蛇睨み 【All For 『All For One』】 作:ゼノアplus+
25話 【目が冴える蛇】視点
「ふふふふふ……あははっ……ほらほらどうした外典君?疲れてきてるよ。大好きなリ・デストロのためにもっと頑張りなよ」
「ぐっ……うわぁぁぁ!!!!」
【…………お前もなんだよなァ】
あー、頭のおかしくなったクソガキの代わりに今回だけは俺が喋ってやる、目が冴える蛇だ。なんで俺がこんなことしないといけなくなったかっつったら、まあ簡単な話だ。異能解放軍とやらと戦闘を始めて早くも5日が経った。具体的にゃ数えてねぇけど、同じ奴も倒してんのは見てたから5桁はいってんだろうよ。能力差がありすぎる奴らを24時間×5日も相手してりゃそれはもう単純作業だ。しかも殺し無しでやってっから睨美にも当然飽きがくる、それを克服するためだったはずなんだがな。まあ今は睨美の趣味の弱い者イジメ中だから楽しんでんだろうけどな。
2日目あたりから幹部である外典というクソガキが参戦してきた。水から氷まで色々と操れる個性……アァ?異能だっけか。義務教育すら受けてねぇんじゃっていうくらいヤベェ言動を繰り返してるけど、コイツらのリーダーのハゲへの忠誠心は狂ってやがる。他の奴らよりも圧倒的に強いが、まあ睨美相手だと分が悪かったな。『目が覚める蛇』と『目が醒める蛇』が同時に存在するだけで無限の肉体を手に入れることができる我らが『女王』に勝てる存在はいない。
……そのはずだったのになァ。
いや、睨美は俺が昔望んだ最高の『女王』であることには間違いない。
「あははははははは……氷だけじゃつまらないよ外典君。どうせなら炎も欲しかったのになぁ」
「このイカれ女がッ!!!!………うぐぅぁ!?」
運動音痴でクソザコだったアザミとは違って、コイツは戦闘センスを開花させた。まあ生まれた瞬間から『女王』だったアザミはその動機も行動も戦う事じゃなかったから仕方ないだろうよ。蛇の力があったからな、大抵のことは困らなかったんだろう。超能力じみた事ができる奴なんてあの時代には居なかったからな。現代がおかしいんだよ。
一体何があったら人間どもの殆どが超能力なんて持ち始める?バカか、昔の相棒の能力だった頃は一応理系だぜ?俺は超能力の代表みたいな存在だが流石にこれは予想外だった。如月妹とかヒビヤ、後は……貴音もか。あのあたりのバカどもは羨ましそうな表情をしそうだな。
おっとっと、昔のことは置いておこうか。まあ
「あれ?おーい……外典くーん?はぁ……ふふふふ、まだまだ沢山来てるね」
気絶した外典が他の奴に回収されていき、巻き込まれないことを確認した他の解放戦士達がゾロゾロと施設に入ってきた。奴らの目はまだまだやる気に満ちているが、頭おかしいんじゃねぇのあいつら?忠誠心てのは恐ろしいねぇ。
外典も1日3回は睨美に挑みに来る。奴らはどれだけぶちのめされようとその瞳に絶望は浮かばず、むしろ更なるやる気を伴って襲いかかってくる。ゾンビだよアレは。
睨美がこんなアホになり始めたのは大体3日目くらいのことだ。ことの発端は捕縛布が千切れた時、まあそりゃそうだ。あんな馬鹿力で振り回すもんでもねぇしずっと使ってるからなァ。それからというもの無音拳で対処していたが飽きたらしい、直接拳を使うようになり気分が乗り始めたのがその2時間後、飽きが来ていた睨美からすれば何も気にせず人をぶん殴っていいという状況にテンションは上がりまくった。それはもう、『目が覚める蛇』で精神を電子媒体で行動させている時くらい上がった。
「学校じゃ、緑谷くらいしか殴れないから……やっぱり楽しい」
緑谷……不憫だな。表向き睨美の下位互換だってのが余計に助長させてるが雑魚でも睨美の興味を引いたのが運が悪かった。
オールフォーワンの下で育ったんだ、多少……多少、趣味嗜好がそっち寄りになるだろうとは思っていたが……流石にここまで加虐趣味拗らせるとは思わなんだ。下手に『目が覚める蛇』で精神が落ち着きすぎていて、こういう解放できる場がちょうどいいんだろうなァ……ハッ、異能解放軍で己が欲を解放するとか言葉遊びにも程があるだろ。
「「「「「「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」」」
「あはははは!!」
…………本来の目的は果たせなさそうだが、ガス抜きって意味ではここにきて良かったかもしれないなァ。
◆
ドクターの研究所
「よかったのかね先生、睨美を異能解放軍のところに出向かせて」
『構わないよ。あの子もたまにはストレスの発散も必要さ』
配線だらけの部屋でモニター越しに通信をしているのはドクターとオールフォーワンの2人だ。彼らは今まさに職場体験に行っている睨美の話をしている。
「全く……死柄木弔にも見習ってほしいところじゃな。睨美は物分かりが良すぎる。そして何より儂らの下で育ったにもかかわらず普通に育ちおって……」
ちなみにオールフォーワンはこの通話の前に弔から脳無を寄越せと言われ3体ほど与えたばかりである。もちろんこのことはドクターも知っているので愚痴を言っているのだ。だがしかし、先ほどの惨状を踏まえて『普通』とはなんのことだろうか。
