蛇睨み 【All For 『All For One』】 作:ゼノアplus+
26話
1週間が終わった。いやー、いいストレス発散だった。あんなふうに暴力を解禁したのはいつぶりだろうね。これで後10年は我慢できる……うん、そんな事ない。
私はドン引き顔のリ・デストロに別れを告げると今度は自分で新幹線の券を買って雄英に戻ってきた。ほぼ軟禁状態で全然知らなかったんだけど、なんかステインが逮捕されてたらしい。そこら辺のヒーローにやられるような人じゃなかったけど、エンデヴァーが居たんじゃ仕方ないよね。出血させても舐める前に血ごと蒸発させられそう。
「陽炎は何をしてたんだ?」
「……料理の練習とパトロール、炊き出し。ジョージの料理……最高だった……!!」
「そうか」
なんか最近私の席に近寄ってくる轟が聞いてくるから答えたけどもちろん嘘。
帰る前に料理を作ってくれたし美味しかったのは本当だけど、炊き出しなんて一切してない。それでもあの街の人に聞いたら皆が私が炊き出しをしていたと証言するはずだよ。だって皆リ・デストロの同士だからね。
クラス内では体験の話題で盛り上がっていて騒がしい。ぱっと見渡したら数人だけ様子がおかしい。飯田、緑谷、表情変わってないけど轟も。
さてと……『目を盗む』
ふむふむ…………ん?ちょっと上鳴、心の声までうるさくて聞き取りづらい。えーと……なるほどね。実際にスタインを捕まえたのはこの3人だけど免許がなくて違法行為だからエンデヴァーの手柄にして真実を隠してるってことか。えー、そっちの方が面白そうじゃん。そっちに行けばよかった。
【満足気に蹂躙してたくせによく言うぜェ……】
「そういや陽炎、なんでずっと右向いてんの?」
「…………見たくないものから目を逸らすため?」
「いやいや、見ろって。超おもしろいじゃんアレ」
「おもしろすぎるのが悪い」
「「「そりゃそうだ」」」
「んだコラ!!ぶっ殺すぞ!?」
尾白、上鳴、耳郎が私に同意してくれた。いやいや、あの爆発頭の爆豪が綺麗な8:2カットになってるのはこの上なくおもしろすぎる。1人だったら大爆笑だった。
こんな感じで、各々1週間の成果は感じられているらしい。麗日はなんか殺意?武道?の波動に目覚めてるしメディア露出までした八百万はすごい。
◆
午後からはヒーロー基礎学。工場地帯がモチーフの運動場にコスチュームを着た状態で集合した。それで、オールマイトがやって来た。
「ハイ私が来た、ってな感じでやっていくわけだけどもね。ハイヒーロー基礎学ね!!久しぶりだ少年少女!!元気か!?」
「ヌルッとしすぎじゃね?」
「久々なのになぁ」
「……ネタ、尽きた?」
「それだわ。さすが陽炎」
総スカンを食らったオールマイトは大きな咳を一つつくと授業を説明し始めた。滑るくらいなら言わなきゃいいのに。
簡単に説明すると、この乱雑な構造の工場地帯を潜り抜け救助者のいる場所を目指す救助レース。建物の被害は最小限にしないといけないらしい。妨害無しだって。
「それじゃあ最初の組み、位置について」
私、緑谷、飯田、尾白、芦戸の5人。ふぅん……いいじゃん。面白くなってきた。
「やっぱ陽炎じゃね?」
「いえ、陽炎さんはこういった小回りを必要とする場所は苦手なのではないでしょうか?膂力でゴリ押ししているイメージの方が強いですし……」
「緑谷もそうっぽいよな。いっつも怪我してるから評価わかんねぇけど」
「無難に飯田だな」
「俺は陽炎だ」
「轟はそうだよねぇ。ウンウン」
皆の評価を聞きながら私は移動を始める。好き勝手言ってくれるけど、緑谷以外は私が捕縛布を練習している事を知らないし仕方がないのかもしれない。そもそもパワーキャラを見せつけすぎたせいでこんな印象だから計画通り?
