蛇睨み 【All For 『All For One』】   作:ゼノアplus+

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23話

23話

 

 

「……飯田がおかしい?」

 

「うん、飯田君のお兄さん……プロヒーローインゲニウムがヴィランに重傷を負わされたのは知ってるよね?」

 

「え、知らない」

 

「知らないの!?」

 

 

職場体験を3日後に控えた今日の放課後、思ったより早く回復できたらしい緑谷に頼まれて、今日も訓練と称してしばき回していた。もちろん、私は捕縛布の練習を並行してる。相澤先生が忙しいのと、今日は体育館を使う人が他にもいるという理由で別の先生……エクトプラズム先生が監督をしている。特に何か助言をしているわけじゃないけど、なんかそわそわしているあたり教えたいんだろうね。

 

 

「インゲニウムは知ってる、でも飯田の家族とは知らなかった」

 

 

確かに、今考えればコスチュームが似ているというかそっくりだね。興味なさすぎて気づかなかった。

 

 

「ヒーロー殺しとして過去に17名殺害23名を再起不能に追い込んだステインっていうヴィランが最近保須市で活動しててインゲニウムも襲われたんだ」

 

「へぇ……」

 

 

ステイン……ステイン……ああ、赤黒血染だ。前に一度だけ会った事がある。あの頃は私もまだ幼くて彼の主張を理解出来なかったけど、最近改めて思い返すと理解出来るものがある。あれ、そういえば私の考えである『守られる事が当たり前になった社会はおかしい』っていうのも、ある意味ではステインの思想から派生した物なのかな?

 

だってさ、ヒーローが市民を守る→守られた市民はヒーローを褒める、の繰り返しでしょ?個性の使用が抑圧された現在がある限りヴィランは居なくならないしマッチポンプみたいなものだよ。父さんの存在だったり、大成した弔君とか台頭した瞬間に瓦解する脆い舞台でしかない。

 

 

「それで最近、飯田君の様子が気になってるんだ」

 

「放っておいていいでしょ。あの堅物が風紀を乱す事とか出来ないだろうし」

 

「え……でも、本当にいつもと様子が違うんだよ?」

 

 

だからなに緑谷?

 

 

「…………緑谷、貴方は少し人の事情に足を突っ込みすぎ」

 

「え?ど、どういう事?」

 

「正義感が強すぎる……とでも言えばいいでしょ。助けたい、救いたいという思いが先行しすぎて空回る事、ない?」

 

「……あります」

 

 

だろうね。

 

【1年前に暇潰しで見たガキがヘドロヴィランに襲われてたやつ、被害者は爆豪でヴィランに単身突っ込んだバカは緑谷らしいぜェ?】

 

ふーん……なるほど。そりゃここまで面倒な性格してるわけだよ。

 

 

「別に悪いとは言わない、ただ少し足を止めてよく考えるべき。その結果が、体育祭の轟戦」

 

「うぐっ!!でも、それを言ったら陽炎さんも轟君に結構言ってたよね……?」

 

「私は舐めプ野郎に公式の対戦で舐めプしながら人格否定と煽りという名の愚痴を言って勝利しただけ」

 

「もっと悪いよ陽炎さん!?(かっちゃんの言葉移ってる???いや流石に……?)」

 

 

なんか失礼なこと考えてるけど緑谷、全部聞こえてるから(目を盗む)

 

ぶっちゃけ、緑谷の心を読み取るのはしんどい。こうやって話してる間も飯田の事気にしてるし、何よりその正義感……虫唾が走る……!!そういうのは本当にまともに個性を制御出来るようになってからしてほしい。実力の伴わない正義が1番ムカつく。そして何よりそれを語ってる奴がね。

 

 

「今の貴方に何が出来る?また身体を壊しながら飯田の危機に突っ込んでいくの?」

 

「そんなことはっ!!ッッッッッ!?!?」

 

 

感情のまま叫んだ緑谷が一瞬個性制御をミスした。

 

 

「今更感情の乱れ程度で出力調整をミスるな」

 

「はい!!すいません!!(なんか、相澤先生みたいな迫力が……!?)」

 

「まったく……あ、エクトプラズム先生。もう1人お願い」

 

「了解ダ」

 

 

個性『分身』を持つエクトプラズム先生にお願いして分身を出してもらう。私は捕縛布、緑谷は出力調整のために。私が捕縛して緑谷が殴る。今のところ緑谷は、自己申告で2%の力を右手左手で個別に発動できる。逆にいえばそれだけしか出来てない。私が思うに、要領さえつかめれば常時5%で全身に個性を使うくらいは出来るはずなんだけど……まあ私が教える義理はない。なによりも、教えてばかりじゃ成長は出来ないよ。ふふふ、誰の教えだろうね?

