蛇睨み 【All For 『All For One』】   作:ゼノアplus+

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29話

 

 

「…………」

 

「…………」

 

(え、気まずいんだけど)

 

 

猫一家と戯れていたら自分達の試験開始時間が迫っていたので会場に来てみれば、予想通りと言うべきか緑谷と爆豪が無言でいかつい雰囲気を醸し出していた。

 

 

「あ、陽炎さん」

 

「作戦は決まった?」

 

「うん!!陽炎さんにはオールマイトの足止めを請け負って欲しいんだ。正面切って耐え続ける必要はないけれどオールマイトの視線を釘付けにして、その間に僕がどうにかしてゴールに辿り着く!!」

 

「へぇ、爆豪は?」

 

 

おかしいな。私がオールマイトと戦うと爆豪がイチャモンつけてくるって話はしたはずなんだけど。

 

それにほら、緑谷は気づいてないかもしれないけれど、爆豪が怒り心頭みたいな顔でこっちに聞き耳立ててるよ?

 

 

「かっちゃんもできれば逃げを優先して欲しい。やっぱり今の僕達じゃオールマイトの足元にも及ばないだろうし……」

 

「アァ!?今なんつったデクゥ!!!!僕()だァ!?ふざけたこと抜かしてんじゃねぇクソナード!!」

 

「ひっ」

 

 

あーほら、また面倒臭い。

 

もう面倒くさいから省くけど、試験開始までずっと緑谷と並べるなだと私より下に見るなとか、大凡見当がつく大抵のことを口走っていた。

 

 

ブーーーーーーー!!!!

 

 

そうこうしているうちに演習試験が始まった。会場はビル群でここからゴールまで一直線の道路が続いている。オールマイトはおそらくこの一直線の先にいるんだと思う。てか居る。

 

 

「爆豪、正面ゴール前にオールマイト」

 

「陽炎さん!?」

 

「あァ……?なんのつもりだ陽炎?」

 

 

あれ、蛇女じゃなくて苗字呼びになった。個性使ってもピンポイントな心境は聞けないから知りたいな。

 

 

「……緑谷の作戦に従う気がないのなら、独断専行をするヒーローを切り捨て今から呼ぶ救援でその枠を埋める。そういう体にする」

 

「な、何を言って……」

 

「ハッ!!本気でンなこと言ってんのかテメェ……!!いいか、テメェらの援護なんかいらねェ!!俺がオールマイトをぶっ潰す!!」

 

「…………」

 

「チッ…………邪魔するようならテメェらから叩き潰すからなァ!!」

 

「緑谷、らしいけどどうす……ッ!?回避!!『七条……間に合わないッ、これでッ!!」

 

 

やばい、やばいやばいやばい!!想像以上、悠長にお行儀よくしてる場合じゃない、今出せる全力じゃないと……これは流石に、今のギアじゃッ……あっ、まず、意識がッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜三人称視点〜

 

 

「うーむ。どうしたものか」

 

 

オールマイトは悩んでいた。弱体化している現在、体重の半分の重りというのは思っていたよりも重いハンデとなっていた。そして相手は弟子である緑谷、癖の強さが飛び抜けている爆豪、オールマイトでさえ測りきれない睨美の3人。

 

 

「3人が連携してきた場合は私も苦戦必至なのだがな……hahaha、ありえないと思ってしまうのは教師として失格だな……それにしても動きがない。よし、じゃあ私から、行かせてもらおうか」

 

 

肩を回しながら気合を入れたオールマイトは、小手調べとばかりにただ殴った。

 

刹那、吹き荒れる暴風。圧倒的な風の暴力が周囲のビルやガラスを吹き飛ばしながら3人の下まで到達し直撃する……はずだった。

 

 

「ハッハッハッ!!環境破壊上等……!!だが、ほんっとすごいな、陽炎少女」

 

 

緑谷と爆豪はなんと無事、ただ睨美の姿がない。それに2人の手前で建物への被害が止まっている。どうやら睨美が何かをしたらしい。

 

睨美がしたことは至極単純、オールマイトと同じこと。拳圧には拳圧を、ただ全力で殴っただけだ。それも八極拳や無音拳と言った技術を完全に無視した現状出せる本気の1発だ。ただしそれは力不足、緑谷と爆豪は無傷で済んだが睨美はそうとはいかない。

 

2人の元まで歩いてきたオールマイトは、ようやく何が起こったのかを理解した。

 

 

