fate/little bitch ~煉鉄の小悪魔~ 作:七草探偵事務所
霧の中、彼女はそこに佇んでいた。
ウェストミンスター宮殿に付随して建設された時計塔、その鋭くとがった尖塔の屋根に、ちょこなん、と座り込む。
脱色されたように白い髪は、どことなく白蟻のようであったか。対照的に色黒の肌は、黒色病に侵された不気味さを感じさせる。ただ一つ、爛々と煌めく血のような赤い目だけが下界を舐めまわしていた。
「ここにいたか」
そんな彼女の背に、黒い影が声をかける。「おいっす」と気軽に返答する白髪の少女に、黒い影、キャスターも慣れた様子だ。
「途は啓いた」隣に並んで立った影も、霧に包まれた都を見下ろした。「後は乗り込むだけだ」
「早くない?」
「どうやらこちらに来たようだ。流石に事態を重く見たのだろう」
確かにね、と頷く少女。そのかんばせに、微かな焦りのようなものが過ったのを、影は見逃さなかった。
「心配か」あまり深追いするような詮索はしない。影にとって、それ自体は本質的に興味もない事柄だからだ。
うーん、と小さく唸って、彼女は悩まし気に眼下を見下ろす。濃霧が立ち込めるロンドン市街は見通せず、陰鬱さが重々しく横たわっているようだった。
「セイバーに任せる」
「ほう?」
「センパイなら大丈夫だと思う。ただ万が一、ってのもあるし」のたり、と彼女は立ち上がった。そうして、冥い天を仰いだ。「記録にないことが多すぎる」
「慎重なことだ。英雄とは豪胆であるべきだと思うがな」
「残念だけど、私はそういうのじゃあないし」
「だろうな。あぁ、残念だが」
小さく、影が身動ぎする。無言でその素振りを見やった彼女は数瞬ほどの沈黙を経た後、苦笑いした。
皮肉か、それとも揶揄か。あるいはどちらもか。影も「昔の話だ」と淡泊に口にしてから、彼女の手を取った。
小さな手だ。白い衣服の袖口から覗く腕は、病に侵されたかのように細い。足も同じだ。
「そう感傷的になるな。ひとまず山場ゆえな」
「わかってるよ」
もう、2人にわだかまりはない。いや、こんなことで簡単に消えるだけの縁ではない。それだけ大きいものだから、些細なことでは本質的には持ち出さない。互いに大人故に、主観的体験を振り回すようなことは、しない。
「みんな怒ってるかな?」
「何がだ」
つい、影の口調が早くなる。くだらないことを、と続けようとして、慌てた彼女の表情に、思い違いをしていることに気が付いた。
「セイバーにだけ任せちゃうから、いつも」
「何を馬鹿な」わざとらしく肩を落として、影は笑った。「むしろメインディッシュがお預けではないか、セイバーは」
「アサシンなどは今も意気揚々としておるわ」
だろうね、と彼女は苦笑い。なるほどそういうための会話か、と得心して、影は改めて、この少女の強さを知ったような気がした。
「じゃあ、タケノコ狩りと洒落込みますか」