fate/little bitch ~煉鉄の小悪魔~   作:七草探偵事務所

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 「倒した、のか」

 膝をついたライネスは、温い声を吐き出した。

 朽ち、崩御するヘラクレスの身体。枯れ木が毀れるように、はらはらと巨躯が崩れていく。

 どっと噴き出した汗が汗腺から嗚咽のように漏れ、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテは目を閉じた。安堵、だった。

 赤く、焼け付くようだった。本来、常時発動型の宝具『混元一陣(かたらずのじん)』は、ライネスという肉体を依り代にした時は起動効果型の宝具に変成する。発動型であるが故レンジを制限される代わりに、レンジ内に対する効果は本来の司馬懿のそれを上回る。その代償として、継続時間を過ぎれば強制的に停止し、赤い魔眼を駆使した代償がライネスの魔眼へと還っていく。

 一時的な失明状態。眼球内の独立可動する魔術回路を駆使した代償で血流量が増加し、視界が赤く染まっている。事実上のレッドアウト、だ。血流量があがったのは眼球だけではない、それに直結する脳みそも同じような事態になっているはずだ。生前、ここまで魔眼を使ったことはない。そもそも生前のライネスの主戦場は、政治的利権争いだったのだから。

 いつもの目薬を取り出す。癪ながら、ロマニ・アーキマンが用意した目薬は生前のそれより効果がある。ある種の暗示によるプラシーボも兼ね、普段なら数秒で魔眼の摩擦熱を癒してくれるのだが、今回ばかりはそうもいかない。レッドアウトが起きるまでの酷使は、脳髄への血流量増加まで含む。下手に動けば脳内血管が破裂しかねない。サーヴァントの身でこれなのだから、生前であれば──。

 思考はそこまでだった。詮の無い話、と割り切って、ライネスは座り込んだまま──。

 何か、妙な感じがした。

 ヘラクレスは死んでいる。踏破した試練の数だけ祝福を受けるあの肉体は死に絶えている。その背後に、あの槍が、ヘラクレスの柱が、立っている。

 いや、何か違う。二重螺旋を描く槍。その突端、閉じていたはずの槍が裂けていく。螺旋回廊が解けるように、開いていく。

 かちゃ、と何かが弾ける音がした。懐に、手を入れる。ぞっと青ざめたライネスは、懐からそれを取り出した。

 聖杯が割れていた。この特異点の要石にして心臓たる聖杯が、まるで役目を終えたかのように、割れていた。

 「マシュ、クロ、トウマ!」

 「──『汝、試練の果てに無限へと至る者(アイン・ソフ・オウル)』」

 呻くような絶望の一節。冷たくライネスの声を塗りつぶす真名解放の叫喚が、暗い空を切り裂いた。

 「リツカの言う通りってわけか。インチキ神話もいい加減にしろよ、この」

 其は、終焉の開始。開いた槍を起点に拓いたのは、空想の如きセフィロトの樹だった。




区切りの綺麗さ重視で前回今回は分離させました。
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