蛇睨み 【All For 『All For One』】 作:ゼノアplus+
「ん……きっと何かしら起きるから、私が帰らなくても心配しないでね」
「ええ、お嬢様が不覚を取るなどあり得ませんので。むしろ楽しみにしております」
「……本当に言うようになったね。行ってきます」
現在、林間合宿へ向かうバスの中。セキュリティ強化のために行き先は聞かされてないので結構ガチでヴィラン連合とかを警戒しているんだと思う。相澤先生によると1時間後に休憩挟むらしいので、ついでに飲み物でも買おうかな。
それにしても皆ワイワイガヤガヤ元気だよね。
【そりゃあァ、学生にとっちゃ一大イベントだからなァ】
そういうもんだよねぇ……はぁ。まあ私は1番後ろの広い席を一人で独占出来てるからいいけどさ。電波が弱いけどギリギリスマホゲームが出来るから今のうちに周回でもしておく事にする。
…………あっ、御影にPCゲームのログインお願いするの忘れてた。まあいいや、数日そこらで不利になる程柔な鍛え方してないし。
先日のショッピングモールで買った新しいイヤホンが耳に馴染むぅ。やっぱ高性能なのはいいね、ノイズキャンセルとか付け心地とか超いい。さすが上鳴。
特に誰かと会話をするわけでもなく私はゲームに熱中した。時々視線を感じたけど、私が両耳にイヤホンを挿してるのを見て話しかけるのを止めたらしい……ちょっと申し訳なくなった。
【ハッ、良い傾向だなァ……島での一件がなければなァ】
音ゲー、ソシャゲ、麻雀、etc……色々とやってるとスマホも熱くなって充電も減る。モバイルバッテリーも併用してしこたま遊んだ。
「そろそろ降りるぞ」
おっとっと、熱中しすぎてたせいで時間を見てなかった。もう1時間経ったんだ。まあ飲み物買うだけだし小銭だけ持って行けばいいよね。
「……ん?どこ、ここ」
「パーキングじゃねえよな」
見渡す限り森。そして、見知らぬ気配が2人ほどいる。
「やっほー、イレイザー!!」
「ご無沙汰してます」
出てきたのは、猫っぽいコスチュームに身を包んだおそらくヒーローチーム。あーなんだっけ、見たことあるんだよね。
「煌めく眼でロックオン!!」
「キュートにキャットにスティンガー!!」
「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」
あー、それだ。プッシーキャッツ。ビルボートチャートで結構上位だったチーム。確か後2人くらいいたはず。
「今回お世話になるプッシーキャッツの皆さんだ」
緑谷がいつものオタク口調で解説を始めたので聞き流す事にする。なんかもう嫌な予感するし、私だけこっそりバスに退却を……
「おい、陽炎。察したな?受け入れろ」
「…………断ると言ったら」
「昼飯がなくなる」
「……仕方ない」
くっ……相澤先生め、私の扱い方をしっかり覚えてくれて!!それは流石に殺し文句すぎる。
【お前、本当に腹ペコキャラでも目指してるのかァ…?】
失礼……食べなくていいけど食べれるのなら食べたいじゃん。人間の三大欲求舐めちゃいけないよ?
【飯が美味いのには同意するが、お前が言うとどうにも碌な意見に聞こえねェんだよなァ】
相澤先生とやりとりをしていると、すでに話は纏まったようで(というか纏められた?)A組がピクシーボブの個性『土流』で崖の下へと押し込まれていく。
「お前も行け。これも合宿のうちだからな」
「わかった」
土に流されて制服が汚れるのも癪なので自分から飛び降りる。この程度の高さなら受け身を取るほどでもないのでそのまま着地した。皆はしっかり土流に巻き込まれていたらしくすでに服が汚れてる。可哀想。
「私有地につき個性使用は自由だよ!!この『魔獣の森』を抜けて施設までおいでませ!!」
「魔獣の森!?」
「ドラクエかよ!?」
あ、それちょっと思った。世代、出るね。さてと……魔獣、ねぇ。生き物の気配はしないけどなんか居る。ピクシーボブの個性なんだろうけど、どれくらい操作してるのかな?