「陽炎少女に救われたね少年達」

 

「「ッ!?」」

 

 

オールマイトの言葉に、2人が背後を振り返った。

 

 

「陽炎さん!?」

 

「アイツ……!!クソがッ!!」

 

 

演習場の壁の一部が瓦礫と化している。どうやらオールマイトの攻撃に押し負けた睨美が壁に叩きつけられ、その衝撃で壁が破壊されたらしい。睨美の姿が見えないのは瓦礫の下に埋まってしまったのだろうか。

 

睨美の強さを信じすぎていた緑谷は目の前の光景が信じられないのか固まってしまった。しかし爆豪はすぐにオールマイトをしっかりと見据える。

 

 

「私はヴィランだぞ。真心込めて、かかってこい!!」

 

「「ッッッッッッッッ!?!?」」

 

 

覇気とも言えるだろうその威圧感は2人に緊張感を抱かせた。そして2人はすぐさま次の行動を思考し始める。

 

 

「陽炎さんが武術を使わずに振り抜いたのに押し負けた、正面戦闘じゃ不利すぎる!!いったん下がろう!!」

 

「俺に指図すんな!!アイツは負けた、俺は負けねぇ!!!!スタングレネード!!」

 

 

緑谷は撤退を、爆豪は戦闘を、やはり意見が合わない2人は真逆の方向に動き出してしまった。いざという時カバーしてくれるはずの睨美の状態がわからない以上、()()()()()な2人の関係値が露骨に作用してしまう。

 

爆豪の攻撃……いや、抵抗に意味はなく頭を掴まれ地面に叩きつけられる。その現実を緑谷が認識した頃にはもう背後にオールマイトが立っていた。

 

 

「ヴィランを前に棒立ちとは笑止千万!!」

 

「がッ、は……!!」

 

 

緑谷が吹き飛ばされた地点には未だ爆豪が転がっており、2人まとめて地面を転がった。

 

すでに絶体絶命とも言えるこの状況、モニタールームから観戦している生徒達も仕方がないというムードが漂い始めていたその瞬間、瓦礫が弾けた。

 

 

「やっと復帰したかっ!!陽炎少女」

 

「…………ふぅ」

 

 

意外にも睨美は無傷。コスチュームが汚れただけで、顔や足に傷は見えない。そして、その瞳は赤くなっていた。

 

 

「……しまった!?」

 

 

『目を合わせる』個性。すでにオールマイトは行動不可能になっておりなんとか体を動かそうと力んでいるが効果はなし。

 

 

「『肘撃・轟破天』」

 

 

その隙を見逃す睨美ではない。一瞬で距離を詰め、しっかりと踏み込み八極拳を叩き込む。その威力は体育祭の時を優に超え軽く2倍は出ているだろう、生徒の誰かに直撃すれば骨折は免れないはずだ。

 

 

「ふんっ……!!」

 

「え、うそっ……」

 

 

そしてオールマイトが動き出した。睨美が突き出した肘はオールマイトの大きな掌で掴まれ完璧に受け止められた。

 

 

(なんで動けるの?個性因子に『目を合わせる』個性は作用しないとはいえ、パワー型はあくまで肉体に作用するはず!?これが、『ワン・フォー・オール』!!!!)

 

 

「惜しかったが、容赦なくやらせてもらうよ陽炎少女、君は私の脅威だからね!!SMAAAAAAASH!!!!!!!」

 

 

睨美は軽い。身長が低く痩せっぽちなためオールマイトはそのままの体勢で持ち上げ上空に思いっきり投げ飛ばした。

 

 

「君が空中での動きに制限がかかるのは体育祭で見させてもらったからね。もう少し大人しくしていてもらうよ」

 

 

すでに上空数100メートルは到達しているであろう睨美だが、焦りも見せず未だ上昇を続ける勢いに身を任せて感情を昂らせていた。

 

 

「…………アハッ、すごいな。()()()()と、父さんはやり合ってたんだ。それにしても」

 

【この高さ、飛べるやつ以外死ぬだろォ】

 

「だよね相棒。はぁ……楽しいなぁ……1段階ギアを上げたのにこのザマか」

 

【オールマイトが弱体化してるって噂、アイツからの情報とはいえ疑っちまうなァ】

 

「全くだよ。実物見たらぜんっぜん違う」

 

 

徐に、『目を凝らす』個性を使用して地上の状況を確認する。

 

 

「ふふっ……あははッ!!やっぱり面白いなぁ、緑谷!!」

 