「『目を凝らす』『目を盗む』」
『スタート!!』
「ッ!!」
【へぇ……】
オールマイトからの救難信号が届きレースが始まった。『このステージを上から全体的に見渡せる場所』を指定し鷹の目のように俯瞰視点を見ている私だが、想像を超えた光景が視界に入り思わず声が出た。
「……ああ、いいね。緑谷……わざわざアドバイスした甲斐があった。見つけてくれてありがとうね」
緑谷が真っ先に飛び上がり器用にパイプを伝っていった。どうやら超パワーを全身に回す事を覚えたらしい。
「でも、勝つのは私」
私は緑谷よりも高く跳躍し右腕の袖から捕縛布を射出。パイプに絡めさせて遠心力と私のパワーで一気にゴールまで飛ぶ。それでもまだ制御が甘いのか私の体は少しずつ地面に向かって落下していく。そして次のパイプを布を絡ませてさらに跳躍する。
空中で私は俯瞰視点から最適解を見つけた。無駄にパイプが多いけど、正面と上から見える分のアドバンテージは大きい。
「うっそだろ!?」
ゴール付近になると余計に道が入り組んで迷路のようになっている。でも私は俯瞰視点でステージを見て平面的に理解できるから迷わず走り抜ける。途中で尾白の声が聞こえた気がしたけど気のせいでしょ。
迷いなくルート選択をしている途中大きな音がしたのでそっちを見ると飯田がパイプの上を滑るように移動していた。
……あれ、飯田も思ったより早いな。やっぱ私よりスピードは出るよね。さてと練習がてらに行こう。
片腕ずつ捕縛布を使って跳躍を繰り返す。相澤先生には基本中の基本の使い方であり、本領を発揮するのは当分早いって言われてるけどこの期間でこれだけ出来るなら十分でしょって思う。まだ空中の物を捕縛布で捕まえるとか出来ないし。
「陽炎君、まさか相澤先生の捕縛布を使えるようになっていたとは!!」
「私が1番」
あっ、緑谷こけた。
悲しいね緑谷。ふふっ、ざまぁ。
ゴール付近はさらに密度が上がってきたけど、もうここまできたら1番上から跳躍を繰り返せば余裕だった。
最後は円柱型の高い建物を登る必要があるけれど、これは捕縛布なんていらない。ただ力を込めてジャンプするだけでいい。
私が最上階に着地するとオールマイトが笑顔で待っていた。
「終了!!一着は陽炎少女!!」
遅れてどんどん皆がやってくる。意外と早い……やっぱ職場体験ってすごいや。
上から私、飯田、尾白、芦戸、緑谷の順番。ぶっつけでなんとかなって良かった。
「ちょちょちょ陽炎!!俺のアイデンティティ取るなよ!?」
「……ごめんね」
「素直に謝られたら怒りづらいじゃん!!」
ゴールしてすぐ瀬呂が私に抗議してきたけど、いや、うん。ほんとにごめんね?
◆
なんやかんやで今日の授業も終わった。皆この1週間で何かを掴んだのか成果がしっかり見られる人が多いなぁ。私的に1番成長したように思うのはやっぱり緑谷だ。いや元々の熟練度がゴミ以下だからそうなってもらわないと困るんだけどね?
