蛇睨み 【All For 『All For One』】   作:ゼノアplus+

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凄い人だと思っていた。


僕みたいな超パワー、目を合わせるだけで相手の動きを止め、洗練された八極拳や不可視の衝撃波を放つ陽炎さん。

もし彼女にワンフォーオールが渡っていたらなんて何回も考えたりした。

だからこそ、彼女が珍しく話した自分の話は……到底、信じきれなかった。

人を殺したことがある。それも自分の両親を……虐待されていたって聞いて驚いた。僕たちが知らなかっただけで日本にも個性の闇があったんだって知ったし、それ故に歪みを抱えて生きてきたって知って……僕は考えたんだ。


どうして陽炎さんはヒーローの道を歩もうとしたんだろうって。


以前聞いたことがある。確か、お父さんがヒーローになりなさいって言ってたらしいけど、それだけでこんなに強くなれるんだろうか。そういえばお父さんのことを話していた彼女は今までにないくらい柔らかい表情をしていたっけ。

きっと凄い人なんだろうな。もしかしたらビルボードチャートにも載っているような凄いヒーローだったりするのかもしれない。


そんな人なら、是非とも会ってみたいなぁ。




34話

「ん……5分経った。歩け」

 

「睨美ちゃん……鬼すぎるよぉ……」

 

「私の……予想だと、ギリギリ昼ごはんには間に合う予定だった……正直、嘘だろコイツらまじぃ?……って思ってる」

 

「辛辣ぅ……」

 

 

あれから私達は進み、戦い、休む、そんな工程を繰り返しようやく合宿場所のすぐそばまでやってきた。もうすぐ日が傾いてくる頃だけど、まだ3時ってところかな。

 

バカみたいに吠えていた爆豪でさえ余裕がなくなってきたのか私の悪態に反応しない。

 

 

「つーかなんで陽炎はそんなに元気なんだよ……バカスカ無音拳撃ってたじゃねえか……」

 

「大技を打ったわけでも……無駄な動きをしてもない。こればっかりは……慣れ」

 

 

あれからは私も戦闘に参加した。といっても単独ではなくみんなに交ざってなんだけど、私には肉体的疲労という概念がないからどんどん差ができていく。むしろ私の精神面が成長したかもしれない。

 

足手纏いを抱えながら動くって、難しい。

 

これが本当に戦闘できない一般人を救助しながらとか、なんかヒーローのこと尊敬してきたよ。

 

【皮肉……強くねェかァ?まァお前からしたら当たり前なんだけどよォ。オレたちの女王様ァ?】

 

相棒うっさい。

 

 

「おおー!!思ってたより早いニャー!!」

 

「なーにが3時間ですか……」

 

「それ、私達ならって意味。悪いねー。でも正直思ってたよりずっと早かったよ」

 

「実力差自慢のためか。やらしいなぁ」

 

 

施設に着くと、プッシーキャッツの2人とガキ、あと相澤先生が待っていた。

 

 

「まさか私の土魔獣が石にされるなんて思ってなかったし、簡単に倒されるなんてね。だからあんなに早かったのね!!いーよ、君ら。特にそこの5人!!」

 

 

そしてガキ……洸太っていうらしい、が緑谷の股間を蹴った。

 

【うわァ……アレガチで痛いんだよなァ……人間フォルムだとホントにされたくねぇ……】

 

 

時間が経ち、夜ご飯の時間になった。時間が空いたことで疲労も少しは取れたのか、皆少し元気になってご飯をかき込んでいた。

 

 

「ああ……美味しい……このために私はけったいな道を……進んできた」

 

「ケロ、美味しいのはその通りだけど、天を仰いでたら美味しそうに見えないわよ睨美ちゃん」

 

「結局お昼間に合わなかったしねー。ごめん陽炎!!」

 

「……許せる。このご飯の前には、全ての罪が浄化される」

 

「誰か!!睨美ちゃんがおかしくなっちゃった!!」

 

「あははー……でもまぁ、世話焼くのは今日までだから、しっかり食べときなよー」

 

「馬鹿な……このご飯が……この一度きり……?」

 

 

なんてこともありながら次はお風呂の時間。生まれてこの方温泉なんて入ったこと無かったから楽しみ。

 

 