 

それにしても、3日程度じゃまだ対象に捕縛布を巻き付けることしか無理か……動きも遅いし、まだまだ実戦段階に出来ないなぁ。

 

 

「……まだ使えない」

 

「やっぱりだ……」

 

「なに、緑谷?」

 

「陽炎さん、捕縛布の大きさと体格が合ってないと思うんだ」

 

 

へぇ?急に話題変えたと思ったけど、なんか面白そうな事言ってるじゃん。

 

 

「…………続けて」

 

「今は教わったばかりだから、相澤先生みたいに首に捕縛布を巻いてるけど相澤先生と陽炎さんじゃ身長も肩幅も大きく違う。間合いや捕縛布の適性距離は分からないけど、それなりの長さが必要なら捕縛布を巻く場所を変える……でも陽炎さんの体格やコスチュームを考えると必然的に装備する場所は限られて……って、僕は一体何を考えて!?」

 

 

コイツ…………私の分析中にセクハラじみた思考になって自分で恥ずかしくなってる。こんな貧相な体で何を考えてるんだか。

 

【頼むから本当にそっち方面での恥を知れよ。いやマジで聞いてるこっちがキツいわ……何でオールフォーワンはその教育しなかったんだァ……!!】

 

 

「ん……悪くない案。実践はもう少し慣れてからだけど。緑谷、そろそろ女性への免疫をつけた方がいい」

 

「は、ははははは。ななんのことかな陽炎さん!!!!」

 

「そうやって恥ずかしがるから、何かやましい事を考えてるんじゃないかと疑われる」

 

「ぐっ…………はい」

 

 

まあ本当はこっそり『目を奪う』を使ってるのを『目を欺く』で隠して聞いてるだけなんだけどね。

 

がっくりと肩を落とした緑谷を眺めてたら、なんか仕方ないなぁという気にもなってくる。

 

 

「まあ、良い案くれたお礼にするつもりのなかったアドバイスしてあげる」

 

「アドバイス……?」

 

「緑谷はもう次の段階に進む下地は出来てる。思考力のある緑谷ならきっかけさえ有ればすぐに思いつく」

 

「へ………それってどういう……」

 

「さあね。私はこれで終わるから、後片付けはよろしく」

 

「え、あ、うん。今日もありがとう陽炎さん!!」

 

「ん」

 

 

緑谷に振り返る事なく、ひらひら手を振って出口に向かう。

 

 

「訓練ゴ苦労。成果ハアッタノカ?」

 

「そこそこ。分身ありがとうございました」

 

「構ワナイ。面白イモノヲ見セテモラッタカラナ」

 

「面白いもの?」

 

「君ノアドバイス、直接的ニ答エヲ教エルノデハナクヒントヲ与エ答エヲ促ス。教師ヲ志スノモ選択肢ノ1ツニナルノデナイカ?」

 

 

教師……『先生』か……。

 

 

「……とりあえず、ヒーローになってから考える」

 

「ソレガイイダロウ」

 

 

私の発言に頷くように同意したエクトプラズム先生。

 

 

「……じゃ」

 

「アア」

 

 

私が教師か……ははっ、想像つかないや。

 

【まァ……先生ってだけなら、最高の人材に教育されてっからなァ……アレ見て育ってるならまあ似てくるのも当然だと思うがねェ】

 

それにしても……首以外に捕縛布を、ねぇ?緑谷の言う通りとなると、必然的に……上半身か。ん…………思ったよりありかも。でもそうなると中にインナーを着ないといけないし、これからの季節だとちょっと暑いなぁ。ってことは捕縛布の射出口は……両腕の裾……ッ!!コスチュームの裾が広いタイプで良かった。義爛とかの闇のブローカーに頼まなくて本当に良かったと今だけは感謝だ。アイツら機能美しか興味ないから。

 

そうと決まればやることは一つ。

 

 

「捕縛布の持ち帰り……許可取らないと……!!」

 

 

 

 

…………「ダメだ。当たり前だろ。何で通ると思ったんだ」と言うふうに一蹴された。解せぬ。てか言葉強い……

 

 

 

 

 

 

 

 

職場体験の当日になった。1週間帰る事ができないので父さんに挨拶し、黒霧さんに一度でいいから部屋の掃除をお願いした。特にPC周り。配線がエゲツない量ある我が家ではこまめに掃除をしないと埃で大惨事が起こる可能性がある。こまめといっても2日、3日に一度の頻度だけどね。

 

着替えを詰めた特大スーツケースを2つほど、なんなく抱えてる私だけども道中はなかなか凄い目で見られたね。見られすぎて『目を隠す』を使っても隠しきれないくらい目立ってたよね。

 

そんなこんなで集合場所である新幹線の駅前に到着した私は相澤先生がいる場所に集合した。まあ結構集まってたし良いタイミングだったね。

 

 

「くれぐれも失礼のないように。じゃあ行け」

 

 

行けって……えぇ、雑じゃない?

