蛇睨み 【All For 『All For One』】 作:ゼノアplus+
僕はこの10年間、間違いなく腑抜けていた。
目に入れても痛くはない、という表現があるが彼女は僕にとってそういう存在だったんだろう。
『先生』としても、親としても、優秀すぎてまるで育てがいの無い子だったがそれが一層、可愛らしいと思っていた。
だからこそ、僕の計画にとって彼女の存在は邪魔だった。僕ですら理解しえない何かが彼女にはある。コントロール出来ないイレギュラー……いや、コントロール出来ないのは僕のこの感情の方か。
ならば捨てる。計画に必要なものは、たとえ大切なものであっても……切り捨てる。
だから僕が教えることができる全てを教えて来た。1人でも逞しく生きていける様に、僕が居なくとも何事もなく明日を迎えられる様に。
そしてその時が来た。
『個性』には持ち主の人格が宿る。実際僕は奪って来た個性の人格から非難を受け続けてきた。個性を奪われた憎しみ……ならば、その逆は?
ドクターに無理を言って複製した『オールフォーワン』を
僕にある2つの内、1つはいつもの僕を。
そしてもう1つ。
【愛娘への愛情】のみを凝縮させたコピーの『オールフォーワン』。
僕が持つ彼女への最後の切り札ともいえるだろうこの個性のおかげで、僕の個性許容量はなかなかに少なくなってしまったけれども、やるだけの価値があった。
そしてそれは正しかった。
彼女に何の個性を渡したのかは説明していない。1番気楽なのは彼女が『オールフォーワン』という強大な個性に耐えきれず自壊する事だったけど、どうやらまだ息があるらしい。
でも目的は果たせた。
さあオールマイト、死闘を演じよう。そして僕を打ち倒し君は引退をする。
そうすれば弔……次は、君だ。
「…………ん」
【おい、おい!!さっさと起きろ、お前の大事な奴が危ねェぞ!!おい、睨美!!】
…………うるさいなぁ、相棒。そんなに叫ばなくても聞こえてるよ。
【ッ!!……アァ、やっと起きやがったかァ】
ちょっと、夢を見ててね。もう大丈夫。すぐに体も直すから。
【……ったく、心配させやがってェ。お前が死んだら願いを叶えられないだろうが】
ごめん、でも本当にもう大丈夫。ねぇ相棒。
【アァ?】
私、頑張って生きるよ。生きて生きて生きて……相棒の願い、叶えてみせるから。
【ハン……急に何言い出すかと思ったら、ワケの分からねェこと言ってんじゃねェよォ。オレはお前の願いがオレの願いと都合が良かった。そういう事だろォ】
うん、そうだね。でも……覚悟が決まったよ。
私は生きる。何がなんでも生き抜いて……後悔のない人生を過ごすよ。相棒と一緒にね。
【オイオイ、本当にどうかしちまったのかァ?まるで愛の告白だなァ……だがまァ、後悔のない人生なんぞつまらねェぞきっと。いつかどこかで必ずあの時ああしなければ、と思う日が来る。それが無けりゃァ平坦な道のりをずっと歩くだけだァ】
ふふふ……そうかも。
【……?本当にどうしたお前?性格飛んじまったかァ?】
寝言は寝てからいいなよ相棒、私は私。他のヤツの人生なんか知った事じゃない。
今を生きてるんだ。気楽に行こう。
だって私達は最強でしょ。
【……アァ、お前ほど宿りがいのあるご主人様はいねェよォ】
……その言葉が聞けて良かった。自分の作った能力に振り回されてる様なご主人様より、私の方がいいよね。
【ッ!?オイ、待て睨美。テメェ何のこと言ってんだ!!】
私はまた出来た血溜まりに沈んでいるけれど、動かない口を何とか動かして言葉を紡ぐ。
「ちゃんと……から、だは……作り直す……『女王』として……ふさわしい……私に……」
【まさか……待て!!そのことをどこで知ったァ!?オレは何も教えちゃいねェぞ!?やめろ、それだけはやめろ……人として生きていたいならそれだけはダメだ。
「はは……もしかして……昔のこと……ひきずってるの?……私には相棒が、いて……くれるでしょ」
意識がまだ朦朧としてる。何度体を作り直してもすぐに出血しちゃうから頭が回らない。
でも……言うべき言葉だけは、ちゃんと覚えてる。
ねぇ、アザミ、決めたよ。私のヒーローネーム。
私には相棒がいる、だから孤独になんてならない。無限の時を生きることになっても、相棒がいるから私は私でいられる。
だから……貴女の名前、貰うよ。
私が貴女の名前を有名にしてあげる。『目を隠す』
メデューサヒーロー『アザミ』
花言葉は確か……『独立』だっけ?丁度いいじゃん。今日が私の生まれ変わる日、人を超え怪物へと……私は『独立』しよう。
【お前が願いを叶え続ける限りオレは確かにそこにいる……いいんだなァ?】
「……いいよ。相棒が一緒なら……何だって……できる」
ああ……父さんが戦ってるのが見える。優勢みたいだけど……『手負のヒーローが1番怖い』んだもんね。
わざわざこんな舞台に出てこなくても、あそこまで肉弾戦をしなくても、弔君を助けたんだから隙を見ておじいちゃんの所に『転送』で逃げればいいのに。
負けるつもりなの、バレバレだよ?