「陽炎……あんただけは仲間だよ……うん、同盟くもう。貧乳同盟」

 

「私は身体が成長止まってるから……適正」

 

「ごめんやっぱり敵だわどういう意味だコラー!?」

 

「ちょちょちょ、響香ちゃん!?」

 

「まあまあ、それよりお風呂に行きましょう?お二人も」

 

 

じゃれあいつつ、私達は体を洗ってお風呂に浸かった。ああ、効くぅ……

 

 

「……悪意?敵意?……いや、邪念」

 

「「「「「「峰田(くん)(さん)だ」」」」」」

 

 

私が男湯の壁を見ながら呟くと、満場一致で答えが返ってきた。

 

 

「ヒーローよりもまず、人としてのあれこれを学びなおせや」

 

「こんのっ、クソガキィィィ!!!!」

 

 

おおー、ガキがもぎもぎ使って壁を乗り越えようとした峰田を落とした。やるじゃん。名前を覚えてあげよう。

 

……あっ。

 

【まあ……ガキにゃァ刺激が強いわなァ】

 

 

洸太が落ちていった。周りの女子たちの裸体に目を取られたらしい。おい、どうして私を見なかった。別にいいけどさ。

 

てか相棒こそ見たらダメでしょ。一応男なんでしょ?

 

【はっ、ガキの裸見て欲情するほどバカじゃねェ。てかニンゲンは恋愛対象外だ】

 

ふーん。

 

 

そんなこんなで、夜。芦戸が恋バナしようぜって言ってたけど疲労で女子が全員寝た。私は寝る理由も必要もないので部屋を抜け出して外に出た。

 

 

「……丈夫な木。やろう」

 

 

私は持ってきた捕縛布で訓練を始める。相澤先生みたいに何かに巻き付けながら軌道を変えるのはまだ無理だけど、自分が飛び回る時の補助くらいは出来るようになってきた。

 

 

「おい、何やってんだ陽炎。明日早いんだから早く寝ろ」

 

「……問題ない。私は寝る必要がないから」

 

「あ?どういう意味だ」

 

 

訓練していると、相澤先生が物騒な顔でやってきた。なに?なんか警戒してる?

 

 

「個性の関係で私は睡眠が必要なくなってる。だから10年以上寝てない。気絶はできるけど、気絶するほどのことがないし」

 

「なるほどな。その時間を今まで鍛錬に使ってたおかげでその実力を得たのか」

 

「……そう」

 

「それはまたなんつー……分かった。別室を用意してやるから夜中に外に出るな」

 

「……ネット回線は?」

 

「ある」

 

「……分かった」

 

 

物騒な顔、とは言ったけどつまり『抹消』を発動しながらってこと。だから『目を盗む』個性が使えなくて相澤先生の真意がわからない。なんでこんなに警戒されてるのかわからないし、まあネットが使えるならいいや。

 

私が宿に向かって歩き始めると、どうやら相澤先生は個性を解いたらしい。早速心を読む。

 

 

(……違う、か?生徒でも外部と通信できる環境は与えたく無かったんだが……下手に外を動き回られるよりはいいだろう)

 

 

あぁ……そういうこと。ヴィラン連合との繋がりを疑われてたんだ。これじゃあ夜中に訓練できないなぁ。ぶっちゃけ私ヴィラン側だし下手なことすると無駄に警戒させるだけだし。

 

 

(石化能力、超人並みの膂力、何かしらデメリットがあると思っちゃいたが、独自の方法で乗り越えていたと思っていた。まさか眠れないとはな……傲慢気味で油断しやすい性格は睡眠不足による脳の不活性化か?脳の休息が足りていないことによる精神異常……分からん)

 

 

人のことなんだと思ってるの???