まあいいや、現在時刻は9時半。12時までに施設に辿り着かなきゃ昼ごはん抜き、私だけならフルスピードで走れば1時間……いや慣れない地形だし2時間は見たほうがいいか。
「……皆、質問がある」
「それ今じゃなきゃダメか陽炎!?」
「うぎゃー!?魔獣だー!!」
「……これでいい?」
峰田を襲おうと木の陰から出てきた土魔獣を石に変える。私が珍しく自分から話してるんだから邪魔しないでよ。
「あ、相変わらずすげぇな陽炎。てか本物の石かこれ?いつもは優しめなんだなぁ」
「ん……今のを踏まえて聞く。私だけならお昼に間に合う。そして私は昼ごはんが食べたい。でも……数だけは一丁前に多い……」
こちらに近づいてくる土魔獣5体を、接敵前に石に変える。索敵が得意な耳郎や障子はそれに気付いたのかあり得ないものを見る目で私を見始めた。
「か、陽炎、あんた……」
「私だけなら余裕……私の昼ごはんを犠牲に……手伝って欲しい?」
「「「お願いしますぅ!!陽炎様!!」」」
コイツら、まじでプライドとかないな。土下座までするか。
「陽炎が自分から集団行動を提案するなんて……」
「ああ、彼女にも連帯意識が芽生えてきたという事だろう!!」
「……1人で行ってやろうかな」
尾白と飯田がとんでもなく失礼なことを言い始めた。
「オイコラ陽炎!!なにが私だけならだ、アァ!?テメェの力なんぞいらねぇんだよ!!」
「……だそうだけど?」
「おーい爆豪なに言ってんのぉ!?あの相澤先生がわざわざ呼んだ人らだぞ!!今のがうじゃうじゃ居るってんのにあんな距離走らないとなんだから陽炎がいないと無理ゲーにも程があるってぇ!!」
「そうだな。陽炎が居てくれた方が心強い」
ボンバーマン(笑)がなにやら騒いでるけど、上鳴や轟を始めとするA組一同の言葉責めにより虚しく黙らされている。ふふっ、ざまぁ。
「最初の1時間は私が全部やる。その後は任せる……私と目があったら文字通り
「「「「「「ひぇっ」」」」」」
「その言い方ァ、人相手に試したことあるみてぇだなぁ?」
「おい、爆豪!!言っていいことと悪いことが……」
「あるよ」
「「「「「「!?!?」」」」」」
「5歳だっけ、6歳だっけ……初めて石化が使えるようになった時にクソゴミ虐待両親を石にした。その後、異形毛嫌いクソゴミ村人共を皆纏めて石にした」
【おい、言っていいのかァ?AFOや俺との接触前のことなんてよォ】
別に言うなとも言われてない。それに、父さんも相棒も関わってない事は私だけの思い出だよ。それにしても爆豪って、地頭が良いだけあって鋭いよね。まあ本当にやったとは思ってなかったらしくてポカンとしてるけど。
「陽炎……お前も、異形だからと虐待を受けていたのか?」
「……ん、障子も?じゃあ田舎出身か……」
障子もおんなじようなところでそだったんだねぇ。まあ興味ないけど。父さんに教えてもらったんだけど、個性社会になって異形がありふれるようになってからというもの都会じゃ適応が早かったらしく今じゃ当たり前の存在だけど、まだ古い考えのジジィババァが沢山いる田舎じゃ普通の人間型以外は忌避されてたんだってさ。
まあ別に私も、髪の毛に蛇たちが居るようになったのは父さんに個性をもらってからだし、どちらかと言えば異形じゃないんだけどさ、
「まあ別にそんなことはどうでもいい。行くよ」
「「「「「「サラッと流せる空気じゃない!!」」」」」」
いや、知らないし。私が土魔獣を処理すると言っているので、歩き始めた私に着いてくる皆。チラッと心を覗き見れば、恐怖だったり、人殺しだったり、いまだにおしっこちびってたり色んな感情がある。峰田、汚い。
「人殺しでも何でも言えばいい。今更気にすることでもない……だって、【未就学児による個性事故及び時効】だからね」
襲ってくる土魔獣を軒並み石に変えながら、私はそう言ってさらに歩く。
「陽炎は……復讐をして、どう……感じたんだ」
障子が聞いてきた。恐らくだけど障子は虐待に耐えたんだろうね。すごい精神力だ。もしかしたら首のマスクは傷とかつけられたのかな。
私は足を止め、たっぷりと余韻を残してから言葉を発する。
「……この上なく最高の気分だった。それから私の趣味は弱いものいじめになった」
((((((コイツ本当にヒーロー志望か???))))))