てことは私が邪魔しちゃいけない。だからひっそり、こっそりと私は生まれ変わろう。
私の行動指針は『全ては父さんのために』、そして願うは『生きたい』
うん、シンプルだ。
「相棒……一緒に……呼んで」
【……アァ、分かった】
感じる。私に宿る蛇達の願いを。
皆、『女王』の再誕を待ち望んでいる。ごめんなさい、今まで気づけなくて。
でももう大丈夫、私が……来たから。
「【来い、カゲロウデイズ】」
刹那、私は目の前に出現した大きな蛇に飲み込まれた。
◆
「はぁ……どうしてこうなっちまったんだ……」
意識を取り戻した私が最初に聞いたのは、呆れた様な声。目を開けて辺りを見渡すと、赤い水……血じゃないけど、それが床一面に広がって辺りには壊れた培養ポッドみたいなのが散乱している、何かの研究所みたいな場所だった。
「…………え?」
ガラスの破片以外にも瓦礫や柱が散らばっていて、それらを見渡していると1人の男が崩れた柱に座っていた。よく見ると、私が爆豪を脅迫する時に使ったヴィランコスチュームみたいな服を着てる。そういえば『目に焼き付ける蛇』の記憶で見た相棒は、最後は大体この姿だった。
「よぉ、相棒。お目覚めかよ」
「相棒……?」
「おう。『目が冴える蛇』……お前の相棒だ」
「……相棒!!」
思わず飛びついてしまったけど、相棒は難なく受け止めてくれた。やっと、面と向かって会えた!!話せた!!相棒とこんなふうに喋れる日が来るなんて思ってなかった!!
でもおかしいな、今まあまあ身体能力高く設定してあるはずなんだけど。よく私の突撃受け止めれるね。
「ここはカゲロウデイズの中、まァ具体的な構造もあるわけじゃねェし勝手にオレの懐かしい風景を再現してんだよ」
「……ああ、アヤノの言ってた心象風景ってヤツ」
「チッ……やっぱりアイツか。なんで『目に焼き付ける蛇』まで居るんだとは思ってたがァ……そういうことなんだろう?なァ!!『目に焼き付ける蛇』!!」
私を受け止めたままの状態で、相棒がどこかに叫んだ。すると地面から白い蛇が這い出て来て、アヤノの姿になった。
「……『目が冴える蛇』……ようやく、見つけた」
「テメェ……オレ達のご主人様に余計なこと吹き込みやがって」
「『蛇』としては『女王』の存在を待ち侘びるのは当然のことでしょ?ねぇ、元ご主人様に余計な事を吹き込んでカゲロウデイズの世界を作らせた元凶さん?」
「……チッ、めんどくせぇ。ソイツァもう終わった話だ。いちいち掘り返してんじゃねェよバカが」
「……」
うーわ。険悪すぎるでしょこの2人。そりゃ相棒もやったことがやったこととはいえさ。まあ相棒の方は特に気にしてないみたいだけど。
「じゃあ他の子達にも聞いてみる?ほら、みんな出ておいでよ」
アヤノが妖しい笑顔を浮かべてそう言うと、アヤノと同じように今度は
「……キド、セト、カノ、マリー、モモ、エネ、シンタロー、ヒビヤ、コノハ、アヤノ」
「名前呼んでんじゃねェよ相棒」
それらは私の蛇達が、昔に宿っていた人間達の姿にそれぞれ姿を変えていた。随分と、洒落たことをしてくれる。
しかも、2人目のアヤノがいる。アレはつまり『目をかける蛇』が楯山文乃に宿っていたから、ってこと?じゃあ、シンタロー……『目に焼き付ける蛇』が居るのはどうして?アレは今くっちゃべってるアヤノのはずでしょ?……まさか、ね?
