fate/little bitch ~煉鉄の小悪魔~   作:七草探偵事務所

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予定外の時間ができたので、一話投稿しておきます


(いとま)の魔女

 特異点“オケアノス”

 某所───アルゴー船団拠点、神殿

 

 彼女はその日も、その扉の前に居た。

 固く閉ざされた扉。神殿の最奥に、厳かに佇むその扉は、酷く質朴な見た目にして、何か厳かさを思わせる。木造りにも関わらずその堅牢はヘラクレスの膂力でも破れないだろう。あるいは、今破ったところで何をするでも無い。

 これは触媒。神代に帰るための表徴。世界を超えるための扉。それ以上は、ない。

彼女。幼い姿のメディアはその扉の前に跪きながら、ただ一つ事だけを想念する。

 「イアソン様───」

 痙攣する口唇、零れる言葉。瞑目したままに祈りをささげる姿は、経験な依坐を思わせた。

 無風の中。

 扉の両脇で燃える松明の火だけが、小さく、確かに、熱く蠢動していた。

 

 

 「ご苦労なことだ。別に何があるというわけでもあるまい」

 神殿の間、その入り口前。

 軽蔑は無いけれど、呆れはふんだん。そんな声を上げり男に応えたのは、ちょこちょこと駆け寄ってきた長身の女性だった。

 「そこに理屈は要らないでしょう。私は貴方のことが好きですよ、兄様」

 「む、むぅ……そういうものか。そういうものだな」

 赤面する男は酷く満足気な様子で頷く。女性の方は朗らかな笑みすら浮かべ、男のちょっと後ろに佇むばかりだ。

 共に、2人はサーヴァントである。人理に刻まれし英霊であるが、彼と彼女は、やや特異な存在者だった。

 銘、ディオスクロイ。双星のジェミニ。兄カストロと妹ポルクス、2人をして一つの霊基を共有するサーヴァントである。

 「ヘラクレスもわからないことをする。くだらぬ人理と引き換えに神代へと還れるというのに何を躊躇う。聖杯が無ければあの槍を完全には使えん、というのはわかるが」

 鼻を鳴らすカストロ。仮借なく言ってのける口ぶりは、悪辣の一言だ。対するポルクスは何も言わず、ただ不満げな兄の横顔を満足気に眺めている。

 カストロは、根本的に人間と呼ばれるものが嫌いだ。心底嫌っている。ヒト種など早く絶滅すればいい、とすら思っている。そんな彼にとって、人理焼却というこの一連の出来事はむいろ好ましい出来事であり。その吉事を推し進めるイアソンの思惑は手放しで手を貸す出来事だ。

 他方、ポルクスは兄の微笑ましい相好を見つめるばかりだ。

 「ヘラクレスは、神よりも人を好む方ですから。アルゴー船の時もそうだったでしょう?」

 「そうだったか? 確かに良い戦士ではあったが。いや、それよりも妹よ。お前まさかヘラクレスと」

 「死を賜りたいですか兄様」

 畏縮する兄様。ぷい、とそっぽを向いて見せながら、ポルクスはちょっと溜息を吐く。

 兄は前からこうだった、と思う。他人に基本的に関心が無く、その実極めて内向的。ずっと昔───ゼウスの子として神性を持っていた頃も自信満々だったけれど、卑屈の裏返しのような傲岸ではなかったのだが。人になってからは、なんというかこう、こんな風になってしまった。