「緑谷、放課後……いつもの」
「ッ!!うん、よろしくお願いします!!」
「じゃ」
更衣室に行く途中、パイプの上から落下したらしい緑谷に一言だけ声をかけた。どうせ私から言わなくても緑谷から言ってくる、だったら今言っても変わらない。
「陽炎おつかれー」
「……ん」
「圧勝だったじゃん。やっぱ陽炎はすごいよね」
更衣室では一足先に女子たちが着替えており、私もそれに交ざる。何気にこのコスチュームは着にくいし脱ぎにくい。それなのに機能性は抜群で本当に意味が分からないよ。
「陽炎といえばさ、ウチのクラスで好きな人いないの?」
「あ、それ私も気になる!!最近轟君と仲いいよね」
うわ、女子っぽい質問だ。
「クラス1番のイケメン君だからねー」
「ない、かな」
「「「ええ~!!」」」
麗日も一緒に驚いた。蛙吹と八百万は話だけ聞いてるけど耳郎は悲しい目をしてぶつぶつ言ってる。多分また胸について落ち込んでるからいいや。
「そもそも恋愛……興味ない。あと弱い」
「武闘派すぎるよ睨美ちゃん!!」
「陽炎より強いっていうと……爆豪?」
「負けてないし。私無傷だったし」
「「「か、かわいい!!」」」
嫌なところを突いてくるじゃんキミ達。
「意外と負けず嫌いなんだ」
「ま、まああの内容では確かに素直に爆豪さんの勝利かといわれるとうなずけない気もします」
「今のところA組最強は睨美ちゃんで間違いないわ」
つい早口で否定したけどなんか変な方向に勘違いされた気がする。
「まあ恋バナって言えば〜…ねぇ?」
その瞬間、私以外の首が麗日に向いた。
「へっ!?」
「緑谷とどこまで進んでんの〜」
「ずっと気になってたんだよねー」
あー、かわいそうに。次の被害者は麗日か。まあ流石にねー、いくら私でもそれくらいは分かるよ。分かりやすいし。
【ソースは?】
恋愛漫画とアニメ。
【だと思ったゼ色ボケ娘】
「ちょ!?いやいやいや、デ、デク君とはそんなんちゃうし!!睨美ちゃん助けて!?」
「正直放課後に緑谷を独占してるのはごめんと思ってる」
「味方いない〜!!」
その後、私達は麗日を弄り倒しながらシャワーを済ませた。
「葉隠」
「あっ、睨美ちゃん。今日もお願いしますっ!!」
「ん、任せて」
最近、私には日課になっていることがある。葉隠の髪を乾かして櫛で整えることだ。なんでも、葉隠は透明な姿だから自分でもどんな体なのか分からないらしい。触って何となく分かるらしいけど髪の毛とかは分からないため散髪の人にも頼らず伸ばし放題の荒れ放題。いわゆるボサボサだ。
私は目がいいから葉隠がどんな姿をしているのか見える。絵を描いて皆に教えようと思ったけど、本人が恥ずかしいからと拒否したのでその素顔は私しか知らない。絵は父さんから教養として教わったから自慢したかったのに……
「はい……出来た」
「おおー。こんなにサラサラになるものなんだね」
「素材が良い。見えない割にケアもしっかりしてあるし、やりやすかった」
「見えないですけれど、陽炎さんにこのような才能があったとは驚きましたわ。もう見慣れましたけど」
「女子力で圧倒的に負けている!!く、悔しい」
後ろで女子たちが何か言ってるけど無視。私だってただ出来るだけで得意でもなければセンスがあるわけでもないからね。
「そういや陽炎って普段何してるの?あんまりそういう話乗ってこないじゃん」
「何って………ゲーム?」
「ゲーム!?あの授業密度でゲームする余裕あるの!?」
「ん?……授業聞いてれば分かる」
「出来るやつの発言だぁ!!!!」
中間テスト20位(笑)の芦戸が悲しみの声を上げた。ちなみに私は2位で1位が八百万。あの子おかしいよ…なんだ満点って。
「睨美ちゃん家事炊事できるの?」
「……これでも一人暮らし」
「頭脳明晰、運動神経抜群、生活力、女子力、強個性……あれ、睨美ちゃんヤバッ!?」
「……ふふん」
なんか知らないけど私の株が上がった日だった。