デスとハイエロファントの物語:REBOOT 最終章 作:桁石スミオ
★ マジカルランド中央・フォーチュンの居城・玄関ホールへの階段の踊り場
玄関ホールへの階段を、並んで下っていくデスとハイエロファント。
その後ろには、ジャスティスとストレングス、エンペラーが続いている。
途中の広い踊り場に到達し、先の段の手前、デスが立ち止まる。
それを目で追い、ハイエロファントも同様に歩みを停める。
デス「(振り返って)見送りなど、しなくていい。それよりも・・・」
ジャスティス「(頷いて)判ってるって。でも、せめてもうちょっと見送らせてよ」
ハイエロファント「ありがとう。でも、本当に後は大丈夫だよ」
エンペラー「(潤んだ目で)気を付けてね、エロファントちゃん!」
ストレングス「アタイたちは、一緒に闘ってくれるみんなが大勢いるからいいんだケド、デスとエロファント兄ちゃんは、これからゴーストがいっぱいいるかも知れない中を行くんでしょ。そっちの方がずっと大変だもの。それに・・・(真剣な眼差しで)怪我なんかしないで、ふたりして戻って来てほしいんだ」
デス「(ふっ、と不敵に笑い)無論、そのつもりだ」
ストレングス、すっ、と右腕を挙げ、やや肘を曲げて拳を握り、デスに向ける。
デス「(訝し気に)何の真似だ?」
ストレングス「グータッチ、やってよ。拳骨同志を、コツン、ってぶつけ合うヤツ」
ジャスティス「みんなで頑張ろう、って意味と、みんな最後まで無事でいられますように、って意味で」
デス「(はぁ、と溜め息をついて)・・・やれやれ、あたしには解らないことが多いな」
デス、右手に大鎌を持ち替えて刃を下にして持つ。
そして左腕を掲げ、拳を作ってストレングスの眼前に出す。
一拍の間を置き。
こつん、と小さな音を立て、デスとストレングスが拳同志を当て合う。
すかさず、ジャスティスが右の拳を突き出し、デスに翳す。
流れるように、デスがジャスティスと拳を突き合わせる。
デスが左腕を下ろすのと入れ違いに、ハイエロファントが左腕を上げる。
そしてジャスティス、続けてストレングスと拳を合わせる。
4名の腕が体側に降り、互いに目線を交わす。
ストレングス「(真摯な顔で)本当に、無事に戻って来てね」
ジャスティス「(真摯な顔で)ボクたちも、精一杯やってみるよ」
デス「(深く頷き)ああ」
ハイエロファント「(深く頷き)本当にみんなも、無理しないでね」
エンペラー、両腕を左右に全開でハイエロファントに身体を傾ける。
エンペラー「(期待に溢れた表情)アタシとは熱い抱擁でもイイのよん? エロファントちゃ・・・」
ハイエロファント「(即答)じゃあ、グータッチで」
エンペラー「(拗ねたような顔で)んもうッ! エロファントちゃんのテレ屋さんッ!」
既にデスは数歩先に進み、踊り場と階段の縁で、再度振り向いている。
ハイエロファント、左腕を軽く伸ばし、もう一度拳を作っている。
右の拳を握って腕を差し出し、コツ、とハイエロファントの拳と合わせるエンペラー。
その光景を視界に映しているデス。
エンペラー、右拳を自分の頬に擦り付け、ウットリ・・・とした陶酔振り。
特に表情の変化がないハイエロファント、くる、と踵を返してデスに歩み寄る。
ハイエロファント「(デスを見詰め)お待たせ」
デス「(ハイエロファントを見詰め)すまないが、少しだけ待ってくれ。すぐ終わる」
そして、エンペラーに近付くデス。
僅かに据えた視線。紅玉のような眼が、重みを包括した光を宿す。
ビクッ、と狼狽えた顔でデスを見るエンペラー。
エンペラー「(怯んだ声で)な、何よ?」
途端。
すいっ、と持ち上げられる、デスの左拳。
真っ直ぐにエンペラーの正面に掲げられる。
エンペラー「(唖然として)・・・え?」
何が起きたか判断し切れてないような、エンペラーの表情。
デスはそのまま、左腕を伸ばしたまま、動かず。
暫くの、間。
暫くの、間。
更に、間。
おずおず、とエンペラーが右腕を上げて、拳を作る。
デスが左足を半歩前に出し、その動きに同調して左腕が前に出る。
コツン、と合わせられる、デスとエンペラーの拳。
これ以上ないほど目を丸くして、固まるエンペラー。
デス「(にっ、と笑い)城は、任せたぞ」
反応を待つことなく、くるっ、と軽やかに踵を返し、ハイエロファントに小走りで接近するデス。
にこっ、と柔らかい微笑みで迎えるハイエロファント。
デス「すまない。待たせた」
ハイエロファント「(頷いて)それじゃあ、行こうか」