 まぁ、そんな兄も可愛らしいのだけど……と、思わないでもないポルクスでは、あった。

 「兄様」

 「す、すまないいや俺も浅慮浅薄極まりないのだが最近なんというか不安と言うかだな、いや料理をしたり島の魔獣たちと懇意にするのは良いとは思うが」

 「兄様、少し御黙りになってください。メディア様がいらしてますよ」

 咄嗟、カストロは口を噤んだ。

 振り返る動作はともに同じ。身の丈を優に上回る魔杖を抱えた小柄な怪物に、ポルクスは微笑を返した。

 「ごめんなさい、邪魔するつもりはありませんでした」

 「メディア様もお人が悪い」

 ふふ、とポルクスは小さく笑って見せる。メディアも同じように微笑を返すと、照れるよに頬を赤らめた。その素振りに初心さを感じるのは、多分気のせいではないだろう。

 「なんのことだ?」

 疑問符を頭に浮かべるカストロ。そんな兄のことを、ポルクスは笑顔でざっくり無視した。

 「それで、御用ですか? またお散歩でも?」

 「いえ。貴方がたに」

 「ほう。我らディオスクロイの出番か」

 腕を組むカストロの相好が歪む。それまでの頼りない顔とは、一線を画する表情。憎悪に滾るような怪物じみた顔。いつもの自信満々なくせに小心で頼りない顔も好きだけれど、こちらの顔も好ましい、とポルクスは思う。

 「はい、時計の針を進めます。オデュッセウスが戻り次第、第3拠点への攻撃を」

 「承知致しました。ヘラクレスはお連れしないのでしたか?」

 「はい、今回の戦いで『十二の試練(ゴッドハンド)』を1つ消耗しました。ストックの補充もしたいですし……あれを投入するのは、最後です」

 「待て。ヘラクレスがしてやられたのか?」

 思わず、と言ったように声を上げたのは、カストロだった。ポルクスもカストロと心情は同じで、思いがけずに目を見開いた。

 「ゴッドハンドを貫いたのか? いや、それよりもあの獅子の裘ごと殺されたのか?」

 「そうです。モニターを妨害されたので正確な情報は不明ですけど……間違いなく、敵の宝具はネメアの獅子の毛皮を貫きました」

 唸るカストロ。その現象は、普段をして傲岸を絵に描いたような兄すら唸り声をあげるような事態だったのだ。

 ヘラクレスのもう一つの宝具、『十二の栄光(キングス・オーダー)』。かつて挑んだ十二の難業にて、ヘラクレスは数多の幻想種を打ち倒した。それら幻想種を使役することに特化した、宝具である。

 神獣の裘とは、その内の一つ。人理を否定する神獣の毛皮を纏うことで、一切の武器・武具の類の攻撃を弾き返す鉄壁の防御。Aランク以下の宝具の攻撃を漸減する『十二の試練(ゴッドハンド)』と併用するヘラクレスの防御性能は、常軌を逸したどころの話ではない。事実、アルゴノーツのサーヴァント同士の内紛でも、海賊のサーヴァントとの戦闘でも、そのほとんどを仕留めたのはヘラクレスに他ならないのだから。

 「委細、承知致しました。可能でしたら、ヘラクレスを仕留めて見せた敵の内情も探りたいところでしょうか」

 「難しいでしょう。敵には最低でも3人、知悉に富んだ方がいらっしゃるようですから」

 深く、一礼。小さく礼を返すメディアの物腰も、至極丁寧だった。

 彼女の思惑。その完遂のためには、ヘラクレスを無駄に死なせるわけにはいかない。それに、次の戦いはまだ序章に過ぎないのだから。

 「カイニスはどうする。奴も今回はお預けか?」

 「いえ、出てもらいます。というより、彼女のことは止められないでしょう」

 「そうでしょうね」

 肩を竦めるメディア。苦々しい顔のカストロに対し、ポルクスの表情はメディアとカストロの間くらいのものだった。

 カイニス。ポセイドンの寵愛を受けた英霊……と言えば聞こえはいいが、要するにただ神の愛されただけの妾に過ぎない。カストロはあの()()を侮蔑しているが、ポルクスとしては特段好きでも嫌いでもない相手だ。ただ、イキリ散らすのだけは煩いからやめて欲しいと思う。

 まぁ……戦いにおいては、有能なのも事実だが。

 「カストロ様、ポルクス様。万事、予定通りに……カイニス様によろしくお伝えください」

 一拍の間。ディオスクロイは、互いに頷きを返した。




とりあえず一か月先からコンスタントな投稿を予定していますが、今回のように、時間ができたら不定期で投稿するかもです
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