 

何があったか知らないが、睨美が見た瞬間緑谷が爆豪の頬に1発かましている所だった。吹っ飛んだ爆豪を回収してそのままビルの陰に身を隠したらしい。オールマイトは今の光景を見て体勢を立て直すために棒立ちだ。どうやら試験らしく、生徒の出方を伺うようだ。

 

 

「もうあっちの2人と私の個人戦じゃんこれ。楽だからいいけどね。でも、なんか2人とも使えるようになるまで……楽しんだっていいよね?『七条大槍無音拳』」

 

 

極太レーザーを放ったような風圧を放つその無音拳は、踏ん張りの利かない空中では威力が落ちる。しかしそれは一定の威力の場合だ。

 

 

【ヒュ〜、ジェットコースターより速いんじゃねぇのかァ】

 

「乗ったことない」

 

 

空に向けて放てばその反動で地上に向けて猛スピードで落下を始めた。この勢いで地上にぶつかればミンチになるどころの騒ぎではない。それは今の睨美の肉体であっても変わらない事実だ。

 

 

「たしか……こう」

 

 

体を捻る、捻る、さらにスピードをつけて回転する速度を上げていく。

 

 

「爆豪を真似るのは、不本意。でも……使えるものは、使う!!」

 

 

体育祭、爆豪の体の捻りによる回転力で威力が底上げされたハウザーインパクト。睨美には致命傷にならなかったとはいえその威力上昇には驚かされるものがあった。

 

 

「爆破ほど回転できないけど……十分」

 

 

十分な高さと過剰な落下スピード、運動エネルギーが加わったそれは大砲などという威力で収まらない。

 

 

「いいね、決めた。天をも崩す一撃……いくよオールマイト。ちゃんと受け止めないと……私が死んじゃうよ?」

 

「陽炎少女!?なんて無茶を!!だがしかし、受けてたとう!!」

 

 

「『崩天撃』」

 

「DETROIT……SMAAAAAAASH!!!!」

 

 

 

睨美とオールマイトの、この場における最高火力同士がぶつかった。あまりの威力にオールマイトの周辺の地面は砕けクレーターが出来上がる。

 

拳と拳のぶつかり合いによる風圧は辺りのガードレールを吹き飛ばし、歩道橋を根本から引きちぎっていく。

 

 

「うっ……ぐぅ……!!まだまだ、()()()()()!!!!」

 

「ッ、パワーが上がっている!?SHIT!!」

 

 

両者一歩も譲らないぶつかり合いに睨美が身体を強化し少しずつ睨美が押し始めた。

 

 

「HAHAHA!!!!これは確かに、()()()()()という事は分かったよ陽炎少女!!良い笑顔だ!!」

 

「まだ勝てるヴィジョンが見えない!!久しぶりの感覚!!」

 

「だが、負けるわけにはいかないさ!!これはもう、大人のプライドさ。Plus Ultraァァァァァァァァ!!!!」

 

「…………ダメ、か」

 

 

押していたはずの睨美の腕が押し戻されていく。さらに力を入れても、もうぴくりともしなくなった。睨美は押し負けることを悟り受け身に移ろうとし、目を見開いた。

 

 

「テメェが合わせろクソデクゥ!!!!」

 

「ごめんなさい、オールマイト!!」

 

 

爆豪が両腕につけていたグレネード型の籠手、その片方を緑谷が装備し2人が並んでオールマイトの背後を取っていた。

 

 

「……やれば出来るじゃん」

 

「ああ、すごいね。若者って」

 

 

今まさに真っ向勝負をしていた睨美とオールマイトは、まさかの光景につい軽口を言い合った。

 

そして2つの籠手から必殺の一撃が叩き込まれた。

バギィッ!!っと、睨美の右腕が異常な音を立てたのもほぼ同時の出来事であった。

 

 

BOOOOOOMMMMM!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

〜一人称 睨美〜

 

 

 

「いったぁ……!!絶対、折れた!!」

 

 

ほんっっっっとにいたい。コスチュームのせいで袖が捲れないくて見えないし……って足のアクセサリー壊れてる……ちょっとショック。

 

 

「いっつッ……!!『目を醒ます』……はぁ……はぁ」

 

 

身体を蛇に包ませ元通りに作り直すことで完全回復。一応、淑女の嗜みとして人の前に出られる格好なのを確認して緑谷と爆豪に合流した。服ビリビリに破けて下着丸出しとか、父さんに超怒られるからね。