アレが初めての殺し。両親は一瞬で石になってしまったけれど、個性の使い方の感覚を覚え始めてから村人たちは体を少しずつ石にされていくことに心底恐怖していた。とても、とても気分が良かった……これだから弱いものいじめはやめられないんだよね。
【色々棚上げするがァ……AFOの養殖でドSの性悪に育ってたと思ってたんだが、天然かよォ】
それ棚上げしまくってるよね相棒。相棒もどっちかって言うとこちら側でしょ。
【……まあ、その通りだァ】
「そうか。いつか、詳しく聞かせてくれないか」
「……ん、いいよ。障子の話も聞いてみたいし」
ぶっちゃけクラスの空気は地獄。そんな中でも私と障子だけが普通に話している。いや、障子もちょっと引いてるけどね。
「…………ンンン、ダァァァァ!!!!うぜってんだよこの蛇女ァ!?!?弱いものいじめとかどーでもいいけどよぉ、テメェは油断して俺に負けてんだよ……!!んなことしてる暇あんだったら今後も俺の勝ちは揺るがねぇよなぁ?アァ!?」
「……は?あんなボロボロの醜態晒して、よくほざく。あれ?勝てばいいという人間だったっけ。ふふっ、表彰式で変なこと言ってた気がするなぁ」
「アァ!?殺すぞテメェ!!」
「……殺すよ?爆豪」
弱者が何言っても効かないねぇ。殺したこともないくせに、よくもまぁ。
「まあまあ落ち着きたまえ2人とも。色々言いたいことはあるが、取り敢えずは先に進もう!!」
((((((飯田グッチョブ!!……あと癪だけど爆豪もグッチョブ!!))))))
「チッ……」
「……」
(かっちゃん……石化云々よりいじめに関してはあんまり人のこと言えないような……)
「ふふ……確かに」
「陽炎?どうかしたか」
「……なんでもない」
それから私は寄ってくる土魔獣を全て石に変えていった。学習能力は備わってなかったのかアホみたいに視線を合わせてくれるからトコトコ歩いてるだけで済むから楽。
「……1時間経った。あとは任せる」
このペースだと全員の実力的には12時に間に合うはず。まあ戦闘で足止めを食らわなければだけれどね。
「6時方向、敵2、30秒後会敵……10時方向、敵4、45秒後会敵……緑谷、飯田、尾白、佐藤、対応して」
「探知系のあたしらより早く探知しないで!?」
「「「「「了解!!」」」」」
うーん、遅い。耳郎と障子なら私より早く見つけられると思ったんだけどな。
「……続いて0時方向、敵1……すぐ……「死ねやオラァ!!」……まあいい」
よくよく考えれば、私が手伝う必要なんてないか。じゃあ暇だな、先行して休憩ポイントでも確保しておこうか。
【お前、本当にどうしたんだァ?珍しく殊勝じゃねェかァ】
電波届かないからスマホゲーム出来なくて暇!!
【……あっそうかよォ】
私は跳躍し木で壁ジャンプをして、小高い丘になっているところを探すことにした……無い。見渡す限り森というか……まあ少し手を加えてもいいでしょ。動物たちが怖がるからあんまり環境破壊はしたく無いんだけどなぁ……あっ、いいこと思いついた。
「先に行って待ってる」
「え、ちょ、陽炎!?」
「睨美ちゃん!?」
戦闘をしている皆を置き去りにして更に向こうへ……なんてことはなく全力で直進しただけであり、ほんの少しだけひらけた場所で個性を使う。
「『目を奪う』……『目を合わせる』」
A組から離れて『目を奪う』個性を発動し周囲の土魔獣を誘き寄せる。全方向から何体も集まって来たところで石化させ即席のバリケードを作成。無駄に図体がでかいのでいい壁になってくれるし周囲の魔獣を全滅させることで当分ここには寄ってこない。良い休憩ポイントだね。
……何やってるんだろう私。もうどうやってもお昼ご飯間に合わないしヤケクソと言えばそうなんだけど。
柄にもなく自語りしたからかな。やっぱ言うんじゃなかった……Iアイランドで久々に殺したから感覚が戻って来たのかな。やっぱりまだ精神の不安定が課題っと。まああんまり変える気ないけど。
「……休憩場所。索敵はしてあげるから休んで」
「わりぃ、助かった!!」
「やっと休めるぅ……」
やっと追いついてきたクラスのみんなを休ませて、私だけは石壁の上に座る。
そして私の頭に止まってきた小鳥と喋る。
(じょおうさま、こんにちは)
『……?こんにちは』
(おかあさんがね、じょおうさまがきたからあいさつしなさいって)
『そっか。ありがとう。でも女王様ってなに?』
(じょおうさまはじょおうさまだよ?)
まじで何のこと???ここには初めてきたはずだし、この子には会ったこと無いはずなんだけど。
【へェ……この時代でも知ってるやつは残ってんだなァ】
なに相棒、知ってるなら教えて。
【クククッ、信じるなら教えてやってもいいがァ……いつも信じちゃくれねェからなァ】
あのいつも言ってる蛇がどうのとかいう与太話のこと?だって胡散臭い代表みたいな相棒が言うことだし。
【お前、俺のことそんな風に思ってたのかよォ……】
『そろそろおかえり。ここは危ないよ』
(じょおうさまのとこがいちばんあんぜんだって〜)
『ふふ…それはそう』
【かしけェなコイツ】
私はクラスのみんなが落ち着くまでの間、小鳥と談笑していた。
……それにしてもみんな、体力ないなぁ。