同時に身体を翻らせ、そのまま階段を下り始めるデスとハイエロファント。
タタタタタ・・・と、速度を上げて遠ざかっていく、ふたりの足音。
ジャスティスとストレングスが見守る中、やがて玄関の扉が開けられ、蝶番が軋む音が耳に届く。
ふたりの気配が、感じ取れる範囲から消える。
エンペラー、自分の右拳を胸元に、ジッ、と見詰めたまま身動ぎせず。
表情は、ただ茫然とした状態。
突然。
エンペラーの脳裏に、ある光景が蘇る。
【回想シーン・スローモーション】
デス、10本の剣を身体に貫通させたまま、目を正円に開いている。
背中から胸、腹、脚、様々な角度から、鍔の付近まで刺さっているものもある。
両眼をこれ以上ないほどに開き、デスを見るハイエロファント。
息を飲んだまま、凍て付いたふたり。
同様に両目を見開き、地面を蹴って近付こうとするジャスティス。驚愕の表情。
デスの唇の端から、一本の血の流れ。
それまで右手に握って下げていた大鎌が、重力に従って落下する。
一方、土煙の流れ切った向こう側、倒れたタワーの頭頂部付近に人影。
片膝を立てて、こちらに何かを投げ終わった姿勢のまま、屈んでいるエンペラー。
顔には、悪鬼のような嗤いがへばり付く。
霞のように消滅を始める10本の剣。
完全に消え去った直後、デスの胸部、腹部から、噴出する大量の血。
デスの瞳が仄暗くなり、大きな咳き込む動作と共に、血の塊を吐き出す。
力が抜け、膝から崩れ落ちるデス。
前のめりに倒れ始めたデスを、抱き止めるハイエロファント。
【回想シーン終了】
エンペラー、両目を固く閉じ、少し俯く。
右拳を胸の前に挙げたまま。尚も動かず。
雰囲気を察知し、意味あり気な顔で小首を傾げるジャスティス。
ジャスティス「(少し含みのある口調で)どーしたのかなー? エンペラー?」
ストレングス「ビックリし過ぎて固まっちゃったんじゃない?」
直後。
バアッ!と鮮やかにマントを翻し、ジャスティスとストレングスに身体を向けるエンペラー。
完全に何かを振り切ったような、開き直った爽やかな表情。
腕組みをして胸を張り、フンッ!と荒い鼻息まで放つ。
エンペラー「(自信満々の声で)やーっと死神もアタシの強さを判ったみたいねェッ! んま、言われるまでもなく、お城はこのアタシが完ッッッ璧に護り抜いてあげるケドねッ!」
ジャスティス「(呆れ顔で)あーらら、変に自信つけちゃったよ・・・」
ストレングス「まったく、素直じゃないんだねー、オジサンってば」
エンペラー「(ニィ、と尊大な笑みで)だーれがオジサンよ。このエンペラーがいれば百万人力よッ! (バッ、と右手を掲げて、左手を腰に拳で当て)さあ! 行くわよジャス子! ストコ! ゴーストの百万や二百万、ブッ叩いてマジカルランドから追い出してやりましょうねッ!!!」
ジャスティス「(はあ、と溜め息をつき)・・・はいはい」
エンペラー「『はい』は一回よん!」
ジャスティス「(ジト目で)うわぁ、メンドくさくなってきた・・・」
ストレングス「ま、ヤル気ないより全然マシだケドね」
両手を後ろ頭で組み、ジャスティスに視線を繋いで、ニッ、と笑みを浮かべるストレングス。
ストレングスに目線を向け、笑顔で頷くジャスティス。
★ マジカルランド中央・フォーチュンの居城・図書室
身の丈の倍はあろうかという、本棚の列が何本も並ぶ、城の図書室。
天井と壁の各所にはランプが灯されている。仄かな橙色の、落ち着いた光に覆われる室内。
その中の一列、分厚い本が何百冊とひしめいて鎮座する書棚に、ランタンの灯り。
それを翳して棚を照らしているマジシャンと、本の背表紙に目線を流しているハイプリエステス。
ハイプリエステスは眼鏡を着用。凝らすような眼差し。
ある一冊にハイプリエステスの目が留まり、右手人差し指を本に当てる。
そのまま手を伸ばし、ズ、と厚めの書籍を引き抜く。
焦げ茶色の布表紙、背表紙と表には『HOROSCOPE』と記載されている。
ハイプリエステス、その場で立ったまま、素早くページを捲り始める。
マジシャン、傍らで彼女を手元にランタンを照らし、じっ、と横顔を見詰めている。
本の中ほどまで捲り終わったところで、ハイプリエステスが手を停める。
ハイプリエステス「(眉を寄せて)やっぱり・・・思った通りざます」
マジシャン「今夜の、月のことか?」
