fate/little bitch ~煉鉄の小悪魔~   作:七草探偵事務所

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 「おい、起きろよ。もうそろそろ来るよ」

 ゆさ、ゆさ。

 なんとも呑気そうな声に引きずられて、ぽかぽかした微睡みから、ちょっとだけ顔を挙げた。

 そうすると、なんか、呑気そうな目が見返してきた。見覚えがある、目だった。黒い短髪に、黒い目。いかにも日本人らしい顔で、背格好は白いシャツ。

 「めちゃ眠そうだなお前」

 やや引き気味のその顔に、「あぁ」と判然としない応えをした。そうして、興味を失って、もう一度眠りにつこうとして、

 「いや寝るなよ!?」

 「あう?」

 ゆさ、と今度は大きく揺さぶられた。

 眼下に横たわっていた微睡みから引っ張り上げられ、今度こそ、トウマは目を覚ました。といっても半分は寝ぼけていて、ぼう、っとしていた。

 なんだか、明るいな、と思った。いつもより視界が広い。視野投影された映像がない。ぼんやりと、変だナァ、と思いながら、周囲を見回した。

 人が、とても沢山いた。ずらりと並んだ机の席に腰かけて、同じくらいの背格好の少年少女たちが、色とりどりの私服を着込んで、楽し気に、何かを喋り合っている。いや、勉強している人もいる。同じように寝ている人もいる───。中には、 ちゃんと制服を着ている人もいた。

 端的に、明晰に、わかりやすく言うと。

 学校、だった。

 「うおわ!?」

 目の前に座っていた友人が、素っ頓狂な声を上げた。それも無理からぬことだった。客観的に見れば、立華藤丸(たちばなとうま)は、目を覚ますなり物凄い勢いで立ち上がって、座っていた椅子と机を吹っ飛ばしてしまったのだから。

 ひた、とざわめきが止む。一斉に20人弱の視線が集まるのを感じて、トウマはわけもわからず、とりあえず赤面した。

 「あ、ごめん」

 「ううん、いいよ」

 「お前も悪い」

 「いや、いいけど」

 くすくす、と笑ったり、揶揄うようなやじが飛んできたりしてなおさら顔を赤くしながら、トウマは椅子と机をなおして、席に座り直した。相変わらず注がれる好奇の視線に晒されながら、トウマは、目の前の非現実的な景色に、圧倒されていた。

 「寝ぼけか何か?」

 「いや、そういうんじゃあないんだけど」

 不思議そうに顔を覗き込んでくる前の席の男。“現実”の世界で、自分の友人だった少年に間違いない。いや、それよりこの空間。どこからどう見ても、現実ではないか。

 混乱していた。混乱しない方が無理だった。混乱しすぎて思考そのものが働かなかった。「何故」と「(クエスチョンマーク)」だけが猛烈な速度で増殖して、思考する余地すらなくなっていた。

 「あれだろ。今日の転校生、楽しみすぎて寝れなかったんだろ」

 友人の声も、上の空のように空転する。あぁ、と何の実もない相槌を打つので精一杯だった。

「おはようみんな……なんだ、騒がしいな」

 目を丸くした担任の教師が教室を見回している。誰かが、トウマの奇行を説明している。呆れた様子の教師が、「ちゃんと寝ないと授業に身が入らんぞ」と厳めしい顔で、真っ当なことを言っている。すみません、とほとんど条件反射で、頭が下がる。

 何がどうなっている。戻ってきた? あの世界からこっちの世界に? 何故? そもそも一体さっきまで、何をしていた?

 「ウォッホン」わざとらしい咳払いをしてから、担任の教師は、酷く厳めしい仕草で、切り出し始めた。「それじゃあ、前から伝えていたが、転校生を紹介するぞ。良かったな、タチバナ」

 「おい来たぜ」

 げしげし、と肘を突いてくる友人の仕草も今は何の感慨すらもなく───。

 「入ってきなさい」

 「はい」

 「───は?」

 頭の中を埋め尽くしていた、「何故」と「?」すら消滅した。

 黒い髪の、少女だった。床まで届くほどに長いというのに、艶やかな髪に、不潔っぽいところは何一つない。着物姿に赤いブルゾン姿で、中履きにブーツという、私服登校を許可しているにしても奇抜ないで立ちと、その嫋やかさが、妙に調和していた。

両儀式(りょうぎ しき)です。式、とお呼びください。1年B組の皆さん、どうかよろしくお願いしますね」

 空のように抜けた微笑が、トウマを、捕縛した。

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