「皆はどう?待ちに待った『女王』様だよ?また『目が冴える蛇』のせいで『女王様』の元を離れてバラバラにされたくないよね?」
「「「「「………………」」」」」」
蛇達はやけに静かだ。『目に焼き付ける蛇』と相棒が特殊なのか、一言も喋らない。でも……マリー……『目を合わせる蛇』……違うか、『目を合体せる蛇』が動いた。
彼女はゆっくりと私の元まで近づいて来た。
「相棒、降りるね」
「……おう、気をつけろよ」
相棒から離れて私は瓦礫を伝って地面まで降りる。なんか目線一緒だなぁ、マリーって子も結構小さい子みたい。何百年も生きてたみたいだけど。
「…………」
「……正直に行動していいよ。全部受け止める……特に貴女は、私が今まで気づかなかった分、これから頑張る」
「…………!!」
『目を合体せる蛇』は私の言葉に目を見開いた後、黒い蛇の姿に戻って溶け込む様に私の中に入っていった。
「ッ……!?そんな、なんで貴女が……!!」
アヤノはとても驚いた様で、目を震わせながら後退りした。そして縋る様な声音で他の蛇達を説得し始める。
「騙されないで!!皆も思ってたでしょ!?
「うるせェよ、テメェ如きが相棒を推し量るな。コイツはなァ、オレ達の願いを叶えてくれる。オレのバカみてェな願いまで聞き入れてくれるらしいぜェ?お前らの願いの一つや二つ、相棒に任せりゃすぐ叶っちまうかもなァ!!」
アヤノがそう言った瞬間……特に
そして相棒が私の胃が痛くなる様なことを言い、それに決心したのかシンタロー以外の蛇達が同じ様に私の元に来て1人ずつ私の中に入っていった。
「な、んで……」
「ハッ、バカなことだ」
「ッ、『目が冴える蛇』!!」
「なんでなんでとうるせェ野郎だなァ!!『なんで』だのという前によォ……テメェはいちいち求めすぎなんだよ。テメェはもうただの蛇、我らが女王サマに傅いてりゃいいんだよ!!」
「うるさい!!うるさいうるさい!!……ねぇ、シンタロー?君だけは私の味方だよね?」
「…………」
もうこの場には、私と相棒、アヤノと残るシンタローしかいない。そんな光景にアヤノは納得していない様で、残ったシンタローに縋る様に言葉をかけた。が、シンタローはアヤノを見つめるだけで何も言わない。
でももう、ここまで来たら、答えは出ている。だから私が直々に引導を渡してあげる。
「ねぇ、アヤノ。お前……『目に焼き付ける蛇』じゃないでしょ」
「……は?なに、どういう意味?」
「そこのシンタローがいるのが証明……本物の『目に焼き付ける蛇』はそこのシンタロー。お前は……2回目のループの楯山文乃の残留思念にすぎないナニカ……違う?」
「ッ!!そんなわけないでしょ!!変なことを言って、私を乱す気ならそうはいかないよ」
「蛇達は、女王の元に集まってくる……だったら女王を拒絶しようとしているお前は……蛇そのものじゃない」
「いいや、私は貴女を拒絶しない。私はそこの『目が冴える蛇』が居なければそれでいい!!」
「おかしいのはそこだよ」
「……え?」
そう、おかしい。だって『目に焼き付ける蛇』の記憶には蛇同士で好き嫌いがあるなんて一度もなかった。それがあったのはあくまで宿主達であって、蛇じゃない。
そして何より、私を受け入れた蛇達が教えてくれている。
「蛇達が言ってる……『自分の宿主は、願いを叶えてくれる最高の主人だった』って」
「ッッッッッ……………そう、そっか、そうなんだね」
『目を合体せる蛇』は、そもそも私に対して好意的だった。真っ先に私の元に来てくれたし、【女王様には私が居なくちゃ】という、願いがあった。他の蛇達は……ちょっと私に思うところはあるみたいだけど、自分の前の主人をコケにする物言いが気に入らなかったらしい。それが最後の後押しになって私に元に来てくれた。
自分の敗北を悟ったのか、アヤノは全てを諦めた様にその場にへたり込んだ。
そして、その目からは涙が溢れていた。
「……返してよ。私達の日常を、楽しかったあの日を……もう嫌だよ。またやり直すのは」
「チッ……負けたら泣きゃ「相棒静かに」……分かった」
私はそんなアヤノの元まで歩いて行く。もう抵抗する気も失せたのか、私に一瞥もくれず下を向いて泣き続けている。
「……アヤノ」
「………………なに」
「お前の事情なんて……知ることかよ」
「……へっ?」
(うわっ、コイツマジか。ここで追い打ちかけるとか鬼すぎんだろ)
そう、そもそもアヤノの言い分なんて全部知ったことじゃない。私には関係ない。
「黙って消えて。泣いて、哭いて、啼いて、綯いて……お前の欲しい日常が帰ってくるの?奇跡じゃないとありえない。奇跡は起こらないから奇跡って言うんだよ?
