fate/little bitch ~煉鉄の小悪魔~   作:七草探偵事務所

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諸事情で遅れてしまいました&今回かなり短いです、103話です


残余のトライスターⅢ

 「それで、アナタはあの朴念仁みたいなのがいいわけ?」

 リツカの肩越しに映像を眺めながら、メルトリリスは隣に座る、なまっちろい女の子へと話しかけていた。

 マシュ・キリエライト。シールダーのサーヴァントだという彼女は、青白い薔薇みたいな肌を赤くしながら頬を緩めていた。

 「その、あまりその、なんて言っていいかわからないんですけど」

 青白いバラみたいな顔はいよいよ真っ赤で、それって普通の薔薇なのではないか。自分の比喩能力の思いの他の凡庸さにちょっとびっくりしつつも、それはそれで可愛らしい顔はメルトリリスの加虐心を高めるには相応しい……が、今はちょっと控えておく。

 情欲の赴くままに振る舞うのもいいが、今はその時ではない。それよりもメルトリリスの関心は、目の前で不健康なジュースを飲む赤毛の女にある。

 藤丸立華(ふじまるりつか)。年齢は19。任務は真面目にそつなくこなしているが、そこにかける情熱はない女。経歴はエリートそのもの、能力こそ乏しいが優れた知性を持っている。毎日エナドリ何本も呷ってはジャンクフードを食べるせいで脂肪肝、将来の悩みは肝硬変から肝臓がんになって死ぬという不安らしい。その癖好きな食べ物はレバカツとレバーペーストというのはギャグなんだろうか。

 「あの、視線に棘が」

 恐る恐る、リツカが振り返る。覇気などあったものではない、ぼんやりした顔がひきつっている。

 持ち上がる手。髪をかき回す、手。艶めかしさなど何もない仕草にも関わらず、メルトリリスはその動作に視線を縫い留められる。

───この、既視感。ざわつくような胸の軋み。血をすっかり吐き出した空っぽの心臓が、ぐるりとひっくり返るような緊張感。脳幹の底に散ってしまった記録が、量子力学的収縮をするような錯覚。

 「えーと」

 眠たげにも見える垂れ眼。気まずそうの頬を指で撫でるリツカの姿の彼方に遠のく幻影に、メルトリリスは被りを逸らした。

 「メルトリリスさんは、正式にはクラスのないサーヴァントなのですよね」

 恐らく、そんなことを聞くマシュは、マシュなりの気遣いをしている、らしい。記憶がすっぽり抜けているメルトリリスへの、ある種の対話想起をしようとしている。そんなマシュという女の子の質朴な善性に、羨望と等価の不快感を惹起させつつ、メルトリリスはそうね、と応える。

 「そうね。霊基としてはランサーに近いのでしょうけれど」

 普段はただの人間に過ぎない……されど、特に不快感を惹起させない少女の気遣いに甘えることにした。等価であるならば、その不快感はやはり羨望でもあるのだから。

 「以前、アヴェンジャーやルーラーといったエクストラクラスの方と会ったことはありますが、そういったものでもないのですよね?」

 「そ。クラスか何かで縛れるほど、私は安くないの」

 ふふん、と鼻を鳴らして見せる。キラキラした目を向けてくるマシュの視線も、悪い気はしない。最善では、ないけれど。

 微かな、闃然。メルトリリス自身すら感知しない情動だった。

 あるいはもう暫くでも沈黙が続けばそれに気づいたのかもしれないが、それより前、リツカの「あ」という言葉が脳神経を励起させた。

 「戦闘に入った」

 緊張感のあることを、弛緩した素振りのまま言う。見る、と促すように椅子の上で振り返るリツカの素振りに、マシュは元気よく応じながらベッドを立つ。

 メルトリリスは座ったまま、その姿を眺めた。

 マスターとサーヴァント。相並ぶ2人の背。

 マスターの、背。赤銅色のミディアムヘアをサイドに一つ結びにする、小柄な女。

 メルトリリスはあまりのサルトル風な実存的悪心を惹起させた。

 

 ※

 

 「動きましたわ」

 アンの静かな声と、ほぼ同時だった。

 マップ上に点滅する青いブリップが動く。ほとんど光点は重なって、1塊になっているかのようですらある。並んで戦うのは初めてだというのに、メアリーとクロの動きは長年ともに戦った相棒のようですらある。戦術判断の水準が高いレベルで同じならば、初見でも高い水準の連携が取れる……という理屈は知っているが。それでも、トウマには新鮮な光景だ。

 「メアリーを前にしたのは正解だと思いますわ」

 「そうですかね」

 「のんびりしているようで結構熱くなっちゃいますから、メアリー。すぐ後ろで抑えてくれる人が必要なのです」

 ニコニコと笑みを転がすアン。物理的に、上からの目線での女性の笑みは、日本の男子高生としては珍しい経験だった。

 何よりその……デカい。ドレイクと同じかそれ以上に。豊かな蜂蜜色のブロンドヘアも相まって、なんというか「オトナの女性」感がもう、スゴイ。

 ……などと貧困な語彙力を駆使して目の前の希望郷を眺めるトウマだけども、もちろんただ思考停止しているわけではない。理想郷を見ながら、ちゃんと思考自体はしていた。漠然としてこそいるが、近接格闘戦特化のメアリーの方が突撃前衛には向いていて、どちらかと言えば中・近距離から遠距離まで幅広く動けるクロには、戦場に飛び込みながら広く鳥瞰して現場での判断を行う役割を担う……くらいのことは考えたりしていたのである。無難で面白味はないが、それだけに卒はない。

 最も。

 「あっ」

 「どうしました?」

 「終わったみたいですわね」

 少年の思考が結実するのは、今ではないのだが。

 「え、もう?」

 「はい、もう制圧したようです」

 (終わったわよ)

 クロの声が耳朶を打つ。網膜投影される映像通信用の枠には、何かをひっつかんだメアリーの姿が映っていた




すみません1日遅れてしまいました 来週は問題なく金曜日にいけるとは思います
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