fate/little bitch ~煉鉄の小悪魔~ 作:七草探偵事務所
あ、と思った。
何かが、途切れた感覚。漠然とした思惟の中、明確に繋がっていたものが途切れたような感触。ヘラクレスが、死んだ、感覚だった。
メディアは、その時、一瞬放心した。神霊に階梯を進めたヘラクレスが消滅した、という現実を上手く理解できなかった。どうして自分がそんな感情に囚われたのかすら、普段明晰なメディアには、上手く咀嚼できなかった。
「バカ。そりゃあ、自分のたくらみが挫けたんだ。そん時は、うわってなるもんさ」
気持ちよく笑う声が耳朶を打つ。ふと意識を足元(?)に落とすと、普段と変わらない破顔を浮かべたドレイクが、球体となったメディアを見上げていた。
「アンタは成功で終わった英霊だからな。終わって、終わるって言う感覚は知らないだろう?」
そう、かもしれない。確かに、メディアという人間の最後は、成功で終わったのだ。その出来事がどれほど暗いものであれ。
「んで、メディア。アンタはこれからどうするんだい。それだけの魔力があるんだ。それにアンタの技術もある。聖杯の真似事くらい、簡単に出来るんじゃないか」
磊落、とドレイクは言う。確かに、彼女の言う通りだな、と思った。
「いいえ。何もしません。私も、皆さまと一緒に消えます。今更、こだわるものはありません」
それに、と続けた言葉は、少しだけ、晴れがましかった。
「ヘラクレスを倒してくれたんですから。私が何かする必然性は、最初からなかったということでしょう」
「ふぅん」特に興味もなさそうに、ドレイクは鼻を鳴らした。「そういうもんかもね」
「はい、そういうものです」
「ま、確かに。金銀財宝に酒もない世の中なんて、クソほどつまらなそうだからねぇ」
じゃあな、と手を振って、ドレイクはふらふらと階段を上っていく。彼女の背を見送って、メディアは、それでもやっぱり、ちょっと思う。
胸に抱いた、あの黄金の日。少年のように綻ぶ彼の笑顔を想起して、多分メディアは寂しくも笑った。ヘラクレスも、そうなのだ。いや、ヘラクレスだけではないのだろう。あの黄金の日々に憧憬を抱いた者たちは、呪縛にも似たものに縛られてしまったのだ。ヘラクレスがメディアに協力したのは、ただ、あの黄金に惹かれたものだけが共有するもの、だったのだろう。
そして、彼ら彼女らは、その憧憬よりもなお強い意思があったのだろう。前へ進むという意思、先に進みたいという意思がメディアのそれに勝っていただけのことなのだろう。
ならば、その素晴らしき意志に呪いと祝福を。天のように美しい呪いと、海の底のように暗い祝福が、ありますように。
──それが、同じく意志によって長き旅を超えたメディアの、最後の思考だった。