もし……私が時間をループさせたところで、2回目と同じ時間には戻れない。戻れたとしても……そこに居るのはその時のアヤノであってお前じゃない」
「……それ……は」
「2回目のお前が、自分で選んで……選んだ結果、今ここに居る。それが運命……だったら、受け入れて」
「………」
私の一言が決定打になったのか、アヤノは涙を拭って立ち上がった。
「……うざったいなぁ。強すぎるよ、この子」
「ハッ、ようやくテメェも相棒の良さが分かったみてェだなァ」
「……もう、なんだか良いや。そうだよね、貴女の言う通り……何度も泣いたってあの日々が帰ってくるわけじゃない。もう、終わってたんだ……あの大切な日々は、さ。ループのしすぎで、終わりっていうものがなんなのか、いつの間にか薄れてたみたい。
うん。やっと、終われるんだ。誰かを恨んでるだけの繰り返しが。じゃあ、終わりくらい……笑ってないとね!!ねぇ、睨美ちゃん」
「ん?」
アヤノはどうやら吹っ切れたらしい。いや、別にそういうわけでもないと思う。もうどうしようもなくなって、自分を納得させるために変な嘘をついてるだけ。それも自分に対しての嘘を。そうじゃないと、残留思念であるアヤノはいつまでも『目に焼き付ける蛇』の中に残留してしまうから。
……『目を欺く蛇』じゃないんだから、嘘下手だね。
「いつか、心変わりして貴女がやり直しを選択したら……次は、次も、その次も……嘲笑ってやるから。じゃあね」
それだけ言って、アヤノは溶ける様に消えていった。これで本当のさよなら。
「……で、お前はどうする?別に私じゃなくてもいいよ……新しい宿主が欲しいなら見つけてあげる」
そして私は、最後に残った本物の『目に焼き付ける蛇』に問う。
「…………」
じっくりと悩んだのか私を見つめ続けるシンタローだったけど、やがて決めたのか私の中に入っていった。
「終わったなァ」
「……んん、まだ終わりじゃない」
「あ?……アァ、そうだな」
最後に私は、相棒に向き直る。
「相棒……私のために、人生を……ううん、生命を謳歌しよう」
そう言って私は相棒に手を伸ばす。手の甲を向けて、だけどね。
「……ハァ……そういや、最近中世アニメ見てたなァ」
「ん……良いでしょ、こういうの」
「オレ、そういう小っ恥ずかしいの嫌いなんだが」
「知ったことじゃないよ」
「わがままなご主人様だなァ……」
呆れながらも相棒は私の元に来て片膝をつき、私の手を取った。
あれ、冗談でやったのにもしかして本当にやってくれるの?
『目に焼き付ける蛇』!!女王の初命令!!絶対に記憶しといてね!?
「我らが女王、お前の願い、オレ達蛇が一生かけて叶えてやるよ」
「……ん、期待してる」
そして相棒も私の中に入っていき、ついにカゲロウデイズの中には私だけが居ることになった。
「『目を合体せる』」
もうこの空間でやる事も最後だ。
私は能力を発動し、全ての蛇と、私を一つに混ぜ合わせる。私は新しく生まれ変わる。
人間の肉体を捨てて、不老不死の本物のメデューサに。
これから……父さんも、クラスメイトも、世界の全てが消えてなくなったとしても、私は生き続ける。でも寂しくなんかない……いや、父さんがいないのはやっぱり寂しいや、号泣しちゃうかも。いいや、するね。
でもひとりぼっちじゃない。相棒がいる、蛇達が居る。それが何より嬉しい。
「貴方達はもう『個性』じゃない、私の一部。だからカゲロウデイズ……貴方も私の中に戻りなさい。前任者の後始末……私がしてあげる」
そしてこの世界にひびが入った。それは、酷く、脆く、ちゃちなひびだったけど、それが証銘。
「カゲロウデイズはもう……私には必要ない。さあ皆、相棒、いつもと同じひびに戻ろう」
少しずつ世界のひびは広がって完全にカゲロウデイズが崩壊する。
そして私は……現実に戻る。
あ、そう言えば相棒。一個言い忘れてた。
【あ?なんだァ?】
アヤノ説き伏せてた時に思ってたんだけどさ。やっぱりこう……くすんだ心を舐るのは最高に気持ちがいいね!!
【……ハァ……いい話なのが全部台無しだぜェこの野郎。だがまァ……そうだなァ。怪物みたいで、本当に……素敵な事だァ。ハッハッハッ!!!!】
あれ、そう言えば……父さんがくれた『個性』って……何だったんだろう?帰ったら確認しないとなぁ。
推奨BGM『アウターサイエンス』