『それがあの子の美点さ。弔とは違いヒーローにもヴィランにも、光にも闇にもなれる多面的な存在……今は僕のことを慕ってくれているからヴィラン寄りかな?』
「ヒーロー側に寄せようとしているのは先生じゃろう?もしも改心なんぞしよったら……」
『それはありえないよドクター』
「ほう、なぜじゃ?」
『愛娘だからね、彼女のことなら何でもわかるさ。あの子が家族を求め続ける限り……だね』
「昔のオールフォーワンが今の先生を見たら正気を疑うじゃろなぁ」
あまりにも普通の父親のような事をいうオールフォーワンにドクターはため息をつきながら答える。しかしその口元はニヤケを隠しきれていない。
『僕もそう思うよ。正直言ってこの感情……親愛は僕の最終目標のためには邪魔だね』
「その通り!!だからこそ、先生は準備をしてきた!!あのオールマイトでさえ考えつくはずもない」
『睨美には一生恨まれるだろうね。時にドクター、黒霧の
「ああ、彼奴か。そうじゃのう……
『へぇ?それは期待できそうだね』
2人はモニター越しに笑い、オールフォーワンの描く未来を考えていた。そしてオールフォーワンは何かを思い出したように言葉をつづけた。
『そういえばドクター、昔話は好きかな?』
「先生の言う昔話など、一体どれほど昔のことなんじゃ?」
『そうだねぇ……例えば、地球が誕生した時のこと、なんてどうだい?』
「ッ!!!!」
『興味を持ってくれて嬉しいよ。だけど、起源がそこに至ると言うだけでその大部分は個性社会になる……数百年くらい前のことだろうね。
始まりは地球創世と共に生まれた一つの命、自らを認識することなくただそこにあるだけだったちっぽけな存在の話さ。
『それ』は悠久の時を経て『明るさ』を知り、同時に『暗さ』を知った。このように最初の瞬きを経験した『それ』は赤子がスポンジのように知識を得て物事の変化を眺め続けたそうだ。次々と生まれ朽ち果てていく万物を理解していった。
『それ』は知る事を覚えたんだ!!ただあるだけだった『それ』は物事への興味を獲得して好奇心のままに旅を続けたそうだね』
まるで本の読み聞かせでもしているかのように、オールフォーワンはドクターに語っている。ドクターも興味を持ったのか静かに聞いている。
『ある時、洞窟の中に入った『それ』は新しい発見をしたんだ。一本道を進んだ先にある広い空間で水面を見ると、何やら生き物が映っているではないか。その生き物は『それ』を見つめていた。やがて『それ』は更なることに気づいた。その生き物とは、『それ』が水面に映った自分の姿だということに』
「ククク、滑稽な奴じゃの。普通気づくじゃろうに」
『いや、そうとも限らないよドクター。初めて鏡で自分の姿を見た猫がそれをナワバリを荒らす敵だと思ったらしいよ?いつの時代でもそういうのはあるんだねぇ』
『自分のことを『生き物』だと認識した『それ』は新しい疑問を持った。【自分は誰に作られたのだろうか】ってね。そりゃそうさ、『それ』は他の生き物が生まれて死んでいくのを何度も見ている。そして自分も同じ生き物だと気づいたのに他とは全く違うということが気になって仕方なかったらしい。『それ』はその疑問に結論をつけるべく目を瞑り考え始めた。おそらくこの時点で数百年から数千年は経っただろうね。そして『それ』にとって転機がやってきたんだ』
『目を開いた『それ』はもう一度水面を覗くと、ただ黒いだけの影……今まで見ていた自らの姿が映っていた。何千年にも及ぶ自分の理解を求め、出した結論こそ【分からない】。実際僕も僕のことなんて完璧に理解していないからね、道理だよ。
自分を追い求めた『それ』は水面に映る自分の姿に違和感を覚えたらしい、頭が、足があれば便利そうだと考えた『それ』の影に体と呼べるものが形成された』
『なんと!?自分の思い通りに体を作り替えることができるじゃと!!』
『さらに時間が経った。『それ』はなにやら洞窟の外が騒がしいことに気づき様子を伺いに外に出た。直後、『それ』は出会ったんだ。
人間にね』
地球創世から始まったはずの物語は、いつのまにか人間が誕生するほどの年月を迎えていた。ドクターは、オールフォーワンがなんの気無しに語っている時間の経過に戦々恐々としつつもさらに好奇心を募らせていた。
『しかし、人間は『それ』を恐れ炎で焼いた。初めての熱さ、痛みに苛まれた『それ』は、とある結論に達することになった。生き物が他の生き物を傷つける理由は【捕食】のためであるとね』
「ふむ、まあ仕方のないことじゃろう」
『そして『それ』は【恐怖】に支配された。ここで自分は死んでしまうのか、嫌だ、嫌だ、と……』
オールフォーワンは一旦語り口を止め静寂の時間が流れた。
『続きはないのか先生。たとえ作り話だとしても、なかなか興味をそそられる内容じゃったが」
「ふふふ、そうだろうドクター?僕自身、とても興味深くて何度も読み返しているんだ。だけど続きはまたにしよう。僕もやることができたからね……またいつか機会があれば語らせてもらうよ』
『アザミの日記、をね』