだ」

ハイプリエステス「あと、いくつか気になることが・・・」

 

 今度は、先程捲ったページを逆に戻し、遡って紙面に目線を繋ぐハイプリエステス。

 数枚を斜め読みし、あるページで再び停め、日付と思しき数字が記載されている箇所を指でなぞる。

 

ハイプリエステス「(左右に頭を振り)・・・偶然にしては、あんまりざます」

マジシャン「説明してくれ、プリエステス」

ハイプリエステス「こないだ、ジャスティスさんが事件に巻き込まれた日も、部分日蝕があった日ざます」

 

 ゴク、と生唾を飲み込むマジシャン。緊張感を表に出す。

 

マジシャン「(眉間に皺を寄せ)ますます嫌な予感しかしないであーる」

ハイプリエステス「あと・・・まさかと思うざますが・・・」

 

 更に、ページを戻して捲っていくハイプリエステス。

 ぴた、とある項目が書かれた紙面で手を停め、ゆっくりと右手人差し指をページに這わせる。

 突然。

 ハイプリエステス、思い切り息を飲む。そして、肩を震わせ出す。

 刹那の後、ふら、とハイプリエステスの上半身が揺らぐ。

 慌てたように左腕を彼女の腰に回し、彼女を凝視するマジシャン。

 

マジシャン「(驚いて)大丈夫か! プリエステス!」

ハイプリエステス「(怯える気を隠さず)嘘・・・ざましょ? これは・・・いくら何でも・・・」

 

 まるで冷気に襲われたように、蒼褪めているハイプリエステスの顔。

 心配気なマジシャンの顔を見上げ、色濃い不安を全面に晒す。

 

ハイプリエステス「フォーチュンが記憶を戻した日・・・覚えてるざますか?」

マジシャン「(大きく頷き)忘れるものであーるか。私たち家族の、大きな転換となった日だ」

ハイプリエステス「その日も・・・(大きめの声で)皆既日蝕に近いほどの! 大きな日蝕が起こっているんざます!」

 

 両眼を、正円に近いほど見開き、呼吸を止めるマジシャン。

 思考が麻痺したように、言葉を失い、焦点の合わない視線を投げている。

 マジシャンと同様に、澱んだ表情で目線を放っているハイプリエステス。

 加圧された如く、重苦しい空気が周囲に堆積していく。

 長い、間。

 

マジシャン「(茫然と)・・・何という・・・ことだ・・・」

ハイプリエステス「(マジシャンに視線を繋げ)マジシャンさんはあの日、お庭にいたざましょ? 天気、思い出せるざますか?」

マジシャン「確か、かなり雲が厚い日であったな。薄暗く、陽は届いていなかった」

ハイプリエステス「だから、日蝕に気が付かなったんざます。マジシャンさんも、あたくしも」

 

 マジシャン、急速に視界の安定を取り戻す。

 思考の連動を回復させたような、冷静さと落ち着きを顔に出す。

 化学反応を起こしたかの如く、ハイプリエステスにも普段の表情が宿る。

 至近距離で、眼差しを絡め合うふたり。

 

マジシャン「結論を出すには早急過ぎるが・・・(声を一段下げ)マジカルランドの住人に何かしらの異変があった日には、月蝕、もしくは日蝕が起こっている、ということであーるな」

ハイプリエステス「(深く頷き)結論には程遠いざますが・・・奇遇にしても繫がり過ぎる話、ざます」

 

 それから、身体を対面させるマジシャンとハイプリエステス。

 ハイプリエステスは手にした本を胸元に抱え、眼鏡の弦を、くい、と右手で上げる。

 スイッ、とマジシャンの左手が掲げられ、左掌を彼女の頬に優しく当てる。

 少し潤んだ瞳を彼に繋げるハイプリエステス。

 

マジシャン「(微笑んで)よく気付いてくれた。出来る妻に、感謝せねばな」

ハイプリエステス「(柔らかい笑顔で、頬を染め)たまに、褒めてくれるざますね」

マジシャン「(フッ、と笑い)言葉にしないだけだ。いつも感謝しているであーる」

 

 嬉しそうに、融けたような微笑みを満面に表すハイプリエステス。

 優和に溢れた眼差しと笑みで、彼女を見詰め続けるマジシャン。

 

マジシャン「では、この本を持ってフォーチュンの元に戻ろう」

ハイプリエステス「(こくん、と首を縦に振り)ええ。あたくしたちの、頼れる娘のもとに・・・」

 

 くる、と踵を返し、身体を寄せ合って歩みを始めるマジシャンとハイプリエステス。

 揺れるランタンの光と共に、パタン、と図書室の扉が閉まる音が鳴り響く。

 

 

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