 

【寝ないのバラしたらそりゃそうなるだろうがァ。今日のお前、どうした?バラしすぎだ】

 

……そうだけどさ。少し、開示しないと流石に疑われるでしょ。普通の人生歩んできた高校生ならこんなに強いわけがない。経歴を調べるのは当然。しかも私は孤児院育ちで学校すら行っていない()()なんだから、それらしい理由を用意しないとダメでしょ。USJや体育祭で私は少し目立ちすぎた。納得による安心感でも与えておかないと『目を隠す』個性にも悪影響が出る。

 

【お、おう……お前意外と考えてたんだなァ。わりィ】

 

 

あーあ、PCさえあればなぁ……

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

『やーいクソチビ貧乳〜』

 

『蛇目は飾りかよオイ。個性使ってみろや〜』

 

『きゃ〜石にされるぅ〜』

 

『か、陽炎少女のパワーゴリラ……あの、相澤君?これ凄い心痛むんだけど……』

 

「ぶっ殺してやろうかァァァァァァァァ!?!?!?」

 

「落ち着け陽炎」

 

 

 

私は激怒した。必ず、かの邪智暴虐のクソ教師を除かなければならぬと決意した。私には意味がわからぬ。私はただひたむきに父さんのためにと暮らしてきた。けれども煽りと罵倒に対しては、人一倍に敏感であった。

 

【メロスじゃねえかァそれ】

 

 

【……あー、睨美が正気じゃないのでオレが代わりに説明するぜェ。

 

2日目の早朝、A組のガキどもは個性を伸ばす訓練として個人に合った訓練方法で訓練し始めた。今の睨美は

『両手両足に期末試験で教師がしていたギプスを装着』

『両まぶたに洗濯バサミ』

『スピーカー付きの土魔獣から煽りと悪口が垂れ流されている』

『石化禁止』

『攻撃禁止』

『6時間耐久』

 

で回避し続けている。相澤が言うには、『精神面を鍛えながら、個性発動のための目を長時間開き続ける訓練』だそうだァ。

どうやらこの悪口と煽りは雄英の教師たちが録音しているらしく、あんまり感情が篭ってないのが余計に睨美の神経を逆撫でしている。ミッドナイトの貧乳煽りだけは迫真なんだけどよォ】

 

 

ああ!!やってやるよクソ土如きが!?こんの[ピー]野郎……[ピー]して[ピー]した後に丁寧に[ピー]して埋め立ててやるぅ……!!

 

 

「あの先生……陽炎から離れていいっすか。声だけで人殺せるっすよアレ!?」

 

「あんな睨美ちゃん見たことない……」

 

「ミッドナイト、貧乳いじりだけは……許せない……!!」

 

「底知れぬ闇が……目覚める」

 

 

【ちなみに他の奴らは休憩してるぜェ。自分だけこんな訓練させられてるってのも睨美には効く。相澤は教師の鑑だなァ、生徒のことよく分かってやがる】

 

「うるさぁぁぁぁぁい!!!!」

 

 

 

「アイツにゃこれでも物足りないくらいだろ。翻弄に耐えきれなかったら今頃好き勝手に暴れているはずだからな。ほら、休んだらとっとと再開しろ」

 

「「「「「「は、はい………」」」」」」

 

「ったく……あんな感じでも今の所陽炎が1番真面目にやってんだ。いつまで経っても、追いつけないぞ」

 

「「「「「「ッ!!」」」」」」

 

「分かってるだろ。陽炎の強さ、個性発現から今日まで『寝ることができない』アイツは文字通り()()()()()()()()強くなったそうだ」

 

 

【へェ……相澤は話すのかァ。そりゃァいい。今の睨美には何の意味もないだろうが、これからクラスメイトとの関係構築次第では……友達からの言葉は効くようになるかもなァ。万が一の保険としては満点だぜェ?】

 

 

「睨美ちゃん……今まで、寝てないの?」

 

「本人からそう聞いた。だがまあ、俺たちが寝ている時間もずっと鍛えていたとすれば」

 

「『石化』で石にしないような出力調整の繊細さも納得がいきますわね」

 

「八極拳も、めっちゃ強ぇし」

 

「咄嗟の判断力もプロ並みだったな」

 

「なんだ、そりゃ?」

 

 

【……なるほどなァ。理不尽な強さに納得のいく説明、それを以て生徒を鼓舞する。教師としちゃ完敗だなァおい】

 

 

「お前たち、いや俺たちは陽炎より何倍も出遅れてる。ついて行きたければ何倍も努力しろ。いいな?」

 

「「「「「「はいっ!!」」」」」」

 

 

「ぶっころしゃァァァァァァァァ!!!!!!」

 

 

「なぁ……前々から思ってたんだけどさ」

 

「ああ。分かるぞ」

 

「「「「「「陽炎だけは本当に怒らせちゃダメだ」」」」」」

 

 

 

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