 

 

「無茶……しすぎじゃない?」

 

「うるせぇ!!テメェこそ押し負けてただろうがッ……ぐッ……」

 

「かげ……ろうさん、無事でよかった……」

 

 

息も絶え絶えの2人を見て、まだ動けるのを確認した。うん、これなら逃がす方が良さそう。

 

 

「爆豪……理解した?」

 

「……あァ、クソッタレが」

 

「行って」

 

「…………チッ、おいデクゥ!!ぶっ飛ばす!!」

 

「え、ちょ、かっちゃん……?」

 

「しぃぃぃぃねぇぇぇぇぇ!!!!」

 

((しね……?))

 

 

爆豪が緑谷を物騒な言葉と共に爆破で射出した。良い大砲だね爆豪。

 

 

「飛んで」

 

「命令すんなァ!!クソがッ!!!!」

 

「『七条大槍無音拳』……!!」

 

「覚えてろよクソチビィ!!テメェだけは、テメェだけはいつか……この俺がぶっ殺す!!」

 

 

空中に飛び上がった爆豪に風圧をプレゼント。置き土産みたいな呪詛が聞こえたけど、まあ別にそこまで興味がないのでほっとこう。

 

なんか呼び方がクソチビになってるけど……うん、今度プライドがズタボロになるまでボコる。

 

爆豪の私に対しての感情をやっと理解できた。嫉妬だった。私の方が圧倒的に強いのは心の内で自覚してたけど有り余るプライドが認めていなかった。体育祭で中途半端に勝利したのがそれに拍車をかけた。勝ちは勝ちでも望んだ勝ちじゃない。さっき爆破された時につい『目を盗む』を使ってしまった。グッチャグチャの感情が濁流のように私に押し寄せてきたのでついすぐ個性を閉じてしまったけどその一瞬で十分な量を感じてしまった。

 

【思春期だなァ】

 

相棒、流石に端的すぎない?

 

【いや、細かくいえばもっとあるけどよォ……この一言で片付けれるのが悪い】

 

 

 

「……さて」

 

「イテテテ、全く容赦ないなぁ爆豪少年は。そうは思わないかい陽炎少女?」

 

「……だからこそ」

 

「HAHAHA!!その通り、だからこそ爆豪少年らしいと言うものさ!!ゲホッ、ゲホッ」

 

 

煙が気管に入ったのかな?なんか出てるし。

 

 

「……煙?」

 

「えっ!?ああいや、これは違うんだ。えーっと…………そう!!◯フィのギア◯カンドみたいなアレさ!?」

 

「なるほど?」

 

 

プシューってやつか。うん、全然嘘だね………………ッ!!!!活動限界?へぇ、へぇ!!そっか、本当だったんだ。

 

父さんに褒めてもらえる!!

 

 

「んっん!!では陽炎少女、続きといこうか!!……と言いたいところだが」

 

「……ん」

 

 

『試験終了!!緑谷、爆豪、ゲート通過』

 

 

「……気疲れした」

 

「それは私のセリフだよ。何度ヒヤッとさせられたか……」

 

「オールマイト」

 

「どうしたんだい?」

 

「手合わせ、ありがとうございました」

 

「ッ!!HAHAHA!!こちらこそ、良い戦いだった」

 

 

ちゃんと2人ともゴールしてるし私も合格もらえるかな。ここまでやり合って不合格なら抗議しにいくけどね。

 

オールマイトにしっかりと礼をする。左手をパー、右手をグーにして合わせるあれ。なんだっけ名前、抱拳礼?雄英に入ってからちゃんと挨拶をしてなかったから……敬意?を伝えるのは初めてだ。

 

 

「ゲホッ、ゲホッ……勝利の喜びをチームで分かち合うと良い。行きなさい」

 

「ん……じゃ」

 

 

弱体化の言質は取れた。私がその現場を見てしまうとこの後が面倒だしとっととお邪魔しよう。

 

はー……今日はすぐ帰ってゲームしよ。

 

【いっつもしてるだろうがよォ。お疲れ様だァ睨美】

 

ありがとう相棒。ごめんね、『目を合わせる』があんなに簡単に破られて。

 

【……まァ、仕方ねェよアレは】

 

 

うわ。2人とも気絶してる……え、これ運ぶの私?かったるいから嫌なんだけど。

 

まあいいか。オールマイト相手に頑張ってたし……あ、救護ロボ来た。ついでだから私も乗せて〜。

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