 

諸々の説明を受けた後私達はそれぞれの新幹線のホームに向かう。私は愛知行きね。ちらっと緑谷の方を見ると、麗日と一緒に飯田を見送っている。こっそりと『目を盗む』で飯田の心情を盗み聞きしてみると……あーダメだね。完全に復讐に意識が持っていかれてる。まあ、どうでもいいや。なるようになるでしょ。

 

 

「睨美ちゃん愛知だっけ?」

 

「……うん。泥花市っていうところ」

 

「わかんない!!でも、お互い頑張ろうね!!」

 

「うん」

 

 

葉隠と少し話して私ホームへと向かう。

 

 

「相棒、よろしく」

 

【はいはい……】

 

 

ここで私と主導権を入れ替える。何故かって?……新幹線なんか乗った事ないし。指定席とか知らないし。

 

 

【まったく……少しは覚えろよなァ……】

 

 

やだよ。究極的なことを言えば黒霧さんが居て、座標さえ把握すればどこでも行けるし。私が『目を凝らす』で見て黒霧さんに伝えれば何処へだって行けるし。

 

 

【じゃあ今見て覚えろよ】

 

 

相棒は慣れた手つきで私の体を使って切符を2枚買った。何で2枚買うの?往復?

 

 

【乗車券と特急券だ。まあ、両方いるんだよ】

 

 

へー。相棒があれこれ手続きをしてくれたおかげで時間が余ったけど、愛知方面はクラスメイトには居なかったらしい。特に誰かと話すことなく普通に新幹線に乗車した。

 

 

【んじゃ、代われ】

 

「……ありがとう相棒」

 

 

体の主導権が私に戻ったと同じぐらいに新幹線も発車した。

 

 

「……おお、速い」

 

 

新幹線って結構速いんだね。それなのに静かだし。

 

【……新幹線の速度で『結構』って言えるのはお前だからか、それとも個性社会の異常性なのか……俺はもう色々諦めが付くってもんだなァ】

 

 

「景色の移り変わりが面白い」

 

 

ドライブとかなんでするのって思ってたけど、これは確かに楽しいかも知れない。移動時間すら楽しめるからそれ自体を目的に出来るんだね。

窓から見える景色に変があるたびに私はおー、とか、わあ、とか言ってらしい。それに気づいたのは新幹線から降りた後相棒に言われたから。

 

【久しぶりにお前がガキだって思い出したぜェ】

 

次はバス。電車は通ってないらしい。山に囲まれてるらしくて、使える公共交通機関がバスしかない。幸いバスは乗った事があるので普通に乗った。

 

そして到着。確かに都市って言えるほど大きくはないけど、デトネラット社という会社のビルを中心として栄えている街だ。一人一人の個性に合わせたモノづくりをしているらしく国内でもトップシェアを誇るらしい。まあ身体の規格が人によってより細かく変わった個性社会じゃ重宝されるのは当たり前だね。黒霧さんの首元の鎧とかも黒霧さんに合わせたものだし。あとはそうだなぁ……身近な所だと尾白とか、尻尾がある分ズボンとかが特殊な物になるよね。あ、椅子もかな?

 

名目上、私は泥花市のヒーロー事務所の一つであるシェフヒーローコックローチ事務所の職場体験に来た身。先に事務所に行かねばならない。スマホで位置を検索しつつ『目を凝らす』で細かい確認をして事務所にも到着した。そしてノックをして許可が出たので扉を開け事務所に入った。すると……

 

 

「ようこそおいで下さいました!!!!ささ、何はともかくこちらへどうぞお嬢さん!!!!ああ、なにかお飲み物でもお持ちしましょうか!?」

 

「え………あぅ……え?あー、じゃあレモンティー」

 

「喜んで!!さあ、今すぐ最高のレモンティーを用意するのだ!!!!」

 

「はっ!!(こんな最高指導者の姿、見たくなかった……!!)」

 

 

高速とも言える速度で両手を擦り合わせ熱すら出てる前髪の後退が進む中年男性の姿。隣にはシェフのコスチュームを着たゴキブリの異形系ヒーロー『コックローチ』もいる。

 

急すぎて一瞬『目を奪う』個性使用を忘れたけど、慌てて使うと今の前髪ハゲがデトネラット社の社長四ツ橋力也にして、『異能解放軍』最高指導者リ・デストロであるらしい。

 

 

え、権力に屈するタイプだ。めっちゃ扱いやすいじゃん。




オリキャラ

『シェフヒーロー ジョージ』

個性『ゴキブリ』……ゴキブリにできる事は大抵出来る。

どう見てもあの火星人ゴキブリ。それがシェフのコスチュームを着ているカオスなヒーロー。見た目的な意味で人気はあまり無いがクックヒーローランチラッシュに勝るとも劣らない料理の腕前(洋食が得意)で有名なヒーロー。見た目が某火星人なせいで個性を正しく認知されないことが多いが、被災地に赴き被災者に無償で料理を振る舞うのでいろいろな地域から支持の声が上がる。普通に喋る。

解放コード『コックローチ』
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