ハイプリエステス「ええ。この『天体運行図』によると・・・今夜は、皆既月蝕が起こらないんざますよ。日蝕は太陽に月が被さる現象、そして月蝕は、月にマジカルランドの影が映って隠す現象ざます。でも、ホラ・・・(本の図を指でなぞって)今夜の太陽と月の位置では、マジカルランドの影は映らないんざます。だからあの皆既月蝕・・・(マジシャンを見詰めて)“別の影”が満月に被さっているんざますよ」
マジシャン「(ゴク、と唾を飲み込み)・・・何ということだ」
ハイプリエステス「あと、いくつか気になることが・・・」
今度は、先程捲ったページを逆に戻し、遡って紙面に目線を繋ぐハイプリエステス。
数枚を斜め読みし、あるページで再び停め、日付と思しき数字が記載されている箇所を指でなぞる。
ハイプリエステス「(左右に頭を振り)・・・偶然にしては、あんまりざます」
マジシャン「説明してくれ、プリエステス」
ハイプリエステス「こないだ、ジャスティスさんが事件に巻き込まれた日も、部分日蝕があった日ざます」
ゴク、と生唾を飲み込むマジシャン。緊張感を表に出す。
マジシャン「(眉間に皺を寄せ)ますます嫌な予感しかしないであーる」
ハイプリエステス「あと・・・まさかと思うざますが・・・」
更に、ページを戻して捲っていくハイプリエステス。
ぴた、とある項目が書かれた紙面で手を停め、ゆっくりと右手人差し指をページに這わせる。
突然。
ハイプリエステス、思い切り息を飲む。そして、肩を震わせ出す。
刹那の後、ふら、とハイプリエステスの上半身が揺らぐ。
慌てたように左腕を彼女の腰に回し、彼女を凝視するマジシャン。
マジシャン「(驚いて)大丈夫か! プリエステス!」
ハイプリエステス「(怯える気を隠さず)嘘・・・ざましょ? これは・・・いくら何でも・・・」
まるで冷気に襲われたように、蒼褪めているハイプリエステスの顔。
心配気なマジシャンの顔を見上げ、色濃い不安を全面に晒す。
ハイプリエステス「フォーチュンが記憶を戻した日・・・覚えてるざますか?」
マジシャン「(大きく頷き)忘れるものであーるか。私たち家族の、大きな転換となった日だ」
ハイプリエステス「その日も・・・(大きめの声で)皆既日蝕に近いほどの! 大きな日蝕が起こっているんざます!」
両眼を、正円に近いほど見開き、呼吸を止めるマジシャン。
思考が麻痺したように、言葉を失い、焦点の合わない視線を投げている。
マジシャンと同様に、澱んだ表情で目線を放っているハイプリエステス。
加圧された如く、重苦しい空気が周囲に堆積していく。
長い、間。
マジシャン「(茫然と)・・・何という・・・ことだ・・・」
ハイプリエステス「(マジシャンに視線を繋げ)マジシャンさんはあの日、お庭にいたざましょ? 天気、思い出せるざますか?」
マジシャン「確か、かなり雲が厚い日であったな。薄暗く、陽は届いていなかった」
ハイプリエステス「だから、日蝕に気が付かなったんざます。マジシャンさんも、あたくしも」
マジシャン、急速に視界の安定を取り戻す。
思考の連動を回復させたような、冷静さと落ち着きを顔に出す。
化学反応を起こしたかの如く、ハイプリエステスにも普段の表情が宿る。
至近距離で、眼差しを絡め合うふたり。
マジシャン「結論を出すには早急過ぎるが・・・(声を一段下げ)マジカルランドの住人に何かしらの異変があった日には、月蝕、もしくは日蝕が起こっている、ということであーるな」
ハイプリエステス「(深く頷き)結論には程遠いざますが・・・奇遇にしても繫がり過ぎる話、ざます」
それから、身体を対面させるマジシャンとハイプリエステス。
ハイプリエステスは手にした本を胸元に抱え、眼鏡の弦を、くい、と右手で上げる。
スイッ、とマジシャンの左手が掲げられ、左掌を彼女の頬に優しく当てる。
少し潤んだ瞳を彼に繋げるハイプリエステス。
マジシャン「(微笑んで)よく気付いてくれた。出来る妻に、感謝せねばな」
ハイプリエステス「(柔らかい笑顔で、頬を染め)たまに、褒めてくれるざますね」
マジシャン「(フッ、と笑い)言葉にしないだけだ。いつも感謝しているであーる」
嬉しそうに、融けたような微笑みを満面に表すハイプリエステス。
優和に溢れた眼差しと笑みで、彼女を見詰め続けるマジシャン。
マジシャン「では、この本を持ってフォーチュンの元に戻ろう」
ハイプリエステス「(こくん、と首を縦に振り)ええ。あたくしたちの、頼れる娘のもとに・・・」
くる、と踵を返し、身体を寄せ合って歩みを始めるマジシャンとハイプリエステス。
揺れるランタンの光と共に、パタン、と図書室の扉が閉まる音が鳴り響く。